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仕事始め 編
〝俺の可愛い朱里〟
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「……ごめんなさい」
もう一度謝ると、今度はチュッと唇にキスをされた。
「なぁ、朱里。俺が怒ってるように見えるか?」
優しい声で尋ねられ、私は潤んだ目で彼を見る。
「過去は変えられないから、付き合った過去を改ざんできない。それについては謝ってもどうにもできねぇから、朱里の気が済むまで話して、分かってもらいたい」
「そうじゃないです。謝ってほしいなんて思ってません」
「俺も朱里に謝ってほしくない。……むしろ嫉妬してくれて、ちょっと気分がいいかな」
「えぇ……?」
私は不満げに眉間に皺を寄せ、下唇を突き出す。
尊さんはそんな私の顔を見て愉快そうに笑い、もう一度キスをしてきた。
「俺だって田村クンに妬いてるよ。本当なら俺が朱里の初めてをもらいたかった。あんな奴に抱かせて痛い思いをさせるぐらいなら、俺がたっぷり愛して善がらせてやりたかった」
彼の情熱的な言葉を聞き、私はジワッと頬を染める。
「妬いてくれるのは、それだけ俺を好きでいてくれて、独占欲もあるからだと思ってる。感謝はすれど、怒ったりなんかしねぇよ。……まぁ、あんまり頻繁に言われたり、泣かれて怒られたら困っちまうけど」
「し、しないです」
尊さんみたいな大人の余裕がある人と付き合うにあたって、彼の心の広さに甘えて我が儘を言い続けていれば、いつ許容量を超えて捨てられてしまうか分からない。
以前に本で読んだけれど、優しい人はそういう傾向があるそうだ。
なんでも受け止めて「大丈夫だよ」といつもニコニコしているけれど、一定のラインを超えると「もう駄目」となって背中を向けてしまうらしい。
そうならないように、極力我が儘は言わないようにしないと。
そう考えたのを察してか、尊さんはポンポンと私の頭を撫でてくる。
「俺、六歳年上だし、三十二歳のおっさんだし、怜香っつーモンスターであらゆる耐性を鍛えられたし、朱里がちょっとやそっと、可愛い我が儘言ったとしてもなんとも思わないワケ。『あー、可愛いな』で終わり。だからあんま気にすんな」
「……は、はい……」
改めて言われると「そうなのかな」と思って、私は一応安心して頷く。
「お前が怒ったとしても、腕振り回してるお前の頭を押さえて『よく怒ってるなぁ~、可愛い』で終わりだわ」
その様子を想像して、思わず笑ってしまった。
「どんな扱いですか」
「お前は〝俺の可愛い朱里〟だよ。思う存分、喜怒哀楽を表して跳びはねてくれ。……ただし俺の掌の上でな」
「ふふ……。……好き……!」
尊さんと話していると、いつの間にかモヤモヤしていた気持ちが晴れていた。
「……話は戻るけど、嫌な気持ちになるのを承知の上で宮本について言うなら、あいつの事は常識のある奴だと思ってる。十年近く経っても連絡一つしてこないなら、向こうは向こうの生活があるんだろう。昔から変わってないなら、突然現れて俺を困らせるような奴じゃない。だから心配しなくていい」
「……そうですね」
怜香さんによって痛い目を見た尊さんは、人を見る目があるだろう。
そんな彼が好きになった人だから、宮本さんは素敵な人に違いない。
宮本さんを褒める言葉を聞くとモヤモヤするけど、今は信じるしかない。
でも、尊さんが宮本さんを無条件で信じている姿を見ると、胸の奥が苦しくなる。
(……嫉妬した相手に『嫌な人であってほしい』と思うなんて、残念な人の考える事だ。反省しろ、私)
私は心の底で嫉妬している自分に言い聞かせる。
(それに、尊さんが宮本さんの事を悪く言うなら、それはそれでちょっとガッカリするかもしれない。……だから、なるべく気にしないようにしよう)
そのあと尊さんは、暗くなった空気を払拭するように話題を変えてくれた。
「そうだ、今度お前の家族に挨拶しに行っていい?」
「勿論です! 年末にチラッと言ったんですが、正式な事はまだ伝えてなくて……。……お母さん喜ぶな、きっと」
私はパッと顔を輝かせ、頷く。
継父もいい人だから、手放しで喜んでくれるだろう。尊さんの複雑な家庭環境を知っても、あの人なら「応援する」って言ってくれる気がする。
(あとは……)
亮平と美奈歩の顔を思い浮かべ、私は無意識に溜め息をついてしまう。
(きっと大丈夫)
自分に言い聞かせ、私は尊さんに笑いかけた。
「次の週末でも実家に行って話しておきますね。まだ具体的に決まってないし、『まだ先の事』って前置きしてですが」
「ああ、宜しく」
尊さんはポンポンと私の頭を撫で、額にキスをしてくれた。
**
もう一度謝ると、今度はチュッと唇にキスをされた。
「なぁ、朱里。俺が怒ってるように見えるか?」
優しい声で尋ねられ、私は潤んだ目で彼を見る。
「過去は変えられないから、付き合った過去を改ざんできない。それについては謝ってもどうにもできねぇから、朱里の気が済むまで話して、分かってもらいたい」
「そうじゃないです。謝ってほしいなんて思ってません」
「俺も朱里に謝ってほしくない。……むしろ嫉妬してくれて、ちょっと気分がいいかな」
「えぇ……?」
私は不満げに眉間に皺を寄せ、下唇を突き出す。
尊さんはそんな私の顔を見て愉快そうに笑い、もう一度キスをしてきた。
「俺だって田村クンに妬いてるよ。本当なら俺が朱里の初めてをもらいたかった。あんな奴に抱かせて痛い思いをさせるぐらいなら、俺がたっぷり愛して善がらせてやりたかった」
彼の情熱的な言葉を聞き、私はジワッと頬を染める。
「妬いてくれるのは、それだけ俺を好きでいてくれて、独占欲もあるからだと思ってる。感謝はすれど、怒ったりなんかしねぇよ。……まぁ、あんまり頻繁に言われたり、泣かれて怒られたら困っちまうけど」
「し、しないです」
尊さんみたいな大人の余裕がある人と付き合うにあたって、彼の心の広さに甘えて我が儘を言い続けていれば、いつ許容量を超えて捨てられてしまうか分からない。
以前に本で読んだけれど、優しい人はそういう傾向があるそうだ。
なんでも受け止めて「大丈夫だよ」といつもニコニコしているけれど、一定のラインを超えると「もう駄目」となって背中を向けてしまうらしい。
そうならないように、極力我が儘は言わないようにしないと。
そう考えたのを察してか、尊さんはポンポンと私の頭を撫でてくる。
「俺、六歳年上だし、三十二歳のおっさんだし、怜香っつーモンスターであらゆる耐性を鍛えられたし、朱里がちょっとやそっと、可愛い我が儘言ったとしてもなんとも思わないワケ。『あー、可愛いな』で終わり。だからあんま気にすんな」
「……は、はい……」
改めて言われると「そうなのかな」と思って、私は一応安心して頷く。
「お前が怒ったとしても、腕振り回してるお前の頭を押さえて『よく怒ってるなぁ~、可愛い』で終わりだわ」
その様子を想像して、思わず笑ってしまった。
「どんな扱いですか」
「お前は〝俺の可愛い朱里〟だよ。思う存分、喜怒哀楽を表して跳びはねてくれ。……ただし俺の掌の上でな」
「ふふ……。……好き……!」
尊さんと話していると、いつの間にかモヤモヤしていた気持ちが晴れていた。
「……話は戻るけど、嫌な気持ちになるのを承知の上で宮本について言うなら、あいつの事は常識のある奴だと思ってる。十年近く経っても連絡一つしてこないなら、向こうは向こうの生活があるんだろう。昔から変わってないなら、突然現れて俺を困らせるような奴じゃない。だから心配しなくていい」
「……そうですね」
怜香さんによって痛い目を見た尊さんは、人を見る目があるだろう。
そんな彼が好きになった人だから、宮本さんは素敵な人に違いない。
宮本さんを褒める言葉を聞くとモヤモヤするけど、今は信じるしかない。
でも、尊さんが宮本さんを無条件で信じている姿を見ると、胸の奥が苦しくなる。
(……嫉妬した相手に『嫌な人であってほしい』と思うなんて、残念な人の考える事だ。反省しろ、私)
私は心の底で嫉妬している自分に言い聞かせる。
(それに、尊さんが宮本さんの事を悪く言うなら、それはそれでちょっとガッカリするかもしれない。……だから、なるべく気にしないようにしよう)
そのあと尊さんは、暗くなった空気を払拭するように話題を変えてくれた。
「そうだ、今度お前の家族に挨拶しに行っていい?」
「勿論です! 年末にチラッと言ったんですが、正式な事はまだ伝えてなくて……。……お母さん喜ぶな、きっと」
私はパッと顔を輝かせ、頷く。
継父もいい人だから、手放しで喜んでくれるだろう。尊さんの複雑な家庭環境を知っても、あの人なら「応援する」って言ってくれる気がする。
(あとは……)
亮平と美奈歩の顔を思い浮かべ、私は無意識に溜め息をついてしまう。
(きっと大丈夫)
自分に言い聞かせ、私は尊さんに笑いかけた。
「次の週末でも実家に行って話しておきますね。まだ具体的に決まってないし、『まだ先の事』って前置きしてですが」
「ああ、宜しく」
尊さんはポンポンと私の頭を撫で、額にキスをしてくれた。
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