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ラビティーシー 編

さらば、友よ

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「はぁ……、でもすっごい楽しかった! しかもホテルは皆の憧れミラマーレだし。尊さん、ありがとうございます!」

 お礼を言うと、彼は嬉しそうに微笑む。

「楽しんでくれたなら何より」

「篠宮さん、ちょいちょい朱里の事、盗撮してましたしね」

 恵にボソッと言われ、尊さんは「コンニャロ……」と生温かい顔で笑う。

 私たちが今いるサロンは、頭上に円形の飾りがあり、少しへこんだそこには十二星座の絵が描かれ、真ん中には地球を中心として太陽や他の惑星が回っている図がある。

 ホテル全体が中世イタリアをイメージしているので、多分天動説の頃を表しているのだと思う。

 室内には他にも大航海時代を思わせる飾りや絵画があり、誰なのか分からないけれど肖像画もあった。

 ステンドグラスを用いた縦長の窓の外には、ポルト・ヴィータやプロメテウス火山が見え、ライトアップされたシーの施設が見えて幻想的だ。

「……尊さん、あとでチェキ代もらいますからね」

 地下アイドルのふりをして言うと、恵が笑った。

「ヤバイ。篠宮さんが限界ドルオタに見えてきた」

「おい……」

 ガクッと項垂れた彼を見て笑ったあと、今後の恵と涼さんの進展に期待した私は、スックと立ちあがった。

「そろそろ部屋に行きましょうか。お風呂に入ってのんびりして、部屋から夜のシーを見るのもオツなものですし」

「だな。明日の朝食はルームサービスを手配してるから、部屋でゆっくり過ごしてほしい」

 私たちが立ちあがると、それまで笑って尊さんをいじっていた恵が焦りだした。

「ま、まだいいんじゃない? 今日の余韻に浸ってゆっくり……」

「部屋でくつろいで浸ろうよ。女子会は、また改めてカフェでも行こう?」

 そう言うと、恵はオロオロしつつ私の袖を引っ張る。

 なんじゃこりゃ、可愛い生き物!

「恵ちゃん、何もとって食いやしないよ」

 涼さんはクスクス笑って言い、「こっちおいで」と優しく恵の腕をとって引き寄せる。

 その時の恵の顔が、絶望といってもいい表情だったので、さすがにちょっと可哀想になる。

 ……でも世の中、思い切ってやってみないと分からない事は沢山ある。頑張れ!

 私は心の中で恵にエールを送り、「行きましょうか」と尊さんの手を握った。

 さあ、涼さん! 私に続いて! リピート・アフター・ミー!

 歩き始めたあと、チラッと後ろを見ると、涼さんはスルッと恵の手を握っていた。

 恵は靴下を履かされた猫みたいにギクシャクしているけれど、ヨシ!

 涼さん、私の意図を察してくれるできる男!

 そのまま私たちはサロンを出てエレベーターに向かうけれど、前日のホテル同様、吹き抜けになったロビーが素敵なのでまた写真を撮る。

 ロビーの中央にはガレオン船を模した像があり、建物全体はアール・ヌーヴォー調だ。

 全体的にクリーム色と赤銅色が基調の色で、ホールの天井はドーム状になっており、半円窓の上にはアーチ状にあった絵画があって女神や船を従えた男性、楽器を持った詩人っぽい人などが描かれている。

 尊さんはスイートを予約してくれて、片方だけ豪華な部屋だとなんだから……という事で、二組とも同じクラスのスイートに泊まれるよう取り計らってくれた。

 でも同じフロアにはないので、恵とは明日までお別れだ。

「さらば、友よ」

 私はエレベーターの前で恵に別れを告げ、涼さんにペコリと頭を下げる。

「恵を宜しくお願いします。くれぐれも、初心者コースで」

「ちょっと、朱里!」

 焦った恵が私の口を塞ごうとするけれど、サッとかわす。ふふふ。

「心配しなくても初対面でがっついたりしないよ。嫌われるの怖いから。こう見えて小心者なんだ」

 涼さんは嘘か本当か分からない事を言い、クスクス笑う。

 これだけ大人の余裕がある人なら、本当に恵を大切にしてくれそうで安心だ。

「おやすみ、恵。多分思っているよりずっと安全だと思うから、涼さんを信じなよ」

 そう言うと、彼女は肩を落としてヒラヒラと手を振った。

 もう言い返す元気もないらしい。ドンマイ。

 やがて二人は三階のまま、私と尊さんは四階に向かった。

「お邪魔しまーす」

 部屋のドアを開けて中に入ると、ふんふん、すぐ横手のドアはクローゼット。

 その隣には全身鏡があり、さらに横手には洗面所とお手洗い。どちらも温かみのあるクリーム色の壁で、地中海みがある。

 床は青緑にダマスク柄の絨毯で、右手にある部屋に入ると朱色のソファにゴールドのクッション、チョコレート色の木製のテーブルがあった。

 ソファの後ろには羊皮紙に描かれた世界地図を思わせる絵が金縁の額に納められていて、部屋全体の壁は白。
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