153 / 417
亮平 編
いい男すぎるだろ
しおりを挟む
俺はハンドルを握りながら、何度目になるか分からない溜め息をつく。
まるで失恋したような気持ちだ。
両親が再婚した時から、朱里の事を可愛いと思っていた。
滅多に見られない美少女で、その当時から胸が大きくて魅力的だった。
さぞ学校ではモテているのだろうと思いきや、あまり人付き合いがないと知って意外に思った。
朱里は、俺の中にある『美人は遊び慣れている』という偏見を覆した。
俺は大学卒業まで実家で暮らしていたが、覚えている限り朱里はあまり長い時間家にいなかった。
朱里は学校帰りは友達と遊ぶか、バイトに打ち込んでいた。
バイト先で客から言い寄られたのが嫌で、途中から裏方の仕事をするようになった。それを聞いて『嬉しくないんだ……』と驚いたのを覚えている。
朱里は田村昭人という同級生と付き合っていたが、物凄く好きで堪らないという様子ではなかった。
『モテるのに男に興味がない。彼氏にベタ惚れな訳でもない。朱里は何を望んでいるんだろう?』
次第に俺は彼女が何を考えているのか知りたくなり、観察するようになる。
朱里は飯を食っているだけでも絵になる。
食べる事は好きみたいで、美味そうにパクパク食べている。好き嫌いもほぼない。
小さい口を動かしている朱里をぼんやり見ていると、隣に座っている美奈歩から蹴られる事がたびたびあった。
実妹として『みっともなく見とれるな』と思っていたのは分かっていたが、もっと深い意味が込められているとは知らなかった。
美奈歩の気持ちが分からないぐらい、俺は朱里に夢中になっていった。
そこにいるだけで美しく、ずっと見ていて飽きない。
いい匂いがして、あの大きな胸に触ってみたい……、のをグッと堪えた。それをしたら犯罪になる事ぐらい分かっている。
だから、一線を越えないよう気をつけた。
でも触ってみたくて、側に居たくて……、……その気持ちが朱里を余計に遠ざける結果になり、姉妹の軋轢を生んだとは思っていなかった。
「……鈍感、か……」
付き合っていた彼女とは、いい関係だった。
元勤めていたゲーム会社の同僚で、お互い尊重できたし仕事の理解もあり、高価な物に興味を持たない人で、気楽に付き合えた。
でも記念日には少し値の張る贈り物をして、喜んでもらえていたと思っている。
恋人には朱里を、父の再婚相手の連れ子と説明し、会話中に頻繁に名前を出した覚えはなかった。
ただ、彼女は俺を真剣に想ってくれていたから、ピンときたのかもしれない。
自分の恋人は、心の中に自分ではない〝誰か〟を住まわせ、気にかけ続けていると。
『私は亮平くんの事が好きだけど、君はそれほどじゃないみたい。このまま一緒にいても幸せにはなれない気がするから、一旦距離を置こうか』
そう言われて初めて、自分が彼女に不誠実な態度を取り、朱里の事ばかり気にしていたのを知った。
――どうすればいいんだ。
血が繋がっていないとはいえ、兄が妹を好きになるなんて駄目だ。
連れ子同士なら法律的に問題ないだろうし、世間にはそういうカップル、夫婦もいるだろう。
でも再婚して、久しぶりに幸せそうな父を困らせたくないし、若菜さんだって見えないところで苦労して、ようやく上村家に溶け込んだのを知っている。
自分の気持ち一つで家族を崩壊させるなど、あってはいけない。
だから我慢して、この想いを秘めて風化させようと思っていたのに。
『結婚するつもりだから、その内ちゃんと連れてくる』
年末のあの言葉を聞いて、気持ちがグラッと揺れた。
――このままでは朱里は他の男のものになる。
――俺が代わりに結婚したいなんて思ってない。でもちょっとぐらい……。
その〝ちょっと〟で、自分の人生を壊すつもりはない。ただ、今までろくに話せなかった分、ゆっくり向き合ってみたかっただけだ。
けど、その結果……。
「……問題は俺自身か」
あんなに気になっていたのに、実は朱里の事を真剣に好きな訳じゃなかったと思い知らされ、少しショックだった。
「……しかも速水さん、……いい男すぎるだろ」
俺は仕事を頑張り、色んなもののステータスを上げてきたつもりだった。なのに彼のような〝本物〟を前にすると、一気に自信がなくなる。
「世の中、色んな人がいるんだなぁ……。会社の先輩や凄腕エンジニアに憧れてるぐらいじゃ、まだまだだ」
そんな俺が、実は速水さんは総資産が数億を超える投資家で、篠宮フーズの御曹司と知るのは後日の事で……。
まるで失恋したような気持ちだ。
両親が再婚した時から、朱里の事を可愛いと思っていた。
滅多に見られない美少女で、その当時から胸が大きくて魅力的だった。
さぞ学校ではモテているのだろうと思いきや、あまり人付き合いがないと知って意外に思った。
朱里は、俺の中にある『美人は遊び慣れている』という偏見を覆した。
俺は大学卒業まで実家で暮らしていたが、覚えている限り朱里はあまり長い時間家にいなかった。
朱里は学校帰りは友達と遊ぶか、バイトに打ち込んでいた。
バイト先で客から言い寄られたのが嫌で、途中から裏方の仕事をするようになった。それを聞いて『嬉しくないんだ……』と驚いたのを覚えている。
朱里は田村昭人という同級生と付き合っていたが、物凄く好きで堪らないという様子ではなかった。
『モテるのに男に興味がない。彼氏にベタ惚れな訳でもない。朱里は何を望んでいるんだろう?』
次第に俺は彼女が何を考えているのか知りたくなり、観察するようになる。
朱里は飯を食っているだけでも絵になる。
食べる事は好きみたいで、美味そうにパクパク食べている。好き嫌いもほぼない。
小さい口を動かしている朱里をぼんやり見ていると、隣に座っている美奈歩から蹴られる事がたびたびあった。
実妹として『みっともなく見とれるな』と思っていたのは分かっていたが、もっと深い意味が込められているとは知らなかった。
美奈歩の気持ちが分からないぐらい、俺は朱里に夢中になっていった。
そこにいるだけで美しく、ずっと見ていて飽きない。
いい匂いがして、あの大きな胸に触ってみたい……、のをグッと堪えた。それをしたら犯罪になる事ぐらい分かっている。
だから、一線を越えないよう気をつけた。
でも触ってみたくて、側に居たくて……、……その気持ちが朱里を余計に遠ざける結果になり、姉妹の軋轢を生んだとは思っていなかった。
「……鈍感、か……」
付き合っていた彼女とは、いい関係だった。
元勤めていたゲーム会社の同僚で、お互い尊重できたし仕事の理解もあり、高価な物に興味を持たない人で、気楽に付き合えた。
でも記念日には少し値の張る贈り物をして、喜んでもらえていたと思っている。
恋人には朱里を、父の再婚相手の連れ子と説明し、会話中に頻繁に名前を出した覚えはなかった。
ただ、彼女は俺を真剣に想ってくれていたから、ピンときたのかもしれない。
自分の恋人は、心の中に自分ではない〝誰か〟を住まわせ、気にかけ続けていると。
『私は亮平くんの事が好きだけど、君はそれほどじゃないみたい。このまま一緒にいても幸せにはなれない気がするから、一旦距離を置こうか』
そう言われて初めて、自分が彼女に不誠実な態度を取り、朱里の事ばかり気にしていたのを知った。
――どうすればいいんだ。
血が繋がっていないとはいえ、兄が妹を好きになるなんて駄目だ。
連れ子同士なら法律的に問題ないだろうし、世間にはそういうカップル、夫婦もいるだろう。
でも再婚して、久しぶりに幸せそうな父を困らせたくないし、若菜さんだって見えないところで苦労して、ようやく上村家に溶け込んだのを知っている。
自分の気持ち一つで家族を崩壊させるなど、あってはいけない。
だから我慢して、この想いを秘めて風化させようと思っていたのに。
『結婚するつもりだから、その内ちゃんと連れてくる』
年末のあの言葉を聞いて、気持ちがグラッと揺れた。
――このままでは朱里は他の男のものになる。
――俺が代わりに結婚したいなんて思ってない。でもちょっとぐらい……。
その〝ちょっと〟で、自分の人生を壊すつもりはない。ただ、今までろくに話せなかった分、ゆっくり向き合ってみたかっただけだ。
けど、その結果……。
「……問題は俺自身か」
あんなに気になっていたのに、実は朱里の事を真剣に好きな訳じゃなかったと思い知らされ、少しショックだった。
「……しかも速水さん、……いい男すぎるだろ」
俺は仕事を頑張り、色んなもののステータスを上げてきたつもりだった。なのに彼のような〝本物〟を前にすると、一気に自信がなくなる。
「世の中、色んな人がいるんだなぁ……。会社の先輩や凄腕エンジニアに憧れてるぐらいじゃ、まだまだだ」
そんな俺が、実は速水さんは総資産が数億を超える投資家で、篠宮フーズの御曹司と知るのは後日の事で……。
47
お気に入りに追加
817
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる