未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜

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妻にと望んだ理由

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 自分一人の問題なら我慢できるが、クローディアのためにミケーラからついてきてくれた彼らが、つらい思いをするのは避けたい。

(でも城主様であるイグナット様がこんなに優しい方なら、問題なさそうね)

 安堵して小さく息をついた時、ソルがイグナットに声を掛けた。

「旦那様、ご婚礼のお話を……」

「ああ、そうだった。クローディア、先に謝っておかなければなりません」

「はい、何でしょう」

「女性として盛大な結婚式に憧れているかもしれませんが、私はこの体なので祭壇の前に立つ事はできません。式はこの部屋で、司祭様に来てもらい、ごく簡素に済ませていいでしょうか?」

「構いません。イグナット様のお体に負担を与えないのが一番ですもの」

 理解を示すと、彼は申し訳なさそうに微笑んだ。

「ありがとうございます」

 そのあとこの城で分からない事があったら、何でもソルに聞くようにと言われ、イグナットとの面会は終わった。

 ソルに部屋まで送り届けられたあと、クローディアはラギの袖を引いて自分の部屋に招く。

「……どう思う?」

 ソファに掛け、向かいを彼に示すとラギは黙って腰掛けた。

「どう、とは?」

 三十歳を前にしたラギは、知っている限りずっと独り身だ。

 ミケーラ城ではよく働き女たちからも人気があったのに、彼は寡黙な事もあり反応が悪い。
 ついたあだ名が「朴念仁」だ。

 しかしクローディアは、ラギの傭兵としての力量と口の固さ、忠誠心は信頼している。
 いざという時に、ラギは冷静に物事を判断できるし、クローディアに的確な助言もしてくれた。

 だからいつもこういう時は、腹心でもある彼に意見を聞く。

「イグナット様が私を妻にと望んだ理由、ラギはあれで納得した?」

 尋ねられ、彼は視線を動かして窓のほうを見る。

「優しそうな方ですし、言葉に甘えてここで自由に過ごしていいのでは?」

「……そうね。そうは思うんだけれど……」

 クローディアはスカートの中で脚を組む。
 顎に手を当てて深く考え込み、溜め息交じりに言う。

「私でなければならない理由が、弱い気がするの。騎士たちの間でも有名なバフェット辺境伯なら、お元気だった頃にもっと大勢の貴族と関わりがあってもおかしくないわ。それなのに、お父様にだけ対象を絞って『恩がある』というのは、少し不自然な気がして……」

「お嬢とて、ミケーラで大勢の騎士と交流していても、俺のような〝特別〟はいるでしょう」

 堂々と自分の事を特別と言い切る大胆さも、ラギを気に入っている由縁だ。

「……そうね」

 そしてラギの言葉を聞き、クローディアはストンと納得してしまった。

「……きっと、急に降ってきた縁談で、自分でも理解しきれていないままだから、明確な理由をほしがっていたのかもしれないわ。私だって自分が孤独に死のうとしていたら、誰か大切な人に縁のある、未来ある若者に希望を託したいと思うもの」

 自分自身に言い聞かせると、開き直ってここで上手くやっていける気がした。

「持って来た婚礼衣装を、侍女たちが確認しているようです。奥様も針を入れた大切な衣装ですから、花嫁姿が見られるのを俺も楽しみにしていますよ」

「ありがとう」

 クローディアは明るく笑う。

 立ち上がって窓を開き、眼下に広がる美しい湖畔の町を見る。

 子供の頃から漠然と「素敵なお嫁さんになりたい」という夢は持っていた。
 だが何歳になってもクローディアは恋をせず、婿となる相手の顔を想像すらしなかった。

 興味があるのは騎士たちとの、男同士のような交わりのみ。
 大きな口を開いて笑い、令嬢なのに生傷の絶えない生活を送って母に呆れられていた。

(私は変わり者のクローディアだわ。普通の結婚をしなくても、私は特に自分を可哀想とは思わない。むしろイグナット様があんなに優しい方で本当に良かった)

 社交界で小耳に挟んだ話では、せっかく嫁いでも姑と上手くいかず、毎日奴隷のように働かされ、嫌みを言われて針のむしろのよう……という女性も少なくないらしい。

(私は私。女性の普通を気にせず、私の幸せを求めるのよ。幸せの基準を他者に任せては駄目)

 自分に言い聞かせ、クローディアは「よし!」と声を出して笑顔を浮かべた。





 その後、バフェット領での生活は穏やかで楽しいものだった。

 イグナットが言っていた通り、彼との結婚式はクローディアが婚礼衣装を着て彼の寝室に向かい、手を重ねた上に司祭が聖水を垂らし、祈りの言葉を唱えるという、実に簡素なものだった。
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