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襲撃

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 ガタンッと馬車に何かぶつかる音がし、二人は身をすくめる。
「何!?」
「姫さま、じっとしてください」
 ケイシーはモニカの手を握り、真剣な顔をして耳を澄ます。
 今まで何事もなく順調に走っていた馬車の外からは、何やら争うような物音が聞こえていた。
 国で騎士たちが練習の時にたてていた音――剣戟が聞こえ、彼らが何者かと争っている声も聞こえる。
「ケイシー……何かしら? 怖いわ」
「姫さまはそのままで」
 ケイシーはそっとカーテンを開き、外の様子を窺った。
「……っ!」
 息を呑んだケイシーが見た先では、警護の騎士たちが何者かと戦っていた。先ほどの音は、馬車のすぐ側を併走していた騎士の剣が当たった音だろう。
「ケイシー? 私にも……」
「いいえ、そのままで」
 ケイシーが何が起こったのか伝えられる者を探していた時、ドンッと馬車に衝撃が走った。
「きゃあっ!」
 モニカが悲鳴をあげ、ケイシーも悲鳴をあげかけた。
「どうしましょう。前の馬車には、叔父さまたちが乗ってらっしゃるわ」
「騎士たちを……。信じましょう」
 それでもモニカは興味を抑えられず、ついカーテンから外を覗いてしまった。
 モニカが目にしたのは――黒ずくめの刺客たち。
 王国の騎士たちと渡り合える彼らは、相当の手練れなのだろう。
 モニカは馬車のドアに隠されてある短剣に、チラッと視線を走らせた。基本的に馬車に乗る要人は護衛が守るが、要人の最後の護身手段である短剣が用意されてある。
(あれを使うのは、最後の手段にしなければ……)
 強ばった顔をして身を固くするモニカを見て、ケイシーも表情を険しくさせる。
 カーテンを閉めたケイシーを見て、モニカはグッと歯を食いしばった。
(これから隣国までの、そう長くはない道のり。すぐに着いて、クライヴが迎えてくれると思っていたのに……)
 そう思うと、現状こそ現実味がなく実感がない。
 けれど、外で聞こえる重たい物音も、騎士たちの吠えるような声も本物だ。そして細かく震えている自分の手も、本当の感覚だ。
 冷や汗が湧き出て、指の先から氷のように手が冷たくなっている。
「どうなるの……」
 後続の荷馬車には、お気に入りの仕上がりになったウエディングドレスだってある。母や妹と騒ぎながら決めた宝石も、ありとあらゆる小物も。
 クライヴと挙げる結婚式のために、すべて大事に選んだのに――。
「いや……。死にたくない……」
 眉根を寄せて胸の前で手を組み、小さく呟いた時だった――。
 ドォンッ! と馬車に衝撃が加わり、二人は左側の壁に叩きつけられた。
「きゃあっ!」
「姫さま!」
 馬の激しい嘶きが聞こえ、どうやら馬車そのものが襲われているらしい。
 いま通っている場所は、ヴィンセントの王都に向かう山道のはず。当たり前に斜面があり、道から外れてしまえば大事だ。
 そう思って二人が顔面を蒼白にしていた時――。
 フワッと浮遊感があったかと思うと、二人は凄まじい衝撃を感じていた。
「きゃあああああっ!!」
「いやぁああぁっ!」
 モニカとケイシーの悲鳴の上がった馬車は、崖とも言える急な斜面を転がり落ちた。華麗な装飾を破損させ、車輪が宙を舞う。
 そのあと二人の意識は黒く塗りつぶされた――。

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