【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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年末イチャイチャ 編

自分ファーストに生きていかないと

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「…………でも、『私、幸せです』なんて言ったら、周りの人が嫉妬しません?」

 彼の言葉に逆らいたい訳じゃないけれど、ついそう思ってしまった。

 私と尊さんが付き合っている事は、まだ会社の人には内緒にしている。

 でも結婚したら嫌でもバレるだろうし、その時は彼を狙っていた人に絶対何か言われるだろう。

 私だって本当は、こんなに素敵な人と付き合って、お姫様みたいなデートをしたって色んな人に自慢したい。

 けど、そんな事をすれば周りからの反応が恐い。

 私を快く思っていない人か「自慢しやがって」とか「お前みたいなブスにそのイケメンは似合わねーよ」と言われるのは分かっている。

「あのさ、誰に遠慮してる訳?」

 言われて、私は目を瞬かせて彼を見る。

 尊さんはハンドルを握ってまっすぐ前を向いたまま、迷いなく言った。

「幸せになる事をためらうなよ。嬉しかったら『嬉しい』って言っていいんだ。お前の幸せを願ってるのは、俺やお前の家族、親友だろ? まず、自分が幸せになって喜んでくれる人の事を考えろよ」

「はい……」

 彼の言葉を聞き、自分が大切な人たちより、不特定多数の〝皆〟を気にしていたと気づかされた。

「俺はまだ付き合いたてだから、お前の好き嫌いを詳細に知らない。だから事細かに報告してくれると、すげぇ助かる。嬉しい事も幸せだと感じた時も、教えてくれると『そうか』って安心できる。食べ物の好き嫌いや、何をされたら嫌かっていう事も知りたい。だからもっと素直に感情を表現してほしい」

「……そうですね。……私、知らない間に自分を押し殺すのが癖になってました」

 呟くように言うと、尊さんは「ん」と頷く。

「自慢しろとは言わないけど、嬉しい事があったらシェアしたいって思うのは普通だろ。美味い飯を食ったらSNSに写真を投稿するぐらい、誰だってやってる。他人の幸せを見て僻むほうがおかしいんだから、お前は遠慮しなくていい。どうせそいつらだって、嬉しい事があったら、これ見よがしにSNSに投稿するに決まってるんだから。仮に投稿しないタイプだとしても、『他人が喜んでる事に水を差すんじゃねーよ』だろ? お前の幸せを僻む人より、喜んでくれる人を大切にしろよ」

 スパッと一刀両断する彼を見て、私はしばし呆然とする。

「お前の事を嫌う奴は、お前が何をしても嫌うんだよ。そんな奴の事を気にする時間が勿体ない。嬉しい事、幸せな事をして『おめでとう、良かったね』って言ってくれる人で周りを固めとけ。あとは気にするだけ無駄だ」

「……凄いですね。私、そういうふうに思った事なかったです」

 私がしみじみと言うと、尊さんは溜め息混じりに言った。

「俺さ、もう三十二歳なワケ。そりゃ二十代の社員におっさんって言われるよ」

 あ、割と気にしてる。

「三十五歳になるまであっという間だし、四十歳になるのもすぐだろ。気がついたら五十歳になって、人生後半戦だ。ボーッとしてたら一年なんてあっという間に終わるし、いつ病気になり、事故に遭うか分からない。自分の人生を生きるのに精一杯なんだよ。……ただでさえ俺は、幸せになるためのハードルが高くできてるしな」

「……確かに」

 怜香さんの事を思いだし、私は深く納得する。

「だから俺は、自分の欲望に素直に生きる事にしてる。後先考えずに行動するのとは別だけど、美味いもんは食べておきたいし、行きたい所には行っておく。好きな女ができたら徹底的に懐かせて、俺から離れないようにする。……その時、好きな女が素直に好意を受け取ってくれたら最高だ」

 最終的に、このまじめな話が始まる前の話題に戻り、彼が何を言いたかったのかを知った。

「まぁ、それらの欲望を叶えるために、日々まじめに働いたり、健康に気を遣ったり、ジムで体力作ったり、色々してるけどな」

 凄いなぁ……。

 私は溜め息をついたあと、ポツポツと話す。

「尊さんって、思ってたよりずっと凄い人だったんですね。……性格悪いし、割と後先考えない爆弾人間かと思ってたけど……。そうですよね。自分ファーストに生きていかないと、人生あっという間ですよね」

「うん、まぁ、今サラッと酷い事言われたけど。……ま、視点を変えたらもっと生きるの楽しくなると思うぞ。俺もお前も、人生が如何に理不尽かは痛感している。でも、過去ばかり振り返っていたら、目の前にある楽しい事に気付けない。それは勿体なさすぎる。お前だって俺に『もっと笑わせる』って言ってくれただろ? 幸せを掴みにいこうって思っておこうぜ」

「はい」

 自分の事は自信がなくても、彼を幸せにしたい想いはブレていない。

 私の返事を聞いたあと、尊さんが自嘲気味に笑った。
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