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旅先で出会った〝朱里〟 編
同類
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『それでは、また』
『気をつけてね』
彼女の言葉を聞いて、俺は思わず笑った。
出がけに『気をつけてね』なんて言われたのは、何年ぶりだろう。
(……ん、悪くない。なんとかなる)
俺は叔母に会釈をし、一人暮らしをしているマンションに向かってゆっくり歩いていった。
**
それをきっかけにして、俺は母方の実家を気にするようにした。
母と仲違いをした祖母は、今も東京にいるかは分からない。
もしいないとすれば、名古屋の本邸に住んでいるのだろうか。
仮に俺が名古屋の本邸の近くを歩いたとしても、ずっと昔に亡くなった娘の子供と気づく者はいないに決まっている。
――なら、ちょっとだけ見てみようか。
そう思い、年末に名古屋の温泉旅館に行く事にし、一人旅を決行した。
新幹線で一時間半揺られたあと、名古屋市の北に位置する犬山市にある、木曽川に面した落ち着いた佇まいの宿にチェックインする。
年末年始の間、連泊してゆっくりするつもりだから、そう急ぐ事もないと思い、年内は温泉に浸かってゆっくりする事にした。
夕食前に部屋にある半露天風呂に入り、豪勢な懐石料理を食べてまた温泉に入り、テラスのソファに座ってボーッとする。
(……ん?)
視線の先で歩いている人陰を見て、俺は目を瞬かせた。
時刻は二十二時過ぎなのに、川沿いを中学生ぐらいの少女が歩いていた。
目的があってスタスタ歩いているのではなく、フラフラと進んだあとに立ち止まり、しばし木曽川をぼんやり見たあと、川へ向かって進み、また立ち尽くす。
観光していて、景色を楽しんでいる風でもなかった。
(……まさかな)
嫌な予感を抱いた俺は、立ちあがってその少女を見守る。
やがて彼女は木曽川に架かっている大きな橋を見たあと、そちらに吸い寄せられるように歩いていった。
『マジか』
俺は舌打ちし、急いで服を着るとコートを羽織り、慌てて部屋を出る。
(勘違いであってくれ)
俺は二階建ての旅館から外に出ると、例の少女を探して歩き始める。
すると前方遠くに彼女の背中が見えた。だが俺がモタついている間に、彼女はすでに橋に着いていた。
列車が通る橋は独立して架かり、車道と歩道がある大きな橋は別に横に架かっていた。
俺は走って橋に向かい、少女を探した。
すると彼女は橋の欄干に両腕をかけ、そこに顎を乗せて川を眺めていた。――ように見えたが、周囲をチラッと確認したあと、反動をつけて欄干の上に足を掛けた。
『バカッ! やめろ!』
俺はとっさに大きな声を上げ、全力で彼女のもとに駆けつけ、抱き締めるようにして橋から引き剥がそうとする。
『離して!』
渾身の力で俺の手を振り払おうとした彼女の声は、涙で歪んでいた。
――つらい事があったんだな。分かるよ。
――でもな。
『いい加減に……、しろっ!』
声を上げると同時に少女を引っ張った。
その勢いで尻餅をついたが、彼女を放さないようにしっかり腕に力を込める。
『どうして邪魔するの!? お父さんのところに行かせてよ!! お父さんのいない世界なんて、どうやって生きていけばいいか分からない!』
悲痛な声を聞き、すぐに納得した。
――この子も、同類か。
腕の中の少女はまだ幼い。旅館から見た時に中学生ぐらいと判断したが、実際に触れると子供と大差ない華奢な体をしている。
…………いや、待て。腕にムチッと当たるこれは……。
俺は一瞬白目を剥いたあと、ソロソロと彼女から両腕を離した。
命は助けたし、いつまでもくっついてる必要はない。万が一疑われて通報されるのは御免だ。
『気をつけてね』
彼女の言葉を聞いて、俺は思わず笑った。
出がけに『気をつけてね』なんて言われたのは、何年ぶりだろう。
(……ん、悪くない。なんとかなる)
俺は叔母に会釈をし、一人暮らしをしているマンションに向かってゆっくり歩いていった。
**
それをきっかけにして、俺は母方の実家を気にするようにした。
母と仲違いをした祖母は、今も東京にいるかは分からない。
もしいないとすれば、名古屋の本邸に住んでいるのだろうか。
仮に俺が名古屋の本邸の近くを歩いたとしても、ずっと昔に亡くなった娘の子供と気づく者はいないに決まっている。
――なら、ちょっとだけ見てみようか。
そう思い、年末に名古屋の温泉旅館に行く事にし、一人旅を決行した。
新幹線で一時間半揺られたあと、名古屋市の北に位置する犬山市にある、木曽川に面した落ち着いた佇まいの宿にチェックインする。
年末年始の間、連泊してゆっくりするつもりだから、そう急ぐ事もないと思い、年内は温泉に浸かってゆっくりする事にした。
夕食前に部屋にある半露天風呂に入り、豪勢な懐石料理を食べてまた温泉に入り、テラスのソファに座ってボーッとする。
(……ん?)
視線の先で歩いている人陰を見て、俺は目を瞬かせた。
時刻は二十二時過ぎなのに、川沿いを中学生ぐらいの少女が歩いていた。
目的があってスタスタ歩いているのではなく、フラフラと進んだあとに立ち止まり、しばし木曽川をぼんやり見たあと、川へ向かって進み、また立ち尽くす。
観光していて、景色を楽しんでいる風でもなかった。
(……まさかな)
嫌な予感を抱いた俺は、立ちあがってその少女を見守る。
やがて彼女は木曽川に架かっている大きな橋を見たあと、そちらに吸い寄せられるように歩いていった。
『マジか』
俺は舌打ちし、急いで服を着るとコートを羽織り、慌てて部屋を出る。
(勘違いであってくれ)
俺は二階建ての旅館から外に出ると、例の少女を探して歩き始める。
すると前方遠くに彼女の背中が見えた。だが俺がモタついている間に、彼女はすでに橋に着いていた。
列車が通る橋は独立して架かり、車道と歩道がある大きな橋は別に横に架かっていた。
俺は走って橋に向かい、少女を探した。
すると彼女は橋の欄干に両腕をかけ、そこに顎を乗せて川を眺めていた。――ように見えたが、周囲をチラッと確認したあと、反動をつけて欄干の上に足を掛けた。
『バカッ! やめろ!』
俺はとっさに大きな声を上げ、全力で彼女のもとに駆けつけ、抱き締めるようにして橋から引き剥がそうとする。
『離して!』
渾身の力で俺の手を振り払おうとした彼女の声は、涙で歪んでいた。
――つらい事があったんだな。分かるよ。
――でもな。
『いい加減に……、しろっ!』
声を上げると同時に少女を引っ張った。
その勢いで尻餅をついたが、彼女を放さないようにしっかり腕に力を込める。
『どうして邪魔するの!? お父さんのところに行かせてよ!! お父さんのいない世界なんて、どうやって生きていけばいいか分からない!』
悲痛な声を聞き、すぐに納得した。
――この子も、同類か。
腕の中の少女はまだ幼い。旅館から見た時に中学生ぐらいと判断したが、実際に触れると子供と大差ない華奢な体をしている。
…………いや、待て。腕にムチッと当たるこれは……。
俺は一瞬白目を剥いたあと、ソロソロと彼女から両腕を離した。
命は助けたし、いつまでもくっついてる必要はない。万が一疑われて通報されるのは御免だ。
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