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指輪デート 編

親戚紹介

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「あぁ……、お腹いっぱい……。沢山悩んで頭を働かせて、消化しないと」

 お腹をさすりつつ言うと、尊さんがびっくりして突っ込んできた。

「それで消化するのか!?」

「多分すると思います」

「しねぇよ」

 尊さんはビシッと突っ込んだあと、大きめの溜め息をつく。

「…………神たちは驚くだろうな……。ツンとしたお澄まし美人と思ってるのに、蓋を開けたら胃袋がわんぱくな愉快な女だもんな……」

「なんて例え方をするんですか。可愛い彼女に向かって、もう……」

 むくれてみせると、尊さんはテーブルの上にのっていた私の手に自分のそれを重ね、微笑んできた。

「食いしん坊も含めて、世界一魅力的な婚約者だと思ってるよ」

「む、むぅ……」

 婚約者と言われ、私はむくれた顔をキープしようとして……、ニマァ……とにやついてしまう。

「体は正直だな」

 そう言われ、私は目をまん丸に見開くと、他の客席のほうを見た。セ、セーフ……!

「ちょ、ちょっと。外で卑猥な事を言わないでくださいよ」

「じゃあ、顔面は正直って言ったほうが良かったか?」

「もう……」

 私は下唇を出してむくれたあと、アイスを食べ終えてコーヒーを飲む。

「お土産、どんな物がいいですか?」

「皆で食べられるデザート類がいいと思う」

「そうなんですか? お土産物って、生菓子系はあまり良くないかと思ってました」

 尊さんと付き合うようになってから、結婚に関するマナーをネットで調べて、生菓子は相手の食べるタイミングが合わないかもしれないから、避けたほうがいいと書いてあった。

「場合により、だよ」

 尊さんはそう言ってから、スマホを出して操作し、写真を見せてきた。

「これがちえり叔母さん」

「ん、どれどれ……」

 身を乗り出して尊さんのスマホを覗き込むと、笑顔の集合写真がある。

「これが裕真ゆうま伯父さん。五十七歳で『HAYAMI』の現社長。で、その息子の貴弘たかひろくんは副社長で三十四歳。専業主婦の奥さんが菊花きっかさん、三十二歳。その長女の心陽こはるちゃん六歳、愛菜あいなちゃん四歳、陽太ひなたくん二歳。こっちがちえり叔母さん。五十三歳で、ピアノ教室『詩音しおん』グループの社長。……母は生きていたら五十五歳だ」

 尊さんは一人ずつ順番に写真をピンチインして顔をアップにし、親戚を紹介していく。

 今、名前は出なかったけれど、妹のあかりさんが生きていたら私と同じ二十六歳だ。

「で、こっちが雅也まさや叔父さん、五十五歳。ちえり叔母さんの夫で、呉服屋『東雲』の社長。その長男の大地だいち、三十歳。『東雲』の常務。長女の小牧ちゃんが小料理屋『こま希』をやってる二十九歳。次女の弥生やよいちゃんは母親のピアノ教室で講師をしてる二十七歳」

 その写真には、さゆりさんが仲違いしたお祖母さんはいない。

 尊さんがいる場で撮った写真なら、当然だろうけど。

「お祖父さんとお祖母さんは?」

 尋ねると、尊さんはスマホをしまって苦笑いした。

「わかんね。二人とも、子供世代、孫世代が俺と交流してるのは知ってるけど、黙認状態だ。ちえり叔母さんたちは祖父母にいっさい言わないし、逆に尋ねられる事もない。話題に出ても『元気にしてる』程度で、祖父母が何を言っていたかも言わない。……そもそも、何も言われてない訳だから、言いようがないんだけどな」

「なるほど……」

 二十歳の尊さんが名古屋の本家まで行って顔を見ようしたけど、結局祖父母には会えず、自殺しようとした私に出会った訳で……。

 当時の事を思い出すと、フ……ッと気持ちが重たくなったけれど、コーヒーを一口飲んでごまかす。

 その時、尊さんのスマホがピコンと鳴った。

「悪い。ちえり叔母さんかも」

 彼は断りを入れ、スマホを見る。

 スマホを操作した彼は画面を見て微かに瞠目し、それから私を見てくる。

「……なに? ちえりさん達、何か都合が悪いとか……」

 何か私に関する事だと察して尋ねたけれど、尊さんは微笑んでスマホをしまった。

「いや、別の相手だ」

 そう言った彼は詳細を話さず、コーヒーを飲む。

 私が尊さんを疑うなんて絶対にないし、彼が私を裏切るなんて事もない。

 でもいつもならなんでも情報を明かしてくれるのに、この時は何かをごまかすように黙ったのが、胸の奥に引っ掛かった。
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