315 / 416
墓参り 編
絶対に彼を幸せにします
しおりを挟む
やがて尊さんは立ち上がり、私はお墓の前でしゃがんで手を合わせる。
私は少しの間石碑を見つめたあと、目を閉じて心の中でさゆりさんとあかりちゃんに語りかけた。
(はじめまして、上村朱里と申します。尊さんと結婚させていただきたいと思っております。彼とは十二年前にご縁があって再会しましたが、あかりさんの事も含めて運命を感じています。でもそれだけじゃありません。傷付いた彼を癒して幸せにしたいと思いますし、私自身、尊さんに強く惹かれて一緒にいたいと思っています。私たちには運命的な関係にあると思いますが、それ以上に彼を一人の男性として尊敬し、愛しています。私、尊さんと一緒にいると、とても自然体になれるんです。こんな人はもう現れないと思います。だから、絶対に彼を幸せにします。だからどうか私たちの結婚をお許しください。見守っていてください)
終わったあと、私は顔を上げて微笑む。
そのとき風が吹いて、ザァッと周囲の木々を揺らした。
一際強い風はただの春一番かもしれないけれど、私には二人が応えてくれたように感じられた。
立ちあがって振り向くと、尊さんは時間を確かめていた。
「時間、大丈夫ですか?」
小牧さんと弥生さんとは、東京ミッドタウンのレストランで待ち合わせし、一緒にランチをする予定だ。
十二時半の予約なので、まだ間に合うと思うけど……。
「ん、大丈夫。ゆっくり歩いていけるぐらい余裕がある」
応えたあと、尊さんは微笑んで掃除道具を片づけ始めた。
「そろそろ行くか」
「……はい」
私たちは最後にもう一度お墓に手を合わせ、ゆっくり歩き始める。
「……尊さん、なんてお参りしたんですか?」
訪ねると、彼はいたずらっぽく笑う。
「『食いしん坊と結婚するから、充分食わせていけるよう見守ってください』って」
「なにそれー! ブーブーですよ、ブーブー」
親指を下に向けて不満を訴えると、尊さんはケラケラ笑う。
それから私の手を握ってグッと引き寄せ、耳元で囁いた。
「『世界で一番大切な女と結婚するから、幸せになる。安心して』って言ったんだよ」
「…………っ」
彼の言葉を効いた瞬間、私はポッと赤面する。
尊さんはそんな私の顔を見て微笑むと、明るく言った。
「トリュフが待ってるぞ」
「はいっ」
ランチは小牧さんたちの希望で、フレンチを食べる事になっている。
「楽しみだな……」
呟くと、聞き漏らさなかった尊さんはクスクス笑った。
**
ビル一階にあるフレンチレストランは、テラス席がとても広い。
大きな窓の向こうには緑が見え、もう少ししたら一面の桜が見え、専門のコースもできるとか。
まだ肌寒い日もあるので、私たちは中の個室で食事をする事になっていた。
お二人はまだ来ていないようで、座って待っていたら予約時間を少し過ぎて小牧さんと弥生さんが現れた。
「やーん、遅れてごめんね。変なのに捕まってて」
小牧さんは両手をあわせて謝り、ピンときた私は尋ねる。
「ナンパですか?」
その言葉を聞き、美人姉妹は顔を見合わせる。
「……そうなの?」
「……なのかもね? しらなーい」
お店で会った時は小牧さんは和服だったけれど、今日は大人っぽい黒のシースルーワンピを着ていた。
弥生さんは黒い襟がついた、スモーキーブルーのプリーツワンピースだ。
飲み物のメニューを渡され、二人は迷いなくシャンパンをオーダーする。
尊さんも「軽く一杯入れとく」とスパークリングワインを頼み、私はとても迷った挙げ句、大人しくクランベリージュースにしておいた。
「ラスボスを前に、どんなお気持ちですか?」
小牧さんが丸めたおしぼりを持って、尊さんにインタビューしてくる。
「……あのなぁ……」
彼は呆れた表情をして水を飲み、大きな溜め息をついてから言った。
私は少しの間石碑を見つめたあと、目を閉じて心の中でさゆりさんとあかりちゃんに語りかけた。
(はじめまして、上村朱里と申します。尊さんと結婚させていただきたいと思っております。彼とは十二年前にご縁があって再会しましたが、あかりさんの事も含めて運命を感じています。でもそれだけじゃありません。傷付いた彼を癒して幸せにしたいと思いますし、私自身、尊さんに強く惹かれて一緒にいたいと思っています。私たちには運命的な関係にあると思いますが、それ以上に彼を一人の男性として尊敬し、愛しています。私、尊さんと一緒にいると、とても自然体になれるんです。こんな人はもう現れないと思います。だから、絶対に彼を幸せにします。だからどうか私たちの結婚をお許しください。見守っていてください)
終わったあと、私は顔を上げて微笑む。
そのとき風が吹いて、ザァッと周囲の木々を揺らした。
一際強い風はただの春一番かもしれないけれど、私には二人が応えてくれたように感じられた。
立ちあがって振り向くと、尊さんは時間を確かめていた。
「時間、大丈夫ですか?」
小牧さんと弥生さんとは、東京ミッドタウンのレストランで待ち合わせし、一緒にランチをする予定だ。
十二時半の予約なので、まだ間に合うと思うけど……。
「ん、大丈夫。ゆっくり歩いていけるぐらい余裕がある」
応えたあと、尊さんは微笑んで掃除道具を片づけ始めた。
「そろそろ行くか」
「……はい」
私たちは最後にもう一度お墓に手を合わせ、ゆっくり歩き始める。
「……尊さん、なんてお参りしたんですか?」
訪ねると、彼はいたずらっぽく笑う。
「『食いしん坊と結婚するから、充分食わせていけるよう見守ってください』って」
「なにそれー! ブーブーですよ、ブーブー」
親指を下に向けて不満を訴えると、尊さんはケラケラ笑う。
それから私の手を握ってグッと引き寄せ、耳元で囁いた。
「『世界で一番大切な女と結婚するから、幸せになる。安心して』って言ったんだよ」
「…………っ」
彼の言葉を効いた瞬間、私はポッと赤面する。
尊さんはそんな私の顔を見て微笑むと、明るく言った。
「トリュフが待ってるぞ」
「はいっ」
ランチは小牧さんたちの希望で、フレンチを食べる事になっている。
「楽しみだな……」
呟くと、聞き漏らさなかった尊さんはクスクス笑った。
**
ビル一階にあるフレンチレストランは、テラス席がとても広い。
大きな窓の向こうには緑が見え、もう少ししたら一面の桜が見え、専門のコースもできるとか。
まだ肌寒い日もあるので、私たちは中の個室で食事をする事になっていた。
お二人はまだ来ていないようで、座って待っていたら予約時間を少し過ぎて小牧さんと弥生さんが現れた。
「やーん、遅れてごめんね。変なのに捕まってて」
小牧さんは両手をあわせて謝り、ピンときた私は尋ねる。
「ナンパですか?」
その言葉を聞き、美人姉妹は顔を見合わせる。
「……そうなの?」
「……なのかもね? しらなーい」
お店で会った時は小牧さんは和服だったけれど、今日は大人っぽい黒のシースルーワンピを着ていた。
弥生さんは黒い襟がついた、スモーキーブルーのプリーツワンピースだ。
飲み物のメニューを渡され、二人は迷いなくシャンパンをオーダーする。
尊さんも「軽く一杯入れとく」とスパークリングワインを頼み、私はとても迷った挙げ句、大人しくクランベリージュースにしておいた。
「ラスボスを前に、どんなお気持ちですか?」
小牧さんが丸めたおしぼりを持って、尊さんにインタビューしてくる。
「……あのなぁ……」
彼は呆れた表情をして水を飲み、大きな溜め息をついてから言った。
101
お気に入りに追加
816
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる