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本章
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しおりを挟むあれから、わたしは毎日、昼食は食堂で、エイプリルと一緒に食べる様になった。
エイプリルは友達が欲しかった様だし、わたしも独りでいるよりは良かった。
それに、不思議だが、エイプリルと一緒だと心が休まるし、話していても楽しい。
友達って、こういう感じかしら?
口に出して「わたしたち、友達よね?」とは、恥ずかしくて言えないが、
心の中ではそう思う事にした。
ウイリアムは宣言通り、カフェでオリヴィアと一緒に昼食を食べたらしいが、
翌日は食堂に来て、わたしたちの前の席に座った。
「昼食はオリヴィア様となさるのではありませんでしたか?」
「ああ、昨日ね、今日は息抜き」
息抜き??
「ザカリー様、ウイリアム様は上手くいかなかったのですか?」
わたしは隣のザカリーに聞く事にした。
ザカリーは少々、返答に困った後、「そこまで酷くはありません」と答えたのだった。
中々に酷そうね…
まぁ、相手はあのオリヴィアだものね…
「お疲れ様、紅茶を淹れて差し上げるわ」
「ありがとう、気が利くね」
提案したのはわたしだし、それには下心もあったので、礼を言われるのには少々、気が咎めた。
わたしはポットを取り、ウイリアムとザカリー、エイプリルに紅茶を注いだ。
「話しが弾まなくてね…オリヴィアは人形の様に澄まして座っているだけだし…」
想像出来るかも…
想像したくないけど。
「そうだ、君たちも一緒にどう?食事代は僕が出すから!」
名案を閃いた!とばかりに言うが、当然、
「丁重にお断り致します!」
強めにお断りした。
「あたしも、遠慮致します…」
オリヴィアが苦手なエイプリルも、沈んだ声で断っていた。
気の毒なウイリアムは、「はー」と重い溜息を吐いたのだった。
それでもウイリアムは、一日置きに、オリヴィアたちとカフェで昼食をする様になった。
中々、我慢強い人だ。
このまま、ウイリアムとオリヴィアの仲が上手くいっていれば、オリヴィアも不満を持たず、
エイプリルに嫉妬する事も無いのではないか?
これで、エイプリルがウイリアムを諦めれば、きっと、毒を盛られなくても済む___
勝手だが、エイプリルにはウイリアムを諦めさせる事にした。
そこで二人きりの時、これまで聞かなかった事を聞いてみた。
「ウイリアム様とは、どうやってお知り合いになったの?」
エイプリルはポッと頬を染め、恥ずかしそうにもじもじとし、それを話してくれた。
「入学式の日です、学院の敷地を散策していた処、迷ってしまって…
そこで声を掛けて下さったのが、ウイリアム様でした。
あたしを寮まで送って下さいました。
顔を覚えて下さって、学院で会うと声を掛けて下さって…
あたしは友達が出来ない事で悩んでいて…よく相談に乗って頂きました」
自然と声を掛けるのが普通になり、友達になったと…
「ウイリアム様は、素敵な方ね…」
わたしは探る様にエイプリルを見た。
瞬間、エイプリルは緑色の瞳を大きくし、わたしを振り返った。
「はい!とても素敵な方だと思います!
王子様なのに、気さくで、優しくて、頭の回転も早くて…」
珍しく早口で捲し立てている。
エイプリルにとって、ウイリアムは《完璧な人》の様だ。
確かに、ウイリアムは立派な人だし、魅力的だけど…
それじゃ、困るのよ…
エイプリルの命には代えられないもの!
「でも、婚約をなさっているから…」
わたしが言うと、エイプリルは急に顔を暗くし、前に向き直り、俯いた。
「そう…ですよね…軽弾みでした…ああ、恥ずかしい!」
エイプリルは両手に顔を伏せた。
ウイリアムが好きなのね…
胸がズキリとする。
わたしはそっと、エイプリルの肩を支え、擦った。
「いいのよ、わたしの方こそ、変な事を聞いてしまって、ごめんなさい」
ああ…
エイプリルの気持ちを思えば、『諦めなさい』なんて、とても言えないわ…
◇◇
『諦める』までは出来なくても、気を紛らわせる事は出来る筈だ!
わたしは考えを改める事にした。
それとなく、エイプリルに趣味や興味のある事を聞き出し、考えた結果…
「エイプリル、ドレス作りに興味はある?
創立記念パーティに着るドレスを、一緒に作りましょうよ!」
ドレス作りを提案した。
エイプリルは、十歳の頃から自分で繕い物をしており、縫製は得意と言っていた。
わたしは散財出来ないし、エイプリルの家は裕福では無いので、新しいドレスを買う事は出来ないが、
布だけなら安価で手に入るし、自分たちで作れば費用も然程掛からない。
ついでに、縫製の授業の点数稼ぎにもなり、一石二鳥だ。
エイプリルは緑色の瞳を大きくし、賛成してくれた。
「型紙から、自分たちで考えるんですか?やってみたいです!
はい!是非、お願いします!」
「決まりね!縫製の教室を借りるのはどう?
先生にも見て貰えるし、道具やドレスの保管も出来るから」
「はい!良いと思います!」
わたしたちは考えを纏め、計画を練って、縫製の教師に話した。
「放課後を使って、自分たちでドレスを作る?自由課題ね…ええ、良いでしょう。
でも、あなたたち、他の教科の勉強は大丈夫?
ドレスを作っていて成績が落ちたとなれば、問題よ?」
縫製の授業は必須ではあるが、あくまで貴族令嬢としての嗜み程度のものだった。
「わたしたち、成績は絶対に落としません!お約束します!」
わたしは二回目の二年生なので、成績には自信がある。
エイプリルも地頭が良いので、そこは心配していなかった。
わたしたちの気迫に圧されてか、「それなら、許可しましょう」と許可を出してくれた。
「ありがとうございます!」
わたしたちは手を取り合って、歓声を上げた。
創立記念パーティまでは、三月以上あるので、下調べから念入りに出来る。
わたしとエイプリルは、早速、図書室へ行き、ドレスの研究を始めた。
どうせ作るのであれば、斬新で洗練された物がいいと、意見が一致したのだ。
調べた事を元に、互いにドレスのデザインを考えた。
エイプリルは、レースをたっぷり使った、可憐で清楚なドレス。
わたしは、シンプルで上品なドレスだが、スカートには刺繍を入れるつもりだ。
「エイプリルにピッタリね!可愛いわ!」
「ルーシー様のデザインも素敵です!大人っぽくて洗練されてますね!」
教師に確認して貰い、アドバイスを貰い、型紙作りに入った。
わたしたちは毎日の様に、放課後になると一目散に縫製室へ行った。
型紙作りに没頭しているエイプリルを見て、わたしは安堵していた。
最近、エイプリルがウイリアムの名を口にした事はない。
昼食の際に会ってはいるが、エイプリルはお喋りではないし、話の中心になる事は無い。
ウイリアムと二人の世界に入る事は無いし、色目を使ったりもしていない。
「意外と、普通に《友》なのよね…」
ウイリアムの方も、エイプリルを構い過ぎているという事もなく、適度な距離を保っている。
前の時、どうしてオリヴィアに目を付けられたのか、不思議な程だ。
「それとも、近くで見るのと端から見るのとで、違うのかしら?」
それに、エイプリルは必死で気持ちを抑えているのかもしれない…
「いい子だもの…」
胸が痛むが、それでも、命を落とすよりはましに決まっている。
わたしは心の中で、エイプリルに謝った。
◇◇
ウイリアムの事はさておき、エイプリルは男子生徒たちから、かなり人気がある。
見た目の可愛さなのか、賢さなのか、大人しく従順そうな処なのか…はたまた、その全てか?
一緒にいると、声を掛けて来る男子もいる程だ。
「エイプリル、これから何の授業?」
「エイプリル、この本、面白いよ!」
「エイプリル、何処かで話せないかい?」
それだけではない、告白して来る猛者もいる。
「エイプリル、好きです!僕と付き合って下さい!」
「エイプリル、君の事が好きなんだ、これ、読んで貰える?」
恋文を渡してきたりもする。
その度に、エイプリルは小さくなり、「すみません、興味がないので…」と断っていた。
そこまでは、まだ良いが、たまに、しつこい者もいて…
「どうしてだよ!俺が好きだって言ってるんだぞ!
婚約者がいないんだから、付き合ってくれたっていいだろう!
俺は伯爵子息だぞ!男爵家にとっても、良い話だろう!
俺以上の良縁は無いぞ!」
捲し立てられると、エイプリルは顔を青くし、小動物の様に震えた。
ほとんどの場合、わたしが素気無く撃退していたが、
この日はわたしが駆け付ける前に、助けに入る者がいた。
「いい加減にしなさいよ!
伯爵子息だかなんだか知らないけど、嫌がってるじゃない!
女子を怖がらせるなんて、最低よ!」
ダークブロンドの髪の、勝気な女子生徒…
わたしは彼女の事を知っている。
前の時にも、何度か見かけた、エイプリルの唯一の友達だ。
「くそ!生意気女子め!」
男子生徒は敵わないと思ったのか、悪態を吐き、去って行った。
彼女はエイプリルに声を掛けた。
「大丈夫だった?ああいう輩には、ハッキリ言った方がいいわよ!」
「はい、あの、助けて下さって、ありがとうございました…」
「いやだ、改まらないでよ!私たち、同じ一年生よ?
私はBクラスだけど、サマー・スコット伯爵令嬢よ」
「あたしは…」
「エイプリル・グリーン男爵令嬢でしょう?一年生は誰でも知ってるわ!」
サマーが気持ち良く笑う。
エイプリルも小さく笑っていた。
これまで見掛けなかったが、それもその筈で、初対面らしい。
こうして二人は出会ったのね…
わたしは少し離れた場所から、感慨と少しの寂しさを抱き、眺めていた。
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