上 下
408 / 454
親友の恋 編

メッセージプレート

しおりを挟む
 フレンチのお店らしく、盛り付けはとても綺麗で私と恵ははしゃいで写真を撮った。

 恵に至っては、はしゃぐ事でお照れを忘れようとしているらしく、いつになくハイテンションだ。

 しかし、私は彼女の左手の薬指に嵌まっている指輪を見逃さなかった。あとで尋問ですな。

 前菜は真鯛とアスパラを使ったカルパッチョ風のサラダから始まり、次の一皿は新鮮で大きな帆立を海鮮のお出汁のスープと、それで作ったエスプーマ(泡)とキャヴィアをのせたもの。

 スープは香りのいいキノコを使ったコンソメスープ、魚料理は平目は皮目をパリッと、身はふっくらジューシーにソテーしたもの、メインは仔羊のローストに筍や緑鮮やかな豆類を添えたものが出され、写真に収めつつ、料理を平らげていく。

 デザートは旬の夏みかんとジュレ、バニラアイスの盛り合わせだ。

 なんと、デザートにはチョコレートソースでメッセージが書かれてあった。しかも私のにも、恵のにもだ。

 私のプレートには『Happy 5 month anniversary』と書いてあり、付き合って五か月記念を祝ってくれている。

 そして恵のプレートには……『Will you go out with me?』と書かれてある。

(『僕と付き合ってくれますか?』キター!!)

 それを見た私は、自分のプレートのメッセージより興奮してしまい、無言でブンブンと手を振って恵の顔を見る。

 意味を理解した恵は、顔を真っ赤にしてプレートを睨んでいる。

 彼女が返答に窮している間、尊さんがニコッと笑って私に言った。

「朱里、五か月付き合ってくれてありがとう。これからも宜しくな」

「はい!」

 元気よく返事をした私は、グリンッと恵のほうを見てキラキラと目を輝かせる。

「……そんな目ぇしても、何も出ないから」

 恵は私の額に掌を押しつけ、グイッと押す。

「ありゃー」

 私はそう言って一旦引き下がるものの、ニヤニヤがノンストップだ。

「恵は涼さんと親睦を深めたの?」

 ズバッと尋ねると、俯いて指輪を気にしていた彼女は、バッと手を隠そうとして――、テーブルの裏に手をぶつけて「いてっ」と声を上げた。

「だ、大丈夫? ごめん……」

 私は申し訳なくなって恵の肩をさする。

「大丈夫……」

 恵は返事をしたあと、チラッと涼さんを見てモゴモゴと何か言おうとする。

 ――と、恵の代わりに涼さんが言った。

「俺、恵ちゃんと付き合いたいと思ってる」

 スパンッと言われ、恵はこれ以上ないぐらい目をまん丸に見開いた。

 私は声なき声で「キャーッ!!」と叫び、シパパパパパと小さく拍手する。

 恵は真っ赤な顔で泣きそうになり、今にも席を立とうとしていたけれど、グッと堪えた。偉い!

「……わ、私は……」

 恵は何か言おうとし、俯く。

 そんな彼女に涼さんは優しく声を掛けた。

「こういう事、慣れてないよね。困らせてごめん。でも初めてのデートが夢の国なら、ロマンチックな事をしておかないと損じゃないか」

 というか、ランドに来て顔を合わせて話すまでは、涼さんは恵と付き合いたいなんて思っていなかったはずだ。

 恵が嵌めてる指輪もメッセージプレートも、行動が速い。

 ……というか、尊さんも一枚噛んでるのかな。だったら納得だけど。

 そして尊さんが言っていた事が本当なら、涼さんがここまで女性に構うのは初めてという事になる。それを不発に終わらせたら可哀想だ。

「……ねぇ、恵。恥ずかしいの分かるけど、夢の国の恥は掻き捨てしちゃおうよ。カチューシャだって被ったじゃん」

 恵は物言いたげな目で私を見てから、溜め息をついて言った。

「……私、分からない事だらけなんだ。初対面の相手に付き合ってって言われてびっくりしてるし、『よりどりみどりな人がなんで私を?』って思うし、戸惑ってばっかり」

 彼女の気持ちが分かる私は、うんうんと頷きつつ恵の二の腕をさする。

「私と尊さんの始まりも割と突然だったよ。酔っていたとはいえ、結構押し流されちゃったところはあるし。……でも、付き合ってみないと分からない事って沢山あると思う」

 私の言葉を聞いて、恵はコクンと頷く。

 その時、尊さんが言った。

「涼を胡散臭く思う気持ちは分かる。初対面で付き合おうって言われるなんて、ホラーだよな。……でも中村さんは俺の事をある程度信頼してくれていると思う。その俺が言う。涼はいい奴だし、これと決めたら裏切らないよ」

 私たちの励ましを聞いたあと、恵はおずおずと涼さんを見た。
しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

処理中です...