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墓参り 編
春のお彼岸
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それから水曜日の春分の日までは、あっという間だった。
「だ、大丈夫かな……」
「知らんよ。俺も不安だ」
私たちは午前中に青山霊園に向かい、さゆりさんとあかりちゃんに手を合わせる事にした。
速水家の人たちもお墓参りに来るけど、バラバラにお参りしたあと、小牧さんたち発案で「お祖母ちゃんの家でお茶しよう」という事で、お菓子を持ち寄って集まる予定だ。
その時に、私たちは小牧さん、弥生さんと一緒に速水家に上がり込む事になっている。……こ、怖い。
とりあえず失礼がないように、私はベージュのプリーツワンピースを着て、まとめ髪にしてナチュラルメイクをした。
尊さんはストライプシャツに黒いテーパードパンツ、紺のジャケットだ。
予約していたお花屋さんで仏花を買った私たちは、ひとまず霊園に向かう事にした。
緑豊かな敷地内を歩いていると、まるで公園にいるようだけれど立派な墓地だ。
でもすぐ近くに六本木ヒルズなど高いビルが見えるし、本当に都会の真ん中にある感が強い。
三月下旬になって暖かくなってきているからか、敷地内にある桜の木は色づき、もうそろそろ開花しそうだ。
「このへんに来ると、泥酔事件を思い出しますね」
「事件にするなよ……。なんかサスペンスみが出てくる」
尊さんは私に介抱された事を思いだし、しょんもりする。
「泥酔して潰れていた所に、白いチョークで人型が……」
「殺すな!」
尊さんに突っ込まれ、私はケラケラと笑う。
「あの時は『面倒な事になったらいやだから、認識されなくていいや』って思ってましたけど、今なら謹んでお礼されてもいいですよ?」
「んー? 何が目当てだ?」
彼はクスクス笑って私の顔を覗き込む。
「京都旅行」
「ん?」
物かと思ったら旅行と言われ、尊さんは軽く瞠目する。
「母の旧姓が隠岐と言って、実家が京都にあるんです。祖父母に会ってもらいたいな、って。あと単純に観光したいです」
「それはぜひ。……てか、すぐに桜の時期だな。今からホテルとるのは厳しいか……」
尊さんは難しい顔をして、何やら考え込む。
「すぐじゃなくていいんです。そのうち……で。結婚するのは来年の下半期ですし、それまでに会えたらOK」
「分かった。じゃあちゃんと予定を立てて行こう。どうせなら俺もいい時期に行きたいし」
「はい」
話をしながら、私たちはゆっくり霊園内を進んでいく。
と、尊さんが遠慮がちに聞いてきた。
「……父方は?」
「ん、あー……。……うん。……こないだワインを買いに走ってもらったけど、山梨の甲府。父方の親戚は、父の兄弟があんまり集まるタイプじゃなくて、それほど交流してないんです」
「不仲?」
「ううん、会ったら普通に話すけど、無精なだけ」
「そっか、なら良かった」
尊さんはホッとしたように微笑む。
父方の祖父母について話そうと思ったけれど、なんだか頭の中がモヤモヤと白濁して、うまく思い出せない。
気持ちも変に焦ってしまって、尊さんに心配をかけたらいけないので、話題を変える事にした。
「桜が咲いたらお花見しましょうね」
「ん。花見しながら露天風呂もいいよな……」
尊さんは呟くように言い、私をチラッと見る。
露天風呂と聞いて定山渓での濃厚な夜を思いだした私は、ボボッと赤面して彼の腕を軽く叩く。
「えっちっち!」
「えっちだよ」
照れたのに尊さんは堂々としているので、なんだか悔しい。このオープンスケベめ。
「だ、大丈夫かな……」
「知らんよ。俺も不安だ」
私たちは午前中に青山霊園に向かい、さゆりさんとあかりちゃんに手を合わせる事にした。
速水家の人たちもお墓参りに来るけど、バラバラにお参りしたあと、小牧さんたち発案で「お祖母ちゃんの家でお茶しよう」という事で、お菓子を持ち寄って集まる予定だ。
その時に、私たちは小牧さん、弥生さんと一緒に速水家に上がり込む事になっている。……こ、怖い。
とりあえず失礼がないように、私はベージュのプリーツワンピースを着て、まとめ髪にしてナチュラルメイクをした。
尊さんはストライプシャツに黒いテーパードパンツ、紺のジャケットだ。
予約していたお花屋さんで仏花を買った私たちは、ひとまず霊園に向かう事にした。
緑豊かな敷地内を歩いていると、まるで公園にいるようだけれど立派な墓地だ。
でもすぐ近くに六本木ヒルズなど高いビルが見えるし、本当に都会の真ん中にある感が強い。
三月下旬になって暖かくなってきているからか、敷地内にある桜の木は色づき、もうそろそろ開花しそうだ。
「このへんに来ると、泥酔事件を思い出しますね」
「事件にするなよ……。なんかサスペンスみが出てくる」
尊さんは私に介抱された事を思いだし、しょんもりする。
「泥酔して潰れていた所に、白いチョークで人型が……」
「殺すな!」
尊さんに突っ込まれ、私はケラケラと笑う。
「あの時は『面倒な事になったらいやだから、認識されなくていいや』って思ってましたけど、今なら謹んでお礼されてもいいですよ?」
「んー? 何が目当てだ?」
彼はクスクス笑って私の顔を覗き込む。
「京都旅行」
「ん?」
物かと思ったら旅行と言われ、尊さんは軽く瞠目する。
「母の旧姓が隠岐と言って、実家が京都にあるんです。祖父母に会ってもらいたいな、って。あと単純に観光したいです」
「それはぜひ。……てか、すぐに桜の時期だな。今からホテルとるのは厳しいか……」
尊さんは難しい顔をして、何やら考え込む。
「すぐじゃなくていいんです。そのうち……で。結婚するのは来年の下半期ですし、それまでに会えたらOK」
「分かった。じゃあちゃんと予定を立てて行こう。どうせなら俺もいい時期に行きたいし」
「はい」
話をしながら、私たちはゆっくり霊園内を進んでいく。
と、尊さんが遠慮がちに聞いてきた。
「……父方は?」
「ん、あー……。……うん。……こないだワインを買いに走ってもらったけど、山梨の甲府。父方の親戚は、父の兄弟があんまり集まるタイプじゃなくて、それほど交流してないんです」
「不仲?」
「ううん、会ったら普通に話すけど、無精なだけ」
「そっか、なら良かった」
尊さんはホッとしたように微笑む。
父方の祖父母について話そうと思ったけれど、なんだか頭の中がモヤモヤと白濁して、うまく思い出せない。
気持ちも変に焦ってしまって、尊さんに心配をかけたらいけないので、話題を変える事にした。
「桜が咲いたらお花見しましょうね」
「ん。花見しながら露天風呂もいいよな……」
尊さんは呟くように言い、私をチラッと見る。
露天風呂と聞いて定山渓での濃厚な夜を思いだした私は、ボボッと赤面して彼の腕を軽く叩く。
「えっちっち!」
「えっちだよ」
照れたのに尊さんは堂々としているので、なんだか悔しい。このオープンスケベめ。
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