【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
157 / 780
家デート 編

マレーナ

しおりを挟む
 ドライブを経て東京に戻った私は、尊さんの家にお邪魔した。

「夕方だけど、飯どうする?」

「まだお腹空いてないです。食べろって言われたら食べれますけど」

「いや、やめとこう。少しゆっくりして、二十時ぐらいになったらラーメンでも食うか」

「やった! ラーメン! チャーシュー麺食べます! 煮卵と海苔とメンマもトッピング」

「頼もしいわ……」

「また『俺、おっさんだから……』とか言うんですか? 尊さん、結構食べるじゃないですか」

「やー、物によりかな? いけるのはいけるけど、背脂ギラギラにんにくたっぷりはつらくなってきた。揚げ物も使ってる油によってはきついかなぁ……」

 遠い目で言うものだから、私までしょんぼりしてしまう。

「寂しい事言わないでくださいよ」

「や、行きつけの店のはまだまだ大丈夫だけど。今度、美味いとんかつ屋とか天ぷら屋、連れてくよ」

「はい!」

 ソファに座ってスマホを見ていると、尊さんがコーヒーを淹れてお茶菓子も出してくれる。今日のお供はプレスバターサンドだ。間違いない。

「そうだ、さっき言ってた『マレーナ』って映画、どんなのです?」

「ん? じゃあ、一緒に見るか? 確か配信にあったはずだけど」

 そう言って尊さんはリモコンを操作して、映画を検索する。

 映画好きの彼らしく、複数の配信番組を契約してるみたいで、大抵のものは見られるそうだ。その中でも特にお気に入りの映画は、ブルーレイを買ってコレクションしている。

 再生された映画は、戦時中のイタリアを舞台にした2000年公開の作品だ。

 若くて美しい未亡人のマレーナは、町中の男性の視線を釘付けにし、主人公の少年レナートからストーキングと言っていいほど執拗に観察されている。

 歩いているだけで『いいケツ』と言われて口笛を吹かれ、少し綺麗な服を着ているからといって、質素な服を着た女性たちからは『ふしだら』扱いされる。

 マレーナ自身は戦死した夫に操を立て、目の見えない父の面倒を見ているだけなのに、周囲から様々な人と関係していると思い込まれている。

 やがてとある事件を経て、マレーナは娼婦になってしまう。

 髪を短くして染め、体のラインが出る服を着た彼女が煙草を出せば、周囲にいる男性が〝期待〟して火を差しだしてくる。

 その後、彼女は事情によって街を去ったが、マレーナとしてはハッピーエンドに終わる。

 けど、見ていた私としてはどこかモヤモヤが残るラストだ。

「……なんか、戦時中を題材にした映画っていうのもあるけど、色々酷いですね。や、時代的にこういうものだっていうのは分かるんですけど、あまりにも色んなものが露骨で……」

「まあな。でも現代でもこういう価値観の人がいるのは確かだ。それに、女が女に嫉妬して攻撃するのは今も同じだろ? 男が美しい女性の内面を知ろうとせず、『妖艶な彼女なら経験豊富で多数の男と関係しているに違いない』と思い込むところとか」

「……そうですね」

 昼間、尊さんが例え話としてこの映画を出した理由が分かった。

 ここまで露骨ではないけれど、根幹となる感情は同じだ。

「ある意味、教訓なのかもしれないですね」

 理解したは理解したけど、なんとなく気持ちが暗くなってしまった。

「……尊さん、チッス」

 私はソファに座った彼の腰をまたぎ、チュッチュッとキスをする。

「よしよし」

 彼は微笑んでキスに応じながら、リモコンを操作してムードのあるジャズを流し始めた。

 ゆったりとしたジャズを聴きながら、私は尊さんの唇をついばみ、舌を吸われる。

 ドキドキして体が熱くなった頃、私は溜め息をついて彼の肩口に顔を埋めた。

 今日はニットワンピースだから、一枚脱ぐなんてできない。脱いでしまったらゴングが鳴ってしまう。

 尊さんもそれを分かっているからか、黙って私を抱き締めていた。

 本当はタイミングなんて関係なく愛し合いたいけど、ご飯を食べに行くとか予定を立てたのが台無しになると、『私の欲のせいで……』と反省してしまう。

 なので私から『抱いて!』とアピールする時は、あとは寝るだけという時に決めている。

「……亮平に釘を刺してくれて、ありがとうございます」

「ん? あぁ、お安いご用だよ。本当はもっとビシッと言ったほうが良かったかもしれないけど、今後の事を考えて友好的な手段をとっておいた。期待に添えなかったら悪かったな」

「ううん。私はカッとなりやすいけど、尊さんはとても大人です。逆にあなたの対応を見て自分がとても子供っぽい感情に囚われていたと自覚しました」

 そう言うと、尊さんはフハッと力が抜けたように笑った。

「本当はガツッと言いたかったけどな。あんなふうに電話を切られたら、犯罪に巻き込まれたのかと思って心臓が止まっちまう。それに朱里がずっと嫌な思いをしてた件についても腹が立つ。何してくれてるんだよ、って思うよ、そりゃ」

 そこまで言い、尊さんは長く細く息を吐いた。

「……でも、殴って怒鳴って終わり、は駄目だ。一方がスッキリしても、もう一方はモヤモヤしたままだ。平和的に解決するには、双方の納得が必要になる」
しおりを挟む
感想 2,463

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの? 理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。 大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。 彼女は次第に恨むようになっていく。 隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。 しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

処理中です...