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恵 編
濃い一日の終わり
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「どうぞ」
恵は牛肉のステーキをモグモグしながら頷く。
「デリケートな話題だけど、中村さんは恋愛対象が女性?」
尋ねられて、恵は腕を組みしばし考える。
「んー……。今までろくに恋愛してないから分からないんですが、女性限定ではない気がします。朱里は雁字搦めになっていた私の価値観を変えてくれたから特別なんです。私の心を救ってくれる人がいたら、男性でも特別に思うかもしれませんけど、今のところ、そういう人はいませんね」
「そっか。いや、ただ知りたかっただけなんだ。不快に思ったらすまない」
「全然です。むしろ気を遣われるほうが居心地悪いので、なんかあったらストレートに聞いてくださいよ。……とはいえ、私の気持ちを知ってるのはこの場にいる二人だけなので、クローズドな場所限定ですが」
雰囲気がまじめな感じになったので、私はあえて明るいほうに水を向ける。
「じゃあ、いつか涼さんとダブルデートになったら、四人で虫網持って原っぱ行こうか!」
「朱里、セミファイナル食らって凄い悲鳴上げてたじゃない」
「あれはびっくりしたから」
「セミファイナルは怖ぇよな。『うおっ』てなる」
まさか尊さんまで乗ってくれるとは思わず、私はクスクス笑う。
「尊さんがセミにびっくりしてるの想像するだけで、一週間ぐらいは思いだし笑いできそうです」
「お前なぁ……」
そんなたわいのない話をしながら、隠し事のなくなった私たちは楽しく食事をした。
帰りは尊さんが恵にタクシー代を渡し、私は一度会社に戻ってから、尊さんの車で送ってもらった。
私のマンション前に車がつき、お礼を言って車から降りる。
「じゃあな」
運転席の窓を開けた尊さんが言い、私はチャンス! と思って左右をキョロキョロした。
それから人に見られないように注意しながら、尊さんの頬を両手で包み、チュッとキスをした。
「……お、おやすみなさい。また明日」
踵を返して玄関のドアに向かうと、後ろから声を掛けられた。
「おい」
足を止めた私は、真っ赤になってソロリと振り向く。
(……どうか夜闇に紛れて、赤面してるのバレませんように……)
尊さんは運転席から少しの間私を見ていたけれど、やがてクスッと笑って言った。
「週末、〝お返し〟するからな」
「……う、受けて立ちます」
小さな声で言うと、尊さんはククッと笑ってから窓を閉め、車を発進させた。
「……はぁ、濃い一日だった」
これでまだ月曜日だって言うんだから、一週間は長すぎる。
(でも好きな人と親友が職場にいるから頑張れる)
エントランスに入った私は、ニヤニヤしながらエレベーターのボタンを押したのだった。
**
その週から尊さんは噂の的になったけれど、同時に私たちが抱えていた小さな問題が解決して、新たな一歩を進んだ週でもあった。
『心配ない。会社ではいつも通りに振る舞えばいい』
店を出る時、尊さんがそう言った言葉を信じ、私と恵は普通に業務をこなした。
綾子さんはといえば、周りの人が尊さんの陰口を叩いている事に、めちゃくちゃ怒っている。
同時に『私だけが速水部長を分かってあげられる……!』という世界に入っているので、なんともリアクションがしがたい。
「多分あれ、ファン精神が強いと思うから、本当の恋愛かと言われたら違うと思うけどね」
火曜日、私と恵は社食でランチを食べ、私は彼女の言葉にうんうんと頷く。
「だって彼氏さんいるもんねぇ。一緒に南の島に行く仲の……。でも今付き合ってる彼より部長のほうがハイスペックって分かったら、そっちに鞍替えしちゃうのかな」
たらこスパを食べつつ言うと、ズズッとうどんを啜った恵が首を横に振る。
「それ、怖いでしょ。相手がハイスペなら、どんどん付き合ってる相手を捨ててくの?」
「分かんないけど……」
自信なく言うと、恵が声を潜めて言った。
「こう言うとアレだけど、どれだけ女側がハイスペを求めても、それだけ価値がある女じゃなきゃ、遊ばれて終わりでしょ。部長は朱里しか見てないとか、しつこさを除いたら大体のところは揃ってるから、『料理は得意です!』『若くて綺麗でしょ?』『私、一緒にいると楽しいですよ。盛り上げます!』みたいなのは、お呼びじゃないワケ」
「確かに」
尊さんに愛されている事に胡座をかく訳じゃないけど、恵の言いたい事は分かる。
恵は牛肉のステーキをモグモグしながら頷く。
「デリケートな話題だけど、中村さんは恋愛対象が女性?」
尋ねられて、恵は腕を組みしばし考える。
「んー……。今までろくに恋愛してないから分からないんですが、女性限定ではない気がします。朱里は雁字搦めになっていた私の価値観を変えてくれたから特別なんです。私の心を救ってくれる人がいたら、男性でも特別に思うかもしれませんけど、今のところ、そういう人はいませんね」
「そっか。いや、ただ知りたかっただけなんだ。不快に思ったらすまない」
「全然です。むしろ気を遣われるほうが居心地悪いので、なんかあったらストレートに聞いてくださいよ。……とはいえ、私の気持ちを知ってるのはこの場にいる二人だけなので、クローズドな場所限定ですが」
雰囲気がまじめな感じになったので、私はあえて明るいほうに水を向ける。
「じゃあ、いつか涼さんとダブルデートになったら、四人で虫網持って原っぱ行こうか!」
「朱里、セミファイナル食らって凄い悲鳴上げてたじゃない」
「あれはびっくりしたから」
「セミファイナルは怖ぇよな。『うおっ』てなる」
まさか尊さんまで乗ってくれるとは思わず、私はクスクス笑う。
「尊さんがセミにびっくりしてるの想像するだけで、一週間ぐらいは思いだし笑いできそうです」
「お前なぁ……」
そんなたわいのない話をしながら、隠し事のなくなった私たちは楽しく食事をした。
帰りは尊さんが恵にタクシー代を渡し、私は一度会社に戻ってから、尊さんの車で送ってもらった。
私のマンション前に車がつき、お礼を言って車から降りる。
「じゃあな」
運転席の窓を開けた尊さんが言い、私はチャンス! と思って左右をキョロキョロした。
それから人に見られないように注意しながら、尊さんの頬を両手で包み、チュッとキスをした。
「……お、おやすみなさい。また明日」
踵を返して玄関のドアに向かうと、後ろから声を掛けられた。
「おい」
足を止めた私は、真っ赤になってソロリと振り向く。
(……どうか夜闇に紛れて、赤面してるのバレませんように……)
尊さんは運転席から少しの間私を見ていたけれど、やがてクスッと笑って言った。
「週末、〝お返し〟するからな」
「……う、受けて立ちます」
小さな声で言うと、尊さんはククッと笑ってから窓を閉め、車を発進させた。
「……はぁ、濃い一日だった」
これでまだ月曜日だって言うんだから、一週間は長すぎる。
(でも好きな人と親友が職場にいるから頑張れる)
エントランスに入った私は、ニヤニヤしながらエレベーターのボタンを押したのだった。
**
その週から尊さんは噂の的になったけれど、同時に私たちが抱えていた小さな問題が解決して、新たな一歩を進んだ週でもあった。
『心配ない。会社ではいつも通りに振る舞えばいい』
店を出る時、尊さんがそう言った言葉を信じ、私と恵は普通に業務をこなした。
綾子さんはといえば、周りの人が尊さんの陰口を叩いている事に、めちゃくちゃ怒っている。
同時に『私だけが速水部長を分かってあげられる……!』という世界に入っているので、なんともリアクションがしがたい。
「多分あれ、ファン精神が強いと思うから、本当の恋愛かと言われたら違うと思うけどね」
火曜日、私と恵は社食でランチを食べ、私は彼女の言葉にうんうんと頷く。
「だって彼氏さんいるもんねぇ。一緒に南の島に行く仲の……。でも今付き合ってる彼より部長のほうがハイスペックって分かったら、そっちに鞍替えしちゃうのかな」
たらこスパを食べつつ言うと、ズズッとうどんを啜った恵が首を横に振る。
「それ、怖いでしょ。相手がハイスペなら、どんどん付き合ってる相手を捨ててくの?」
「分かんないけど……」
自信なく言うと、恵が声を潜めて言った。
「こう言うとアレだけど、どれだけ女側がハイスペを求めても、それだけ価値がある女じゃなきゃ、遊ばれて終わりでしょ。部長は朱里しか見てないとか、しつこさを除いたら大体のところは揃ってるから、『料理は得意です!』『若くて綺麗でしょ?』『私、一緒にいると楽しいですよ。盛り上げます!』みたいなのは、お呼びじゃないワケ」
「確かに」
尊さんに愛されている事に胡座をかく訳じゃないけど、恵の言いたい事は分かる。
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