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16章 『秘薬』の開発

第155話 ただ一方的に蹂躙される者を見るのは頂けない

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 俺がそう言うと、男達は驚いたように固まっていた。

「は……? な、何言ってんだ、こいつ……?」

 やがて、リーダーの男が口を開くと、それを見守っていた部下の二人はそんな男とは正反対の反応を見せ始める。

「お、お頭……! 『魔王』だか『勇者』だか分かりませんけど、こいつらやっぱり普通じゃなかったんスよ! こんなことならあいつから盗むんじゃなかった!」
「ヤバいですよ! どうすりゃ良いんですか!?」

 あからさまに狼狽してみせる部下に男は額に青筋を立てると、苛立った様子で声を上げた。

「ぎゃあぎゃあとやかましいんだよ! ガキ相手に何ビビってんだ!? ああ!?」
「で、でも……」
「何弱気なこと抜かしてんだ!? ぶっ殺されてぇのか!?」
「ひ、ひぃ!? そ、それだけは勘弁して下せぇ!」

 男は部下に怒鳴り散らすと、額に汗を浮かべながらも苛立った様子で今度は俺へと言葉を投げ掛けてきた。

「ガキがよぉ……大人に歯向かえばどうなるか分かってんだろうな? テメェみたいなガキ、俺にかかれば今すぐに地面這いつくばらせて、犬みたいにキャンキャン言わせることなんざ朝飯前なんだよ」
「それは恐ろしい。なら、今すぐにでも俺を地面に這いつくばらせてキャンキャン鳴かせてくれよ? 出来るなら、だが」
「ぐ……!」

 男の挑発にそう返すと、大口を叩いていた男は唇から血が出るほどに噛みしめていた。いくら強気になったところで、あれだけ力の差を見せられては迂闊に踏み込むことが出来ないのだ。

 攻めてこない男に対して肩を竦めてみせると、俺は挑発的な笑みを浮かべ、男を焦らせるように声を投げ掛けていく。

「どうした? 仲間が来る前に俺を殺すんだろ?」
「う、うるせぇ! あえて生かしてやってんだよ!」
「そんなに悠長にしていて良いのか? ―ほら、言っている傍から仲間の到着だ」
「な―」

 俺の言葉に男が驚いて声を上げた時だった。
 上空からコウモリの大群が姿を現すと、やがてそれは俺の近くへと集まっていく。
 そして、徐々にそれは人の形を作っていき、銀色の髪が流れ、透き通るような声が周囲に響いた。

「―これはこれは。見物をするにはずいぶんとみすぼらしい相手だ。アイドの活躍を見るのは良いが、ただ一方的に蹂躙される者を見るのは頂けない」

 そう言うと、『魔王軍』第六の将レファーはコウモリを周囲に散らせて姿を現しながら、片手で髪を払い除ける。
 さらに、そんなレファーのすぐ後ろからさらにムエイとイグンが姿を現した。
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