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第1章 始まりとアース王国

7.ユリアについて

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 重力によってだいぶ変形してしまった蜂の巣をそのままリオの異空間ボックスに収納してギルドへと帰ってきた。
 依頼達成の報告をするため受付の男性に依頼書を渡した。

女王蜂クイーンビーの討伐依頼ですね。それではギルドカードで確認させて頂きます」

 俺とユリアはそれぞれ自分のギルドカードを受付の人に出した。それを機械に翳して確認を終えると「ありがとうございます。討伐完了ですね。こちら対象の納品によって追加報酬がございますが素材等はお持ちでしょうか?」と聞かれた。

「ええ、あるわ。リオ収納したの出して」
「あぁ分かった」

 ユリアに出してと言われたので受付のカウンターの上に押し潰された状態の死んでいる蜂達が中に入ったまんまの巣を取り出した。

「これは蜂の巣ですか。…しかしかなり凹んでしまっているので……。取り敢えず中も確認して判断させて頂きますので少々お待ち下さい」

 その蜂の巣を持って奥へと行ってしまった。反応から見るに押し潰してしまったのは良くなかったようだ。

 男性が奥に行って直ぐ驚いたような声が受付で待っている俺達の場所まで聞こえてきた。

「なんだ…?奥から驚いた声が聞こえたが…」
「何かあったのかしら」

 奥に入るわけにも行かないので気になりつつもその場で待っていると受付の男性ともう一人多分上司だろう落ち着いた雰囲気の人が来た。

「お待たせしました。奥で確認させて頂いたところ、どうやら蜂の巣だけではなかったようで思わず職員が驚いて悲鳴を上げてしまったようです」
「虫が苦手なのを隠しきれず、驚かせてしまいすみませんでした」
「苦手な物なんて誰にでもあるし全然気にしなくて大丈夫だから」

 受付の男性は悲鳴を上げてしまって恥ずかしかったのか少し萎縮している様子だった。

「確認の結果、巣の中には女王蜂を含む大量の蜂の死骸と蜂蜜がありました。しかし残念ながら状態が悪いため減額された追加報酬となります」

 リオが考えなしに押し潰してしまったため上司の人に減額された追加報酬となる有無を言われた。蜂の巣を持っていても仕方ないのでそのままギルドに納品することにした。



 女王蜂討伐と追加報酬を含めた金額は金貨十五枚であった。ランク差があるのでユリア八枚、リオ七枚で分けた。
 更に今回の依頼達成によってFランク冒険者だった俺は一気にDランクまで上がったけれどユリアはBランクのままだ。

 俺が思うにユリアはAランク以上でもおかしくはない。そんな彼女にふと疑問を抱いた。

「一つ聞いてもいいか。いつから冒険者になったんだ?」
「そうね…確か私がエルフの村を出たのが……」




 ***



 私ユリアはエルフと人間の両親の間に生まれたハーフエルフだ。エルフはだいたい平均で三百歳ほど生きる。つまり人間より長い寿命なのだがユリアはハーフなため、長く生きている村の長老には「わしが見るに百五十歳前後までの寿命であろう」と言われた。

 私の生まれたエルフの村は外界との接触がほとんどない。しかしユリアは昔世界を旅していた両親二人から村の外の話を小さい頃からよく聞いていたため、外の世界を自分の目で見たいという強い憧れを持っていた。


 十歳の時、「不用意に入っては行けない」と大人達から言い聞かされていた村にある洞窟に初めて入った。その場所の奥には綺麗にはされているけれど古びている祠があり、神聖な光で照らされ暖かく包み込んでくれる優しい空気に満ち溢れていた。
 ユリアはそこで他の子達と同じようにギフトを授かったのを覚えている。

 エルフの村では自分が授かったギフトを家族や信頼出来る人以外には教えないようにと推奨されていた。それは長老が「ギフトは己が危機に瀕した際の切り札になるやもしれん。ならば言いふらすより隠し持っておく方が良かろう」と言っていたためだった。



 ギフトを授かってからというもの、ユリアの小さい頃からの憧れである外の世界へ出たいという思いが日に日に強くなっていった。
 しかし両親を含む村の大人達はあまりいい顔をせず、何より長老の許可が出なかった。だからと言って簡単に諦める私ではなく、自分の中にある憧れに対しての熱い気持ちを精一杯両親二人に伝えた。

「お父さん、お母さん。私どうしても外へ行ってみたいの」
「ユリア、外の世界に行きたい…って気持ちは私にも分かるわ。でもね、まだその時ではないのよ」

 母がこう言うと父も「そうだぞユリア。母さんの言うことは正しいから聞いておきなさい」と同じように今はダメだと反対された。
 普段の母はユリアが自分で決めてする事には何一つ口を出さずに優しく見守っていてくれた。勿論間違ったことをすれば怒られたものだが…

 そのため今回の母の反対は私にとって想定していないことだった。



 ユリアの母はギフトを一つしか持っていなかったけれど『運命の導き』というとても希少なものであった。

 このギフトによって母は自分や自分の目に映る相手だけでなく、周りで起こる大抵の事は分かるようだった。ただ代償もあるのか母は体が弱くよく寝込んでいることが多かった。
 その母に「その時ではない」と言われれば私には今はその時期が来るのを待つしかなかった。



 月日が経って私は三十八歳になったけれど私の中の憧れ思いが消えることはなかった。そして遂にその時が来たのだろう、ユリアの念願はやっと叶い長老と両親から「村の外に出て旅をしてもいい」との許可がおりた。

「やったぁぁぁ!!やっと外に出られるのねっ」

 嬉しすぎるあまりユリアは自分の感情が抑えきれず周りに響くほどの大きい声が出てしまった。長老からは「これこれユリアよ。嬉しいのは分かるがの、一旦落ち着くのじゃ。まだ言うことは終わっとらんぞい」と苦笑された。

 ユリアが落ち着くと長老から村を出てから気をつけることを幾つか伝えられた。


 一つ、人間とエルフでは歳の数え方が違ってハーフエルフで四十歳になった時、人間では二十歳であると。

 二つ、この生まれ育ったエルフの村の場所は信頼出来る者以外には絶対に教えてはいけないこと。

 三つ、ハーフエルフは普通のエルフとは違い見た目も殆ど人間に近いため自分の種族を正直に言わなくても良い。必要に応じて人間と偽っても構わないと。



 ユリアが村の外の世界へと旅立つ日は村人総出で私の新たな門出を祝って送り出してくれた。長老や両親からは村を出発する前に旅に必要な物などを渡された。
 その中には世界地図、アイテムボックスには劣るものの収納魔法が付与されて多少の物を入れることが可能なポシェットもあった。

「細かいことは言わないわ。ただこれだけは忘れないで。私は貴方の幸せをいつでも祈ってるってことを」
「まずは世界を自由に旅してみればよいかのぉ…その途中で冒険者になってみるのも良いかもしれんの。何はともあれ気をつけて旅をするのじゃぞ」

 母は口煩くは何も言ってこないでユリアを優しい眼差しで見つめながら微笑んでいた。長老は村の若者の自分の強い思いで旅立って行くのが喜ばしいのか「ほっほっほ…」と最後まで笑みを浮かべていた。
 父は「もしも冒険者になったら冒険者の始まりの地と云われているアース王国を目指すといい」とユリアに言ってくれた。ただ笑顔ではありつつも一人娘が旅立って行ってしまうのが悲しいのか、その表情は悲痛げだった。



 村を旅立ったユリアは「まず始めに行くといい」と教えられた近くの街へと行った。そこからは色んな国を旅した。途中、ユリアが滞在していた国で長老に言われた通り冒険者になった。
 しかし冒険者にはなったものの、まだまだ旅を楽しみたい気持ちが強かったので依頼は全然受けなかった。

 依頼を受けなかったため私のランクは全く上がらなかった。そんな日々を二年ほど送ってやっとアース王国へとたどり着いた。
 アース王国に来た当初はEランクだったのだけれど、せっかく冒険者になったというのもありランクを上げるため依頼をこなした。

 冒険者になってからだいぶ期間が経っていたのにまだEランクだったこともあって一部の冒険者から馬鹿にされ見下された。
 こんなことで心が折れる私ではなく逆に火がついて一層ランクを上げるために依頼をこなしていった。

 その甲斐あって気づいた時にはBランクになっていた。



 ***



「……それから一週間ぐらい経ったかな…?ギルドで貴方を見つけたのよ」
「そうだったのか。良いな世界を自由に旅して回るのって」
「何言ってるのよ、私達パーティーなんだしこれから色んな国を冒険者をしながら行けばいいでしょ!」
「確かにそうだな。それは面白そうだし楽しい旅になりそうだ」

 ユリアの過去を聞くことが出来て実にいい時間だったけれど、「今日はもう解散して明日また依頼を受けましょ」となって彼女とは別れた。

 ただユリアの人間での年齢はリオよりも二つ上の二十歳であることには正直驚いた。
 彼女は大人びて見えていたためもっと歳上かと思っていたことは言わない方が自分の為だろうな…
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