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新年会 編
新年会
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《きっと憧れられている人も、成功するまで色んな事を言われたと思う。頭一つ抜きん出ている人は、周囲から必ず嫉妬され足を引っ張られている。でも我慢してすべき事をし続けた結果、成功して自分の地位を確立したんだ。楽して金儲けとか、成功できる道はない。だから俺も、先達のように努力して、俺なりの幸せを見つけたいと思ってるよ》
彼の言葉がじんわりと心の中に染みこんでくる。
《俺は怜香への復讐は果たした。だから、あとは母と妹の約束通り、いい人間になって幸せになりたい》
尊さんの心の中に住む、さゆりさんとあかりさんは、今もきっと笑顔で道を照らしてくれているんだろう。
「私も、尊さんみたいに〝良く〟ありたいです」
《俺は他人に憧れられる男じゃねぇけどな。ただ、そう思ってもらえるのは幸いだ》
彼は本当に凄い人なのに、心から謙遜しているようだった。
イケメンでお金持ちでこれから副社長になる上、人間もできている。なのに傲慢にならず謙虚であり続ける彼は、私の自慢の恋人だ。
同時に、無条件で尊さんに愛されているとはいえ、自分も彼に釣り合う女性にならないとな、と心の底で強く思った。
《ま、それはともかく、引っ越し準備は手伝うからな》
「はい」
そのあと、二月の二週目週末までには引っ越すのを目標にし、時間が空いたらジワジワと片付けを始めていく事を決めた。
**
やがて金曜日になり、新年会となる。
十八時半の予約に合わせ、フロアの皆は十八時前には退勤していた。
私は恵と一緒に会社を出て、人形町にあるイタリアンバルへ向かう。
和も取り入れた創作イタリアンらしく、今からとても楽しみだ。
現地に着くと、レンガ造りの小洒落た店の外に、ワイン樽が置かれてあるのが見えた。
オレンジ色の光が点いた店内からは活気のある声が聞こえ、美味しそうな匂いも漂ってきている。
新年会をするのに二階を貸し切りにしているらしく、私たちはスタッフに案内されて階段を上がった。
「あー、上村さんと中村さん、来た! こっちおいで」
コートをハンガーに掛けていると、綾子さんが手招きしたのでそちらに向かった。
ソファに座ると、近くにいた先輩がドリンクメニューを見せてくれる。
「正直、飲み会はかったるい時もあるけど、美味しいもんを食べられるのが楽しみだよね」
恵がボソッと言い、私は「わかりみ深太郎」と頷く。
尊さんは離れた席に座っていて、人に囲まれ穏やかに笑っている。
一瞬目が合ったような気がしたけれど、気のせいだったかもしれない。
やがて時間になり飲み物が運ばれてきたあと、尊さんが挨拶に立った。
「あー、今さらだけど、あけましておめでとう。今年も皆顔を揃えて新年会に出席してくれて嬉しく思ってます。何かと情勢的に楽観できない状況ではあるけれど、今年もまずコツコツと自分の仕事をこなしていこう。ヒット商品が生まれますように! 今年もよろしくお願いします! 乾杯!」
彼がビールのジョッキを掲げると皆が「乾杯」を言い、それぞれ近くにいる人たちとジョッキやグラスを合わせる。
尊さんの周りにいた人たちは、こぞって彼と乾杯したがっていて、私はそれをジトー……とした目で見ていた。
「まぁ、食えって」
私の心境を察した恵がケラケラ笑い、テーブルに置かれた前菜を示す。
「食いますよ」
そのあと、私は前菜盛り合わせをつまみつつ、恵に引っ越しの事を話した。
「いーんじゃない? 私も手伝うよ。朱里の引っ越しはいつもの事だけど、これが最後になるかもね」
「ありがと。で、今回は荷物を運ぶの、彼が業者を手配してくれるって」
「ん、そっか。そのほうが筋が通っているかもね」
恵はそれ以上深い事は聞かず、私は彼女の理解に感謝する。
ここでは〝部長〟とも〝尊さん〟とも言えないので、〝彼〟と言う事にした。
「明日、彼がうちに挨拶に来るらしくて、ちょっと緊張してる」
「そうなんだ。こないだは図らずも横浜行きになったんだっけ? 今度はうまくいくといいね」
恵には先日の亮平乱入事件も話していたので、彼女は生ぬるい笑顔で言う。
「うん。……刀削麺は美味しかったけどね」
「あはは! さすがただでは転ばない、胃袋魔人!」
そんな感じで主に恵と話していたけれど、途中から綾子さんが「飲んでるー?」と向かいの席に座った。
彼の言葉がじんわりと心の中に染みこんでくる。
《俺は怜香への復讐は果たした。だから、あとは母と妹の約束通り、いい人間になって幸せになりたい》
尊さんの心の中に住む、さゆりさんとあかりさんは、今もきっと笑顔で道を照らしてくれているんだろう。
「私も、尊さんみたいに〝良く〟ありたいです」
《俺は他人に憧れられる男じゃねぇけどな。ただ、そう思ってもらえるのは幸いだ》
彼は本当に凄い人なのに、心から謙遜しているようだった。
イケメンでお金持ちでこれから副社長になる上、人間もできている。なのに傲慢にならず謙虚であり続ける彼は、私の自慢の恋人だ。
同時に、無条件で尊さんに愛されているとはいえ、自分も彼に釣り合う女性にならないとな、と心の底で強く思った。
《ま、それはともかく、引っ越し準備は手伝うからな》
「はい」
そのあと、二月の二週目週末までには引っ越すのを目標にし、時間が空いたらジワジワと片付けを始めていく事を決めた。
**
やがて金曜日になり、新年会となる。
十八時半の予約に合わせ、フロアの皆は十八時前には退勤していた。
私は恵と一緒に会社を出て、人形町にあるイタリアンバルへ向かう。
和も取り入れた創作イタリアンらしく、今からとても楽しみだ。
現地に着くと、レンガ造りの小洒落た店の外に、ワイン樽が置かれてあるのが見えた。
オレンジ色の光が点いた店内からは活気のある声が聞こえ、美味しそうな匂いも漂ってきている。
新年会をするのに二階を貸し切りにしているらしく、私たちはスタッフに案内されて階段を上がった。
「あー、上村さんと中村さん、来た! こっちおいで」
コートをハンガーに掛けていると、綾子さんが手招きしたのでそちらに向かった。
ソファに座ると、近くにいた先輩がドリンクメニューを見せてくれる。
「正直、飲み会はかったるい時もあるけど、美味しいもんを食べられるのが楽しみだよね」
恵がボソッと言い、私は「わかりみ深太郎」と頷く。
尊さんは離れた席に座っていて、人に囲まれ穏やかに笑っている。
一瞬目が合ったような気がしたけれど、気のせいだったかもしれない。
やがて時間になり飲み物が運ばれてきたあと、尊さんが挨拶に立った。
「あー、今さらだけど、あけましておめでとう。今年も皆顔を揃えて新年会に出席してくれて嬉しく思ってます。何かと情勢的に楽観できない状況ではあるけれど、今年もまずコツコツと自分の仕事をこなしていこう。ヒット商品が生まれますように! 今年もよろしくお願いします! 乾杯!」
彼がビールのジョッキを掲げると皆が「乾杯」を言い、それぞれ近くにいる人たちとジョッキやグラスを合わせる。
尊さんの周りにいた人たちは、こぞって彼と乾杯したがっていて、私はそれをジトー……とした目で見ていた。
「まぁ、食えって」
私の心境を察した恵がケラケラ笑い、テーブルに置かれた前菜を示す。
「食いますよ」
そのあと、私は前菜盛り合わせをつまみつつ、恵に引っ越しの事を話した。
「いーんじゃない? 私も手伝うよ。朱里の引っ越しはいつもの事だけど、これが最後になるかもね」
「ありがと。で、今回は荷物を運ぶの、彼が業者を手配してくれるって」
「ん、そっか。そのほうが筋が通っているかもね」
恵はそれ以上深い事は聞かず、私は彼女の理解に感謝する。
ここでは〝部長〟とも〝尊さん〟とも言えないので、〝彼〟と言う事にした。
「明日、彼がうちに挨拶に来るらしくて、ちょっと緊張してる」
「そうなんだ。こないだは図らずも横浜行きになったんだっけ? 今度はうまくいくといいね」
恵には先日の亮平乱入事件も話していたので、彼女は生ぬるい笑顔で言う。
「うん。……刀削麺は美味しかったけどね」
「あはは! さすがただでは転ばない、胃袋魔人!」
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