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湯水のごとくお金を使おう

第632話

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 酒場に降臨したのはレイアさんでも神薙さんでもなく、ヘラ母さんだった。
 腰を抜かした冒険者の一人がヘラ母さんの名前を呼んでいたので、あの人の声に応えたんだろう。

「それで?」
「This is a soft joke」
『冗談なの』
「ジョークでっす」

 土下座する勢いで子供達がヘラ母さんに言い訳しているけど、反省の色はさほどない気がします。
 あとアー君がなぜか英語を使用している。いつ習得したんだろう、僕日本語オンリーで英語分からないけど、言い訳したのだけは分かった。

 幼児だから正座は出来ない、代わりにマールスと白熊さんが正座している。
 僕も隣で正座中、うぅ連帯責任。

 戦士の人達は……あっ、受付に固まって僕らから視線を外してる。
 他人のフリを押し通すつもりだな、実際に他人だけど!

「アルジュナ」
「はいっ!」
「人間は脆い、もうちょっと優しくしておあげ」
「んー、分かった」

 渋々了承したアー君に酒場のあちこちでホッと息が吐かれた。

「次に今日みたいな騒ぎを起こしたら……そうだね、反省するまでイツキを私の所で預かるよ。もちろん面会謝絶、領地にも出入り禁止にしようかね」
『いやああああん』
「ばーば、それだけは、それだけは!!」
「俺が悪かった! ママだけはやめて!」

 ヘラ母さんの所に遊びに行くのもいいなぁって思っていたら、割と本気で子供達が泣き始めた。
 あらまぁ、不謹慎だけど嬉しいな。

「ママがいなくなったら神薙様がガチギレするっ!」
『こわぁぁい』
「丸呑みされる……ひぃぃぃぃ」

 そっちか~。
 僕がいなくなるのを寂しがってくれたと思って喜んじゃったよ。

「反省したなら良し、今日は忙しいからこれで帰るけど、悪戯に追い詰めた相手には酒でも奢ってやりな」
「はいっ!」

 ヘラ母さんが帰るとアー君が酒場にいた人達に今日は奢りだと宣言し、一斉に歓声が上がった。

「一番高い酒飲んでもいいですか!?」
「いいぞ」
「手が出せなかった肉料理とか」
「食べろ、食べて精をつけてくれ」
「「うおおおーーー!!!」」

 さすが冒険者、逞しい。

「高い料理に味を占めて、食べたさに稼ぎまくってくれ、くく」
『アー君、悪い笑顔なの』
「うひひー」

 うちの子が不穏な発言したけれど、酒場を満たす歓声にかき消されました。
 皆さん、どうか強く生きてください。

「じゃあダンジョンに行くか」
『おー!』
「何分で終わるかな?」
「今日はもう帰ろう?」
「イツキ殿、諦めも肝心ですぞ」

 僕は今日はもうお腹一杯、帰りたい。
 そんな些細な願いなど叶うわけもなく、気配を殺して成り行きを見守っていた戦士の方々とダンジョンに出発です。
 
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