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序章
prologue
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さく、さくと。
柔らかい草を踏む音が、人気のない森に響いた。
美しい森だった。
木々は青々と茂り、新緑の葉の隙間から射し込む陽光が地面に咲く花々を優しく見つめている。
足音の主は、そんな幻想的な森の中をふらふらと彷徨う一人の少女だった。
土埃で汚れくすんだ銀髪に、恐怖と寂寥で歪められた紅い瞳。
美しいであろう容姿は、そのやつれた様相が台無しにしてしまっている。
着ているワンピースもぼろぼろで、所々には穴も空いていた。
少女は、ここではないどこかへ朦朧と進み行く。
何度も転びかけ、石で足を擦ったのに、傷痕から血が滴り落ちても止まらない。
何かに取り憑かれたかのように、ただ進んで行くだけだ。
少女は、ぽつりぽつりと掠れた声で呟いている。
「……ねぇ、ここ、どこ……おかあ、さん……どこに、いけば、いいの……?」
瞳から涙が零れ落ちる。
迷子の子供のように泣きじゃくりながら、ここにいない誰かへ助けを求める。
気付けば、道は途切れていた。
森は開け、その奥に一際目を惹く小さな泉が現れた。
少女は色とりどりの花に囲まれたその泉に歩み寄り、ぺたんと座り込んで水面を眺める。
鏡のように磨き上げられた水面に映る銀髪紅瞳の少女の姿を見て、小さく首を傾げた。
「……あなた、だれ?」
答えはなかった。
手を伸ばすと、泉の中の少女も手を伸ばしてくる。
心地好い冷たさが指を包み、水面が揺れて少女は消えてしまう。
「ま、まって……!」
彼女は叫び、立ち上がる。
躊躇うこともなく。
少女は、泉の中へと身を投げた。
泉は、淡い翠色の光を放ち、そして再び沈黙した。
その森に、音が戻ることはなかった。
柔らかい草を踏む音が、人気のない森に響いた。
美しい森だった。
木々は青々と茂り、新緑の葉の隙間から射し込む陽光が地面に咲く花々を優しく見つめている。
足音の主は、そんな幻想的な森の中をふらふらと彷徨う一人の少女だった。
土埃で汚れくすんだ銀髪に、恐怖と寂寥で歪められた紅い瞳。
美しいであろう容姿は、そのやつれた様相が台無しにしてしまっている。
着ているワンピースもぼろぼろで、所々には穴も空いていた。
少女は、ここではないどこかへ朦朧と進み行く。
何度も転びかけ、石で足を擦ったのに、傷痕から血が滴り落ちても止まらない。
何かに取り憑かれたかのように、ただ進んで行くだけだ。
少女は、ぽつりぽつりと掠れた声で呟いている。
「……ねぇ、ここ、どこ……おかあ、さん……どこに、いけば、いいの……?」
瞳から涙が零れ落ちる。
迷子の子供のように泣きじゃくりながら、ここにいない誰かへ助けを求める。
気付けば、道は途切れていた。
森は開け、その奥に一際目を惹く小さな泉が現れた。
少女は色とりどりの花に囲まれたその泉に歩み寄り、ぺたんと座り込んで水面を眺める。
鏡のように磨き上げられた水面に映る銀髪紅瞳の少女の姿を見て、小さく首を傾げた。
「……あなた、だれ?」
答えはなかった。
手を伸ばすと、泉の中の少女も手を伸ばしてくる。
心地好い冷たさが指を包み、水面が揺れて少女は消えてしまう。
「ま、まって……!」
彼女は叫び、立ち上がる。
躊躇うこともなく。
少女は、泉の中へと身を投げた。
泉は、淡い翠色の光を放ち、そして再び沈黙した。
その森に、音が戻ることはなかった。
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