【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
144 / 778
亮平 編

あんたの罪は〝気づかなかった事〟

しおりを挟む
「〝持てる者〟に見えるんじゃない? 世間的に〝良い〟とされる外見をしていると、『見た目で得している』って決めつけられる。『自分は努力しなきゃならないのに、あの人は楽してる』って。私、これでもスキンケアやメイクの努力を怠ってないし、胸が大きい分、垂れないようにトレーニングを頑張ってる。……そういう努力を、彼女たちは見てない。見たくないんだと思う。……努力してるなんて認めず、〝悪い人〟でいてほしいから」

 私はぞんざいに溜め息をつき、なんとはなしに前の車を見た。

「大抵の人って『美人やイケメンって性格悪いんでしょ?』って思うもんでしょ。同性ならなおさら。なんでか知らないけど、それがワンセットなんだよ。『外見に恵まれてるなら、性格が悪くないと釣り合わない』『美人、イケメンで性格もいいなんて認めたくない』って。それで〝悪〟を作りだして、イライラした時に噂話をでっち上げて、叩きまくってストレス発散する。悪いものを正義感で叩いてる時って、めっちゃ気持ちいいから」

「……なんか、怨念籠もってるな」

 どこか引いた口調で言われたので、ムカついてしまった。

「あんたは誰かに酷く嫌われた事がないんじゃない? 周囲に溶け込めてる人に、私の気持ちは分からないと思う」

 中学生、高校生の時は本当に理由もなく嫌われて、陰口を叩かれまくった。

 恵と昭人がいたからまだ耐えられたけど、敵意を向けられるのは嫌だし、誤解されると面倒だし、できる事なら『やめてほしい』って言いたかった。

 でも意地悪をする人は、私が反応すればするほど喜ぶ。

 頭を下げて『仲間に入れて。もういじめないで』って言っても、そこから先、待っているのは奴隷生活だ。

 だから私はなるべく休み時間は教室を出て、人のいない場所や図書室に逃げた。

「……美奈歩はそんなに酷く朱里を嫌ってるか?」

(……こいつは本当に分かってないんだな)

 ここまで伝わってないと思うと、溜め息しか出ない。

「皆で吉祥寺の家で暮らしていた時、私が美奈歩に無視されてたのは知ってるでしょ? 知らないとは言わせない。……それにあの子、皆がいない時に私を馬鹿にしてた。さっき言ったようなセリフでだよ。……あんたは血の繋がった〝妹〟だから信じられないんだろうけど、信じないならこの話はここまで」

 言ったあと、亮平はしばらく黙っていた。

 やがて、溜め息をついて口を開く。

「本当なら、兄として謝る。美奈歩が申し訳ない事をした」

 今さら謝罪を受けても、私たちの関係が変わる訳じゃない。

「……最初に挨拶のための食事会をしたでしょ? あの時に『よろしく』って美奈歩に笑いかけたけど、無視された。それで『あー、いつものね!』って分かってしまった。私からも壁を作ってしまったのは認めるけど、それ以降、美奈歩の態度も変わってない。むしろ悪化してる。そんな妹に溺愛されてるあんたは、空気を読まずに私に微妙な距離で近づいてきた。そりゃ美奈歩が嫉妬するでしょ!」

 なんでこんなシンプルな事を、丁寧に説明しないとならないのか。

「あんたの罪は〝気づかなかった事〟。兄と自称して仲良くしたいなら、もっと空気読んだら? 気づいていて『面倒な事に関わりたくない』って無視してたんじゃないの? 見て見ぬふりをするのが平和なら、あんたの〝平和主義〟はたかが知れてる」

 言いながら、悔しくなって涙が零れてしまった。

 社会人になって一人暮らしするまで六年、私はあの家で息苦しい思いをし続けた。

 亮平と同居していたのは四年だけど、こいつは四年もあのギスギスした空気に気づかなかったの? 残る二年は私と美奈歩だけになって、本当にキツかった。

(だから私は、尊さんの気持ちが分かるんだ)

 そう思うと、彼が恋しくて堪らなかった。

「……悪かった」

 亮平は気まずそうに謝り、私はプイと窓の外を見る。

「……もう遅いんだよ。私たち兄妹の仲は修復できないんじゃない。最初から壊れたままだったの。時が経つにつれてヒビが深く大きくなっていったのに、誰も直そうとしなかった。私たちはこのまま〝家族〟にはならず、同じ姓の〝他人〟のまま生きるしかない」

 言ったあと、どうしようもなく尊さんに会いたくなった私は、スマホを開く。

 メッセージアプリを立ち上げると、尊さんとのトークルームにハートマークを乱舞させておいた。

 ほどなくして既読がつき、【どうした? ご乱心か?】と彼らしい返事がくる。

【しゅきぴっぴ】

 私は脳が溶けたメッセージを送り、またハートマークをつけ、さらにキャラクターが投げキスをしている動くスタンプも送った。

【なんかあったか?】

 すぐに察した尊さんの勘の良さに、思わず泣いてしまいそうになる。

 どう返事をしようか迷っていると、彼から電話が掛かってきた。

 液晶に『尊さん』の文字が浮かび、私は微笑んで画面をスワイプする。

 スマホを耳に宛がおうとした時――、亮平に取り上げられた。

「っ何するの!?」

 取り戻そうとしたけれど、亮平は電話を切ったあと、スマホを自分のコートの右ポケットにしまった。
しおりを挟む
感想 2,452

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...