208 / 417
元彼に会う前に 編
ごついマンション
しおりを挟む
「朱里大明神、どうかお怒りをお収めください」
尊さんにサクサクの焼きたてクロワッサンを渡され、私は「うむ」と重々しく頷いてみせた。
「……賄賂じゃな?」
「賄賂です」
軽口を叩き合って笑ったあと、私は「いただきまーす」と言ってクロワッサンをちぎった。
「おいし。朝一番で買ってきたんです?」
「ん、チャリで十分ぐらいのパン屋」
「なんと! 速水尊が自転車! 愛車の名前は?」
自転車に名前はつけないだろうと思って、フリで言ったけれど、尊さんはちょっと目を泳がせてからボソッと言う。
「ホワイトサンダー号……」
「んぶふっ」
色んな意味でヤバイ名前を聞いて、私はクロワッサンを咥えたまま噴き出す。
……あ、鼻息でクロワッサンの皮飛んだ……。
「し、白いチャリなんだよ。だから……」
「オーケイ、オーケイ。……可愛いところあるじゃん、尊さん……」
「おい、生温かい笑みを浮かべるな」
「分かってますって。……んぷ」
「おい、犯すぞ」
「こわーい」
「……まったく……」
そのあと尊さんは照れ隠しのためにテレビをつけ、ニュースを見る。
「……ねぇ、尊さん」
「ん?」
「……そのー……、凄く俗っぽい事を聞きたいんですが……」
「今さらなんだよ。なんでも言ってみろ」
彼はクスッと笑い、小首を傾げる。
「このマンション、色々ごついじゃないですか」
尊さんが暮らすマンションは、低層マンションだけれど、四十階前後ある高層マンションに比べて低いという意味だ。
実際は十四階あり、ヨーロッパのお城を思わせる白い錬鉄の門に守られ、敷地には四棟の建物がある。
このマンションは歴史のある高級日系ホテルのサービスと連携していて、コンシェルジュは勿論、車を管理するバレー、クリーニングや色んなお願いを聞いてくれるバトラー、荷物持ちのポーターにドアマンまでいる。
共用の建物と四棟のマンションの間には綺麗に整えられた庭があり、四季を楽しめるようになっている上、敷地内にはコンビニ、カフェやレストランもあるっぽかった。
「ごつい……。……うん、まぁ、色んな表現があるけど」
尊さんはバゲットを切って、スモークサーモンとオリーブのスプレッドを塗って頷く。
スプレッド一つにしても、海外の高級ショコラトリーのチョコスプレッドを普通に置いているので、速水家は恐ろしい……。絶対この家の子になりたい。
「共有部分って、何があるか聞いてもいいです? ……あんまりそういう、お金持ちの部分に興味を示すのって、下品かなと思って言えずにいたんですが」
そろりと尋ねたけれど、彼は得心のいった表情で頷いた。
「あー、そっか。全然案内してなかったもんな。悪い。そりゃ気になって当然だわ」
あっさり理解したあと、彼はサラリと応える。
「俺がよく使うのはコンビニにジム、プール、サウナや風呂、岩盤浴とかスパ……。週二ぐらい酸素カプセル」
「なんですそれ? ……飲むの?」
酵素カプセルなら聞いた事があると思って言ったけれど、違った。
「病院にも置いてるし、美容目的でも使われてるけど、カプセルに入って寝て酸素をスッハーするやつ。リラックスや疲労回復とかに効くらしい」
言われてでかいカプセルに尊さんが入ってるのを想像し、ポツンと呟いた。
「SF映画のコールドスリープみたい」
「まぁな」
私の言葉を聞いて、尊さんはぶふっと笑う。
「あとはレストランやカフェも使ってる。ゴルフレンジもあるけどそんなにやらねぇし、シアタールームは実際映画館に行きたい派だから使わない。ワークスペースは、家で集中力切れた時に使ってる。敷地内にBBQやる所やヴィラもあって、涼が使いたがってるけど、野郎二人でBBQやるのしんどいから今のところ使ってない」
「ほへぇ……」
雲の上の世界を知り、私はしばらくボーッとしてモシャモシャとサラダを食べる。
それから、震え声で尋ねた。
「……私、本当にここに住んでいいんです? 場違いで怖いんですが」
「はぁ? いいに決まってるだろうが」
彼は呆れたように言い、ウィンナーを囓る。
尊さんにサクサクの焼きたてクロワッサンを渡され、私は「うむ」と重々しく頷いてみせた。
「……賄賂じゃな?」
「賄賂です」
軽口を叩き合って笑ったあと、私は「いただきまーす」と言ってクロワッサンをちぎった。
「おいし。朝一番で買ってきたんです?」
「ん、チャリで十分ぐらいのパン屋」
「なんと! 速水尊が自転車! 愛車の名前は?」
自転車に名前はつけないだろうと思って、フリで言ったけれど、尊さんはちょっと目を泳がせてからボソッと言う。
「ホワイトサンダー号……」
「んぶふっ」
色んな意味でヤバイ名前を聞いて、私はクロワッサンを咥えたまま噴き出す。
……あ、鼻息でクロワッサンの皮飛んだ……。
「し、白いチャリなんだよ。だから……」
「オーケイ、オーケイ。……可愛いところあるじゃん、尊さん……」
「おい、生温かい笑みを浮かべるな」
「分かってますって。……んぷ」
「おい、犯すぞ」
「こわーい」
「……まったく……」
そのあと尊さんは照れ隠しのためにテレビをつけ、ニュースを見る。
「……ねぇ、尊さん」
「ん?」
「……そのー……、凄く俗っぽい事を聞きたいんですが……」
「今さらなんだよ。なんでも言ってみろ」
彼はクスッと笑い、小首を傾げる。
「このマンション、色々ごついじゃないですか」
尊さんが暮らすマンションは、低層マンションだけれど、四十階前後ある高層マンションに比べて低いという意味だ。
実際は十四階あり、ヨーロッパのお城を思わせる白い錬鉄の門に守られ、敷地には四棟の建物がある。
このマンションは歴史のある高級日系ホテルのサービスと連携していて、コンシェルジュは勿論、車を管理するバレー、クリーニングや色んなお願いを聞いてくれるバトラー、荷物持ちのポーターにドアマンまでいる。
共用の建物と四棟のマンションの間には綺麗に整えられた庭があり、四季を楽しめるようになっている上、敷地内にはコンビニ、カフェやレストランもあるっぽかった。
「ごつい……。……うん、まぁ、色んな表現があるけど」
尊さんはバゲットを切って、スモークサーモンとオリーブのスプレッドを塗って頷く。
スプレッド一つにしても、海外の高級ショコラトリーのチョコスプレッドを普通に置いているので、速水家は恐ろしい……。絶対この家の子になりたい。
「共有部分って、何があるか聞いてもいいです? ……あんまりそういう、お金持ちの部分に興味を示すのって、下品かなと思って言えずにいたんですが」
そろりと尋ねたけれど、彼は得心のいった表情で頷いた。
「あー、そっか。全然案内してなかったもんな。悪い。そりゃ気になって当然だわ」
あっさり理解したあと、彼はサラリと応える。
「俺がよく使うのはコンビニにジム、プール、サウナや風呂、岩盤浴とかスパ……。週二ぐらい酸素カプセル」
「なんですそれ? ……飲むの?」
酵素カプセルなら聞いた事があると思って言ったけれど、違った。
「病院にも置いてるし、美容目的でも使われてるけど、カプセルに入って寝て酸素をスッハーするやつ。リラックスや疲労回復とかに効くらしい」
言われてでかいカプセルに尊さんが入ってるのを想像し、ポツンと呟いた。
「SF映画のコールドスリープみたい」
「まぁな」
私の言葉を聞いて、尊さんはぶふっと笑う。
「あとはレストランやカフェも使ってる。ゴルフレンジもあるけどそんなにやらねぇし、シアタールームは実際映画館に行きたい派だから使わない。ワークスペースは、家で集中力切れた時に使ってる。敷地内にBBQやる所やヴィラもあって、涼が使いたがってるけど、野郎二人でBBQやるのしんどいから今のところ使ってない」
「ほへぇ……」
雲の上の世界を知り、私はしばらくボーッとしてモシャモシャとサラダを食べる。
それから、震え声で尋ねた。
「……私、本当にここに住んでいいんです? 場違いで怖いんですが」
「はぁ? いいに決まってるだろうが」
彼は呆れたように言い、ウィンナーを囓る。
102
お気に入りに追加
816
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる