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家デート 編
マレーナ
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ドライブを経て東京に戻った私は、尊さんの家にお邪魔した。
「夕方だけど、飯どうする?」
「まだお腹空いてないです。食べろって言われたら食べれますけど」
「いや、やめとこう。少しゆっくりして、二十時ぐらいになったらラーメンでも食うか」
「やった! ラーメン! チャーシュー麺食べます! 煮卵と海苔とメンマもトッピング」
「頼もしいわ……」
「また『俺、おっさんだから……』とか言うんですか? 尊さん、結構食べるじゃないですか」
「やー、物によりかな? いけるのはいけるけど、背脂ギラギラにんにくたっぷりはつらくなってきた。揚げ物も使ってる油によってはきついかなぁ……」
遠い目で言うものだから、私までしょんぼりしてしまう。
「寂しい事言わないでくださいよ」
「や、行きつけの店のはまだまだ大丈夫だけど。今度、美味いとんかつ屋とか天ぷら屋、連れてくよ」
「はい!」
ソファに座ってスマホを見ていると、尊さんがコーヒーを淹れてお茶菓子も出してくれる。今日のお供はプレスバターサンドだ。間違いない。
「そうだ、さっき言ってた『マレーナ』って映画、どんなのです?」
「ん? じゃあ、一緒に見るか? 確か配信にあったはずだけど」
そう言って尊さんはリモコンを操作して、映画を検索する。
映画好きの彼らしく、複数の配信番組を契約してるみたいで、大抵のものは見られるそうだ。その中でも特にお気に入りの映画は、ブルーレイを買ってコレクションしている。
再生された映画は、戦時中のイタリアを舞台にした2000年公開の作品だ。
若くて美しい未亡人のマレーナは、町中の男性の視線を釘付けにし、主人公の少年レナートからストーキングと言っていいほど執拗に観察されている。
歩いているだけで『いいケツ』と言われて口笛を吹かれ、少し綺麗な服を着ているからといって、質素な服を着た女性たちからは『ふしだら』扱いされる。
マレーナ自身は戦死した夫に操を立て、目の見えない父の面倒を見ているだけなのに、周囲から様々な人と関係していると思い込まれている。
やがてとある事件を経て、マレーナは娼婦になってしまう。
髪を短くして染め、体のラインが出る服を着た彼女が煙草を出せば、周囲にいる男性が〝期待〟して火を差しだしてくる。
その後、彼女は事情によって街を去ったが、マレーナとしてはハッピーエンドに終わる。
けど、見ていた私としてはどこかモヤモヤが残るラストだ。
「……なんか、戦時中を題材にした映画っていうのもあるけど、色々酷いですね。や、時代的にこういうものだっていうのは分かるんですけど、あまりにも色んなものが露骨で……」
「まあな。でも現代でもこういう価値観の人がいるのは確かだ。それに、女が女に嫉妬して攻撃するのは今も同じだろ? 男が美しい女性の内面を知ろうとせず、『妖艶な彼女なら経験豊富で多数の男と関係しているに違いない』と思い込むところとか」
「……そうですね」
昼間、尊さんが例え話としてこの映画を出した理由が分かった。
ここまで露骨ではないけれど、根幹となる感情は同じだ。
「ある意味、教訓なのかもしれないですね」
理解したは理解したけど、なんとなく気持ちが暗くなってしまった。
「……尊さん、チッス」
私はソファに座った彼の腰をまたぎ、チュッチュッとキスをする。
「よしよし」
彼は微笑んでキスに応じながら、リモコンを操作してムードのあるジャズを流し始めた。
ゆったりとしたジャズを聴きながら、私は尊さんの唇をついばみ、舌を吸われる。
ドキドキして体が熱くなった頃、私は溜め息をついて彼の肩口に顔を埋めた。
今日はニットワンピースだから、一枚脱ぐなんてできない。脱いでしまったらゴングが鳴ってしまう。
尊さんもそれを分かっているからか、黙って私を抱き締めていた。
本当はタイミングなんて関係なく愛し合いたいけど、ご飯を食べに行くとか予定を立てたのが台無しになると、『私の欲のせいで……』と反省してしまう。
なので私から『抱いて!』とアピールする時は、あとは寝るだけという時に決めている。
「……亮平に釘を刺してくれて、ありがとうございます」
「ん? あぁ、お安いご用だよ。本当はもっとビシッと言ったほうが良かったかもしれないけど、今後の事を考えて友好的な手段をとっておいた。期待に添えなかったら悪かったな」
「ううん。私はカッとなりやすいけど、尊さんはとても大人です。逆にあなたの対応を見て自分がとても子供っぽい感情に囚われていたと自覚しました」
そう言うと、尊さんはフハッと力が抜けたように笑った。
「本当はガツッと言いたかったけどな。あんなふうに電話を切られたら、犯罪に巻き込まれたのかと思って心臓が止まっちまう。それに朱里がずっと嫌な思いをしてた件についても腹が立つ。何してくれてるんだよ、って思うよ、そりゃ」
そこまで言い、尊さんは長く細く息を吐いた。
「……でも、殴って怒鳴って終わり、は駄目だ。一方がスッキリしても、もう一方はモヤモヤしたままだ。平和的に解決するには、双方の納得が必要になる」
「夕方だけど、飯どうする?」
「まだお腹空いてないです。食べろって言われたら食べれますけど」
「いや、やめとこう。少しゆっくりして、二十時ぐらいになったらラーメンでも食うか」
「やった! ラーメン! チャーシュー麺食べます! 煮卵と海苔とメンマもトッピング」
「頼もしいわ……」
「また『俺、おっさんだから……』とか言うんですか? 尊さん、結構食べるじゃないですか」
「やー、物によりかな? いけるのはいけるけど、背脂ギラギラにんにくたっぷりはつらくなってきた。揚げ物も使ってる油によってはきついかなぁ……」
遠い目で言うものだから、私までしょんぼりしてしまう。
「寂しい事言わないでくださいよ」
「や、行きつけの店のはまだまだ大丈夫だけど。今度、美味いとんかつ屋とか天ぷら屋、連れてくよ」
「はい!」
ソファに座ってスマホを見ていると、尊さんがコーヒーを淹れてお茶菓子も出してくれる。今日のお供はプレスバターサンドだ。間違いない。
「そうだ、さっき言ってた『マレーナ』って映画、どんなのです?」
「ん? じゃあ、一緒に見るか? 確か配信にあったはずだけど」
そう言って尊さんはリモコンを操作して、映画を検索する。
映画好きの彼らしく、複数の配信番組を契約してるみたいで、大抵のものは見られるそうだ。その中でも特にお気に入りの映画は、ブルーレイを買ってコレクションしている。
再生された映画は、戦時中のイタリアを舞台にした2000年公開の作品だ。
若くて美しい未亡人のマレーナは、町中の男性の視線を釘付けにし、主人公の少年レナートからストーキングと言っていいほど執拗に観察されている。
歩いているだけで『いいケツ』と言われて口笛を吹かれ、少し綺麗な服を着ているからといって、質素な服を着た女性たちからは『ふしだら』扱いされる。
マレーナ自身は戦死した夫に操を立て、目の見えない父の面倒を見ているだけなのに、周囲から様々な人と関係していると思い込まれている。
やがてとある事件を経て、マレーナは娼婦になってしまう。
髪を短くして染め、体のラインが出る服を着た彼女が煙草を出せば、周囲にいる男性が〝期待〟して火を差しだしてくる。
その後、彼女は事情によって街を去ったが、マレーナとしてはハッピーエンドに終わる。
けど、見ていた私としてはどこかモヤモヤが残るラストだ。
「……なんか、戦時中を題材にした映画っていうのもあるけど、色々酷いですね。や、時代的にこういうものだっていうのは分かるんですけど、あまりにも色んなものが露骨で……」
「まあな。でも現代でもこういう価値観の人がいるのは確かだ。それに、女が女に嫉妬して攻撃するのは今も同じだろ? 男が美しい女性の内面を知ろうとせず、『妖艶な彼女なら経験豊富で多数の男と関係しているに違いない』と思い込むところとか」
「……そうですね」
昼間、尊さんが例え話としてこの映画を出した理由が分かった。
ここまで露骨ではないけれど、根幹となる感情は同じだ。
「ある意味、教訓なのかもしれないですね」
理解したは理解したけど、なんとなく気持ちが暗くなってしまった。
「……尊さん、チッス」
私はソファに座った彼の腰をまたぎ、チュッチュッとキスをする。
「よしよし」
彼は微笑んでキスに応じながら、リモコンを操作してムードのあるジャズを流し始めた。
ゆったりとしたジャズを聴きながら、私は尊さんの唇をついばみ、舌を吸われる。
ドキドキして体が熱くなった頃、私は溜め息をついて彼の肩口に顔を埋めた。
今日はニットワンピースだから、一枚脱ぐなんてできない。脱いでしまったらゴングが鳴ってしまう。
尊さんもそれを分かっているからか、黙って私を抱き締めていた。
本当はタイミングなんて関係なく愛し合いたいけど、ご飯を食べに行くとか予定を立てたのが台無しになると、『私の欲のせいで……』と反省してしまう。
なので私から『抱いて!』とアピールする時は、あとは寝るだけという時に決めている。
「……亮平に釘を刺してくれて、ありがとうございます」
「ん? あぁ、お安いご用だよ。本当はもっとビシッと言ったほうが良かったかもしれないけど、今後の事を考えて友好的な手段をとっておいた。期待に添えなかったら悪かったな」
「ううん。私はカッとなりやすいけど、尊さんはとても大人です。逆にあなたの対応を見て自分がとても子供っぽい感情に囚われていたと自覚しました」
そう言うと、尊さんはフハッと力が抜けたように笑った。
「本当はガツッと言いたかったけどな。あんなふうに電話を切られたら、犯罪に巻き込まれたのかと思って心臓が止まっちまう。それに朱里がずっと嫌な思いをしてた件についても腹が立つ。何してくれてるんだよ、って思うよ、そりゃ」
そこまで言い、尊さんは長く細く息を吐いた。
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