上 下
136 / 416
仕事始め 編

何て言ってほしい?

しおりを挟む
 一日の間に色んな事があり、尊さんと二人になったあともさらに沢山の事実を知った。

 これから解決していく事、乗り越えなければならない事を考えると気が遠くなる。

「あんまり複雑に捉えるな。できる事から着手していくしかないんだよ。まずは手離れの早いものから……だな」

「さすが部長」

 ニヤッと笑って尊さんを肘でつつくと、彼は眉を上げて笑う。

「火曜からまた、部長と部下だな」

「はい」

 言われて、私はオフィスで尊さんといつも通り過ごせるのか想像してみた。

 今までも尊さんばかり見ないように気をつけていたし、大丈夫とは思いたい。

 ……だって恋愛アンテナビンビンの先輩が、めっちゃレーダー放ってるし……。

 それを思うと、いつか尊さんとの関係がバレた時の事が面倒に思えた。

「結婚するってなったら、私、会社を辞めたほうがいいんでしょうか」

 呟くと、尊さんは「ん?」と私を見る。

「結婚したぐらいで辞める必要はないって事は分かってます。職場結婚は珍しくないし、同じ部署に夫婦がいてもうまくやれてる人たちはいる。でも尊さんは女性に人気があって、これから御曹司だってバレる訳でしょう? 絶対面倒な事になるじゃないですか」

 私はコーヒーカップをテーブルに置き、コロンと横になると尊さんの太腿に頭をのせる。

「事情を知る人がいたら『運命だね』って言ってくれるかもしれません。でも現時点で私たちの事を知ってる人は篠宮家以外には恵ぐらいしかいません。第三者から見れば、〝実は御曹司のイケメン部長をGETしたいけすかない女〟です」

「確かに、そういう面倒な感情を持つやつはいるな」

 同意したあと、尊さんは少し考える。

「どうしても嫌なら、俺が上に異動を希望するよ。親父や兄貴も事情を分かってるから、それぐらいは融通きかせてくれるだろ」

「どっ、どうして尊さんが異動なんです? この場合、私でしょう」

「中村さんと離れていいワケ?」

 言われて、恵の姿が頭に浮かぶ。

「……一緒じゃなきゃ嫌なんて、子供じゃないんですから。社会人ならいつか異動するものでしょうし、その時は受け入れますよ」

 尊さんはしばらく黙ったあと、尋ねてきた。

「たとえば専業主婦とか、俺と一緒に海外行くとか、別の道は考えられる?」

 それは考えていなかったので、私は目を瞬かせて固まってしまった。

「……嫌とかじゃなくて……、予想もしていなかったので、今すぐには答えられません」

「ん、そっか。だよな。なら今は答えを求めない。ただ、色んな可能性の一つとして考えておいてくれ」

「分かりました」

 返事をしたあと、私は尊さんの膝の上でゴロゴロし、喉元まで出ている質問をしようか悩む。

 彼のお腹に顔を埋めて腰にしがみついてると、「猫みてーだな」と笑われてクシャクシャと頭を撫でられた。

 ――好きだなぁ。

 ――離したくない。

 そう思うからこそ、隠し事なしに付き合っていきたいと思った。

「……ねぇ、尊さん。面倒な事を聞いてもいいですか?」

「ん? 何でもどうぞ」

 尋ねると、尊さんは私の頭を優しく撫でてくれる。

 了解を得たあと、私は少し迷ってから言った。

「……宮本さんって人とエッチしましたか?」

 それを聞き、尊さんはしばらく黙っていた。

 やがて溜め息をつき、私の頭を撫でて答える。

「嘘ついても仕方ねぇから言うけど、した」

「どれぐらい? 私よりした?」

 答えない尊さんは、具体的に言えば私を傷つけると思っているのだろうか。

 その配慮がありがたいようで、悲しかった。

「……宮本さん、フェラしました?」

 そう尋ねると、とうとう尊さんは大きな溜め息をつき、私を抱き起こして膝の上に向かい合わせに座らせた。

「何て言ってほしい?」

 言われて、とても悲しく、恥ずかしくなって尊さんに抱きついた。

「……ごめんなさい。……私、やっぱり面倒な女だ」

 ――嫌われるかもしれない。

 今になって、宮本さんの話をした事を物凄く後悔した。

 落ち込んで俯く私に、尊さんは額や頬にキスをしてくる。

「今は誰よりも朱里が大事だ。今後、一生他の女は見ない。……これじゃ駄目か?」

 困ったように微笑む尊さんの顔を見て、こう思ってしまった。

(我が儘な子供のお守りをさせてるみたい。……私は彼女なのに)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...