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16章 『秘薬』の開発

第170話 『秘薬』の効果③

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「レファー……今回はあくまでも『秘薬』の効力を確かめる事がメインなんだ。血を出したのは治療の為であって、お前の食事とは別だ。だからお前に血を与えりのは今度にしてくれ」
「とはいえ、その場に私を呼んでくれても良かったではないか。私はお前以外の血を吸うつもりがない。ゆえに、長らく血を吸っていないのだ……そろそろ英気を養う為にも少しくらい血を分けてくれても良いだろう?」

「そんな事をすれば、お前にどれだけ血を吸われるか分かったものじゃない。血を吸わせると遠慮なく吸い続けるからな……そいつはまた今度だ」
「そうは言うが……なかなか血を吸わせてくれぬではないか」

 拗ねたようにそう言うレファーに俺は居たたまれなくなり肩を竦める。
 そして、食堂の椅子の一つを引いて座ると、レファーの方へと視線を向けながら妥協案を提示した。

「……まあ、少し魔力を使ったからな。いくら俺でも休息は必要だ。近いうちに許可してやるから、その時にでも吸いたければ吸えば良い。これでどうだ?」
「……それなら仕方あるまい」

 そこでようやく引き下がってくれたレファーに視線を向けていたメルトは軽く咳払いをした後、「ともかく……」と言葉をこぼして会話の軌道を元に戻す。

「……これだけの回復力があるなら申し分ないのではないですか? 怪我を瞬時に治せる薬というのは便利ですし……まあ、場合によっては回復術師の存在を脅かしかねませんが」
「そうだな。ピーミット達は想定していた以上に良い仕事をしてくれた。これは後で褒美の一つや二つ与えてやらないとな」
「……そのようなものを与えずとも、奴らはお前からの感謝をもらうことがもっとも褒美となるだろうがな。だが、部下を労おうとするアイドの考えには賛同しよう」
「働き者というのも考えものだな……」

 セリィの言葉に呆れながら言葉を返すと、俺はクルゥへと視線を向ける。
 そして、空になった『秘薬』の瓶を弄びながら今後のことを話していく。

「クルゥ、村長に工場の建設を本格的に始める旨を伝えておいてくれ。従業員も村に大量に働きに来るだろうし、そいつらの住居についても手配する必要があるからな」
「あ……そうね! すぐにお祖父ちゃんに話をしてくる」
「頼んだ。……さて、これからは忙しくなるな」

 多少のハプニングはあったものの、計画に変更はない。
 俺は食堂に居る仲間達から視線を浴びながらも、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
 そして、『秘薬』の瓶を机の上へと置きながらニヤリと笑みを浮かべた。

「次はどんな獲物が掛かるか……楽しみだな」

 『秘薬』の噂は確実に広がる。
 それに引っ掛かる奴がどれだけの強さを持っているか……それを思い、俺は一人笑みをこぼすのだった―。
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