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周遊編
114 オルニス国再び 04
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ヘンリックは私の護衛騎士になる予定だったはずで、身の回りの世話を彼が学ぶのは違うと思ったのだが、万が一、戦などが起こった際には王子と護衛騎士だけで逃げなければいけない時もあるかもしれない。
そんな時に護衛騎士が王子の着替え一つ手伝えないのでは困ると説明された。
しかし、戦争が起こっている時に自分で着替えの一つもできない王子の方がどうかしていると思う。
とにかく、護衛騎士なら王子の身の回りの世話もできる方が好ましいということで、ヘンリックは従者の仕事もするのだそうだ。
何より、ヘンリックが嫌がるどころか、シュライグに倣って私の着替えを手伝ったり、私のお茶を淹れることを楽しそうに行っているから、やりたいようにさせることにしたのだ。
ヘンリックとシュライグが来てからしばらくは私は交易の話し合いに忙しくて、二人にオルニス国を一望する見張り台からの景色を見せてあげることはできなかったのだが、やっと、交易の話がまとまったので、魔塔主に改めて城内とオルニス国の案内をお願いした。
オルニス国は首都国家で、城の一番高い見張り台から一望した街の風景が国の全体である。
周辺には広大な森が広がっており、そこはかつては三国との国境が接する場所だったようだが、ルシエンテ帝国が誕生して周辺国を統治して以来、ルシエンテ帝国の管理下にある森となっている。
もともと貴重な薬草の宝庫であった森だが、ルシエンテ帝国の管理下となり人々がエルフへと干渉しなくなったため、エルフたちは自由に採取しているそうだ。
帝国としてもエルフたちが自分たちの生活のためだけに採取する分については見逃してくれているらしい。
三国と接していた時には兵士や冒険者などに襲われることもあったため、魔法で移動して薬草や木の実、果物の採取、そして食べられる魔物の狩りを行って即魔法で戻るという方法をとっていたということだ。
魔塔主は森でめぼしい薬草を探しながらそんな話をしてくれた。
私としては街の中もヘンリックやシュライグにゆっくりと見せてあげたかったのだが、発情期の時期は危険だということで森を歩いている。
「そのような状況でよく攻め込まれませんでしたね」
「それには秘密がありまして……今度、お見せしますね」
「国を守るための大掛かりな魔法ですか?」
「察しがいいですね」
「魔塔主が楽しそうだったので」
魔塔主がそのような顔をするのは魔法や魔導具、薬草が絡んでいる時だけだ。
「リヒト様と魔塔主は本当に親しいのですね」
私のそばをついて歩いていたヘンリックが言った。
「そうですね」と魔塔主はヘンリックに頷く。
「リヒト様が気に入らない国があるのならば滅ぼしてもいいと思うくらいには仲が良いです」
「物騒なことを言わないでください!」
魔塔主のセンスの悪い冗談にも、なぜかヘンリックは「リヒト様すごい」とその目を輝かせていた。
「この森はあまり魔物を見かけませんね」
グレデン卿が辺りを見渡しながら言った。
こうした場では、グレデン卿がヘンリックの教師となる。
広大な森の割には薬草を探している間に出会う魔物が少ない。
魔塔の者たちが薬草を育てるために維持している魔塔周辺の森の方が魔物が多いくらいだ。
エトワール王国は魔物が少ない国なので、実のところ、城の裏にある魔塔の森が一番魔物が多くて一番危険な場所なのだ。
もちろん、あの森から魔物が外に出ないように、魔塔にはしっかり管理するようにお願いしている。
「エルフたちがよく採集や狩りに来るからでしょう」
「エルフの魔力を感知して自分たちより強敵だと判断しているのですか?」
「知能のそれほど高くない魔物ですと、エルフたち複数体の魔力を一体のものとして判断して巨大な魔力を持った生物だと誤認するようです」
「強力な敵には近づかないということですね」
誰だって勝てない敵にはわざわざ近づきたくないものである。
「魔物もなかなか賢いですね」
魔塔主が私の横顔をじっと見てくる。
「なんですか?」
「以前から思っていたのですが、リヒト様は魔物への恐怖心というか、危機感とか忌避感のようなものがないですね」
「魔物と言ってもただの動物と変わらないものも多いですからね」
私の言葉に「どうぶつ?」と皆が首を傾げた。
魔物は魔力を持った動物の総称で、この世界のすべての生物には魔力が宿っているから、魔力の大小、凶暴性の有無、危険の大小に関わらずに魔物と呼んでおり、動物という言葉がない。
前世では野生動物でもすべてを怖がったりはしなかった。
野鳥を愛でる人たちもいたし、リスに餌をあげられる公園があったり、特殊なところだと狐と触れ合える場所などもあった。
しかし、この世界の人たちはすべての魔力を持った生物を魔物と大幅に区別するため、危険のない魔物に対しても無駄に恐れたりする。
危険のない小さな魔物まで討伐対象とするとキリがないため、騎士団や冒険者が討伐対象として見なすのは大型の魔物や凶暴性の強い魔物だけだが。
「小さな魔物は可愛いので、私は割と好きなのです」
本当はもふりたいくらい動物が好きだ。
動物は人を差別しないし、批判しないし、意地悪をしない。
人から見た時に悪さをしているように見えることはあるけれど、それは人にとっては都合が悪いというだけだったり、遊びたいだけだったり、お腹が空いているだけだったり、とにかく、そこにこちらに対する負の感情があるわけではない。
もちろん、こちらが嫌がられるようなことをすれば嫌われるだろうが。
「リヒト様は魔物が好き……」
ヘンリックが呟いた。
グレデン卿もシュライグもぽかんっとしている。
どうやら、私の発言は思った以上に彼らにとっては衝撃的なものだったようだ。
「危険なものは別に好きじゃないですよ? 可愛いと思うのは小さくて大人しい魔物だけです」
そう言い訳をしてみたものの、魔物が好きだという発言は彼らをその日1日困惑させるには十分な衝撃だったようだ。
魔塔主だけは「確かに、ひとくちに魔物と言っても色々いますよね」と頷いていたが、私を見るその目は興味深い研究対象を見る目になっていた。
私に異世界の知識があることがわかってからというもの、魔塔主の中で私は魔法の研究対象として面白いというところにプラスして、異世界人という未知の生物としての面白さも加わってしまったのだと思う。
そんな時に護衛騎士が王子の着替え一つ手伝えないのでは困ると説明された。
しかし、戦争が起こっている時に自分で着替えの一つもできない王子の方がどうかしていると思う。
とにかく、護衛騎士なら王子の身の回りの世話もできる方が好ましいということで、ヘンリックは従者の仕事もするのだそうだ。
何より、ヘンリックが嫌がるどころか、シュライグに倣って私の着替えを手伝ったり、私のお茶を淹れることを楽しそうに行っているから、やりたいようにさせることにしたのだ。
ヘンリックとシュライグが来てからしばらくは私は交易の話し合いに忙しくて、二人にオルニス国を一望する見張り台からの景色を見せてあげることはできなかったのだが、やっと、交易の話がまとまったので、魔塔主に改めて城内とオルニス国の案内をお願いした。
オルニス国は首都国家で、城の一番高い見張り台から一望した街の風景が国の全体である。
周辺には広大な森が広がっており、そこはかつては三国との国境が接する場所だったようだが、ルシエンテ帝国が誕生して周辺国を統治して以来、ルシエンテ帝国の管理下にある森となっている。
もともと貴重な薬草の宝庫であった森だが、ルシエンテ帝国の管理下となり人々がエルフへと干渉しなくなったため、エルフたちは自由に採取しているそうだ。
帝国としてもエルフたちが自分たちの生活のためだけに採取する分については見逃してくれているらしい。
三国と接していた時には兵士や冒険者などに襲われることもあったため、魔法で移動して薬草や木の実、果物の採取、そして食べられる魔物の狩りを行って即魔法で戻るという方法をとっていたということだ。
魔塔主は森でめぼしい薬草を探しながらそんな話をしてくれた。
私としては街の中もヘンリックやシュライグにゆっくりと見せてあげたかったのだが、発情期の時期は危険だということで森を歩いている。
「そのような状況でよく攻め込まれませんでしたね」
「それには秘密がありまして……今度、お見せしますね」
「国を守るための大掛かりな魔法ですか?」
「察しがいいですね」
「魔塔主が楽しそうだったので」
魔塔主がそのような顔をするのは魔法や魔導具、薬草が絡んでいる時だけだ。
「リヒト様と魔塔主は本当に親しいのですね」
私のそばをついて歩いていたヘンリックが言った。
「そうですね」と魔塔主はヘンリックに頷く。
「リヒト様が気に入らない国があるのならば滅ぼしてもいいと思うくらいには仲が良いです」
「物騒なことを言わないでください!」
魔塔主のセンスの悪い冗談にも、なぜかヘンリックは「リヒト様すごい」とその目を輝かせていた。
「この森はあまり魔物を見かけませんね」
グレデン卿が辺りを見渡しながら言った。
こうした場では、グレデン卿がヘンリックの教師となる。
広大な森の割には薬草を探している間に出会う魔物が少ない。
魔塔の者たちが薬草を育てるために維持している魔塔周辺の森の方が魔物が多いくらいだ。
エトワール王国は魔物が少ない国なので、実のところ、城の裏にある魔塔の森が一番魔物が多くて一番危険な場所なのだ。
もちろん、あの森から魔物が外に出ないように、魔塔にはしっかり管理するようにお願いしている。
「エルフたちがよく採集や狩りに来るからでしょう」
「エルフの魔力を感知して自分たちより強敵だと判断しているのですか?」
「知能のそれほど高くない魔物ですと、エルフたち複数体の魔力を一体のものとして判断して巨大な魔力を持った生物だと誤認するようです」
「強力な敵には近づかないということですね」
誰だって勝てない敵にはわざわざ近づきたくないものである。
「魔物もなかなか賢いですね」
魔塔主が私の横顔をじっと見てくる。
「なんですか?」
「以前から思っていたのですが、リヒト様は魔物への恐怖心というか、危機感とか忌避感のようなものがないですね」
「魔物と言ってもただの動物と変わらないものも多いですからね」
私の言葉に「どうぶつ?」と皆が首を傾げた。
魔物は魔力を持った動物の総称で、この世界のすべての生物には魔力が宿っているから、魔力の大小、凶暴性の有無、危険の大小に関わらずに魔物と呼んでおり、動物という言葉がない。
前世では野生動物でもすべてを怖がったりはしなかった。
野鳥を愛でる人たちもいたし、リスに餌をあげられる公園があったり、特殊なところだと狐と触れ合える場所などもあった。
しかし、この世界の人たちはすべての魔力を持った生物を魔物と大幅に区別するため、危険のない魔物に対しても無駄に恐れたりする。
危険のない小さな魔物まで討伐対象とするとキリがないため、騎士団や冒険者が討伐対象として見なすのは大型の魔物や凶暴性の強い魔物だけだが。
「小さな魔物は可愛いので、私は割と好きなのです」
本当はもふりたいくらい動物が好きだ。
動物は人を差別しないし、批判しないし、意地悪をしない。
人から見た時に悪さをしているように見えることはあるけれど、それは人にとっては都合が悪いというだけだったり、遊びたいだけだったり、お腹が空いているだけだったり、とにかく、そこにこちらに対する負の感情があるわけではない。
もちろん、こちらが嫌がられるようなことをすれば嫌われるだろうが。
「リヒト様は魔物が好き……」
ヘンリックが呟いた。
グレデン卿もシュライグもぽかんっとしている。
どうやら、私の発言は思った以上に彼らにとっては衝撃的なものだったようだ。
「危険なものは別に好きじゃないですよ? 可愛いと思うのは小さくて大人しい魔物だけです」
そう言い訳をしてみたものの、魔物が好きだという発言は彼らをその日1日困惑させるには十分な衝撃だったようだ。
魔塔主だけは「確かに、ひとくちに魔物と言っても色々いますよね」と頷いていたが、私を見るその目は興味深い研究対象を見る目になっていた。
私に異世界の知識があることがわかってからというもの、魔塔主の中で私は魔法の研究対象として面白いというところにプラスして、異世界人という未知の生物としての面白さも加わってしまったのだと思う。
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