【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
145 / 778
亮平 編

なんで私に構うの?

しおりを挟む
「返して!」

「危ないからやめろ」

 手を伸ばそうとしたけれど、リーチの長い左腕で防がれ、今は運転中なのだと思いだして諦めた。

「…………最悪」

 私は吐き捨てるように言い、また横を向くと悔し涙を乱暴に拭う。

 しばらく、二人とも無言になった。

「……結婚する相手、尊っていうのか?」

 尋ねられたけど、私は亮平の言葉を無視する。

 話しているうちに車は進み、多摩川を越えて川崎市に入っていた。

「……乱暴な真似をしたのは悪かったって」

「ならスマホ返して」

「……今は俺と話をしてるんだろ?」

「……うっざ」

「子供みたいな反応、やめろよ。二十六歳だろ」

「申し訳ございませんでした。以後気をつけます。ところで、一方的に貴重品を取り上げておきながら、会話を強要するのは如何なものかと思います。ご自分のしている事がパワハラだと気づいていらっしゃいますか?」

「……あのなぁ……」

 亮平は疲れたように溜め息をつき、髪を掻き上げる。

 またしばらくしたあと、私は心から疑問に思っている事を言った。

「……なんで私に構うの? 今まで無関心だったなら、それを貫いてよ。結婚するって知ったからって、ちょっかい掛けてこないで」

 まじめなトーンで言ったからか、亮平も本音で返してくる。

「……びっくりしたんだよ。……去年フラれたって言ってずっと引きずってたのに、急に付き合ったと思ったら結婚する? ……俺の知らないところで何があったのか、ついていけなかった」

「私がどう過ごしてるかなんて、亮平に報告する義務はないと思う。〝家族〟としてなら、今日これから家でちゃんと伝えるつもりだった。それじゃ駄目なの? なんでいきなり行き先を変えたの?」

 亮平はしばらく黙ったあと、深い溜め息をついた。

「……このままじゃ駄目だと思った。朱里と中途半端な関係のまま、結婚されてずっと話せなくなるのは嫌だった」

「こんな強引な事をして私が好意を持つとでも思った? 中途半端な関係ってなに? 兄妹でしょう? 元彼みたいな言い方するのやめてよ」

 冷たく言うと、亮平はドリンクホルダーに置いていたコーヒーを飲んだ。

「……俺には朱里みたいなまっすぐな強さがない。朱里は逆境においても凜と咲く花みたいな魅力がある。そういうところに惹かれて、強さの源は何なのか、もっと深く知りたかった」

「……ならそう言えばいいじゃない。私はエスパーじゃないから察する事はできない。兄妹として話したいって言ってくれたなら、いつでも応じたのに」

 これで、ようやく本音で話せるんだろうか。長かったし、疲れた。

「……お前は強くて綺麗だから、正面から話したくなかったのかもしれない。俺がほの暗い劣情を抱いているのを見透かされて、否定され、拒絶されるのが怖かった」

「……今さらでしょ」

 ボソッと突っ込むと、亮平は小さく笑った。

「真剣に『好きだ』と言ったら、どう答えていた?」

 尋ねられ、私は視線を落として応える。

「どこが好きなのか分からない。亮平は自分が思っているより私を知らないと思う。私も亮平に自分の事を話してない。なのに『好き』って言われても、それは本当の恋じゃない」

「……確かに、そうだな。『好き』ではなかったのかもしれない」

 亮平は疲れたように溜め息をつき、自嘲する。

「……憧れ、なのかな。初めて会った時、まだ十六歳なのにどこか達観したような雰囲気があって、ただの高校一年生じゃないと感じた。初対面の〝新しい家族〟を前にしても動じず、ヘラヘラせずに大人びた対応をしていた」

「……十六歳が大人びてるって言っても、たかが知れてるでしょ。あの時、私は緊張してただけ。それ以外は何もないよ」

「家に帰って『可愛い子だったな』って親父と話してたら、美奈歩が不機嫌になったな」

 そりゃそうだ。

 美奈歩なりに、実母を喪ったあと『自分が母の代わりに頑張らないと』と思っていたんだろう。

『あの子は食事の支度やお弁当作りを頑張ってくれていた』って、継父が言っていた。

 なのにいきなり知らない〝母〟と〝姉〟が現れて、『家事は私がやるからね』と美奈歩のやりがいを奪っていった。

 きっと実母から教わったレシピがあっただろうに、家庭の味は新しい母の味になっていった。

 さらに自慢の兄は、愛想のない〝姉〟を一人の女として気にしている。

 気に食わない女が実母との思い出が詰まった大切な家に上がり込み、土足で思い出を穢したように感じたんだろう。

 申し訳ないなとは思う。でも、私たちだってどうしようもなかった。
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...