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序章
雛菊の少女(1)
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森林王国セフィロト。
王国の中心に聳える巨大な樹木─『聖樹』と、国土の半分以上を覆うほどの森が特徴的な、数千年の歴史を持つ大国だ。
また多種族国家でもあり、大まかに九つの種族が、お互いに協力し、たまに争いながら共存している。
国民が『能力』と総称される特殊技能を持ち合わせていることも特徴の一つで、非常に閉鎖的かつ貿易や国交を一切しないことから、他国からは『異世界国家』と呼称されている。
その、謎に包まれた王国内部に様々な妄想を働かせる外の人々には欠片も目をくれず。
彼らは、平穏な日々を送っていた。
✿
聖樹広場。
あまりに巨大な聖樹の木漏れ日と、周囲の木々に取り付けられたランタンの灯りのみが照らす、神秘的な円形の空間だ。
出店が立ち並び賑わいもあるが、やはりどこか落ち着いた雰囲気が醸し出されている。
家族連れや恋人同士がゆったりと日常を紡いでいるこの場所で、一人の少女が不安げに金色の瞳を揺らしていた。
長くふわりとウェーブしている髪は淡い桃色で、幼い顔つきながらそこそこに背の高い少女は、その挙動不審さもありだいぶ人目を引いている。
どうやら人見知りならしく、視線を向けられる度にびくりと肩を跳ねさせる。
バサッと、背中に生えた黒い翼が広がった。
慌ててその片翼を閉じるが、弾みで近くにいた白い翼の親子にぶつかる。
泣きそうになりながら全力で謝り、むしろその必死っぷりに逆に謝られるという軽い事件が起こった。
少女はすっかり気を落としたようで、人気のない広葉樹の根元に座り込んで俯いてしまう。
そこに、同じ黒い翼を持つ少女から声が掛かった。
「アイリス、何してるの?」
少し冷たい響きのそれに、しかしアイリスと呼ばれた少女はばっと顔を上げ、目を輝かせる。
「レアっ!おかえり……っ」
「何で泣きそうなのよ。五分待っててって頼んだだけじゃない……まだ三分も経ってないし」
少し大人びた口調の金髪の少女─レアは、同年代ながら頼りない言動をするアイリスに苦笑いを向けている。
その姿はさながら本物の姉妹のようだった。
果物や野菜の詰まった紙袋を抱えるレアは、鮮やかな赤い瞳をアイリスに向け、同じ色のリボンをはためかせてすたすたと歩き出す。
「あ、ま、待ってよぉ……!」
アイリスは慌ててそれを追った。
二人は並んで聖樹広場を抜け、ツリーハウスや日用品店が入る巨大な木々がずらりと並んだ大通りに入って行く。
同じく立派な翼を持つ住民達は、通りすがる二人の少女ににこやかに挨拶をしてくる。
アイリスはおっかなびっくり、レアは落ち着いた笑顔で対応する。
数人の子供達は、わざわざ駆け寄ってきてお菓子を渡してくるほどだ。
「レアねーちゃん、これあげるーっ」
ふわふわとした白翼を持つ少年に小袋いっぱいの砂糖菓子を渡され、レアの表情が緩んだ。
「ふふっ、ありがとう。皆で食べるわ」
「うんっ」
可愛い笑顔を浮かべ、彼はとことこと去って行く。
ずっとおどおどしていたアイリスも、少し和んだ顔をしていた。
「レア、好かれてるね……」
「まぁね。治癒院の隣に孤児院もあるから、小さい子の面倒も見てたし」
「あれ、孤児院だったの……?」
「ええ。大体治癒院の近くに一軒はあるでしょ」
「そっかぁ……ここの治癒院、おっきいもんね」
世間話をしながら、二人は増えた荷物を抱えて更に歩を進めた。
住宅地を抜けた頃に、より巨大な大樹を取り巻くように作られた建物が見えてくる。
地面に近い場所に設置された入口から見えるだけでも、白翼の若い男女が何人も忙しなく動き回っているのが見える。
看板には木々や花をあしらったレリーフと、『聖都中央治癒院』と書かれた飾り文字が踊っていた。
見慣れたそれに特に反応を見せることもなく、外に出ている職員と挨拶を交わして二人はその建物の奥に回り込んだ。
そこにあるのは、治癒院に負けず劣らずの大樹に建てられたツリーハウスだ。
三層構造になっており、高所に作られる家々が多い中でも特に存在感を放っている。
入口は木の洞に取り付けられた扉で、『悪魔のお悩み相談所』と書かれた看板が下がっている。
二人は揃って息をつき、荷物を抱え直して中へと入って行った。
広く高い木の内部は掘り抜かれており、ぐるりと螺旋階段が続く。
入った途端に騒がしい声が上階から聞こえ、思わず二人は顔を見合わせてしまった。
「またリリーかしら……」
「は、早く行った方がいいかな……?」
同時に頷き、階段を駆け上がるアイリスとレア。
下部にある踊り場で立ち止まった。
『依頼人はこちら』の文字が踊る看板が掛けられたそれに手を掛け、勢い良く開ける。
扉が開き切る前から、何やら騒がしい叫び声が飛び出してきた。
「やった~っ、ボクの勝ち~!!」
誇らしげに胸を張るのは、丸眼鏡を掛け、明るい橙色の短い髪に柔らかい新緑の瞳を持った少女だ。
相対する少年が、悔しそうに少女を睨んでいる。
ぷるぷると震える手には、小さなカードが握られていた。
「くっ……能力使うのは卑怯だろ?!だから心理戦は嫌なんだよ!!」
「ま、勝ちは勝ちだからね~。報告書はロータスよろしく☆」
「都合の良い押し付け方しやがって……!!」
呆れ返ったらしいレアが、荷物をどさりと落とした。
その音でようやく気付いたらしい二人は、びくっと震えて振り向いてくる。
レアは全く笑っていない笑顔を浮かべていた。
「リリー、ロータス、何してるの?」
濡れ羽色の長い髪を括り、優しげな蒼い瞳を覗かせる少年─ロータスが、冷や汗を流しながら目の前の少女を指差した。
「い、いや、違うんだよ!聞いてくれよレア!こいつがさ、ゲームしてくれないと報告書押し付けるって脅してきたから!!」
「なぁっ、そ、そこまで言ってないじゃんっ?!ボクはただー、ロータスの息抜きになればなーって……」
そんな彼に大声で異議申し立てる少女─リリー。
だが、レアの鋭い一言が一蹴する。
「その息抜き、随分うるさかったけど。依頼人が来てたらどうしてたの?」
「「…………」」
同時に黙り込み、二人は素直に頭を下げた。
「「すみませんでした」」
「はぁ……さっさと運んでくれる?これ」
「「はいごめんなさい!!」」
歳下であるレアにぼこぼこに言われ素直に従う二人を、アイリスは何とも言えない目で眺めていた。
✿
しばらくして。
レアのお怒りが解けた頃、四人は貰ったり購入したりしたお菓子を並べてティータイムにしていた。
アイリスが飲み物を用意し、テーブルに置いていく。
レアとリリーは紅茶、ロータスは緑茶、アイリスはホットミルクだ。
上機嫌で受け取った紅茶を啜るリリーは、先程の醜態も忘れた明るい声でロータスに話しかける。
「ロータスってさぁ、何でいつも緑茶なの?あんまり売ってるところないのにさ」
この国で主に飲まれているのは紅茶とコーヒーだ。
どちらかと言えば、ロータスは少数派に当たる。
彼はきょとんとし、すぐに和んだ笑顔を見せた。
「いや、俺も昔は紅茶派だったんだけどさ。ジオに勧められて飲んだら美味しくて……何か、ほっこりするんだよな」
アイリスは心の底から不思議そうな顔をしている。
「紅茶も、緑茶も、苦いのに……よく飲めるね?」
「ごめんボクは絶対アイリスの味覚理解出来ない」
「それは私もね……」
「うん……」
三人は微妙な顔をする。
アイリスは狂的な程に甘い物を好む。
このホットミルクも、ミルクはそもそもが甘いのに更に角砂糖を四つも五つも投入して飲んでいる。
彼女は美味しいの一点張りだが、一度試しに飲ませてもらったロータスが吐きそうな顔をしたので、レアもリリーもアイリスのものを間違って飲まないように細心の注意を払っていた。
反対されて少し不満げに頬を膨らませたアイリスは、机の上の砂糖菓子を手に取る。
それを見て、リリーが目を輝かせた。
「あっ!フェアリーティアだ!!ね、どこで買ってきたのそれ!!」
「貰い物よ」
「えーっ、お店聞いてきて欲しかったなぁ~。あんまり売ってないんだよねぇ」
『フェアリーティア』と名付けられているその星型のお菓子は、文字通りとても小さく、様々な色に染められている。
アイリスは勿論、女子達は特に気に入っており、たまに手に入ると皆目を輝かせていた。
袋を開けると、すぐに半分近くが持っていかれる。
暢気にクッキーを頬張っていたロータスは、思わず苦笑いした。
お茶菓子がほとんど消え、四人が雑談をしていた頃。
再び扉が開き、一人の少年が姿を見せた。
美しい赤髪に切れ長の黒い瞳を持つ美少年だ。
滅多に見ない和装の彼は、黒と赤を基調とした着流しを翻して静かに中へ入って来た。
いち早く気付いたレアは、ぱっと顔を輝かせる。
「ジオ!おかえりなさい」
「ああ。留守番と買い出し、ありがとな」
薄く微笑んで答えた少年─ジオは、仲間達へ優しい視線を向けた。
皆嬉しそうににこにこしている。
だが座りもせず間を窺っているジオを見て、何かを悟ったリリーが声を上げた。
「その様子だと、何かあったみたいだね?」
「察しが早くて助かる」
少し困った様子で長い髪を掻き回すジオは、冷静に茶会終了の合図を告げる。
「治癒院からの依頼だ。身元不明の少女が見つかった」
✿
『悪魔のお悩み相談所』。
少しコミカルな名前が特徴的なこの施設の正体は、国民達に愛される何でも屋だ。
国民から寄せられる依頼や要望の対処が主な仕事で、依頼費は全て無料。
教会─王国運営の中心団体─から支援を受けており、下部組織のような役割すら果たしている。
メンバーは五人。
臆病だがとても優しい最年少、アイリス。
冷静沈着で大人びたツンデレ娘、レアことカトレア。
最年長ながら自由奔放なムードメーカー、リリー。
個性豊かなメンバーに振り回される苦労人、ロータス。
そして、クールながら人が良く皆に好かれる人格者、リーダーのジオことグラジオラス。
皆若く個性豊かだが、その優秀な能力によって老若男女問わず頼られる有名な組織である。
そして、何故こんな施設名なのかというと、彼らが『悪魔族』であるからだ。
多種族国家であるセフィロトで暮らす種族は以下の九つに分類される。
白い翼を持ち、穏やかで平和主義な『天使族』。
黒い翼を持ち、総じて戦闘能力の高い『悪魔族』。
妖術と呼ばれる能力を使い、様々な事件を引き起こす厄介者『妖魔族』。
魔術と呼ばれる能力を操り、実力主義社会を築く『魔族』。
半透明な身体を持ち、ゆらゆらと放浪することを好む『幽霊族』。
獣人、小人、巨人など、特徴的な身体を持つ小種族の集団『亜人族』。
透き通った羽を持ち、魔法と呼ばれる高度な超常現象を操る小さな種族『妖精族』。
自然から生まれ自然を操る、神の化身『精霊族』。
そして、これら八つの種族から崇められる超常存在であり、巨大な現象や事象を司る『神族』。
多種族であるが故に、種族内外でのいざこざは日常茶飯事であり、しかしながら解決が難しい。
この何でも屋の五人は全員が悪魔族であり、基本は悪魔族の考え方に寄っているため、悪魔族を好かない思想の者や種族とは逆に問題を引き起こしてしまう可能性がある。
そのリスクを事前に減らすため、一見でも実態が分かりやすい名前にしているという訳である。
勿論、前述の通り彼らは国のトップからの支援も受けている優秀な者達ばかりである。
聖都─聖樹周辺を取り囲む国の中心地であり、最も多くの種族が暮らす地域に居を構えていることもあり、その点に関してはほぼ杞憂である。
しかしながら。
今日のようにリーダーが全員を招集するような依頼の場合。
依頼元が治癒院という教会の公共施設である場合。
その依頼は、大抵一筋縄ではいかない厄介事である。
✿
事務所を離れた五人は、依頼元である隣の治癒院へと向かっていた。
眩しい太陽に目を細め、ジオは玄関に立て掛けられている番傘を差す。
ロータスが苦笑いを浮かべた。
「今日は日差し強いよなぁ。ジオには辛いな」
「まぁ、な」
日の光を知らない白く華奢な手首に触れ、ジオも苦笑する。
一方、リリーは嬉しそうににこにこしている。
「ま、レイア様が上機嫌ってことでしょ?良いことじゃん」
「……リリーの口から神の名前が出るなんて」
「レアはボクのこと何だと思ってるわけっ?!」
ぼそりと吐かれた悪意のある一言に涙目になるリリー。
また騒がしくなる一行は、通りすがりの近所の住民達に生暖かい目を向けられていた。
今更ながら説明を付け加えておくと、治癒院は文字通り怪我の治療や病気の回復を目的として作られた公共施設だ。
種族内で共通した能力─『共通能力』である『治癒』を持っている天使族の主要な仕事場であり、九割近くの天使族が治癒院に勤めているという程需要のある施設でもある。
何せ、この国は広い上に争いが多い。
聖都付近は現在こそ平穏そのものだが、戦場になっていた時期もあった。
妖魔族のテリトリーなどは最早国も手出しできない無法地帯と化している。
怪我を即座に治せる『治癒』を必ず持って生まれてくる天使族は、平和主義な種族性もあり、王国の各地に散らばって国中の病人や怪我人を癒している縁の下の力持ちである。
閑話休題。
そうこうしている内に、五人は治癒院の前まで辿り着いていた。
隣にあるため、この聖都中央治癒院は依頼先としても患者としてもお世話になることが多いお得意先である。
天使族の職員達が真面目に勤務している姿を見て、やっと五人(主にリリー)が静かになる。
受付として入口に立っている青年が、五人の姿を認めると恭しく話しかけてきた。
「お疲れ様です。依頼の件でしょうか?」
「ああ。取り次ぎを頼む」
「承知しました」
既に伝えられていたようで、話が進むのは早かった。
大して待つこともなく、奥から一人の職員がやって来る。
「お待ちしておりました。わざわざお越し下さり有難うございます」
丁寧な口調で頭を下げるのは、ウェーブのかかった金色の髪を流し、穏やかな空色の瞳を向けてくる妙齢の天使族の女性だ。
思わず目を惹く美人であり、慣れている職員達でもちらちら様子を窺っているのが見えた。
レアが真っ先に駆け寄り、笑顔で応対する。
「ローズさん!いえ、いつでも呼んで下さい」
嬉しそうに答えてくれるレアに、彼女─ローズも頬を緩ませた。
ローズは、聖都中央治癒院の顔とも言える人物だ。
穏和で礼儀正しい性格と優秀な治癒能力で職員からも周辺住民からも信頼を寄せられている。
特にその美貌から絶大な人気を誇っているため、何かとローズとお近付きになろうとする迷惑客が頼れる職員達にガードされている風景はこの治癒院の日常でもある。
今日も今日とてロビーで待つ患者が熱い視線を送っていたが、ジオが鋭い目で牽制していたため妨害されることはなかった。
五人はそのままローズに連れられて治癒院の中を進み、奥の離棟へと向かう。
この離棟は、治癒能力だけでは対応できない大怪我や状態異常、病気などを持つ人々が入院するための個室棟で、治癒室が並び多くの人が行き交う一階よりも静かで落ち着いた雰囲気だ。
静かに、それでいててきぱきと歩を進めていたローズは、一階一番奥の小部屋の前で立ち止まって振り向いた。
「皆様、こちらです。依頼の詳細については、中の職員からお聞き下さい」
そして、申し訳なさそうに五人を見つめた。
「今回の件は、ごく一部の職員にしか知らされておりません。皆様に一任する形となります。どうか宜しくお願い致します」
真剣な口調に、アイリスとレアが思わず顔を見合わせる。
ロータスも不安そうにジオへ視線を向け、リリーはいつも通りの顔で眼鏡の位置を調節していた。
ジオは何も聞かず、事務的に返答する。
「分かった。後はこちらでやっておく」
「感謝致します」
淡々とした対応のジオにも丁寧に頭を下げ、ローズは足早に去って行った。
その背中が見えなくなった頃に、ジオが四人に顔を向けて補足する。
「ということだ。経緯は俺もまだ詳しく聞いてないが、他言無用らしい。気をつけてくれ」
「わざわざローズさんが案内してくれるなんて珍しいと思ったら、何か訳ありなんだな」
ロータスが難しい顔でぽつりと呟いた。
リリーも眼鏡を掛け直して唇を尖らせる。
「訳ありじゃない依頼なんて滅多にないけど~、こればっかりはそんな感じだね」
おろおろするアイリスにくっつかれているレアは、緊張気味ながら落ち着いた口調で皆を促した。
「とりあえず、入りましょうか。話聞かないと分からないしね」
彼女の言葉に皆頷き、五人は謎の少女が待つ部屋へと入っていった。
✿
そこは、一人用の一番狭い個室だった。
中央のベッドに眠る一人の少女を、治癒院の制服を着た天使族の青年が椅子に腰掛けて不安げに見守っている。
五人が入って来たのを見ると、彼はほっとした顔で立ち上がった。
「あっ、来てくれたんだね。助かるよ」
天使族らしい穏やかな声色。
代表して、ジオが応対する。
「仕事だからな。お互い様だ。それで?」
愛想のない返しにも慣れたもので、青年は気にも留めず状況を説明してくれた。
「今日の朝方にね、巡回をしてた聖樹の警備員がこの子を見つけて連れて来てくれたんだけど…何でも『神域』の森で倒れていたらしいんだ」
『神域』という言葉に五人は目を見張る。
それは、聖樹の根本に円形に広がる不可侵領域のことだ。
神族とごく一部の国民しか入場が許されないそこは、小さな森が広がる植物の楽園と言われている。
…逆に言えば、そんな場所にいた少女はただ者ではないということで。
青年は困り顔で頬を掻いた。
「正直、僕達じゃ手に負えないからね。一先ず彼女が目を覚ましてからだけど、彼女の身元と事情だけは把握しておいて欲しいんだ」
依頼とはそういうことらしい。
特に異論のない五人は揃って頷く。
青年は嬉しそうな笑顔を見せた。
「ありがとう!助かるよ。じゃあ、僕も行かなきゃいけないから、後はよろしくね。何かあったら下にいるから」
目を覚ましたら色々聞いてみて、と言葉を残し、青年は去っていった。
パタンとドアが閉まる音と共に、五人は同時に息を吐き出す。
「なるほどねぇ。身元不明者が何でうちにって思ったら、聖樹関連か」
すっと目を細めるリリー。
お調子者かつトラブルメーカーではあるが、これでも非常に頭の回転が早い頭脳派だ。
即座に状況を把握し、考察してみせる。
ジオもリリーに賛同して頷いた。
「だろうな。『神域』の侵入者となると、治癒院の職員じゃ対処の難しい案件だ」
理解の早い歳上組に対し、それよりも寝かせられた少女の方へ興味を移している歳下組は、話し合う二人から離れてベッドをそっと覗き込んだ。
…そして全員、同時に息を呑んで硬直する。
恐ろしい程に美しい少女だった。
整った顔立ちは正に神にも劣らぬもので、色素の薄い肌と透き通った銀髪、伏せられた長い睫毛がどうにも常人離れした雰囲気を醸し出している。
固まる三人を見て不審げにやって来たリリーとジオも、彼女を見て目を丸くする。
真っ先にフリーズから解けたジオは、何故か感心した顔をした。
「綺麗な子だな……倒れてたのが『神域』で良かったかもしれないな」
「道端に落ちてたら間違いなく誘拐されるよねぇ」
便乗して呟くリリー。
三人もこくこくと頷いた。
一通りの衝撃が過ぎ去った後、まず疑問を呈したのはロータスだった。
「それにしても、何でこの子は目覚まさないんだろうな。特に大怪我してるとかでもないんだろ?」
全員が少女を見下ろす。
布団の間から覗く細い腕には一切の外傷がない。
眠っていることを除けば、至って健康体に見える。
ジオが渋い顔で腕を組んだ。
「そうだな。軽傷は負っていたらしいんだが、特に昏睡状態に陥るような怪我は無かったらしい。だから尚更謎が多いんだよな」
場が静まり返った。
リリーが独りごちる。
「そんなのさぁ、ボクらでもどうしようもなくない?」
「それをどうにかするのが俺達の仕事だろ」
ジオに即答を返されたリリーは、何とも言えない顔になった。
「まぁ、そうだけど……はぁー、面倒」
そんなことを言っている割に、その目は好奇心で輝いている。
少女の正体が気になっているのだろう。
一方、呆れ顔になったのはレアだ。
「治癒院直属の依頼を面倒って……一回ローズさんに殴られればいいのに」
「あの人そんなことしないでしょ?!ていうか違う、違うから!面倒っていうのはそのぉ……綾!言葉の綾だから!!」
「そんな訳ないでしょ、何をどうしたら肯定的に解釈出来るのよ」
「くっ……可愛くなくなったねレア……昔はそんなこと絶対言わなかったのに……!」
「リリーにだけは言われたくない」
ぷいっと顔を背けるレア。
頬は不満げに少し膨らんでいる。
そんな彼女を宥めるように撫でて、ジオは苦笑いを浮かべた。
「喧嘩するな。大声出してると他の職員に怪しまれるぞ」
「……むぅ」
撫でられて嬉しそうなレアは、不満そうではあるものの素直に静かになる。
リリーには一睨みを向けて黙らせ、ジオは一先ず場をまとめた。
「とりあえず、何とかして彼女を起こそう。話が聞けないと何も出来ないからな」
「そうだなぁ」
ロータスが疲れた声を上げる。
「にしても、どうやって起こすんだ、これは?」
一瞬、沈黙が走る。
ふと呟いたのはアイリスだった。
「……叫ぶ?」
「この子は起きるかもしれないけど私達が動けなくなるわね」
何とも言えない顔になるレア。
アイリスの叫び声は、前述の『能力』と呼ばれる存在の恩恵でえげつないことになっている。
具体的に言うと、窓が割れたり、書類が飛び散ったり、鼓膜が破れかけたり…
…直近では、つい二日前の出来事であった。
レアだけでなく、全員が微妙な顔になる。
アイリスは涙目で俯いた。
「ごめんなさい……」
「い、いや、責めてる訳じゃないからな?!」
ぷるぷる震え始めた彼女を慌ててフォローするロータス。
最年少のアイリスには何だかんだ皆甘い。
特に兄のように懐かれているロータスは泣き虫な少女の鎮静剤と化している。
その様子を穏やかな目で眺めていたジオは、小さく息をついて腕を組んだ。
「……まぁ、焦る必要はないか。このままだと強硬手段しか思いつけないな」
「そうかもねぇ。皆ジオに毒されてるから」
「どういう意味だよ」
くすくすと笑うリリーに不機嫌そうな顔を向けるジオ。
─と。
「……ん?」
風がそよぐような気配を感じ、ベッドへ視線を送る。
いつの間にか、少女が目を覚ましていた。
吸い込まれそうなほど深い紅の瞳が、真っ直ぐ五人を見つめていた。
ジオに釣られて他のメンバーも気が付いた。
少女は戸惑ったような顔色のままむくりと起き上がり、呆然とこちらを眺めてくる五人を順繰りに見渡す。
どうやら、先程の騒がしいやり取りで既に起きていたようだった。
血色の薄い唇が、薄らと開く。
「******、***?」
聞き覚えのない言語だった。
ロータスがぼそりと呟く。
「レイシア、か」
レイシアは、種族言語のことだ。
各種族毎に伝わる独自の言葉で、国民は皆、普段会話に使う共通言語と同時に自らのレイシアを習わされる。
あまりそれを使わない種族もある上に基本は便利なコイネーを使う為、マイナーな言語ではあるのだが…
…ふと、一人の橙髪の少女に視線が集まった。
真剣な顔で少女を見据えるリリーは、四人の視線に押し負けて苦笑いを浮かべる。
「あー、待って待って。うん、知ってる言葉だよ。思い出すからちょっと待って」
読書をこよなく愛するリリーは、その強すぎる知的好奇心と類まれなる頭脳を活用し、何とほぼ全種族のレイシアの読み書きを習得している。
軽い会話なら話すことも出来るらしい。
様々な種族が訪れるこの事務所で、リリーの存在は非常に貴重なものであった。
「本当、すごいよなお前……いっつもあんなにふざけてるのに」
「いつ何時も真面目だよ!」
ロータスの若干ずれた賞賛にむぅっと頬を膨らませるリリーは、それでも申し訳なさそうに髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
「うぅ~~~ん……ごめん、思い出せないや。何だっけなぁ、この言語」
「でも、この国の言語ではあるんだな?」
畳み掛けるように言うジオ。
それが今最も重要なことだ。
リリーは微笑み、頷いた。
「うん。それは間違いないよ。他国の子とかじゃないみたいだね」
「……そうか」
ジオはほっと息をつく。
レアも彼に倣った。
「だったら、種族は大体絞り込めるわね。リリーに通訳してもらいながら、身元を特定出来る」
「うぇー、話せるかな……」
「頑張れー」
「応援に気合いが無さすぎるでしょ」
軽口を叩き合うメンバー達。
リリーがやれやれと少女に向き直ると、彼女はぱちぱちと瞬きし、再び言葉を発した。
「……ごめんなさい。お話、できるよ」
今度は聞き慣れた言語だ。
はっ、とリリーが嬉しそうに顔を輝かせる。
「コイネー話せるの?!良かった~!」
ぐっと迫られ、少女は若干ベッドの上で身を引く。
戸惑ったような声色になった。
「こいねー?」
「え?」
ぽかんとするリリー。
背後のジオも不思議そうにしている。
「コイネーは話せるのに、言語の名前を知らないのか?」
首を傾げる五人。
少女も、更に困惑したような声で呟く。
「これ、使ってなかった……から」
「「使ってなかった?」」
声を揃えるジオとリリー。
奇妙な沈黙が場を支配した。
アイリスがこっそりレアに耳打ちする。
「コイネー使ってない種族って、あるの?」
「無いことは無いけど……」
レアの言葉にも歯切れがない。
「妖精族とか、亜人族とかなら……でも、腑には落ちないわね」
共通言語がマイナーであるという時点でイレギュラーなことに変わりはない。
いずれにせよ、言語の謎は解決しなかった。
これ以上の議論は無駄だと判断したのか、ジオは気を取り直して少女へ質問を投げかけた。
「細かい話はともかく、言語が通じるなら話は早い。お前、名前は?」
「名前……」
ぶっきらぼうなジオの声に少女はぽかんと固まる。
暫くしてから、ふるふると首を横に振った。
「名前、分かんない」
「……分からない?」
思わず聞き返すジオ。
少女は俯いて声を萎ませる。
「思い出せない……ここに来る、前のこと」
「……記憶喪失かぁ」
リリーがぼそりと呟いた。
「これは時間掛かるねぇ」
ジオも難しい顔で眉間に皺を寄せている。
「何か、お前自身のことで分かることはあるか?」
望み薄だと分かっているからか、ジオの声は決して明るいものではない。
想像通り、少女は力無く首を横に振った。
「……ごめんなさい」
「そうか……」
重い沈黙が舞い降りた。
個人情報が分からないとなると、少女の身元特定は相当困難なものになる。
何とか分かるとするならば、種族だろうか。
リリーはじっと彼女を見つめ、呟いた。
「身体的特徴が無いってことは、天使でも悪魔でもないよね……ありそうなのは魔族系?」
それにジオ、ロータスが被せてくる。
「ただ、銀髪なんだよな……滅多に見ない色ではある」
「でも、ただでさえ普通じゃないんだろ?意外と身近な種族だったりするんじゃないか?」
話し合う三人へ、少女は不思議そうな目を向けている。
レアが少女へ話しかけた。
「言語の記憶はあるのよね。種族とか分かる?」
「……しゅぞく…………」
少女の首がこてんと傾く。
「皆、一緒……違う?」
慣れていないのだろう、片言気味な台詞なため意図が伝わりにくい。
リリーが遠慮がちに声を上げた。
「あー……それは、全員同じ種族ってこと?」
こくこくと頷く少女。
珍しくアイリスが声を上げた。
「みんな、一緒ってわけじゃないよ……?私たちは、悪魔族だし……ここの人たちは、天使族……」
少女は困惑した顔をする。
「……てんし?あくま……?」
会話が全く噛み合わない。
完全に黙り込むメンバー達。
溜め息をついて、ジオが状況をまとめた。
「……つまり、世界は同じだが常識が全く違うってことか。隔離された場所で、独自の文化を築いている家系なのかもしれないな。もしくは、常識も含めた記憶も失くしているか」
「天使族と悪魔族を知らないんじゃあねぇ……でもこの子の口振りだと、常識が違う可能性の方が高いと思うな」
リリーの返答に、ジオは再度溜め息を吐き出した。
「……これは、相当面倒な依頼を回されたな」
複雑そうな表情のメンバー達を見て、少女が申し訳なさそうに瞳を伏せる。
「ごめんなさい……私、迷惑いっぱいかけてる」
「あ、いや、お前を責めてる訳じゃないんだが……」
慌てて宥め、ジオは疲れた顔で頭を押さえた。
口下手という程ではないが、誤解されやすい性格だと自覚しているジオである。
威圧しているように聞こえるのではと、こう見えて気を遣っていた。
そんなリーダーの様子を見て、悩ましげに唸るリリー。
…そして、しばらくの沈黙の後。
「よし、外行こう!!」
突然叫んだ。
驚いてびくっと震える四人と少女。
レアが非難めいた目を向ける。
「リリー、今仕事中なの分かってるの?」
「わ、分かってる分かってる!遊びたいとかじゃないから!真面目な提案!!」
誤解だと言いたげにぶんぶんと首を振るリリー。
その後、瞳をきらりと輝かせて言った。
「このまま押し問答しててもあんまり意味ないでしょ?だったら、この子に直接この国のこと紹介した方が手っ取り早いんじゃないかなーって。もしかしたら記憶戻るかもしれないしね」
「まぁ、言われてみればそうね」
しぶしぶ頷くレア。
手掛かりがない今、出来ることは常識の擦り合わせくらいだろう。
リリーの発言も一理ある。
少女はぱちぱちと瞬きをしてリリーを見た。
「……外?」
「うん。せっかくだから、聖都観光しよう!君、間違いなくここら辺出身じゃないからね。新鮮なんじゃないかな?」
にこっと微笑むリリー。
ちらりとジオに視線が向く。
彼も少し表情を緩め、頷いた。
「分かった。アイリス、外を出歩ける服を持ってきてくれ」
「う、うんっ」
役割を与えられて顔を輝かせた少女は、ぱたぱたと去って行く。
ジオはそのまま背後の二人に視線を送った。
「レアとロータスは、アイリスと待機しててくれ。仕事も残ってるし」
「えっ、俺も?」
行きたかったのか、残念そうな顔をするロータス。
ジオは無表情で呟いた。
「報告書」
「えっちょっと待って何で知ってるの」
「レアに聞いた」
「いつの間に……てか、それリリーが戦犯だからな?!俺押し付けられただけだから!!」
「分かってるよ。俺だって本当はリリーにやらせたい。でも、こいつがいないと言語通訳が出来ないからな」
「ふっふふーん♪」
「あぁ、その代わりにこれが解決したら他の仕事大量に回すから心配するな」
「えぇっ何で?!」
「「当たり前だろ!!」」
再び騒がしくなる室内。
レアは呆れ顔で溜め息をつき、少女は無言で言い合う三人を眺める。
無表情のまま動かない表情。
だが、その瞳が僅かに伏せられたことにレアだけが気付いた。
垣間見えるのは、微かな寂寥。
レアはそっと少女に近付き、微笑んで話しかけた。
「大丈夫。絶対、あなたを元の場所に帰すから。いつもは騒がしいけど、あの三人、ああ見えてすごく優秀なのよ」
レアの細い指が、所在なさげだった少女の手を取る。
少女は少しだけ目を見開かせる。
小さな声が、名を呼んだ。
「……レア?」
「っ……な、何?」
突然呼び掛けられ、いつの間に名前を覚えられていたのかと驚くレアに。
少女は飾り気のない声で言った。
「ありがとう……レア、いい人」
「……………………え」
硬直するレア。
顔が一瞬で真っ赤に染まる。
分かりやすく狼狽えた彼女は、大人びた態度を綺麗に忘れ、しどろもどろにお礼を告げた。
「あっ、ありが、とう……」
少女の瞳に暖かい光が灯る。
微笑ましい、和やかな光景だった。
そこに、ようやく口喧嘩が収まったらしくジオがやって来た。
鋭い眼光を和らげ、少女を見る。
「話は分かったか?」
こくりと頷く少女。
ジオは満足気に頷き返した。
「自己紹介をしていなかったな。俺はグラジオラス。長いからジオでいい。一応、こいつらのまとめ役だ」
本名のインパクトに驚いてか、少女はおずおずとお辞儀を返す。
そこに残りのメンバーも集まってきた。
「ボクはリリー!よろしくねー」
「俺はロータスです」
「カトレア。レアでいいわ。あと、さっきいたもう一人はアイリスね」
友好的な笑みと共に名を告げる三人に、少女も警戒心の消えた表情でこくこくと頷く。
一通り名乗ったところで、ジオがふと呟いた。
「……そういえばお前、名前覚えてないんだよな」
「便宜上でも、名前無いと不便だよねぇ」
リリーがジオの意を察してそう続けた。
少女はぱちぱちと瞬きし、無垢な瞳をジオに向ける。
「名前、つけて」
「……ん?」
ぽかんとするジオに、少女は同じトーンのまま言う。
「私の、名前……つけてほしい」
四人は思わず顔を見合わせた。
「……えっと、いいの?」
「どうせ分かんないから」
小首を傾げるロータスに、さっぱりとした表情で呟く少女。
しばらく固まっていたジオは、納得して小さく頷いた。
「そう、だな。じゃあ……」
数瞬黙り込んで、ジオは顔を上げる。
「『デイジー』はどうだ?」
「……デイジー」
復唱する少女。
白く小さな花弁が愛らしい花の名前だ。
レアとロータスは素直に賛成する。
「可愛いじゃない」
「いいんじゃないか?」
一方、何故か笑みを堪えるリリー。
「くふっ……ジオらしいね」
「どういう意味だよ」
ジオは少し頬を赤く染めてリリーを睨む。
リリーはそれを綺麗に無視し、少女に視線を向けた。
「どう?」
彼女はどこか嬉しそうに頷く。
「……ありがとう。それがいい」
ずっと感情の無かった顔に薄らと喜色が帯びる。
歳相応の可愛らしい表情に、四人の表情も緩んだ。
ジオは少女─デイジーに手を差し出す。
「じゃあ、デイジー。少しの間だが、よろしくな」
デイジーは軽く目を瞬かせ、ジオの手を優しく握り返した。
「……よろしく」
こうして、少女はしばしの間、彼らと行動を共にすることになるのだった。
王国の中心に聳える巨大な樹木─『聖樹』と、国土の半分以上を覆うほどの森が特徴的な、数千年の歴史を持つ大国だ。
また多種族国家でもあり、大まかに九つの種族が、お互いに協力し、たまに争いながら共存している。
国民が『能力』と総称される特殊技能を持ち合わせていることも特徴の一つで、非常に閉鎖的かつ貿易や国交を一切しないことから、他国からは『異世界国家』と呼称されている。
その、謎に包まれた王国内部に様々な妄想を働かせる外の人々には欠片も目をくれず。
彼らは、平穏な日々を送っていた。
✿
聖樹広場。
あまりに巨大な聖樹の木漏れ日と、周囲の木々に取り付けられたランタンの灯りのみが照らす、神秘的な円形の空間だ。
出店が立ち並び賑わいもあるが、やはりどこか落ち着いた雰囲気が醸し出されている。
家族連れや恋人同士がゆったりと日常を紡いでいるこの場所で、一人の少女が不安げに金色の瞳を揺らしていた。
長くふわりとウェーブしている髪は淡い桃色で、幼い顔つきながらそこそこに背の高い少女は、その挙動不審さもありだいぶ人目を引いている。
どうやら人見知りならしく、視線を向けられる度にびくりと肩を跳ねさせる。
バサッと、背中に生えた黒い翼が広がった。
慌ててその片翼を閉じるが、弾みで近くにいた白い翼の親子にぶつかる。
泣きそうになりながら全力で謝り、むしろその必死っぷりに逆に謝られるという軽い事件が起こった。
少女はすっかり気を落としたようで、人気のない広葉樹の根元に座り込んで俯いてしまう。
そこに、同じ黒い翼を持つ少女から声が掛かった。
「アイリス、何してるの?」
少し冷たい響きのそれに、しかしアイリスと呼ばれた少女はばっと顔を上げ、目を輝かせる。
「レアっ!おかえり……っ」
「何で泣きそうなのよ。五分待っててって頼んだだけじゃない……まだ三分も経ってないし」
少し大人びた口調の金髪の少女─レアは、同年代ながら頼りない言動をするアイリスに苦笑いを向けている。
その姿はさながら本物の姉妹のようだった。
果物や野菜の詰まった紙袋を抱えるレアは、鮮やかな赤い瞳をアイリスに向け、同じ色のリボンをはためかせてすたすたと歩き出す。
「あ、ま、待ってよぉ……!」
アイリスは慌ててそれを追った。
二人は並んで聖樹広場を抜け、ツリーハウスや日用品店が入る巨大な木々がずらりと並んだ大通りに入って行く。
同じく立派な翼を持つ住民達は、通りすがる二人の少女ににこやかに挨拶をしてくる。
アイリスはおっかなびっくり、レアは落ち着いた笑顔で対応する。
数人の子供達は、わざわざ駆け寄ってきてお菓子を渡してくるほどだ。
「レアねーちゃん、これあげるーっ」
ふわふわとした白翼を持つ少年に小袋いっぱいの砂糖菓子を渡され、レアの表情が緩んだ。
「ふふっ、ありがとう。皆で食べるわ」
「うんっ」
可愛い笑顔を浮かべ、彼はとことこと去って行く。
ずっとおどおどしていたアイリスも、少し和んだ顔をしていた。
「レア、好かれてるね……」
「まぁね。治癒院の隣に孤児院もあるから、小さい子の面倒も見てたし」
「あれ、孤児院だったの……?」
「ええ。大体治癒院の近くに一軒はあるでしょ」
「そっかぁ……ここの治癒院、おっきいもんね」
世間話をしながら、二人は増えた荷物を抱えて更に歩を進めた。
住宅地を抜けた頃に、より巨大な大樹を取り巻くように作られた建物が見えてくる。
地面に近い場所に設置された入口から見えるだけでも、白翼の若い男女が何人も忙しなく動き回っているのが見える。
看板には木々や花をあしらったレリーフと、『聖都中央治癒院』と書かれた飾り文字が踊っていた。
見慣れたそれに特に反応を見せることもなく、外に出ている職員と挨拶を交わして二人はその建物の奥に回り込んだ。
そこにあるのは、治癒院に負けず劣らずの大樹に建てられたツリーハウスだ。
三層構造になっており、高所に作られる家々が多い中でも特に存在感を放っている。
入口は木の洞に取り付けられた扉で、『悪魔のお悩み相談所』と書かれた看板が下がっている。
二人は揃って息をつき、荷物を抱え直して中へと入って行った。
広く高い木の内部は掘り抜かれており、ぐるりと螺旋階段が続く。
入った途端に騒がしい声が上階から聞こえ、思わず二人は顔を見合わせてしまった。
「またリリーかしら……」
「は、早く行った方がいいかな……?」
同時に頷き、階段を駆け上がるアイリスとレア。
下部にある踊り場で立ち止まった。
『依頼人はこちら』の文字が踊る看板が掛けられたそれに手を掛け、勢い良く開ける。
扉が開き切る前から、何やら騒がしい叫び声が飛び出してきた。
「やった~っ、ボクの勝ち~!!」
誇らしげに胸を張るのは、丸眼鏡を掛け、明るい橙色の短い髪に柔らかい新緑の瞳を持った少女だ。
相対する少年が、悔しそうに少女を睨んでいる。
ぷるぷると震える手には、小さなカードが握られていた。
「くっ……能力使うのは卑怯だろ?!だから心理戦は嫌なんだよ!!」
「ま、勝ちは勝ちだからね~。報告書はロータスよろしく☆」
「都合の良い押し付け方しやがって……!!」
呆れ返ったらしいレアが、荷物をどさりと落とした。
その音でようやく気付いたらしい二人は、びくっと震えて振り向いてくる。
レアは全く笑っていない笑顔を浮かべていた。
「リリー、ロータス、何してるの?」
濡れ羽色の長い髪を括り、優しげな蒼い瞳を覗かせる少年─ロータスが、冷や汗を流しながら目の前の少女を指差した。
「い、いや、違うんだよ!聞いてくれよレア!こいつがさ、ゲームしてくれないと報告書押し付けるって脅してきたから!!」
「なぁっ、そ、そこまで言ってないじゃんっ?!ボクはただー、ロータスの息抜きになればなーって……」
そんな彼に大声で異議申し立てる少女─リリー。
だが、レアの鋭い一言が一蹴する。
「その息抜き、随分うるさかったけど。依頼人が来てたらどうしてたの?」
「「…………」」
同時に黙り込み、二人は素直に頭を下げた。
「「すみませんでした」」
「はぁ……さっさと運んでくれる?これ」
「「はいごめんなさい!!」」
歳下であるレアにぼこぼこに言われ素直に従う二人を、アイリスは何とも言えない目で眺めていた。
✿
しばらくして。
レアのお怒りが解けた頃、四人は貰ったり購入したりしたお菓子を並べてティータイムにしていた。
アイリスが飲み物を用意し、テーブルに置いていく。
レアとリリーは紅茶、ロータスは緑茶、アイリスはホットミルクだ。
上機嫌で受け取った紅茶を啜るリリーは、先程の醜態も忘れた明るい声でロータスに話しかける。
「ロータスってさぁ、何でいつも緑茶なの?あんまり売ってるところないのにさ」
この国で主に飲まれているのは紅茶とコーヒーだ。
どちらかと言えば、ロータスは少数派に当たる。
彼はきょとんとし、すぐに和んだ笑顔を見せた。
「いや、俺も昔は紅茶派だったんだけどさ。ジオに勧められて飲んだら美味しくて……何か、ほっこりするんだよな」
アイリスは心の底から不思議そうな顔をしている。
「紅茶も、緑茶も、苦いのに……よく飲めるね?」
「ごめんボクは絶対アイリスの味覚理解出来ない」
「それは私もね……」
「うん……」
三人は微妙な顔をする。
アイリスは狂的な程に甘い物を好む。
このホットミルクも、ミルクはそもそもが甘いのに更に角砂糖を四つも五つも投入して飲んでいる。
彼女は美味しいの一点張りだが、一度試しに飲ませてもらったロータスが吐きそうな顔をしたので、レアもリリーもアイリスのものを間違って飲まないように細心の注意を払っていた。
反対されて少し不満げに頬を膨らませたアイリスは、机の上の砂糖菓子を手に取る。
それを見て、リリーが目を輝かせた。
「あっ!フェアリーティアだ!!ね、どこで買ってきたのそれ!!」
「貰い物よ」
「えーっ、お店聞いてきて欲しかったなぁ~。あんまり売ってないんだよねぇ」
『フェアリーティア』と名付けられているその星型のお菓子は、文字通りとても小さく、様々な色に染められている。
アイリスは勿論、女子達は特に気に入っており、たまに手に入ると皆目を輝かせていた。
袋を開けると、すぐに半分近くが持っていかれる。
暢気にクッキーを頬張っていたロータスは、思わず苦笑いした。
お茶菓子がほとんど消え、四人が雑談をしていた頃。
再び扉が開き、一人の少年が姿を見せた。
美しい赤髪に切れ長の黒い瞳を持つ美少年だ。
滅多に見ない和装の彼は、黒と赤を基調とした着流しを翻して静かに中へ入って来た。
いち早く気付いたレアは、ぱっと顔を輝かせる。
「ジオ!おかえりなさい」
「ああ。留守番と買い出し、ありがとな」
薄く微笑んで答えた少年─ジオは、仲間達へ優しい視線を向けた。
皆嬉しそうににこにこしている。
だが座りもせず間を窺っているジオを見て、何かを悟ったリリーが声を上げた。
「その様子だと、何かあったみたいだね?」
「察しが早くて助かる」
少し困った様子で長い髪を掻き回すジオは、冷静に茶会終了の合図を告げる。
「治癒院からの依頼だ。身元不明の少女が見つかった」
✿
『悪魔のお悩み相談所』。
少しコミカルな名前が特徴的なこの施設の正体は、国民達に愛される何でも屋だ。
国民から寄せられる依頼や要望の対処が主な仕事で、依頼費は全て無料。
教会─王国運営の中心団体─から支援を受けており、下部組織のような役割すら果たしている。
メンバーは五人。
臆病だがとても優しい最年少、アイリス。
冷静沈着で大人びたツンデレ娘、レアことカトレア。
最年長ながら自由奔放なムードメーカー、リリー。
個性豊かなメンバーに振り回される苦労人、ロータス。
そして、クールながら人が良く皆に好かれる人格者、リーダーのジオことグラジオラス。
皆若く個性豊かだが、その優秀な能力によって老若男女問わず頼られる有名な組織である。
そして、何故こんな施設名なのかというと、彼らが『悪魔族』であるからだ。
多種族国家であるセフィロトで暮らす種族は以下の九つに分類される。
白い翼を持ち、穏やかで平和主義な『天使族』。
黒い翼を持ち、総じて戦闘能力の高い『悪魔族』。
妖術と呼ばれる能力を使い、様々な事件を引き起こす厄介者『妖魔族』。
魔術と呼ばれる能力を操り、実力主義社会を築く『魔族』。
半透明な身体を持ち、ゆらゆらと放浪することを好む『幽霊族』。
獣人、小人、巨人など、特徴的な身体を持つ小種族の集団『亜人族』。
透き通った羽を持ち、魔法と呼ばれる高度な超常現象を操る小さな種族『妖精族』。
自然から生まれ自然を操る、神の化身『精霊族』。
そして、これら八つの種族から崇められる超常存在であり、巨大な現象や事象を司る『神族』。
多種族であるが故に、種族内外でのいざこざは日常茶飯事であり、しかしながら解決が難しい。
この何でも屋の五人は全員が悪魔族であり、基本は悪魔族の考え方に寄っているため、悪魔族を好かない思想の者や種族とは逆に問題を引き起こしてしまう可能性がある。
そのリスクを事前に減らすため、一見でも実態が分かりやすい名前にしているという訳である。
勿論、前述の通り彼らは国のトップからの支援も受けている優秀な者達ばかりである。
聖都─聖樹周辺を取り囲む国の中心地であり、最も多くの種族が暮らす地域に居を構えていることもあり、その点に関してはほぼ杞憂である。
しかしながら。
今日のようにリーダーが全員を招集するような依頼の場合。
依頼元が治癒院という教会の公共施設である場合。
その依頼は、大抵一筋縄ではいかない厄介事である。
✿
事務所を離れた五人は、依頼元である隣の治癒院へと向かっていた。
眩しい太陽に目を細め、ジオは玄関に立て掛けられている番傘を差す。
ロータスが苦笑いを浮かべた。
「今日は日差し強いよなぁ。ジオには辛いな」
「まぁ、な」
日の光を知らない白く華奢な手首に触れ、ジオも苦笑する。
一方、リリーは嬉しそうににこにこしている。
「ま、レイア様が上機嫌ってことでしょ?良いことじゃん」
「……リリーの口から神の名前が出るなんて」
「レアはボクのこと何だと思ってるわけっ?!」
ぼそりと吐かれた悪意のある一言に涙目になるリリー。
また騒がしくなる一行は、通りすがりの近所の住民達に生暖かい目を向けられていた。
今更ながら説明を付け加えておくと、治癒院は文字通り怪我の治療や病気の回復を目的として作られた公共施設だ。
種族内で共通した能力─『共通能力』である『治癒』を持っている天使族の主要な仕事場であり、九割近くの天使族が治癒院に勤めているという程需要のある施設でもある。
何せ、この国は広い上に争いが多い。
聖都付近は現在こそ平穏そのものだが、戦場になっていた時期もあった。
妖魔族のテリトリーなどは最早国も手出しできない無法地帯と化している。
怪我を即座に治せる『治癒』を必ず持って生まれてくる天使族は、平和主義な種族性もあり、王国の各地に散らばって国中の病人や怪我人を癒している縁の下の力持ちである。
閑話休題。
そうこうしている内に、五人は治癒院の前まで辿り着いていた。
隣にあるため、この聖都中央治癒院は依頼先としても患者としてもお世話になることが多いお得意先である。
天使族の職員達が真面目に勤務している姿を見て、やっと五人(主にリリー)が静かになる。
受付として入口に立っている青年が、五人の姿を認めると恭しく話しかけてきた。
「お疲れ様です。依頼の件でしょうか?」
「ああ。取り次ぎを頼む」
「承知しました」
既に伝えられていたようで、話が進むのは早かった。
大して待つこともなく、奥から一人の職員がやって来る。
「お待ちしておりました。わざわざお越し下さり有難うございます」
丁寧な口調で頭を下げるのは、ウェーブのかかった金色の髪を流し、穏やかな空色の瞳を向けてくる妙齢の天使族の女性だ。
思わず目を惹く美人であり、慣れている職員達でもちらちら様子を窺っているのが見えた。
レアが真っ先に駆け寄り、笑顔で応対する。
「ローズさん!いえ、いつでも呼んで下さい」
嬉しそうに答えてくれるレアに、彼女─ローズも頬を緩ませた。
ローズは、聖都中央治癒院の顔とも言える人物だ。
穏和で礼儀正しい性格と優秀な治癒能力で職員からも周辺住民からも信頼を寄せられている。
特にその美貌から絶大な人気を誇っているため、何かとローズとお近付きになろうとする迷惑客が頼れる職員達にガードされている風景はこの治癒院の日常でもある。
今日も今日とてロビーで待つ患者が熱い視線を送っていたが、ジオが鋭い目で牽制していたため妨害されることはなかった。
五人はそのままローズに連れられて治癒院の中を進み、奥の離棟へと向かう。
この離棟は、治癒能力だけでは対応できない大怪我や状態異常、病気などを持つ人々が入院するための個室棟で、治癒室が並び多くの人が行き交う一階よりも静かで落ち着いた雰囲気だ。
静かに、それでいててきぱきと歩を進めていたローズは、一階一番奥の小部屋の前で立ち止まって振り向いた。
「皆様、こちらです。依頼の詳細については、中の職員からお聞き下さい」
そして、申し訳なさそうに五人を見つめた。
「今回の件は、ごく一部の職員にしか知らされておりません。皆様に一任する形となります。どうか宜しくお願い致します」
真剣な口調に、アイリスとレアが思わず顔を見合わせる。
ロータスも不安そうにジオへ視線を向け、リリーはいつも通りの顔で眼鏡の位置を調節していた。
ジオは何も聞かず、事務的に返答する。
「分かった。後はこちらでやっておく」
「感謝致します」
淡々とした対応のジオにも丁寧に頭を下げ、ローズは足早に去って行った。
その背中が見えなくなった頃に、ジオが四人に顔を向けて補足する。
「ということだ。経緯は俺もまだ詳しく聞いてないが、他言無用らしい。気をつけてくれ」
「わざわざローズさんが案内してくれるなんて珍しいと思ったら、何か訳ありなんだな」
ロータスが難しい顔でぽつりと呟いた。
リリーも眼鏡を掛け直して唇を尖らせる。
「訳ありじゃない依頼なんて滅多にないけど~、こればっかりはそんな感じだね」
おろおろするアイリスにくっつかれているレアは、緊張気味ながら落ち着いた口調で皆を促した。
「とりあえず、入りましょうか。話聞かないと分からないしね」
彼女の言葉に皆頷き、五人は謎の少女が待つ部屋へと入っていった。
✿
そこは、一人用の一番狭い個室だった。
中央のベッドに眠る一人の少女を、治癒院の制服を着た天使族の青年が椅子に腰掛けて不安げに見守っている。
五人が入って来たのを見ると、彼はほっとした顔で立ち上がった。
「あっ、来てくれたんだね。助かるよ」
天使族らしい穏やかな声色。
代表して、ジオが応対する。
「仕事だからな。お互い様だ。それで?」
愛想のない返しにも慣れたもので、青年は気にも留めず状況を説明してくれた。
「今日の朝方にね、巡回をしてた聖樹の警備員がこの子を見つけて連れて来てくれたんだけど…何でも『神域』の森で倒れていたらしいんだ」
『神域』という言葉に五人は目を見張る。
それは、聖樹の根本に円形に広がる不可侵領域のことだ。
神族とごく一部の国民しか入場が許されないそこは、小さな森が広がる植物の楽園と言われている。
…逆に言えば、そんな場所にいた少女はただ者ではないということで。
青年は困り顔で頬を掻いた。
「正直、僕達じゃ手に負えないからね。一先ず彼女が目を覚ましてからだけど、彼女の身元と事情だけは把握しておいて欲しいんだ」
依頼とはそういうことらしい。
特に異論のない五人は揃って頷く。
青年は嬉しそうな笑顔を見せた。
「ありがとう!助かるよ。じゃあ、僕も行かなきゃいけないから、後はよろしくね。何かあったら下にいるから」
目を覚ましたら色々聞いてみて、と言葉を残し、青年は去っていった。
パタンとドアが閉まる音と共に、五人は同時に息を吐き出す。
「なるほどねぇ。身元不明者が何でうちにって思ったら、聖樹関連か」
すっと目を細めるリリー。
お調子者かつトラブルメーカーではあるが、これでも非常に頭の回転が早い頭脳派だ。
即座に状況を把握し、考察してみせる。
ジオもリリーに賛同して頷いた。
「だろうな。『神域』の侵入者となると、治癒院の職員じゃ対処の難しい案件だ」
理解の早い歳上組に対し、それよりも寝かせられた少女の方へ興味を移している歳下組は、話し合う二人から離れてベッドをそっと覗き込んだ。
…そして全員、同時に息を呑んで硬直する。
恐ろしい程に美しい少女だった。
整った顔立ちは正に神にも劣らぬもので、色素の薄い肌と透き通った銀髪、伏せられた長い睫毛がどうにも常人離れした雰囲気を醸し出している。
固まる三人を見て不審げにやって来たリリーとジオも、彼女を見て目を丸くする。
真っ先にフリーズから解けたジオは、何故か感心した顔をした。
「綺麗な子だな……倒れてたのが『神域』で良かったかもしれないな」
「道端に落ちてたら間違いなく誘拐されるよねぇ」
便乗して呟くリリー。
三人もこくこくと頷いた。
一通りの衝撃が過ぎ去った後、まず疑問を呈したのはロータスだった。
「それにしても、何でこの子は目覚まさないんだろうな。特に大怪我してるとかでもないんだろ?」
全員が少女を見下ろす。
布団の間から覗く細い腕には一切の外傷がない。
眠っていることを除けば、至って健康体に見える。
ジオが渋い顔で腕を組んだ。
「そうだな。軽傷は負っていたらしいんだが、特に昏睡状態に陥るような怪我は無かったらしい。だから尚更謎が多いんだよな」
場が静まり返った。
リリーが独りごちる。
「そんなのさぁ、ボクらでもどうしようもなくない?」
「それをどうにかするのが俺達の仕事だろ」
ジオに即答を返されたリリーは、何とも言えない顔になった。
「まぁ、そうだけど……はぁー、面倒」
そんなことを言っている割に、その目は好奇心で輝いている。
少女の正体が気になっているのだろう。
一方、呆れ顔になったのはレアだ。
「治癒院直属の依頼を面倒って……一回ローズさんに殴られればいいのに」
「あの人そんなことしないでしょ?!ていうか違う、違うから!面倒っていうのはそのぉ……綾!言葉の綾だから!!」
「そんな訳ないでしょ、何をどうしたら肯定的に解釈出来るのよ」
「くっ……可愛くなくなったねレア……昔はそんなこと絶対言わなかったのに……!」
「リリーにだけは言われたくない」
ぷいっと顔を背けるレア。
頬は不満げに少し膨らんでいる。
そんな彼女を宥めるように撫でて、ジオは苦笑いを浮かべた。
「喧嘩するな。大声出してると他の職員に怪しまれるぞ」
「……むぅ」
撫でられて嬉しそうなレアは、不満そうではあるものの素直に静かになる。
リリーには一睨みを向けて黙らせ、ジオは一先ず場をまとめた。
「とりあえず、何とかして彼女を起こそう。話が聞けないと何も出来ないからな」
「そうだなぁ」
ロータスが疲れた声を上げる。
「にしても、どうやって起こすんだ、これは?」
一瞬、沈黙が走る。
ふと呟いたのはアイリスだった。
「……叫ぶ?」
「この子は起きるかもしれないけど私達が動けなくなるわね」
何とも言えない顔になるレア。
アイリスの叫び声は、前述の『能力』と呼ばれる存在の恩恵でえげつないことになっている。
具体的に言うと、窓が割れたり、書類が飛び散ったり、鼓膜が破れかけたり…
…直近では、つい二日前の出来事であった。
レアだけでなく、全員が微妙な顔になる。
アイリスは涙目で俯いた。
「ごめんなさい……」
「い、いや、責めてる訳じゃないからな?!」
ぷるぷる震え始めた彼女を慌ててフォローするロータス。
最年少のアイリスには何だかんだ皆甘い。
特に兄のように懐かれているロータスは泣き虫な少女の鎮静剤と化している。
その様子を穏やかな目で眺めていたジオは、小さく息をついて腕を組んだ。
「……まぁ、焦る必要はないか。このままだと強硬手段しか思いつけないな」
「そうかもねぇ。皆ジオに毒されてるから」
「どういう意味だよ」
くすくすと笑うリリーに不機嫌そうな顔を向けるジオ。
─と。
「……ん?」
風がそよぐような気配を感じ、ベッドへ視線を送る。
いつの間にか、少女が目を覚ましていた。
吸い込まれそうなほど深い紅の瞳が、真っ直ぐ五人を見つめていた。
ジオに釣られて他のメンバーも気が付いた。
少女は戸惑ったような顔色のままむくりと起き上がり、呆然とこちらを眺めてくる五人を順繰りに見渡す。
どうやら、先程の騒がしいやり取りで既に起きていたようだった。
血色の薄い唇が、薄らと開く。
「******、***?」
聞き覚えのない言語だった。
ロータスがぼそりと呟く。
「レイシア、か」
レイシアは、種族言語のことだ。
各種族毎に伝わる独自の言葉で、国民は皆、普段会話に使う共通言語と同時に自らのレイシアを習わされる。
あまりそれを使わない種族もある上に基本は便利なコイネーを使う為、マイナーな言語ではあるのだが…
…ふと、一人の橙髪の少女に視線が集まった。
真剣な顔で少女を見据えるリリーは、四人の視線に押し負けて苦笑いを浮かべる。
「あー、待って待って。うん、知ってる言葉だよ。思い出すからちょっと待って」
読書をこよなく愛するリリーは、その強すぎる知的好奇心と類まれなる頭脳を活用し、何とほぼ全種族のレイシアの読み書きを習得している。
軽い会話なら話すことも出来るらしい。
様々な種族が訪れるこの事務所で、リリーの存在は非常に貴重なものであった。
「本当、すごいよなお前……いっつもあんなにふざけてるのに」
「いつ何時も真面目だよ!」
ロータスの若干ずれた賞賛にむぅっと頬を膨らませるリリーは、それでも申し訳なさそうに髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
「うぅ~~~ん……ごめん、思い出せないや。何だっけなぁ、この言語」
「でも、この国の言語ではあるんだな?」
畳み掛けるように言うジオ。
それが今最も重要なことだ。
リリーは微笑み、頷いた。
「うん。それは間違いないよ。他国の子とかじゃないみたいだね」
「……そうか」
ジオはほっと息をつく。
レアも彼に倣った。
「だったら、種族は大体絞り込めるわね。リリーに通訳してもらいながら、身元を特定出来る」
「うぇー、話せるかな……」
「頑張れー」
「応援に気合いが無さすぎるでしょ」
軽口を叩き合うメンバー達。
リリーがやれやれと少女に向き直ると、彼女はぱちぱちと瞬きし、再び言葉を発した。
「……ごめんなさい。お話、できるよ」
今度は聞き慣れた言語だ。
はっ、とリリーが嬉しそうに顔を輝かせる。
「コイネー話せるの?!良かった~!」
ぐっと迫られ、少女は若干ベッドの上で身を引く。
戸惑ったような声色になった。
「こいねー?」
「え?」
ぽかんとするリリー。
背後のジオも不思議そうにしている。
「コイネーは話せるのに、言語の名前を知らないのか?」
首を傾げる五人。
少女も、更に困惑したような声で呟く。
「これ、使ってなかった……から」
「「使ってなかった?」」
声を揃えるジオとリリー。
奇妙な沈黙が場を支配した。
アイリスがこっそりレアに耳打ちする。
「コイネー使ってない種族って、あるの?」
「無いことは無いけど……」
レアの言葉にも歯切れがない。
「妖精族とか、亜人族とかなら……でも、腑には落ちないわね」
共通言語がマイナーであるという時点でイレギュラーなことに変わりはない。
いずれにせよ、言語の謎は解決しなかった。
これ以上の議論は無駄だと判断したのか、ジオは気を取り直して少女へ質問を投げかけた。
「細かい話はともかく、言語が通じるなら話は早い。お前、名前は?」
「名前……」
ぶっきらぼうなジオの声に少女はぽかんと固まる。
暫くしてから、ふるふると首を横に振った。
「名前、分かんない」
「……分からない?」
思わず聞き返すジオ。
少女は俯いて声を萎ませる。
「思い出せない……ここに来る、前のこと」
「……記憶喪失かぁ」
リリーがぼそりと呟いた。
「これは時間掛かるねぇ」
ジオも難しい顔で眉間に皺を寄せている。
「何か、お前自身のことで分かることはあるか?」
望み薄だと分かっているからか、ジオの声は決して明るいものではない。
想像通り、少女は力無く首を横に振った。
「……ごめんなさい」
「そうか……」
重い沈黙が舞い降りた。
個人情報が分からないとなると、少女の身元特定は相当困難なものになる。
何とか分かるとするならば、種族だろうか。
リリーはじっと彼女を見つめ、呟いた。
「身体的特徴が無いってことは、天使でも悪魔でもないよね……ありそうなのは魔族系?」
それにジオ、ロータスが被せてくる。
「ただ、銀髪なんだよな……滅多に見ない色ではある」
「でも、ただでさえ普通じゃないんだろ?意外と身近な種族だったりするんじゃないか?」
話し合う三人へ、少女は不思議そうな目を向けている。
レアが少女へ話しかけた。
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少女の首がこてんと傾く。
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リリーが遠慮がちに声を上げた。
「あー……それは、全員同じ種族ってこと?」
こくこくと頷く少女。
珍しくアイリスが声を上げた。
「みんな、一緒ってわけじゃないよ……?私たちは、悪魔族だし……ここの人たちは、天使族……」
少女は困惑した顔をする。
「……てんし?あくま……?」
会話が全く噛み合わない。
完全に黙り込むメンバー達。
溜め息をついて、ジオが状況をまとめた。
「……つまり、世界は同じだが常識が全く違うってことか。隔離された場所で、独自の文化を築いている家系なのかもしれないな。もしくは、常識も含めた記憶も失くしているか」
「天使族と悪魔族を知らないんじゃあねぇ……でもこの子の口振りだと、常識が違う可能性の方が高いと思うな」
リリーの返答に、ジオは再度溜め息を吐き出した。
「……これは、相当面倒な依頼を回されたな」
複雑そうな表情のメンバー達を見て、少女が申し訳なさそうに瞳を伏せる。
「ごめんなさい……私、迷惑いっぱいかけてる」
「あ、いや、お前を責めてる訳じゃないんだが……」
慌てて宥め、ジオは疲れた顔で頭を押さえた。
口下手という程ではないが、誤解されやすい性格だと自覚しているジオである。
威圧しているように聞こえるのではと、こう見えて気を遣っていた。
そんなリーダーの様子を見て、悩ましげに唸るリリー。
…そして、しばらくの沈黙の後。
「よし、外行こう!!」
突然叫んだ。
驚いてびくっと震える四人と少女。
レアが非難めいた目を向ける。
「リリー、今仕事中なの分かってるの?」
「わ、分かってる分かってる!遊びたいとかじゃないから!真面目な提案!!」
誤解だと言いたげにぶんぶんと首を振るリリー。
その後、瞳をきらりと輝かせて言った。
「このまま押し問答しててもあんまり意味ないでしょ?だったら、この子に直接この国のこと紹介した方が手っ取り早いんじゃないかなーって。もしかしたら記憶戻るかもしれないしね」
「まぁ、言われてみればそうね」
しぶしぶ頷くレア。
手掛かりがない今、出来ることは常識の擦り合わせくらいだろう。
リリーの発言も一理ある。
少女はぱちぱちと瞬きをしてリリーを見た。
「……外?」
「うん。せっかくだから、聖都観光しよう!君、間違いなくここら辺出身じゃないからね。新鮮なんじゃないかな?」
にこっと微笑むリリー。
ちらりとジオに視線が向く。
彼も少し表情を緩め、頷いた。
「分かった。アイリス、外を出歩ける服を持ってきてくれ」
「う、うんっ」
役割を与えられて顔を輝かせた少女は、ぱたぱたと去って行く。
ジオはそのまま背後の二人に視線を送った。
「レアとロータスは、アイリスと待機しててくれ。仕事も残ってるし」
「えっ、俺も?」
行きたかったのか、残念そうな顔をするロータス。
ジオは無表情で呟いた。
「報告書」
「えっちょっと待って何で知ってるの」
「レアに聞いた」
「いつの間に……てか、それリリーが戦犯だからな?!俺押し付けられただけだから!!」
「分かってるよ。俺だって本当はリリーにやらせたい。でも、こいつがいないと言語通訳が出来ないからな」
「ふっふふーん♪」
「あぁ、その代わりにこれが解決したら他の仕事大量に回すから心配するな」
「えぇっ何で?!」
「「当たり前だろ!!」」
再び騒がしくなる室内。
レアは呆れ顔で溜め息をつき、少女は無言で言い合う三人を眺める。
無表情のまま動かない表情。
だが、その瞳が僅かに伏せられたことにレアだけが気付いた。
垣間見えるのは、微かな寂寥。
レアはそっと少女に近付き、微笑んで話しかけた。
「大丈夫。絶対、あなたを元の場所に帰すから。いつもは騒がしいけど、あの三人、ああ見えてすごく優秀なのよ」
レアの細い指が、所在なさげだった少女の手を取る。
少女は少しだけ目を見開かせる。
小さな声が、名を呼んだ。
「……レア?」
「っ……な、何?」
突然呼び掛けられ、いつの間に名前を覚えられていたのかと驚くレアに。
少女は飾り気のない声で言った。
「ありがとう……レア、いい人」
「……………………え」
硬直するレア。
顔が一瞬で真っ赤に染まる。
分かりやすく狼狽えた彼女は、大人びた態度を綺麗に忘れ、しどろもどろにお礼を告げた。
「あっ、ありが、とう……」
少女の瞳に暖かい光が灯る。
微笑ましい、和やかな光景だった。
そこに、ようやく口喧嘩が収まったらしくジオがやって来た。
鋭い眼光を和らげ、少女を見る。
「話は分かったか?」
こくりと頷く少女。
ジオは満足気に頷き返した。
「自己紹介をしていなかったな。俺はグラジオラス。長いからジオでいい。一応、こいつらのまとめ役だ」
本名のインパクトに驚いてか、少女はおずおずとお辞儀を返す。
そこに残りのメンバーも集まってきた。
「ボクはリリー!よろしくねー」
「俺はロータスです」
「カトレア。レアでいいわ。あと、さっきいたもう一人はアイリスね」
友好的な笑みと共に名を告げる三人に、少女も警戒心の消えた表情でこくこくと頷く。
一通り名乗ったところで、ジオがふと呟いた。
「……そういえばお前、名前覚えてないんだよな」
「便宜上でも、名前無いと不便だよねぇ」
リリーがジオの意を察してそう続けた。
少女はぱちぱちと瞬きし、無垢な瞳をジオに向ける。
「名前、つけて」
「……ん?」
ぽかんとするジオに、少女は同じトーンのまま言う。
「私の、名前……つけてほしい」
四人は思わず顔を見合わせた。
「……えっと、いいの?」
「どうせ分かんないから」
小首を傾げるロータスに、さっぱりとした表情で呟く少女。
しばらく固まっていたジオは、納得して小さく頷いた。
「そう、だな。じゃあ……」
数瞬黙り込んで、ジオは顔を上げる。
「『デイジー』はどうだ?」
「……デイジー」
復唱する少女。
白く小さな花弁が愛らしい花の名前だ。
レアとロータスは素直に賛成する。
「可愛いじゃない」
「いいんじゃないか?」
一方、何故か笑みを堪えるリリー。
「くふっ……ジオらしいね」
「どういう意味だよ」
ジオは少し頬を赤く染めてリリーを睨む。
リリーはそれを綺麗に無視し、少女に視線を向けた。
「どう?」
彼女はどこか嬉しそうに頷く。
「……ありがとう。それがいい」
ずっと感情の無かった顔に薄らと喜色が帯びる。
歳相応の可愛らしい表情に、四人の表情も緩んだ。
ジオは少女─デイジーに手を差し出す。
「じゃあ、デイジー。少しの間だが、よろしくな」
デイジーは軽く目を瞬かせ、ジオの手を優しく握り返した。
「……よろしく」
こうして、少女はしばしの間、彼らと行動を共にすることになるのだった。
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