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14.加護と過保護
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外はまだ昼間で、森の入り口には豪奢な馬車が止まっていた。
予定では夜に紛れて城に入ると言っていたのにいいのだろうか。
小首を傾げていれば馬車の対面に座ったシシェルがニッコリと笑って、「予定が変わった」と答えた。
「城に入る際に、業者の馬車に乗り換え、それから私の離宮へと入る」
「貴方の?」
「ああ、私は基本的に騎士団の宿舎に寝泊りしているので、使用人を何人か増やすが…なにかあればすぐに私に言ってくれ。速やかに対処する」
「なにか…」
「勿論、私直々の世話は止めないが。城に帰れば更に手厚くしてやれる」
「…え…要らないです」
「ふふ、そう言うな。私の楽しみであるのだから」
本当に楽しいのだろうな。表情がとてもウキウキしている。
大きな馬車はどこもかしこもフワフワで、クッションもたくさん置かれている。現代で自動車に慣れてしまった僕でもこの居心地は最高だと思う。最後に乗った馬車は乗り捨てのような貧相な馬車だった。あれはそういうことだったのだろう。
「ユエ」
気分が落ちそうになった途端、シシェルに声をかけられた。
ハッとして顔を上げれば、ポンと頭に手を乗せられた。
「お前は私が守る。不安があるなら排除しよう」
柔らかく頭を撫でられ、心がぽかぽかと暖かくなった。シシェルの一言でこんなにも落ち着くなんて、この世界に戻ってきた時は思いもしなかった。
「ありがとう、ございます…」
あんなに可愛げのない態度しかとっていないというのに、シシェルの優しさは揺らぎない。
信用してもいいのか…。
精霊はずっと僕を守ってくれていたらしい。僕を傷つけるものから排除した結果が現代への転生らしいのだが…。
この世界はあの世界とは違うのか。シシェルは、あの時のシシェルと違って…精霊に聞いてみようかと思ったが、僕にはまだその勇気がない。
ノアトルの人たちは皆優しかった。ここで一生を過ごしてもいいかなって思えるくらいの人の暖かさを感じた。
「私達は、お前にとって脅威になるようなことはしない。それは精霊が証明してくれている」
シシェルの言葉に反応するように、妖精が小さい身体を馬車の中で動かす。妖精の身体は魔力の思念体でもあるので、物にぶつかることなく馬車の外に出たり中に入ったりと忙しい。しかも、馬車が通る場所の妖精も目を覚ましているらしく、新たな妖精が僕に加護を与える為にひっきりなしに入ってくる。
「ユエ…酔いはしないか?」
「ちょっと、目が回っていたりはしますね」
目まぐるしく動く視界の妖精を目で追っていると馬車ということもあり、少し具合が悪くなってきた。これは状態異常と似た症状だけど、魔法や精霊の加護を使えるものではないようで、眉間を指で揉んでいると隣にシシェルがやってきて、頭を押された。
「わっ!」
「まだ先は長い。着いたら起こす。寝ていろ」
優しく頭を撫でられた。
所謂、膝枕状態に慌てて起き上がろうとしたが、頭を撫でられる優しい手つきなのに、起き上がることは出来なかった。腕一本にすら勝てない僕の腹筋…。
徐々に落ちてくる瞼に抗うことなく、僕はまどろみに身を委ねた。
「着いたぞ、ユエ」
シシェルの柔らかな声に名を呼ばれて意識が覚醒した。
パチリと寝起きの目を摩ると、そこが先ほどまで自分が乗っていたものとは違うことに気付いた。
豪奢な作りの馬車だったはずだが、これは荷車だ。木の板が張り巡らされていて、座る場所なんて存在していない。ただ、荷物は何一つとして乗せられてはいなくて、柔らかなカーペットとクッションが置かれている。
「?」
一体なにが起こったのかと辺りを見渡していると、シシェルが起き上がった僕のお尻にふかふかのクッションを置いてくれた。
「よく寝ていたのでな、そのまま荷車に乗せた」
その言葉で僕はまた軽々とシシェルに運ばれてしまったのだと容易に想像がついた。一番の問題は、運ばれているのに目を覚まさないという点だろうか。
「もしかして…また…」
「ああ、勿論。精霊が手伝ってくれた」
やっぱりか。
どうして妖精とシシェルは妙な意気投合を見せるのか。
「今は城の門を越え、もう少しで私の宮に着く。着いたら、夕餉をとろう」
「もうそんな時間?」
「馬車とは違い、荷馬車は快適とは言えない。お前が寝ていてくれて良かった」
昨日もぐっすり寝た筈なのに、夕方まで昼寝をしていたらしい。改造された荷馬車の内装はとても居心地がいい、ただ、壁が木の板と幌での簡易なものなので振動はそれなりにやってくる。
本来の荷馬車の振動はこんなものじゃ済まないのを知っているだけに、妖精とシシェルのダブル過保護っぷりには恐れ入る。これはきっと妖精が荷馬車に加護を与えてくれている。あとは、振動を殺すための内装。これ、いつ用意したんだろう。最初の予定では荷馬車に乗る予定ではなかったのに。
フカフカのクッションを手で触っていると、そろそろだと靴を履かされた。靴は布の柔らかい生地のもので、これは城を歩くためだけに履く中履きだ。
それに合わせて上着もローブからショールに変わった。
荷馬車からシシェルのエスコート付きで降ろされ、地に足を着けた瞬間、あちらこちらから花びらが舞い、妖精がわっと目を覚ました。
中庭に植えられた花が芳醇な匂いを撒き、植物は青々しく艶やかに色を付け、空気が澄み渡る。
「お前が現れるだけで、この状況。さすがに慣れたが、歓待振りが凄まじいな」
夕暮れがシシェルの橙色の髪を鮮やかに照らす。
呆気にとられた表情が可愛らしくて、僕はひっそりと笑った。
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