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亮平 編
多分、勘違いしてると思う
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「……美奈歩、話し合おう。今まで耳を貸してこなかった分、美奈歩の言葉を全部聞く。両親が再婚したあと、お前は若菜さんや朱里をどう思っていたか、俺にあまり話さなかった。俺も忙しいふりをして向き合ってこなかった」
「……そう思うようになったのは、あの人のせい?」
美奈歩は拗ねた表情で尋ねる。
「……本音が知りたいから、俺から打ち明けるよ。俺は初めて会った時から、朱里を気にしてた。美人だしとても魅力的だ。だからつい、妹として見ずに一人の女性として意識してしまった。美奈歩はそんな俺を見てずっと嫌な気持ちになっていたと思う。ごめんな」
そう言うと、美奈歩は赤いハート型のクッションを抱き締めて溜め息をつく。
「……私、あの人の事が嫌いだった」
どんな言葉であろうとも、美奈歩の本音を知りたい。
俺が今すべきなのは、妹の心を整理してわだかまりをなくす事だ。
そうする事で、〝何もしなかった罪〟を軽くできたらと願った。
「美人でなんかやだった。世の中色んな美人がいるけど、あの人はツンと澄ましていて『モテて当然』っていうオーラを出してた。私の事も見下してるようだったし、お兄ちゃんやお父さんをデレデレさせて、いい気になってる感じが凄く嫌だった」
美奈歩の言葉を聞いて、俺は「ん?」と目を丸くした。
朱里からはそんな事、一言も聞いていない。
もしも『男なんてちょろい』なんて感情を抱いていたなら、鈍い俺でも少しは感じとったはずだ。
俺は学生時代はあまりパッとしなかったけれど、今はある程度モテる。
合コンに行った時に俺を狙う女性の視線や、アピールする態度や言葉、女性同士のマウントを取り合う雰囲気が分かるようになった。
朱里には『鈍感』と言われたが、家族以外の女性――それも自分にとってマイナスになりそうな存在には、アンテナを立てていた。
男慣れした朱里が俺や父を手玉に取っていたなら、その魔性に気づいていたはずだ。
(俺が朱里に惹かれたのは、外見に似合わない不安定さや自信のなさとか、そういう面だったもんな)
朱里がもっと自分の魅力を優位に使うタイプだったなら、ここまで惹かれなかったと思う。
だから、誤解を与えないように否定しておいた。
「多分、勘違いしてると思う。こう言うと美奈歩は『朱里の味方をした』って怒るだろうけど、あいつはモテて喜ぶタイプじゃないし、美奈歩がそう思っている事を分かってないと思う」
「……なんでそう言えるの?」
妹は不機嫌そうに俺を睨む。
「……今日迎えに行った時、車の中で話したんだよ。……あいつ結婚するって言ってたから、思っていた事を打ち明けてしまった。そしたら今まで家庭内で美奈歩とギクシャクしていた原因が、俺にあると言われて叱られた」
「私の事話してたの? やな感じ」
美奈歩はあからさまな拒否感を醸し出すが、俺は根気強く話す。
「結婚して別の家庭を持つ前に、分かり合いたかったんだよ。美奈歩だって、これからずっと朱里に苦手意識を抱いたまま姉妹として過ごしていくのか?」
そう言うと、美奈歩はクッションに顔の下半分を埋めて黙る。
「俺も父さんも、〝とられて〟ないよ。若菜さんと朱里に気を遣ってはいたけど、美奈歩の存在を疎かにしたつもりはない。でも、お前は母さんがいなくなったあと、家事を頑張ってくれたし、俺と父さんの口数が少ないから、努めて明るく振る舞ってくれた。……それにろくに報いないまま、再婚して若菜さんと朱里がきて、全部うやむやになったよな。ごめん」
恐らく一番引っ掛かっているだろう事を指摘すると、美奈歩はポロッと涙を零した。
「……っだって……、あの母子、美人だし、お兄ちゃんもお父さんもデレデレして、私の事なんてどうでもいいのかと思ってた。お母さんとの思い出も、私たち四人の思い出も、新しい家族にかき消されて〝なかった〟事になりそうで怖かった……っ」
「そんな事ないよ。母さんの事は今も大切に思ってるし、俺と美奈歩はたった二人の兄妹だ。……でも、第二の家族としてやっていくために、〝大切〟を少し増やしていこう。すぐに受け入れなくていいし、大好きにならなくていい。……でも、意地を張って何も話さず拒否するのはやめよう。そんなの、母さんも望んでないよ」
「ん……っ」
美奈歩の頭を撫でると、彼女はボロボロと涙を流して頷いた。
「若菜さんも朱里も、母さんの仏壇に手を合わせてくれるし、墓参りに行った時もとても丁寧に掃除をしてくれてる。血は繋がってなくても、思いやり合う事はできるよ。今からでも遅くない。今度朱里が帰ってきたら、話し合えないか?」
優しく尋ねると、妹は手で涙を拭いながら頷いた。
**
「……そう思うようになったのは、あの人のせい?」
美奈歩は拗ねた表情で尋ねる。
「……本音が知りたいから、俺から打ち明けるよ。俺は初めて会った時から、朱里を気にしてた。美人だしとても魅力的だ。だからつい、妹として見ずに一人の女性として意識してしまった。美奈歩はそんな俺を見てずっと嫌な気持ちになっていたと思う。ごめんな」
そう言うと、美奈歩は赤いハート型のクッションを抱き締めて溜め息をつく。
「……私、あの人の事が嫌いだった」
どんな言葉であろうとも、美奈歩の本音を知りたい。
俺が今すべきなのは、妹の心を整理してわだかまりをなくす事だ。
そうする事で、〝何もしなかった罪〟を軽くできたらと願った。
「美人でなんかやだった。世の中色んな美人がいるけど、あの人はツンと澄ましていて『モテて当然』っていうオーラを出してた。私の事も見下してるようだったし、お兄ちゃんやお父さんをデレデレさせて、いい気になってる感じが凄く嫌だった」
美奈歩の言葉を聞いて、俺は「ん?」と目を丸くした。
朱里からはそんな事、一言も聞いていない。
もしも『男なんてちょろい』なんて感情を抱いていたなら、鈍い俺でも少しは感じとったはずだ。
俺は学生時代はあまりパッとしなかったけれど、今はある程度モテる。
合コンに行った時に俺を狙う女性の視線や、アピールする態度や言葉、女性同士のマウントを取り合う雰囲気が分かるようになった。
朱里には『鈍感』と言われたが、家族以外の女性――それも自分にとってマイナスになりそうな存在には、アンテナを立てていた。
男慣れした朱里が俺や父を手玉に取っていたなら、その魔性に気づいていたはずだ。
(俺が朱里に惹かれたのは、外見に似合わない不安定さや自信のなさとか、そういう面だったもんな)
朱里がもっと自分の魅力を優位に使うタイプだったなら、ここまで惹かれなかったと思う。
だから、誤解を与えないように否定しておいた。
「多分、勘違いしてると思う。こう言うと美奈歩は『朱里の味方をした』って怒るだろうけど、あいつはモテて喜ぶタイプじゃないし、美奈歩がそう思っている事を分かってないと思う」
「……なんでそう言えるの?」
妹は不機嫌そうに俺を睨む。
「……今日迎えに行った時、車の中で話したんだよ。……あいつ結婚するって言ってたから、思っていた事を打ち明けてしまった。そしたら今まで家庭内で美奈歩とギクシャクしていた原因が、俺にあると言われて叱られた」
「私の事話してたの? やな感じ」
美奈歩はあからさまな拒否感を醸し出すが、俺は根気強く話す。
「結婚して別の家庭を持つ前に、分かり合いたかったんだよ。美奈歩だって、これからずっと朱里に苦手意識を抱いたまま姉妹として過ごしていくのか?」
そう言うと、美奈歩はクッションに顔の下半分を埋めて黙る。
「俺も父さんも、〝とられて〟ないよ。若菜さんと朱里に気を遣ってはいたけど、美奈歩の存在を疎かにしたつもりはない。でも、お前は母さんがいなくなったあと、家事を頑張ってくれたし、俺と父さんの口数が少ないから、努めて明るく振る舞ってくれた。……それにろくに報いないまま、再婚して若菜さんと朱里がきて、全部うやむやになったよな。ごめん」
恐らく一番引っ掛かっているだろう事を指摘すると、美奈歩はポロッと涙を零した。
「……っだって……、あの母子、美人だし、お兄ちゃんもお父さんもデレデレして、私の事なんてどうでもいいのかと思ってた。お母さんとの思い出も、私たち四人の思い出も、新しい家族にかき消されて〝なかった〟事になりそうで怖かった……っ」
「そんな事ないよ。母さんの事は今も大切に思ってるし、俺と美奈歩はたった二人の兄妹だ。……でも、第二の家族としてやっていくために、〝大切〟を少し増やしていこう。すぐに受け入れなくていいし、大好きにならなくていい。……でも、意地を張って何も話さず拒否するのはやめよう。そんなの、母さんも望んでないよ」
「ん……っ」
美奈歩の頭を撫でると、彼女はボロボロと涙を流して頷いた。
「若菜さんも朱里も、母さんの仏壇に手を合わせてくれるし、墓参りに行った時もとても丁寧に掃除をしてくれてる。血は繋がってなくても、思いやり合う事はできるよ。今からでも遅くない。今度朱里が帰ってきたら、話し合えないか?」
優しく尋ねると、妹は手で涙を拭いながら頷いた。
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