154 / 417
亮平 編
ちょっと話があるんだけど
しおりを挟む
「ただいま」
実家に帰ると、二階から美奈歩が下りてきた。
「おかえり! お兄ちゃん」
四つ歳が離れているからか、美奈歩とは喧嘩らしい喧嘩をした事がない。
周囲から『亮平はのんびりした性格だから』と言われるのもあるからかもしれない。
美奈歩は朱里には当たりが強いらしいが、俺の目から見るとちょっと可愛い我が儘は言うものの、家族想いのいい妹だ。
だから知らないところで朱里が苦労していたのに、気づいてやれなかった。
「亮平くん、お帰り。朱里は延期みたいね。迎えに行ってくれたみたいなのに、ごめんなさいね」
若菜さんがリビングから出てきて、気遣うような笑みを浮かべる。
「事情があったから仕方ないよ」
詳細を言う訳にいかず、俺は苦笑いして誤魔化す。
本当ならあのあと三人で上村家へ向かっても良かったが、速水さんがこう言ったのだ。
『予告せずいきなり俺が現れたら、ご家族に気を遣わせるでしょう。それに亮平さんだってこれからすぐ家族で……となれば、落ち着かないんじゃないですか? 俺が朱里を呼び出したと言っていいですから、一旦仕切り直ししましょう』
自分を悪者にしてでも周囲の事を考えられる彼が、とても大人に思えた。
『何より、朱里のメンタルを大切にしたいんです。今日の事で少なからず動揺していると思います。亮平さんとのわだかまりが解決したとはいえ、これから一緒に実家に帰る気持ちにはなれていないでしょう。誰も無理をせず、気持ちが整った時に晴れやかな気持ちでお話するのが一番です』
速水さんの言葉を聞いて、俺がいかに朱里の気持ちを考えていなかったか思い知らされた。
朱里だけじゃない。元カノも美奈歩も、きちんと気持ちを確かめず『こうしたら嬉しいだろう』という推測だけで生きてきた。
本当は本人にきちんと確認し、何でも言い合える仲になるのが大切なのに。
今になって速水さんに言われた言葉が胸を刺す。
『それで〝心の声〟が多いものだから、割と自分一人で納得した状態で行動してしまう事がある。だから他者から〝行動が突然〟と驚かれませんか?』
物事をよく考えるほうとは思っていたが、第三者から見るとそう映っていたとは思わなかった。
彼はとてもストレートに俺の本質を見抜いたが、決して〝攻撃〟してこなかった。
態度や言葉の底にきちんと敬意があったから、俺も彼の言葉を素直に聞けた。
(敵わないな……)
横浜での事を思いだして苦笑した時、美奈歩が不満そうな声を出した。
「えー? 来るって言ってたのにドタキャン? あり得ないんですけど」
あとは俺が、きちんと美奈歩と話し合わないと。
「美奈歩、お土産」
そう言って、俺は用意していた高級ブランドのチョコレートを渡した。
小さな箱だが味は確かなので、たびたび実家に帰っている土産としては上等なほうだろう。
「お継母さんも」
「あら、ありがとう~! コーヒー淹れるわね」
若菜さんはウキウキしてリビングに向かった。
「美奈歩、ちょっと話があるんだけど」
「ん? 何?」
指で上を示すと、彼女は先に二階に上がる。
上村家は一般的な家の作りをしていて、両親は一階にある寝室で寝ている。
二階には部屋が四部屋あり、チェストや観葉植物を置いたホールとトイレがある。
美奈歩の部屋につくと、俺は床の上に座った。
「なに?」
彼女はソファに座って、ニコニコして尋ねてきた。
「……朱里の事だけど」
だがそう切り出すと、美奈歩の表情が分かりやすく曇る。
「……言いにくいけど、俺に見えないところで朱里を悪く言ってた?」
尋ねると、美奈歩は顔を強張らせて言った。
「あの人に言われたの?」
どう言ったらいいものか考えていると、みるみる美奈歩の表情に嫌悪が含まれていくのが分かった。
その表情を、俺は今まで何回も見ていた。
見ていながら理由を考えようとせず、目を逸らして自分の事だけを考えていた。
(……だから朱里が傷付いていたんだ)
反省すると同時に、美奈歩だけを悪者にしてはいけないと思った。
両者の意見を聞かずに、一方の言葉を鵜呑みにして誰かを糾弾するほど、俺も愚かではないつもりだ。
実家に帰ると、二階から美奈歩が下りてきた。
「おかえり! お兄ちゃん」
四つ歳が離れているからか、美奈歩とは喧嘩らしい喧嘩をした事がない。
周囲から『亮平はのんびりした性格だから』と言われるのもあるからかもしれない。
美奈歩は朱里には当たりが強いらしいが、俺の目から見るとちょっと可愛い我が儘は言うものの、家族想いのいい妹だ。
だから知らないところで朱里が苦労していたのに、気づいてやれなかった。
「亮平くん、お帰り。朱里は延期みたいね。迎えに行ってくれたみたいなのに、ごめんなさいね」
若菜さんがリビングから出てきて、気遣うような笑みを浮かべる。
「事情があったから仕方ないよ」
詳細を言う訳にいかず、俺は苦笑いして誤魔化す。
本当ならあのあと三人で上村家へ向かっても良かったが、速水さんがこう言ったのだ。
『予告せずいきなり俺が現れたら、ご家族に気を遣わせるでしょう。それに亮平さんだってこれからすぐ家族で……となれば、落ち着かないんじゃないですか? 俺が朱里を呼び出したと言っていいですから、一旦仕切り直ししましょう』
自分を悪者にしてでも周囲の事を考えられる彼が、とても大人に思えた。
『何より、朱里のメンタルを大切にしたいんです。今日の事で少なからず動揺していると思います。亮平さんとのわだかまりが解決したとはいえ、これから一緒に実家に帰る気持ちにはなれていないでしょう。誰も無理をせず、気持ちが整った時に晴れやかな気持ちでお話するのが一番です』
速水さんの言葉を聞いて、俺がいかに朱里の気持ちを考えていなかったか思い知らされた。
朱里だけじゃない。元カノも美奈歩も、きちんと気持ちを確かめず『こうしたら嬉しいだろう』という推測だけで生きてきた。
本当は本人にきちんと確認し、何でも言い合える仲になるのが大切なのに。
今になって速水さんに言われた言葉が胸を刺す。
『それで〝心の声〟が多いものだから、割と自分一人で納得した状態で行動してしまう事がある。だから他者から〝行動が突然〟と驚かれませんか?』
物事をよく考えるほうとは思っていたが、第三者から見るとそう映っていたとは思わなかった。
彼はとてもストレートに俺の本質を見抜いたが、決して〝攻撃〟してこなかった。
態度や言葉の底にきちんと敬意があったから、俺も彼の言葉を素直に聞けた。
(敵わないな……)
横浜での事を思いだして苦笑した時、美奈歩が不満そうな声を出した。
「えー? 来るって言ってたのにドタキャン? あり得ないんですけど」
あとは俺が、きちんと美奈歩と話し合わないと。
「美奈歩、お土産」
そう言って、俺は用意していた高級ブランドのチョコレートを渡した。
小さな箱だが味は確かなので、たびたび実家に帰っている土産としては上等なほうだろう。
「お継母さんも」
「あら、ありがとう~! コーヒー淹れるわね」
若菜さんはウキウキしてリビングに向かった。
「美奈歩、ちょっと話があるんだけど」
「ん? 何?」
指で上を示すと、彼女は先に二階に上がる。
上村家は一般的な家の作りをしていて、両親は一階にある寝室で寝ている。
二階には部屋が四部屋あり、チェストや観葉植物を置いたホールとトイレがある。
美奈歩の部屋につくと、俺は床の上に座った。
「なに?」
彼女はソファに座って、ニコニコして尋ねてきた。
「……朱里の事だけど」
だがそう切り出すと、美奈歩の表情が分かりやすく曇る。
「……言いにくいけど、俺に見えないところで朱里を悪く言ってた?」
尋ねると、美奈歩は顔を強張らせて言った。
「あの人に言われたの?」
どう言ったらいいものか考えていると、みるみる美奈歩の表情に嫌悪が含まれていくのが分かった。
その表情を、俺は今まで何回も見ていた。
見ていながら理由を考えようとせず、目を逸らして自分の事だけを考えていた。
(……だから朱里が傷付いていたんだ)
反省すると同時に、美奈歩だけを悪者にしてはいけないと思った。
両者の意見を聞かずに、一方の言葉を鵜呑みにして誰かを糾弾するほど、俺も愚かではないつもりだ。
38
お気に入りに追加
817
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる