キミと羊毛フェルト、そしてぬい活。

立坂雪花

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3*ふたり視点 恋か確認する方法

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**叶人視点


――僕たちが恋人みたい?

 僕は陽向くんが大好きだけど、友達というか親友というか、魂の繋がりの関係でというか……とにかく、恋人って意味での、そんな好き・・・・・ではない。

それよりも、陽向くんとふたりだけの世界で羊毛フェルト制作作業をしていたのにさ、陽向くんのクラスメイトがたくさん陽向くんに話しかけていて……。気持ちがグチグチしてきて、嫌だなって思っていたらお腹痛くなってきたから、教室に戻った。本当に僕はお腹が弱くて、気持ちが不安定になるとすぐお腹が痛くなる。今までは陽向くんはお腹の薬のようでもある存在だから、一緒にいるとお腹が痛くなることはなかったのに。

 午後からの数学の授業は、気持ちがもんもんとしていた。

 放課後、いつものように陽向くんが教室に迎えに来てくれた。

「叶人、かえ、ろ?」
「う、うん」

 陽向くん、ちょっと元気がない?
 そんな気配を感じながら、自転車置き場へ一緒に向かう。

「今日は陽向くんバイト休みだよね?」
「うん」
「うさぎのもっふんちゃま制作、この後一緒にやるよね?」
「……いや、今日はやめとく」
「どうして? もしかして陽向くんもどこか調子が悪いとか?」
「いや、そんなんじゃないけど」

 陽向くんの目は魚のようにあちこち泳いでいる。そしていつもは優しい目で僕を見つめてくれるのに、一度も目が合わない。

 僕たちはそれぞれ自転車に乗る。
 いつもは僕が自転車の鍵を開けて乗って、動く準備が終わるまで必ず待ってくれていたのに、先に進んでいく陽向くん。

――どうしたんだろう。

 胸の辺りをズキンとさせながら、陽向くんの後を追った。お腹がもっと痛くなってきた。

***



「陽向くん、おはよ」
「おはよ」

 次の日の朝も、いつものように陽向くんは迎えには来てくれた。

 だけどやっぱり昨日と同じように、目を合わせてくれない。
 昨日は陽向くんのことが気になりすぎて、あんまり眠れなかったな。
 
「陽向くん、何かあった?」
「何が? 特に何も無いけど」

 僕たちは無言のまま学校へ向かう。
 またお腹痛くなってきちゃったな。

 学校に着き、いつも通りに授業を受けていたけれど三時間目の体育の時間に貧血が起きた。バレーをしていると、だんだんボールがぼやけて見えてきて、見えなくなって――。先生やクラスメイトたちに「雪白くん」って苗字を呼ばれている声だけが最後に聞こえた。僕はこのまま人生が終わるのかなと思いながら、真っ白の世界に導かれていった。

 目が覚めると保健室にいて、目の前には何故か陽向くんがいた。

「叶人、大丈夫か?」

 わっ! 陽向くんが目を合わせてくれている。保健室のベットに横になりながら陽向くんを見つめていると涙が出てきて枕が濡れる。

「叶人、どうした? そんなに具合悪いのか……?」

 目を合わせながら話してくれていることが嬉しくて、返事するのを忘れていた。

「大丈夫だよ」

 本当に眠ったらお腹も治っていたし、調子も良くなっていた。昨日眠れなかったから倒れたのかな?

「叶人、自転車で帰れそうか? 無理そうだったら親に連絡してみるかタクシーか……」
「もしかして、もう帰る時間?」
「そうだよ。叶人の鞄は持ってきたからな」
「ありがとう。」

 そう言うと陽向くんは、陽向くんが持っていた僕の鞄を僕にアピールしてくれた。

「大丈夫か?」
「大丈夫だよ!」
「本当に大丈夫か?」
「陽向くん、何回大丈夫?って聞いてくるの?」

 なんか面白くなって笑った。

「だって、叶人のことが心配だから……」

 今日も陽向くんは優しい――。

***


 おかしいな、おかしいよね……?

 今日は結局、体調が良くなったから自転車で陽向くんと一緒に帰った。そして僕が無事に家の中に入ったのを見届けると陽向くんはバイトをしているカフェに向かった。

 そこまではおかしくなかったと思う。

 バイトを終えた陽向くんが夜に、バイト先の白いプリンのお土産を僕に渡すため、家に来てくれた。
 そして今ちょっとだけ、うさぎのもっふんちゃまを作ろうって話になって、一緒に作業をしている。

 何がおかしいのかというと、保健室に迎えに来てくれた時まで僕からずっと目をそらしていた陽向くんは今、ずっと僕を見つめてきている。しかも陽向くんは一切作業をしていない。強い視線が突き刺さってきて、僕は作業に集中できないし、陽向くんの顔がみれない。

 目をそらしてきたり、ずっと見てきたり。
 僕はどうしたらいいのか、分からない。

 とりあえず僕は、ニードルから目を離さずに無言でうさぎのもっふんちゃまの耳をチクチクしていた。
 




**陽向視点

 カフェがもうすぐ閉店する時間だ。

 バイトが終わったら、あらかじめ購入してカフェの冷蔵庫の隅にそっと置いてある、白いプリンを叶人に届ける予定だ。これなら、もしも叶人の体調が完全に回復していなくて、食欲がなくても食べられそうな気がしたから――。

「好きではない」と言われたり、叶人が学校で倒れたり。いつもより、叶人のことで頭が忙しい。

 俺がバイトをしているカフェは、10のテーブルと、カウンターにも並んで座れる椅子がある。そしてお洒落な雑貨が飾られていて、ゆったりとしたオルゴール音の曲が流れている。今、そんな店内で女性客がひとりだけ、コーヒーを飲んでいた。暇だと叶人のことを考えすぎるから、こんな時は客がたくさん入ってきて忙しくなればいいのにと思う。

「陽向、何かあった?」

 カウンターで俺の横に立っている隼人先輩が俺の顔を覗き込んできた。もやもやしていることを先輩に勘づかれたのか。

 隼人先輩はここで一緒にバイトをしている大学生。ちょっとチャラいけど、見た目はかなり整っていて、先輩目的でカフェに来てるっぽい客もいる。仕事もできてとても頼りになる先輩だ。

 悩み相談してみようかな――。

「あの、ふたりきりの時に『大好き』ってお互いに言い合った人がいるんですけど、その人が俺の友達の前で、はっきりと言ったんすよ。俺のことを『好きではない』って……」

 もやもやしていたことをため息と共に、先輩に吐き出した。

「お、恋の悩み?」
「いや、恋ではなくて……」
「それは恋だな。何、どんな関係でどんな子なの?」
「幼なじみで、可愛くて。何でも知りたくなるような不思議さもあって、何でもしてあげたくなるような……」
「かなりの溺愛だな。幼なじみの恋か……そんな子に『好きではない』って言われたら、それは辛いわな。でもふたりの時には『大好き』と……。照れ隠しじゃないか?」

 隼人先輩は腕を組みながら、うんうんと自分の言葉に頷いた。
 いつの間にか恋の話になっている。

 恋……そういえば、学校で夏樹も俺らのこと〝恋人みたい〟って言っていたな。その時に叶人は俺のことを「好きではない」って。

 叶人の言葉を思い出すたび、心臓がぎゅっとして痛くなる。



 隼人先輩は顎に手を当てて、俺をじっと見る。
 真剣に考えてくれているのか。

「まぁ、とにかくあれだね。もやもやしてるなら、相手に直接聞いてみた方がいいかもね! まぁ、俺の勘だけど、相手も陽向のことをかなり意識してると思うよ。恋の人としてね」
「お互いに恋とか、そういうのではなくて……」
 俺がそう言うと、先輩はニヤッとした。

 叶人が俺を〝恋の人〟として意識しているのはありえないと思う。でも、聞いた方がいいのは、先輩の言う通りだよな――。

 今日この後、叶人に直接聞いてみるかな。俺のこと実際好きか、嫌いか。
 聞いてから聞かなければよかった的な返事が叶人から来ても嫌だな。

 あれこれ考えていると、コーヒーを飲んでいた最後の客が「お願いします」と、会計をしに来た。

 店は閉店した。店長含め三人で後片付けをし、ハンガーに黒いエプロンを掛けている時。

隼人先輩が耳元で「陽向、恋してるか確認する方法はハグをしてみるんだ。恋をしていれば陽向も相手もドキドキする。恋の一歩手前で、あともう少しの場合もハグによって相手を意識させることもできる可能性もある。まぁ、それは確実ではなくて、俺の経験からのアドバイスだけどな」と囁いてきた。経験からのアドバイス……たしかに隼人先輩のようにカッコイイ人にハグされれば、恋に落ちる相手も多いだろう。先輩は経験豊富だな。

 というか、叶人とハグ!?

 叶人とは小さい頃から一緒にいるけれど、記憶の中では、手を繋いだことすらなくて触れたことは一度もない。叶人からは無理っぽいから、そうなると自分からハグを?

 いや、別にしなくてもいいんだけど。だけどちょっとしてみたい気もする。どんな感じなんだろうか――。

 カフェから出ると、叶人に『今から白いプリン渡したいから行くね』と連絡する。俺は叶人のことを100パーセントずっと考えながら、叶人の家に向かった。



 自分の家に自転車を置いてから叶人の家のドアの前に立つと、すぐにドアは開いた。

「陽向くん、バイトお疲れ様でした」

 ニコッと微笑む叶人。

「叶人、これ渡しに来た」

 小さな紙袋を渡すと、叶人は袋の中を覗き白いプリンを確認する。

「やった! ありがとう!」

 喜んでくれて、嬉しい――。

「あと、ちょっと部屋に上がらせてもらっていい?」
「もちろん、いいよ! 明日は学校休みだし、ゆっくり起きてられるよね。うさぎのもっふんちゃまやる?」
「やろっかな? 実は鞄に入ってる」
「陽向くん、さすがだね!」

 そうして叶人の部屋の中に入ったはいいが、どう聞けばいいのか? 俺はしばらく作業をせずに、羊毛をチクチクしている叶人をじっと見つめていた。

「陽向くん、どうしたの?」

 しばらくすると、叶人は眉を寄せて困ったような表情で質問してきた。なんて答えようか――。俺のことが好きか嫌いか、直接聞いちゃうか? でもやっぱり傷つく返事をされる可能性もあるわけだし、怖いな。多分、嫌いって言われたら、俺の心の中が一瞬で灰になってしまうと思う。

 ふと、さっきの先輩の言葉が頭の中にふわふわと浮かんできた。

『陽向、恋してるか確認する方法はハグをしてみるんだ。恋をしていれば陽向も相手もドキドキする。恋の一歩手前で、あともう少しの場合もハグによって相手を意識させることができる可能性もある。まぁ、それは確実ではなくて、俺の経験からのアドバイスだけどな』

 試しにハグをしてみようか――。

「ねぇ叶人、今から叶人をハグしてみて、いい?」
「どうしたの急に」
「ちょっと、確認したいことがあって……」
「いいけど……」


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