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ハワイ 編

信頼してもらえるって、ありがたいなぁ

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 オアフ島三日目の夕食は最後の晩餐(?)で、全員で食事をする。

 ホテルから離れた場所にあるレストランで、テラス席から直接ビーチが見られてロマンチックだから行こうという事になった。

 レストランに着くと、人数分の席が用意されてあった。

「あぁー、思いっきり遊んだ! 皆は楽しめた?」

 私が家族に尋ねると、「めっちゃ楽しんだ!」とすっかり日焼けした健がサムズアップした。

「本当にいい思いをさせてもらって、ありがとうございました」

 お母さんたちがペコペコと頭を下げ、それを久賀城家の皆さんがにこやかに見守っている。

 それから、フレンチのコース料理が出された。
 と言っても格式張った高級なのは、もう皆お腹いっぱいなので、気軽に楽しめる物だ。

 うちの家族も、あまりにお金を掛けられると気を遣ってしまうので、その配慮はありがたかった。

 前菜、スープ、パンに魚料理、肉料理、デザートというシンプルなコース仕立てで、食事中も終始和やかに話せる。

 潮騒を聞きながら食べるディナーの、ロマンチックな事ときたら。
 テーブルの上にあるキャンドルも相まって、最高の雰囲気だ。

「優美さん、こんなに素敵なハネムーンを経験させてくれてありがとう」

 食事が終わってコーヒーを飲んでいた時に話しかけてきたのは、二人のお祖母ちゃんの百合ゆりさんだ。

「い、いえ! どう致しまして……って言うのも変ですが」

 金銭的な負担をしてくれたのは二人だ。
 私はただ、皆と楽しむしかしていない。

 ちなみに久賀城家は、百合さんの代では姉妹が非常に多かったらしい。

 現在久賀城ホールディングスの会長をしているのは、百合さんの兄だ。
 二人のお父さんの昌明さんは、お祖父さんのアランさんの姓がついたフランス名も持っている。

 彼はフランスで生まれて過ごし、経営のノウハウを大学で学んだあと日本に移った。

 百合さんの兄がまだ社長をしていた時、姉妹ばかりであとを継ぐ人がいないと嘆いていた。
「それならうちの息子が日本に住みたいと言っているから、鍛えて使って頂戴」という事になったらしい。

 昌明さんは母の影響もあり、サブカルも含めて日本が大好きな青年だった。
 学生時代も独学で日本語を学び、ペラペラの状態で大学卒業後に日本に移った。

 勿論、文化の差があって戸惑った事はあったけれど、伯父さんの家で厄介になり日本式の生活を学んでいった。
 そして正樹の実母である祥子しょうこさんに出会い、一度目の結婚を果たした。

 昌明さんは次男で、アランさんのフランスの事業は長男がサポートしているようだ。

 久賀城家もそんな一筋縄ではない事情があるから、慎也と正樹がが選んだ道を認めてくれたのかもしれない。

「離れた場所で暮らしている私たちが言えた事ではないけれど、本当は孫の結婚に不安があったの」

 百合さんは肩までの白髪交じりの髪を、後頭部で小さなお団子にしている。
 体型もすんなりとしていて顔立ちも整っていて、とても綺麗な女性だ。

 優しく穏やかで、物腰柔らかに話す人なので、私も初対面から一気に好感を抱いていた。

 完全に打ち解けたあとだからこそ、今こうして本音を話されても不安にはならなかった。

「仰る通りです。私たちが選んだ道は少し変わっていますから、皆さんに不安を与えて仕方がないと思っています」

 答えた私に、アランさんが微笑む。

「僕と百合も、若い頃は周囲に〝波瀾万丈〟と言われていた。百合がフランスに来た時はインターネットはなかったし、今よりずっとアジア人に対して閉鎖的だったかもしれない。それでも百合は愛のために、環境にも言葉にも挑戦し続けてくれた。君たちも、自分の愛のためなら、どんな苦難でも乗り越えられると思っているよ」

 アランさんは笑顔がチャーミングな人で、優しげな顔立ちをしている。
 日本語も流暢で、妻である百合さんの雰囲気も相まって、とてもいい夫婦だ。

 けれどやはり、若い頃は本人が言った通り山あり谷あり……だったのだろう。

「当時の大人たちは、僕らの関係に苦言を呈した。中には、最後まで納得してもらえなかった親族もいた」

 アランさんは昔を思い出し、苦く笑う。

「だからこそ僕らは、君たちにチャレンジしてほしい。ノンを言いたくない。心配はするけど、決して止めはしないよ。もし道に迷ったり、困ったりした時は、昌明たちもだけど、僕たちの事も頼ってほしい」

 暖かな言葉に、私は両側にいる慎也と正樹の手を握って頷いた。

「はい!」

「昌明が玲奈さんと再婚すると言った時も、私たちは何も反対しなかったわ。うちの子たちは全員、自分の選択した道を進み、必ず幸せになると信じていた。それは孫たちも同じ。久賀城家に嫁入りしてくれる女性も同じ」

 百合さんは玲奈さんに微笑みかけ、それから私に聖母のような笑みを向ける。

 信頼してもらえるって、ありがたいなぁ。
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