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墓参り 編
百合
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「ふぅん……」
私はチラチラと尊さんを見て、自分的萌えポイントを確認する。
「確かにえっちなお兄さんですよね。なんか尊さんって存在そのものがやらしいもん。目つきとか色っぽいし」
普通に会話をしている時も、『な?』とこちらを見る表情が堪らなくて、キャーキャー悶えたくなるけど、不審者になるので毎度我慢している。
その分、盛大にニヤつきたくなる表情筋との熾烈な戦いになり、最終的に尊さんには『なにニヤついてるんだよ』と笑われてしまうけれど。
イケメンってニヤつかれる運命にあるんだ……。
そんな事を考えていると、尊さんに頭をチョンとチョップされた。
「朱里だってエッチなお姉さんだろうが。一緒に歩いてる時、その辺の男が意味ありげな目で見てるの、俺は見逃してないからな」
「ええ……?」
それは初耳で、私は目を丸くする。
尊さんは溜め息をつき、私の手を握ってくる。
「二十代、三十代の社会人からおじさん世代、はたまた十代の少年まで、お前とすれ違うと『色っぽい女』『綺麗なお姉さん』って目で見てくるんだよ。……朱里を連れて歩いていて、ある意味気持ちよくはあるけど、ある意味ムカつくな」
「むふふーん、嫉妬? 嫉妬ですか?」
ツンツンと彼の腕をつつくと、尊さんは舌打ちする。
「喜ぶな」
「でもイケメン尊さんがドヤ顔して『俺の女に手を出すな!』ってオーラを出してくれるんでしょう?」
「誰がドヤ顔だ。俺だって先日のバーでの見事なドヤ顔、忘れてないからな」
立ち止まった尊さんは、私のほっぺをムニュムニュと弄る。
「うう……」
先日のバーでの事というのは、涼さんと話した時だ。
スッキリしていざダーリンを迎えに……と思ったら、尊さんはカウンターで女性に挟まれていた。
オセロならひっくり返っていたところだ。いや、ミト子になっても困る。
せっかくいい気分になって尊さんへの愛を確認したいのに! となった私は、ツカツカとカウンターに近寄り、『お待たせ~』と彼をバックハグしたのだ。
両側にいた女性が『なにこの女』という顔をしたのは言わずもがな、私は負けずにニッコリ笑って言い放った。
『放置プレイが終わったので、迎えに来たんです。お相手どうも。彼、こう見えて孤独を愛するタイプですから、お姉さん達がいなくてもお酒を楽しめますよ』
そう言ったあと、物凄く何か言いたそうな尊さんの腕を組んで、涼さんがいる席まで戻った次第だ。
涼さんは放置プレイにツボったらしく、噎せるまで笑っていた。
「……あの女性たちに未練がある訳じゃないけど、凄い誤解を与えたように思えるんだけど」
「ざっくりと『この人は私の男だからね!』っていうのが伝わったんだから、よしとしましょうよ」
「……しかしな……。放置プレイ……」
再び歩き出した尊さんはブツブツ言い、不服そうだ。
「それとも『あーらごめんなさい! ここ座りたかったの!』って、お尻をぶつけて隣の席を強奪すれば良かったですか?」
そう言うと、尊さんはプハッと噴き出して空を仰いで笑う。
「不思議とその光景がイメージできる。ホント、朱里は面白くて可愛い女だよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「極上またたび、やろうか?」
「洗濯してない尊さんのTシャツを嗅いで、ガンギマリしたいです」
「ええ……」
本音でぶっちゃけると、尊さんはドン引きした顔をする。
「だって尊さん、いい匂いするんだもん」
「じゃあ俺にも朱里の匂いがついた何かをくれよ」
「変態」
「変態返ししただけだよ。変態を見ている時、変態もまた自分を見ているもんなんだ」
「ミコチェ!」
私たちは軽口を叩いて笑い、荷物を持っていない手を繋いで霊園内を進む。
やがて私たちは、速水家の名前が刻まれたお墓の前で立ち止まる。
「先に誰か来てたんだな。綺麗に掃除されてある」
尊さんが言う通り、お墓には雑草一本生えず、新しいお花が供えられていた。
「……百合、母さんの好きな花なんだよ」
彼は哀愁の籠もった笑みを浮かべ、「さて」と言ってバケツに汲んだ水を柄杓ですくい、そっと石碑に掛けていく。
私はペコリと頭を下げて中に入り、雑巾でお墓を拭き始めた。
尊さんも反対側や墓誌、灯籠や花立、水鉢、小さなお地蔵さまを拭き、最後にお花をちょっと無理矢理入れて線香を用意する。
尊さんは溜め息をついたあと、墓誌に刻まれているさゆりさんとあかりちゃんの名前を見て、しゃがんで手を合わせる。
母と妹の死を悼む姿を、私は後ろからそっと見守っていた。
私はチラチラと尊さんを見て、自分的萌えポイントを確認する。
「確かにえっちなお兄さんですよね。なんか尊さんって存在そのものがやらしいもん。目つきとか色っぽいし」
普通に会話をしている時も、『な?』とこちらを見る表情が堪らなくて、キャーキャー悶えたくなるけど、不審者になるので毎度我慢している。
その分、盛大にニヤつきたくなる表情筋との熾烈な戦いになり、最終的に尊さんには『なにニヤついてるんだよ』と笑われてしまうけれど。
イケメンってニヤつかれる運命にあるんだ……。
そんな事を考えていると、尊さんに頭をチョンとチョップされた。
「朱里だってエッチなお姉さんだろうが。一緒に歩いてる時、その辺の男が意味ありげな目で見てるの、俺は見逃してないからな」
「ええ……?」
それは初耳で、私は目を丸くする。
尊さんは溜め息をつき、私の手を握ってくる。
「二十代、三十代の社会人からおじさん世代、はたまた十代の少年まで、お前とすれ違うと『色っぽい女』『綺麗なお姉さん』って目で見てくるんだよ。……朱里を連れて歩いていて、ある意味気持ちよくはあるけど、ある意味ムカつくな」
「むふふーん、嫉妬? 嫉妬ですか?」
ツンツンと彼の腕をつつくと、尊さんは舌打ちする。
「喜ぶな」
「でもイケメン尊さんがドヤ顔して『俺の女に手を出すな!』ってオーラを出してくれるんでしょう?」
「誰がドヤ顔だ。俺だって先日のバーでの見事なドヤ顔、忘れてないからな」
立ち止まった尊さんは、私のほっぺをムニュムニュと弄る。
「うう……」
先日のバーでの事というのは、涼さんと話した時だ。
スッキリしていざダーリンを迎えに……と思ったら、尊さんはカウンターで女性に挟まれていた。
オセロならひっくり返っていたところだ。いや、ミト子になっても困る。
せっかくいい気分になって尊さんへの愛を確認したいのに! となった私は、ツカツカとカウンターに近寄り、『お待たせ~』と彼をバックハグしたのだ。
両側にいた女性が『なにこの女』という顔をしたのは言わずもがな、私は負けずにニッコリ笑って言い放った。
『放置プレイが終わったので、迎えに来たんです。お相手どうも。彼、こう見えて孤独を愛するタイプですから、お姉さん達がいなくてもお酒を楽しめますよ』
そう言ったあと、物凄く何か言いたそうな尊さんの腕を組んで、涼さんがいる席まで戻った次第だ。
涼さんは放置プレイにツボったらしく、噎せるまで笑っていた。
「……あの女性たちに未練がある訳じゃないけど、凄い誤解を与えたように思えるんだけど」
「ざっくりと『この人は私の男だからね!』っていうのが伝わったんだから、よしとしましょうよ」
「……しかしな……。放置プレイ……」
再び歩き出した尊さんはブツブツ言い、不服そうだ。
「それとも『あーらごめんなさい! ここ座りたかったの!』って、お尻をぶつけて隣の席を強奪すれば良かったですか?」
そう言うと、尊さんはプハッと噴き出して空を仰いで笑う。
「不思議とその光景がイメージできる。ホント、朱里は面白くて可愛い女だよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「極上またたび、やろうか?」
「洗濯してない尊さんのTシャツを嗅いで、ガンギマリしたいです」
「ええ……」
本音でぶっちゃけると、尊さんはドン引きした顔をする。
「だって尊さん、いい匂いするんだもん」
「じゃあ俺にも朱里の匂いがついた何かをくれよ」
「変態」
「変態返ししただけだよ。変態を見ている時、変態もまた自分を見ているもんなんだ」
「ミコチェ!」
私たちは軽口を叩いて笑い、荷物を持っていない手を繋いで霊園内を進む。
やがて私たちは、速水家の名前が刻まれたお墓の前で立ち止まる。
「先に誰か来てたんだな。綺麗に掃除されてある」
尊さんが言う通り、お墓には雑草一本生えず、新しいお花が供えられていた。
「……百合、母さんの好きな花なんだよ」
彼は哀愁の籠もった笑みを浮かべ、「さて」と言ってバケツに汲んだ水を柄杓ですくい、そっと石碑に掛けていく。
私はペコリと頭を下げて中に入り、雑巾でお墓を拭き始めた。
尊さんも反対側や墓誌、灯籠や花立、水鉢、小さなお地蔵さまを拭き、最後にお花をちょっと無理矢理入れて線香を用意する。
尊さんは溜め息をついたあと、墓誌に刻まれているさゆりさんとあかりちゃんの名前を見て、しゃがんで手を合わせる。
母と妹の死を悼む姿を、私は後ろからそっと見守っていた。
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