183 / 778
新年会 編
嫉妬と自己嫌悪
しおりを挟む
「あっ、どうも。美味しくいただいてます」
私はペコリと綾子さんに会釈する。
「ねー、見て! 速水部長ったら、今日も格好いいったら。飲み物がビールじゃなくてウイスキーやワインってのも、大人の男って感じだよね~」
「ですねー」
適当に話を合わせつつ、内心では『尊さんがそういうお酒を飲んでる理由を、私は知ってる……』とどや顔してしまう。
『酒は美味いけど、なるべくカロリーの低い酒を飲む習慣をつけてる』
プロフェッショナル速水尊は、健康志向の男なのだ。
とは分かっているものの、私は甘いカクテルや梅酒をガブガブ飲んでやる。わはは。
「速水部長って無駄のない体をしてるでしょ? きっとカロリーにも気を遣ってると思うんだよね。だからって訳じゃないけど、私もワインに詳しくなろうと思って最近勉強してるの」
「綾子さんは女の鑑ですね~。私は好きな人の趣味に合わせて、普段興味のないものを勉強しようと思わないな」
恵の言葉の裏に、『自分は好きな男色に染まるつもりはない』と言っているのが見え隠れしている。
それを知ってか知らずか、綾子さんはニコッと笑って言った。
「そう? 私は人生は常に勉強だと思ってる。興味を持っていなかった事でも、何かきっかけがあったら柔軟に受け入れると、人生が豊かになると思うの」
「凄いですね」
思わず言った言葉は本心だ。
綾子さんは確かにミーハー気質だし、流行りものを追いかけていて、高価なものを好み、派手に浪費している自分に陶酔している感じがある。
それを『自分の軸がない』と嫌う人はいるだろう。
でも綾子さんにも矜持はあり、彼女は自分の美学のもとに生きている。
加えて私とタイプの違う人は、私にできない事をする人だ。
綾子さんは積極的に合コンに行き、自分の人生をグレードアップさせてくれる男性をゲットするために、自分磨きをしていい女であろうとしている。
大きな目的――幸せな結婚生活のために、様々な事にチャレンジする生き方は、私にはできない事だ。
恵の嫌みともとれる言葉に怒るでもなく、サラリと自分の生き方を説明した彼女は格好良かった。
その姿を見て、ジワリ……と胸の奥に黒い物が広がってしまう。
――私は綾子さんに嫉妬している。
――本当は彼女が魅力的な人だと分かっているから脅威に思っていて、いつ尊さんをとられるかビクビクしている。
――だから恵がちょっと馬鹿にしたように言うのを聞いても、『やめなって』と言えずにいるんだ。
――嫉妬している人の悪口を聞いて、ちょっと気持ちよくなっている自分がいる。
(情けないな)
〝分かって〟しまった私は、飲み会のさなかだというのに、ズン……と落ち込んでしまった。
「ごめんなさい、ちょっとお手洗い行ってきます。お酒美味しいから、調子に乗って飲み過ぎちゃったみたい」
気持ちを切り替えるため、一度席を立つ事にした。
「あー、利尿作用あるからね。いってら」
恵はヒラヒラと手を振り、私はバッグを持ってトイレに向かった。
フロアを出る時にチラッと尊さんを見ると、彼は周囲の人と話して微笑しながら、私に視線を走らせたところだった。
「あー、もう、速水部長好きだわー! 結婚してくれ!」
酔っぱらった男性社員の声がし、皆がドッと笑う。
もらい笑いをした私は、溜め息をついて階段に向かった。
「はー」
用事を終えて鏡を見ると、顔が赤い。でもまだ飲める。
すぐに落ちてしまうと分かっていながらも、私はリップを塗った。
(分かってはいたけど、同じ職場にいるのに私的に話せないってストレスだな)
仕事中はそう思わないけれど、飲み会になると『私の尊さんなのに……』と嫉妬してしまう子供みたいな自分がいるのに気づく。
男性社員や、彼に恋愛感情を抱かない人、年上の人にまで嫉妬する必要はない。
なのに尊さんと同じ場所にいるのに、彼の隣にいられない事に疎外感を得ていた。
(駄目だな、子供っぽい。尊さんに呆れられる)
私は溜め息をついたあと、トイレに誰もいないのを確認してから、「あっかるーいあっかるーい朱里ちゃんっ!」と歌いながら踊り、パンッと頬を叩いた。
「よっしゃ」
気合いを入れてトイレから出た時――。
「よう」
係長が目の前に立っていて、驚きのあまり悲鳴を上げそうになった。
トイレの前で待たないで!
私はペコリと綾子さんに会釈する。
「ねー、見て! 速水部長ったら、今日も格好いいったら。飲み物がビールじゃなくてウイスキーやワインってのも、大人の男って感じだよね~」
「ですねー」
適当に話を合わせつつ、内心では『尊さんがそういうお酒を飲んでる理由を、私は知ってる……』とどや顔してしまう。
『酒は美味いけど、なるべくカロリーの低い酒を飲む習慣をつけてる』
プロフェッショナル速水尊は、健康志向の男なのだ。
とは分かっているものの、私は甘いカクテルや梅酒をガブガブ飲んでやる。わはは。
「速水部長って無駄のない体をしてるでしょ? きっとカロリーにも気を遣ってると思うんだよね。だからって訳じゃないけど、私もワインに詳しくなろうと思って最近勉強してるの」
「綾子さんは女の鑑ですね~。私は好きな人の趣味に合わせて、普段興味のないものを勉強しようと思わないな」
恵の言葉の裏に、『自分は好きな男色に染まるつもりはない』と言っているのが見え隠れしている。
それを知ってか知らずか、綾子さんはニコッと笑って言った。
「そう? 私は人生は常に勉強だと思ってる。興味を持っていなかった事でも、何かきっかけがあったら柔軟に受け入れると、人生が豊かになると思うの」
「凄いですね」
思わず言った言葉は本心だ。
綾子さんは確かにミーハー気質だし、流行りものを追いかけていて、高価なものを好み、派手に浪費している自分に陶酔している感じがある。
それを『自分の軸がない』と嫌う人はいるだろう。
でも綾子さんにも矜持はあり、彼女は自分の美学のもとに生きている。
加えて私とタイプの違う人は、私にできない事をする人だ。
綾子さんは積極的に合コンに行き、自分の人生をグレードアップさせてくれる男性をゲットするために、自分磨きをしていい女であろうとしている。
大きな目的――幸せな結婚生活のために、様々な事にチャレンジする生き方は、私にはできない事だ。
恵の嫌みともとれる言葉に怒るでもなく、サラリと自分の生き方を説明した彼女は格好良かった。
その姿を見て、ジワリ……と胸の奥に黒い物が広がってしまう。
――私は綾子さんに嫉妬している。
――本当は彼女が魅力的な人だと分かっているから脅威に思っていて、いつ尊さんをとられるかビクビクしている。
――だから恵がちょっと馬鹿にしたように言うのを聞いても、『やめなって』と言えずにいるんだ。
――嫉妬している人の悪口を聞いて、ちょっと気持ちよくなっている自分がいる。
(情けないな)
〝分かって〟しまった私は、飲み会のさなかだというのに、ズン……と落ち込んでしまった。
「ごめんなさい、ちょっとお手洗い行ってきます。お酒美味しいから、調子に乗って飲み過ぎちゃったみたい」
気持ちを切り替えるため、一度席を立つ事にした。
「あー、利尿作用あるからね。いってら」
恵はヒラヒラと手を振り、私はバッグを持ってトイレに向かった。
フロアを出る時にチラッと尊さんを見ると、彼は周囲の人と話して微笑しながら、私に視線を走らせたところだった。
「あー、もう、速水部長好きだわー! 結婚してくれ!」
酔っぱらった男性社員の声がし、皆がドッと笑う。
もらい笑いをした私は、溜め息をついて階段に向かった。
「はー」
用事を終えて鏡を見ると、顔が赤い。でもまだ飲める。
すぐに落ちてしまうと分かっていながらも、私はリップを塗った。
(分かってはいたけど、同じ職場にいるのに私的に話せないってストレスだな)
仕事中はそう思わないけれど、飲み会になると『私の尊さんなのに……』と嫉妬してしまう子供みたいな自分がいるのに気づく。
男性社員や、彼に恋愛感情を抱かない人、年上の人にまで嫉妬する必要はない。
なのに尊さんと同じ場所にいるのに、彼の隣にいられない事に疎外感を得ていた。
(駄目だな、子供っぽい。尊さんに呆れられる)
私は溜め息をついたあと、トイレに誰もいないのを確認してから、「あっかるーいあっかるーい朱里ちゃんっ!」と歌いながら踊り、パンッと頬を叩いた。
「よっしゃ」
気合いを入れてトイレから出た時――。
「よう」
係長が目の前に立っていて、驚きのあまり悲鳴を上げそうになった。
トイレの前で待たないで!
114
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる