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亮平 編
あんたの罪は〝気づかなかった事〟
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「〝持てる者〟に見えるんじゃない? 世間的に〝良い〟とされる外見をしていると、『見た目で得している』って決めつけられる。『自分は努力しなきゃならないのに、あの人は楽してる』って。私、これでもスキンケアやメイクの努力を怠ってないし、胸が大きい分、垂れないようにトレーニングを頑張ってる。……そういう努力を、彼女たちは見てない。見たくないんだと思う。……努力してるなんて認めず、〝悪い人〟でいてほしいから」
私はぞんざいに溜め息をつき、なんとはなしに前の車を見た。
「大抵の人って『美人やイケメンって性格悪いんでしょ?』って思うもんでしょ。同性ならなおさら。なんでか知らないけど、それがワンセットなんだよ。『外見に恵まれてるなら、性格が悪くないと釣り合わない』『美人、イケメンで性格もいいなんて認めたくない』って。それで〝悪〟を作りだして、イライラした時に噂話をでっち上げて、叩きまくってストレス発散する。悪いものを正義感で叩いてる時って、めっちゃ気持ちいいから」
「……なんか、怨念籠もってるな」
どこか引いた口調で言われたので、ムカついてしまった。
「あんたは誰かに酷く嫌われた事がないんじゃない? 周囲に溶け込めてる人に、私の気持ちは分からないと思う」
中学生、高校生の時は本当に理由もなく嫌われて、陰口を叩かれまくった。
恵と昭人がいたからまだ耐えられたけど、敵意を向けられるのは嫌だし、誤解されると面倒だし、できる事なら『やめてほしい』って言いたかった。
でも意地悪をする人は、私が反応すればするほど喜ぶ。
頭を下げて『仲間に入れて。もういじめないで』って言っても、そこから先、待っているのは奴隷生活だ。
だから私はなるべく休み時間は教室を出て、人のいない場所や図書室に逃げた。
「……美奈歩はそんなに酷く朱里を嫌ってるか?」
(……こいつは本当に分かってないんだな)
ここまで伝わってないと思うと、溜め息しか出ない。
「皆で吉祥寺の家で暮らしていた時、私が美奈歩に無視されてたのは知ってるでしょ? 知らないとは言わせない。……それにあの子、皆がいない時に私を馬鹿にしてた。さっき言ったようなセリフでだよ。……あんたは血の繋がった〝妹〟だから信じられないんだろうけど、信じないならこの話はここまで」
言ったあと、亮平はしばらく黙っていた。
やがて、溜め息をついて口を開く。
「本当なら、兄として謝る。美奈歩が申し訳ない事をした」
今さら謝罪を受けても、私たちの関係が変わる訳じゃない。
「……最初に挨拶のための食事会をしたでしょ? あの時に『よろしく』って美奈歩に笑いかけたけど、無視された。それで『あー、いつものね!』って分かってしまった。私からも壁を作ってしまったのは認めるけど、それ以降、美奈歩の態度も変わってない。むしろ悪化してる。そんな妹に溺愛されてるあんたは、空気を読まずに私に微妙な距離で近づいてきた。そりゃ美奈歩が嫉妬するでしょ!」
なんでこんなシンプルな事を、丁寧に説明しないとならないのか。
「あんたの罪は〝気づかなかった事〟。兄と自称して仲良くしたいなら、もっと空気読んだら? 気づいていて『面倒な事に関わりたくない』って無視してたんじゃないの? 見て見ぬふりをするのが平和なら、あんたの〝平和主義〟はたかが知れてる」
言いながら、悔しくなって涙が零れてしまった。
社会人になって一人暮らしするまで六年、私はあの家で息苦しい思いをし続けた。
亮平と同居していたのは四年だけど、こいつは四年もあのギスギスした空気に気づかなかったの? 残る二年は私と美奈歩だけになって、本当にキツかった。
(だから私は、尊さんの気持ちが分かるんだ)
そう思うと、彼が恋しくて堪らなかった。
「……悪かった」
亮平は気まずそうに謝り、私はプイと窓の外を見る。
「……もう遅いんだよ。私たち兄妹の仲は修復できないんじゃない。最初から壊れたままだったの。時が経つにつれてヒビが深く大きくなっていったのに、誰も直そうとしなかった。私たちはこのまま〝家族〟にはならず、同じ姓の〝他人〟のまま生きるしかない」
言ったあと、どうしようもなく尊さんに会いたくなった私は、スマホを開く。
メッセージアプリを立ち上げると、尊さんとのトークルームにハートマークを乱舞させておいた。
ほどなくして既読がつき、【どうした? ご乱心か?】と彼らしい返事がくる。
【しゅきぴっぴ】
私は脳が溶けたメッセージを送り、またハートマークをつけ、さらにキャラクターが投げキスをしている動くスタンプも送った。
【なんかあったか?】
すぐに察した尊さんの勘の良さに、思わず泣いてしまいそうになる。
どう返事をしようか迷っていると、彼から電話が掛かってきた。
液晶に『尊さん』の文字が浮かび、私は微笑んで画面をスワイプする。
スマホを耳に宛がおうとした時――、亮平に取り上げられた。
「っ何するの!?」
取り戻そうとしたけれど、亮平は電話を切ったあと、スマホを自分のコートの右ポケットにしまった。
私はぞんざいに溜め息をつき、なんとはなしに前の車を見た。
「大抵の人って『美人やイケメンって性格悪いんでしょ?』って思うもんでしょ。同性ならなおさら。なんでか知らないけど、それがワンセットなんだよ。『外見に恵まれてるなら、性格が悪くないと釣り合わない』『美人、イケメンで性格もいいなんて認めたくない』って。それで〝悪〟を作りだして、イライラした時に噂話をでっち上げて、叩きまくってストレス発散する。悪いものを正義感で叩いてる時って、めっちゃ気持ちいいから」
「……なんか、怨念籠もってるな」
どこか引いた口調で言われたので、ムカついてしまった。
「あんたは誰かに酷く嫌われた事がないんじゃない? 周囲に溶け込めてる人に、私の気持ちは分からないと思う」
中学生、高校生の時は本当に理由もなく嫌われて、陰口を叩かれまくった。
恵と昭人がいたからまだ耐えられたけど、敵意を向けられるのは嫌だし、誤解されると面倒だし、できる事なら『やめてほしい』って言いたかった。
でも意地悪をする人は、私が反応すればするほど喜ぶ。
頭を下げて『仲間に入れて。もういじめないで』って言っても、そこから先、待っているのは奴隷生活だ。
だから私はなるべく休み時間は教室を出て、人のいない場所や図書室に逃げた。
「……美奈歩はそんなに酷く朱里を嫌ってるか?」
(……こいつは本当に分かってないんだな)
ここまで伝わってないと思うと、溜め息しか出ない。
「皆で吉祥寺の家で暮らしていた時、私が美奈歩に無視されてたのは知ってるでしょ? 知らないとは言わせない。……それにあの子、皆がいない時に私を馬鹿にしてた。さっき言ったようなセリフでだよ。……あんたは血の繋がった〝妹〟だから信じられないんだろうけど、信じないならこの話はここまで」
言ったあと、亮平はしばらく黙っていた。
やがて、溜め息をついて口を開く。
「本当なら、兄として謝る。美奈歩が申し訳ない事をした」
今さら謝罪を受けても、私たちの関係が変わる訳じゃない。
「……最初に挨拶のための食事会をしたでしょ? あの時に『よろしく』って美奈歩に笑いかけたけど、無視された。それで『あー、いつものね!』って分かってしまった。私からも壁を作ってしまったのは認めるけど、それ以降、美奈歩の態度も変わってない。むしろ悪化してる。そんな妹に溺愛されてるあんたは、空気を読まずに私に微妙な距離で近づいてきた。そりゃ美奈歩が嫉妬するでしょ!」
なんでこんなシンプルな事を、丁寧に説明しないとならないのか。
「あんたの罪は〝気づかなかった事〟。兄と自称して仲良くしたいなら、もっと空気読んだら? 気づいていて『面倒な事に関わりたくない』って無視してたんじゃないの? 見て見ぬふりをするのが平和なら、あんたの〝平和主義〟はたかが知れてる」
言いながら、悔しくなって涙が零れてしまった。
社会人になって一人暮らしするまで六年、私はあの家で息苦しい思いをし続けた。
亮平と同居していたのは四年だけど、こいつは四年もあのギスギスした空気に気づかなかったの? 残る二年は私と美奈歩だけになって、本当にキツかった。
(だから私は、尊さんの気持ちが分かるんだ)
そう思うと、彼が恋しくて堪らなかった。
「……悪かった」
亮平は気まずそうに謝り、私はプイと窓の外を見る。
「……もう遅いんだよ。私たち兄妹の仲は修復できないんじゃない。最初から壊れたままだったの。時が経つにつれてヒビが深く大きくなっていったのに、誰も直そうとしなかった。私たちはこのまま〝家族〟にはならず、同じ姓の〝他人〟のまま生きるしかない」
言ったあと、どうしようもなく尊さんに会いたくなった私は、スマホを開く。
メッセージアプリを立ち上げると、尊さんとのトークルームにハートマークを乱舞させておいた。
ほどなくして既読がつき、【どうした? ご乱心か?】と彼らしい返事がくる。
【しゅきぴっぴ】
私は脳が溶けたメッセージを送り、またハートマークをつけ、さらにキャラクターが投げキスをしている動くスタンプも送った。
【なんかあったか?】
すぐに察した尊さんの勘の良さに、思わず泣いてしまいそうになる。
どう返事をしようか迷っていると、彼から電話が掛かってきた。
液晶に『尊さん』の文字が浮かび、私は微笑んで画面をスワイプする。
スマホを耳に宛がおうとした時――、亮平に取り上げられた。
「っ何するの!?」
取り戻そうとしたけれど、亮平は電話を切ったあと、スマホを自分のコートの右ポケットにしまった。
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