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17章 魔王城侵略

第171話 強引な婚姻①

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「―『吸血鬼』の大軍がここに向かっているだと?」

 村の外れに作った第二の『魔王城』。
 そこにある玉座に座って肩肘を付いて休んでいた俺に、そんな話を持ってきたのは『魔王軍』第二の将ルディンだ。

 白く長い髪を後ろで髪を留めているルディンは俺の言葉に軽く頭を下げた後、真剣な表情で俺に言葉を返してくる。

「はい……それも、かなりの規模のようです」
「やれやれ、こんな辺境に『吸血鬼』が一体何の用があるんだか……それを率いている奴は分かっているのか?」
「はっ! すでにそちらは調べが付いております。ヴェナント・グルード……『吸血鬼』の中でも名の通った貴族のようです」
「ヴェナント・グルードか……レファー、知っているか?」

 俺はルディンの言葉に玉座から少し視線を横へと向ける。
 すると、そこに居た女性の一人―『吸血鬼』の女王であり、『魔王軍』第六の将レファーが呆れた様子で肩を竦めながら俺の問い掛けに答えた。

「……知っているも何も、その名すら聞くのも嫌になる。女王の座に就く私に取り入ろうと婚姻を迫る男は後を絶たないが……奴はその中でもタチの悪い方だ。自らが手に入れようと思ったものは何をしてでも手に入れる……あれは、そういう男だ」

 そう言って、明らかに顔をしかめるレファー。
 よほどヴェナントという男が嫌いなのか、嫌悪感を露わにしてため息を吐くレファーに同情するように言葉を返す。

「そのヴェナントという奴は相当な嫌われようだな。そんな嫌われ者に好かれるお前には同情するよ」
「ならば、アイドが私と婚姻関係を結べば良い。強靭な強さと精神力を備えたお前こそ、『吸血鬼』の頂点に立つに相応しいのだからな」
「えぇ!? ……あ、い、いえ、何でもありません」

 いつものように俺にアプローチを掛けてくるレファーに、それまで冷静だったルディンが驚いたように声を上げていた。

 そんないつものようなやり取りを俺が呆れた様子で見ていると、同じく『魔王軍』である第八の将ムエイは年老いた顔に満面の笑みを浮かべ、顎から伸びた髭をさすりながら肯定的な意見を俺へと向けてくる。

「ほっほっほ、レファー様のような『吸血鬼』の女王すらも魅了されるとは、さすがは『魔王様』ですなぁ。しかし、お二人の後継ならば、セリィ様と並んで次期『魔王様』として将来ご活躍される事は間違いないでしょうからな。この爺、応援させて頂きますぞ?」
「……勘弁してくれ。俺はまだそんな先の事を考えていないんだ」

「お、お二人の後継……」
「……ルディン。ムエイの話を鵜吞みにしなくて良い」
「え……? は、はい! も、申し訳ありません……」

 俺とムエイのやり取りにも過剰に反応するルディンに声を向け、俺が呆れた様子でため息を吐いていると、レファーの反対側に玉座に寄り掛かっていた女性が同じようにため息を吐きながら反応を返す。

「……騒ぎに乗じて何を馬鹿な事を……それよりも、今はその『吸血鬼』への対処を考えるべきではないのか?」

 そう言って、銀色の髪をさっと片手で払いのけるのは『魔王軍』を統括する将であり、『元魔王』の肩書きを持つセリィだ。
 俺はそんなセリィの話を拾いながら話の軌道を戻していく。

「まったくだ……しかし、そんな嫌われ者がどうしてまたここに攻めて来たんだろうな。……まあ、お前が居るからって話だろうが」
「不快極まりないが、そういうことだろう。あれだけ婚姻を跳ね除けているというのに……あのしぶとさには呆れるばかりだ」

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「『魔王』と呼ばれた『元勇者』」を読んで下さり、ありがとうございます!
平日毎日更新をしていましたが、今後はゆっくりと構成を練りつつ執筆していくことにし、休みをはさみながら連載していくことにしました!

お楽しみ頂いている方々には申し訳ありません……。
今後ともよろしくお願いします!
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