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二次会 編
何も心配する事はないと思うけどね
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涼さんはサラッと言ったあと、宮本さんの印象を語っていく。
「話していて気持ちのいい女性だった。カラッとしていて明快。仕事の時はパンツスーツ一択。私服もパンツスタイルが多かった。でも綺麗なロングヘアは大切にしていた。飾り気がなくて素直で、『裏表がなさそうだな』ってすぐ分かる魅力的な人だったと思うよ」
過去の人で彼女を語っているのは涼さんなのに、宮本さんが褒められているのを聞くと、胸になんとも言えない感情が広がる。
「ごく普通の家庭の生まれで、『大学に行かせてくれた家族の恩に報いるためにも、高給取りになるんだ』って言ってた。実際、初任給でご馳走する家族想いの子だった。尊が俺を紹介しても、『凄い色男ですね』と素直に言ったあと、異性としてまったく意識してこなかった。そういう意味では朱里ちゃんと似ていて、俺も気に入っている」
そこで私の名前が入り、ちょっと安心する。
気を遣わないと言っていたけれど、宮本さんをべた褒めするだけでなく、私の存在を忘れていない点は、ちゃんと気を遣ってくれていると思う。
「よく飲んでよく食べて、よく笑った。俺らの前で遠慮なくげっぷするし、逆に『もう少し恥じらいを持てよ』って言いたくなるぐらいだったな。……でも尊と二人になったら〝女〟の面も見せていたみたいだ。二人だけに通じる空気があったし、一緒にいるとお互い信頼しているのがよく分かった。……そういう宮本さんだったから、急に消えたって聞いて俺も驚いたよ。恩のある人に礼を言わずに去る子じゃないのは断言できる。……尊もそう思っているから、『なぜ消えたか』をずっと気にしていた」
涼さんはウィスキーを一口飲み、溜め息をつく。
「継母の仕業だという事はすぐ分かったけど、〝何を〟されたのかまでは知らない。宮本さんから話を聞けていないから、俺たちは想像するしかできないんだ。彼女は曲がった事は嫌いなタイプだから、楯突いて余程の事になったんじゃないかな」
「……尊さんは悲しみましたか?」
わかりきっている事だけれど、私はそう尋ねた。
「荒れたね。嫌がらせを受けるのが自分なら耐えられたけど、あの時だけは泣き崩れていた。傷付くまいとしてたやすく人を心に入れないようにしていたのに、スッと入られてやっぱり裏切られた。……彼女は裏切った訳じゃないと思うけど、結果的に尊は深く傷付いた。正直、見てるのがしんどいぐらいボロボロだったよ」
分かっていたつもりだけど、尊さんがいかに宮本さんを深く愛していたかを聞かされると、しんどい。
「尊は深く傷付いて食えなくなって、眠れなくなった。機械的に出社して仕事をして、淡々と生きている姿を見ると、もう生きる希望をなくしたのかと思った」
そこで涼さんは私を見て微笑んだ。
「でもすべてを無くした訳じゃない。尊には縋るべき思い出があった。生きる価値がないと思い込んでいた自分が一人の少女を救えたという成功体験は、尊に大きな自信を与えていた。尊は他の女と付き合い宮本さんを愛しながらも、ずっと朱里ちゃんを大切に思っていたよ」
また私の名前が出て、不覚にも泣いてしまいそうになる。
「つらい時だけ思い出に縋った訳じゃない。あいつは日常的に朱里ちゃんの話題を出して、遠くに住んでいる妹みたいな感じで語ってた。どこから情報を仕入れていたんだか分かんないけどね。あいつは呆れるほどの執念で、自ら蜘蛛の糸をたぐり寄せていたんだよ」
天の使いとして例えられ、私は照れくさくなって座り直す。
「纏めると、確かに尊は宮本さんをとても愛していたし、姿を消されて悲しんだ。でもどんな事があっても、あいつの心の奥底には朱里ちゃんがいた。その君と巡り会って結婚しようとしてるんだから、……俺としては何も心配する事はないと思うけどね」
そこまで言い、涼さんは私に向かってグラスを掲げ、ニヤッと笑ってみせる。
「ま、恋する乙女の気持ちは分からないでもないから、言える事はすべて言った。付け加えるけど、君が宮本さんを気にするほど過去の思い出は美化されていく。大事なのはいま生きている自分たちだよ。君は尊に気持ちを伝えられるし、抱き締めてキスできる。過去の人を気にするより、尊と過ごす時間を大切にしたほうがいいんじゃないかな」
優しく笑う涼さんの顔を見て、なんだか色んなものが吹っ切れた気がした。
私はお水を飲み、深呼吸する。
すると今まで心の中で燻っていたものが、綺麗に消えたのを感じる。
「ありがとうございます。聞いて良かったです。最初は『もっと嫉妬しちゃうかも』と思って不安だったけど、涼さんに話を聞けて本当に良かった。これで私も〝次〟にいけます」
お礼を言うと、涼さんはにっこり笑った。
「頑張って」
「さて、私の愛しい尊さんは……」
気持ちを切り替えてカウンターを見て、私は目を丸くした。
なんと先ほどの女性たちが、尊さんを挟むように座ってるじゃないか! こらぁ!
「行ってきます!」
スックと立ちあがった私に、涼さんはクスクス笑って「いってらっしゃい」と手を振りお酒を呷った。
そんな感じで涼さんとのファーストコンタクトは終わり、ランドについては恵に話したあと、後日改めて連絡をとる事にした。
**
「話していて気持ちのいい女性だった。カラッとしていて明快。仕事の時はパンツスーツ一択。私服もパンツスタイルが多かった。でも綺麗なロングヘアは大切にしていた。飾り気がなくて素直で、『裏表がなさそうだな』ってすぐ分かる魅力的な人だったと思うよ」
過去の人で彼女を語っているのは涼さんなのに、宮本さんが褒められているのを聞くと、胸になんとも言えない感情が広がる。
「ごく普通の家庭の生まれで、『大学に行かせてくれた家族の恩に報いるためにも、高給取りになるんだ』って言ってた。実際、初任給でご馳走する家族想いの子だった。尊が俺を紹介しても、『凄い色男ですね』と素直に言ったあと、異性としてまったく意識してこなかった。そういう意味では朱里ちゃんと似ていて、俺も気に入っている」
そこで私の名前が入り、ちょっと安心する。
気を遣わないと言っていたけれど、宮本さんをべた褒めするだけでなく、私の存在を忘れていない点は、ちゃんと気を遣ってくれていると思う。
「よく飲んでよく食べて、よく笑った。俺らの前で遠慮なくげっぷするし、逆に『もう少し恥じらいを持てよ』って言いたくなるぐらいだったな。……でも尊と二人になったら〝女〟の面も見せていたみたいだ。二人だけに通じる空気があったし、一緒にいるとお互い信頼しているのがよく分かった。……そういう宮本さんだったから、急に消えたって聞いて俺も驚いたよ。恩のある人に礼を言わずに去る子じゃないのは断言できる。……尊もそう思っているから、『なぜ消えたか』をずっと気にしていた」
涼さんはウィスキーを一口飲み、溜め息をつく。
「継母の仕業だという事はすぐ分かったけど、〝何を〟されたのかまでは知らない。宮本さんから話を聞けていないから、俺たちは想像するしかできないんだ。彼女は曲がった事は嫌いなタイプだから、楯突いて余程の事になったんじゃないかな」
「……尊さんは悲しみましたか?」
わかりきっている事だけれど、私はそう尋ねた。
「荒れたね。嫌がらせを受けるのが自分なら耐えられたけど、あの時だけは泣き崩れていた。傷付くまいとしてたやすく人を心に入れないようにしていたのに、スッと入られてやっぱり裏切られた。……彼女は裏切った訳じゃないと思うけど、結果的に尊は深く傷付いた。正直、見てるのがしんどいぐらいボロボロだったよ」
分かっていたつもりだけど、尊さんがいかに宮本さんを深く愛していたかを聞かされると、しんどい。
「尊は深く傷付いて食えなくなって、眠れなくなった。機械的に出社して仕事をして、淡々と生きている姿を見ると、もう生きる希望をなくしたのかと思った」
そこで涼さんは私を見て微笑んだ。
「でもすべてを無くした訳じゃない。尊には縋るべき思い出があった。生きる価値がないと思い込んでいた自分が一人の少女を救えたという成功体験は、尊に大きな自信を与えていた。尊は他の女と付き合い宮本さんを愛しながらも、ずっと朱里ちゃんを大切に思っていたよ」
また私の名前が出て、不覚にも泣いてしまいそうになる。
「つらい時だけ思い出に縋った訳じゃない。あいつは日常的に朱里ちゃんの話題を出して、遠くに住んでいる妹みたいな感じで語ってた。どこから情報を仕入れていたんだか分かんないけどね。あいつは呆れるほどの執念で、自ら蜘蛛の糸をたぐり寄せていたんだよ」
天の使いとして例えられ、私は照れくさくなって座り直す。
「纏めると、確かに尊は宮本さんをとても愛していたし、姿を消されて悲しんだ。でもどんな事があっても、あいつの心の奥底には朱里ちゃんがいた。その君と巡り会って結婚しようとしてるんだから、……俺としては何も心配する事はないと思うけどね」
そこまで言い、涼さんは私に向かってグラスを掲げ、ニヤッと笑ってみせる。
「ま、恋する乙女の気持ちは分からないでもないから、言える事はすべて言った。付け加えるけど、君が宮本さんを気にするほど過去の思い出は美化されていく。大事なのはいま生きている自分たちだよ。君は尊に気持ちを伝えられるし、抱き締めてキスできる。過去の人を気にするより、尊と過ごす時間を大切にしたほうがいいんじゃないかな」
優しく笑う涼さんの顔を見て、なんだか色んなものが吹っ切れた気がした。
私はお水を飲み、深呼吸する。
すると今まで心の中で燻っていたものが、綺麗に消えたのを感じる。
「ありがとうございます。聞いて良かったです。最初は『もっと嫉妬しちゃうかも』と思って不安だったけど、涼さんに話を聞けて本当に良かった。これで私も〝次〟にいけます」
お礼を言うと、涼さんはにっこり笑った。
「頑張って」
「さて、私の愛しい尊さんは……」
気持ちを切り替えてカウンターを見て、私は目を丸くした。
なんと先ほどの女性たちが、尊さんを挟むように座ってるじゃないか! こらぁ!
「行ってきます!」
スックと立ちあがった私に、涼さんはクスクス笑って「いってらっしゃい」と手を振りお酒を呷った。
そんな感じで涼さんとのファーストコンタクトは終わり、ランドについては恵に話したあと、後日改めて連絡をとる事にした。
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