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元彼に会う前に 編
割り切ってほしいんだ
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「まぁ、正式に同棲するなら不動産会社に一言いって、入居申込書も書かなきゃなんないけど……。ここ、賃貸じゃねぇし、何も問題ないと思うけど」
「……というと?」
尊さんの言いたい事が分からず、私は首を傾げる。
「同棲カップルが賃貸物件の審査に落ちる場合があるんだ。良くない別れ方をした時、マンションに残った奴が家賃を払わない怖れがあるからなぁ……」
「ほえー」
誰かと住む前提で家を借りた事なんてないので、私は目を丸くして感心する。
「不動産屋がしぶるのって、支払い能力の有無がメインだ。その点ここは俺が買った家だし、単身者用の物件でもねぇし、『婚約者と同棲する事にしました』って言っても『どうぞどうぞ』なワケ」
「はぁ……」
一人暮らししているとはいえ、私は自分に必要な事以外の知識に疎い。
だから初耳情報を聞いて、赤べこみたいにコクコク頷いていた。
「……ちなみに、ローンってどんだけ残ってます? 私なんかが払おうと思っても、まったく追い付かないでしょうけど、同棲するなら家賃を……」
「おい」
困ったように言われ、私は眉を下げる。
「まさかこの期に及んで『家賃払います』なんて言わねぇよな?」
図星を突かれ、私は目をまん丸にしたまま少し口を開いて固まる。
「……フレーメン反応起こした猫かよ」
尊さんは呆れたように言い、テーブルの下で脚を組む。
「自分で言うのもイヤミで嫌だけど、俺は見ての通り特に金に困ってない。あんまり金の事を言うのは嫌だけど、投資や不動産やら資産運用もしてるから、朱里が心配する必要はない。このマンションのローンも、必要な金額は専用の口座に全額用意してあるから、放っておけばいいだけ」
私はポカンとしたまま、尊さんの言葉を聞いている。
「朱里は『金持ち男に貢がせて、ウハウハ生活送りたい』って女じゃないし、堅実な考え方をする人だから余計に好ましく思ってる。男に金を払ってもらうのを『当然』と思わない姿勢は凄く好きだ。……でも、俺たちはこれから夫婦になる。生活費は俺が払うつもりでいるし、朱里がどうしても気になるなら、二、三万とか決まった金額を毎月出してもらう形で構わない」
「二、三万なんて……」
今の家賃より安い金額を提示され、私は思わず首を左右に振る。
「……気を悪くしたら申し訳ないけど、俺と朱里の資産の差はかなり大きい」
言われて、それは事実なのでコクンと頷く。
「お互い、収入の何割を生活費に充てる……なんて事をしなくても、俺の金だけで生活は成り立つ。でもそれだと朱里が気にするだろうから、今の提案をした。朱里の手持ちで俺の今の生活を支えようとしたら、小遣いなんて残らないし自由に遊べないだろ。だからそこは『申し訳ない』って思わないで、割り切ってほしいんだ」
「……そう、ですね……」
社会人として働いて稼いできた自負はあるので、扶養されると思うと、なんとなく申し訳なくなる気持ちが湧く。
「朱里は『家事は家政婦さんがいるし、じゃあ自分には何ができるだろう?』と思うだろう。それに対して俺は『いつも幸せそうにして、俺に愛されて、まず自分の健康を考えて元気な子を産んでほしい』と思ってしまっている。……これは俺のエゴで、好きな女を囲ってしまう考えだ。朱里は誇りを持って働いているし、その自立心を無視した乱暴な思いだと自覚している」
彼の言葉を聞き、私は何も言えずにいる。
「……でも、考えてみてほしい。俺はまもなく副社長になる。結婚するとなると、朱里の立ち位置を考え直す必要が出てくるかもしれない。社長夫人だった怜香は、部長の役職についていた。副社長夫人となった朱里が、今まで通り商品開発の現場にいても気にせずにいられるか……」
言われて、私は溜め息をついて俯いた。
確かに副社長夫人がこれまで通り皆と一緒に厨房で商品開発して、意見を言い合って……となると難しい。絶対に周りに気を遣われる。
「……仕事、好きなのにな」
呟いた私の言葉を聞き、尊さんは真剣な表情で頷く。
「その点は申し訳なく思っている。……でもある程度の役職についていないと、周りも落ち着かないだろう。けどまだ二十代のお前が〝上〟の立場になる事も、朱里自身が落ち着かないと思う」
「はい、その通りです」
私はまだ二十六歳で、来年の十二月に二十七歳になる。
入社してある程度の結果を出せていても、他の先輩を差し置いて責任ある立場になるなんて無理だ。
「……なら、俺の秘書になる手もある」
「……というと?」
尊さんの言いたい事が分からず、私は首を傾げる。
「同棲カップルが賃貸物件の審査に落ちる場合があるんだ。良くない別れ方をした時、マンションに残った奴が家賃を払わない怖れがあるからなぁ……」
「ほえー」
誰かと住む前提で家を借りた事なんてないので、私は目を丸くして感心する。
「不動産屋がしぶるのって、支払い能力の有無がメインだ。その点ここは俺が買った家だし、単身者用の物件でもねぇし、『婚約者と同棲する事にしました』って言っても『どうぞどうぞ』なワケ」
「はぁ……」
一人暮らししているとはいえ、私は自分に必要な事以外の知識に疎い。
だから初耳情報を聞いて、赤べこみたいにコクコク頷いていた。
「……ちなみに、ローンってどんだけ残ってます? 私なんかが払おうと思っても、まったく追い付かないでしょうけど、同棲するなら家賃を……」
「おい」
困ったように言われ、私は眉を下げる。
「まさかこの期に及んで『家賃払います』なんて言わねぇよな?」
図星を突かれ、私は目をまん丸にしたまま少し口を開いて固まる。
「……フレーメン反応起こした猫かよ」
尊さんは呆れたように言い、テーブルの下で脚を組む。
「自分で言うのもイヤミで嫌だけど、俺は見ての通り特に金に困ってない。あんまり金の事を言うのは嫌だけど、投資や不動産やら資産運用もしてるから、朱里が心配する必要はない。このマンションのローンも、必要な金額は専用の口座に全額用意してあるから、放っておけばいいだけ」
私はポカンとしたまま、尊さんの言葉を聞いている。
「朱里は『金持ち男に貢がせて、ウハウハ生活送りたい』って女じゃないし、堅実な考え方をする人だから余計に好ましく思ってる。男に金を払ってもらうのを『当然』と思わない姿勢は凄く好きだ。……でも、俺たちはこれから夫婦になる。生活費は俺が払うつもりでいるし、朱里がどうしても気になるなら、二、三万とか決まった金額を毎月出してもらう形で構わない」
「二、三万なんて……」
今の家賃より安い金額を提示され、私は思わず首を左右に振る。
「……気を悪くしたら申し訳ないけど、俺と朱里の資産の差はかなり大きい」
言われて、それは事実なのでコクンと頷く。
「お互い、収入の何割を生活費に充てる……なんて事をしなくても、俺の金だけで生活は成り立つ。でもそれだと朱里が気にするだろうから、今の提案をした。朱里の手持ちで俺の今の生活を支えようとしたら、小遣いなんて残らないし自由に遊べないだろ。だからそこは『申し訳ない』って思わないで、割り切ってほしいんだ」
「……そう、ですね……」
社会人として働いて稼いできた自負はあるので、扶養されると思うと、なんとなく申し訳なくなる気持ちが湧く。
「朱里は『家事は家政婦さんがいるし、じゃあ自分には何ができるだろう?』と思うだろう。それに対して俺は『いつも幸せそうにして、俺に愛されて、まず自分の健康を考えて元気な子を産んでほしい』と思ってしまっている。……これは俺のエゴで、好きな女を囲ってしまう考えだ。朱里は誇りを持って働いているし、その自立心を無視した乱暴な思いだと自覚している」
彼の言葉を聞き、私は何も言えずにいる。
「……でも、考えてみてほしい。俺はまもなく副社長になる。結婚するとなると、朱里の立ち位置を考え直す必要が出てくるかもしれない。社長夫人だった怜香は、部長の役職についていた。副社長夫人となった朱里が、今まで通り商品開発の現場にいても気にせずにいられるか……」
言われて、私は溜め息をついて俯いた。
確かに副社長夫人がこれまで通り皆と一緒に厨房で商品開発して、意見を言い合って……となると難しい。絶対に周りに気を遣われる。
「……仕事、好きなのにな」
呟いた私の言葉を聞き、尊さんは真剣な表情で頷く。
「その点は申し訳なく思っている。……でもある程度の役職についていないと、周りも落ち着かないだろう。けどまだ二十代のお前が〝上〟の立場になる事も、朱里自身が落ち着かないと思う」
「はい、その通りです」
私はまだ二十六歳で、来年の十二月に二十七歳になる。
入社してある程度の結果を出せていても、他の先輩を差し置いて責任ある立場になるなんて無理だ。
「……なら、俺の秘書になる手もある」
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