【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
211 / 778
元彼に会う前に 編

大事な事を見失うなよ?

しおりを挟む
「秘書……」

 予想外の事を言われ、私は目の前の空間を見つめて呟く。

「でも私、秘書なんてやった事ありません。初心者の私が副社長のサポートをして、取り返しのつかない失敗をしたら、申し訳ないじゃ済まないです。風磨さんとエミリさんは副社長と秘書だけど、以前から秘書として働いていた彼女と私とでは、実力に雲泥の差がありすぎます」

 言ったあと、私は苦しげに付け加える。

「それに『兄弟そろって職場で公私混同するな』って陰口叩かれそうな気がします……」

 尊さんは溜め息をつき、椅子の背もたれに身を預けて言った。

「エミリに言えば、喜んで仕事を教えてくれるんじゃないか? あいつ、あのあとも『朱里さんとデートしたい』ってちょいちょい言ってきてるし、話せば好意的に接してくれると思うぜ」

「えっ!? そうなんです!? 知らなかった……」

 初耳だったので目を丸くして言うと、尊さんは少し嫌そうな顔で白状する。

「俺だって十分に朱里充できてないのに、何が悲しくてエミリとデートさせないとなんねぇんだよ……」

「朱里充って……」

 私は思わず、肩の力を抜いて笑う。

「ま、不安になるのは分かるけど、誰だって異動すれば慣れない仕事に直面する。資格がなかったらできない仕事じゃないし、エミリから教えてもらって学べば十分こなせると思うけど」

「……そう、でしょうか……」

「それに、他の奴がどう思うかは気にするな。『気にするな』って言っても、朱里は注目される事になれてねぇから、最初からガン無視できる訳がない。副社長の相手となれば、どうしても周りの目が気になっちまうよな」

 言われて、私はコクンと頷く。

「けど篠宮家が家族経営して、若い風磨が副社長になってるのだって、他の役員から見れば身内びいきみたいなもんだ。エミリだって〝王子様〟の相手として嫉妬されてるだろう。……でもそういうの、気にしたらキリがねぇんだ。『私みたいなのがすみません』って卑屈な想いを抱いてしまうと、これから接する全員に遠慮しないとならなくなる。でも社員全員が朱里に嫉妬し、敵視してくると思うか? 俺はそんなに人気者だと思うか? 俺なんぞより、女性社員はイケメン俳優やアイドル、二次元の推しのが好きだろ」

 尋ねられ、「尊さんは魅力的だから!」と頷きたい……けど、「うー……」と悩む。

 普通に考えたら〝全員〟が敵になるなんてあり得ないだろう。以前に尊さんだって、2:6:2の法則を教えてくれた。

 私に嫌な事を言ってくる人がいたとしても二割にすぎず、残り八割はどうでもいいと思っているか、私と尊さんの関係を祝福してくれるだろう。

 でも、陰口を叩かれるのはしんどいなぁ……。

 黙っていると、尊さんは穏やかに笑う。

「ぶっちゃけ、どんな状況に身を置いても、見えていないだけで誰かには理不尽に嫌われてるもんだ。いい部長であろうと振る舞ってるけど、俺を嫌ってる奴は男女問わずいるよ」

 まさか尊さんが嫌われていると思わず、私は「そんな……」と呟く。

 いや待て。私も彼を嫌ってた当人だ。

 けれど彼はまったく気にしていない表情で笑った。

「気持ちは分かる。でも大事な事を見失うなよ? 朱里にとって一番大切なのは、俺と結婚して幸せな生活を送る事だ。他の誰かに遠慮して、俺と付き合うのをやめるか?」

 私はプルプルと首を横に振る。

「同じ会社で働き続けたいなら、秘書の件は一案として考えてくれ。他の案は子会社に移るか、まったく別の会社に再就職するか、専業主婦になるか……になると思う」

「確かに、そうですね……」

 ずっと感情論で考えていたけれど、現実的な問題を思えばそういう選択肢になるだろう。

「俺は朱里を守ると決めた。もしも秘書になって嫌がらせをされたら、ちゃんと対応するし、プライベートでも精神的なケアをする。……朱里も、俺と一緒に歩む覚悟を持ってくれないか?」

 優しい目で見つめられ、心の中にゆっくりと覚悟が宿っていく。

「……そうですね。周りに遠慮していたら個人の幸せなんて掴めません」

「前にSNSの使い方についてチラッと言ったけど、フォロワーにつらい出来事があっても、朱里が自粛する必要はないんだ。過度に自慢さえしなければ、誰だって自分の身に起こった幸せを喜ぶ権利はある。日本国内で地震があったからSNSの投稿を自粛するなんて言ったら、世界で続いている戦争や内戦、毎日命を落としている誰かのために、ずっと自粛し続けなければならない」

「……はい」

「ていうか、『私がつらい目に遭ってるんだから、美味しい物なんて食べないでよ! 外出しないで家で私の幸せを祈って!』なんて言う奴いたら、ドン引きだろ?」

「確かに」

 出された例があまりに激ヤバで、私は思わず笑ってしまう。
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

処理中です...