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41話

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あれからちょうど1ヶ月、シルフェ様に嫁ぐ返事をしてシルフェ様の花代が切れる直前に再びシルフェ様が楼閣を訪れた。
「ルーカス嬢、すまない本当にギリギリになってしまった」
申し訳なさそうに頭を下げたシルフェ様に、滅相もないと手を振った。
「お帰りなさいシルフェ様」
いつもの言葉で迎え入れたルーカスにシルフェは掌の大きさの小箱を取り出した。
「ルーカス嬢、婚約の証を……それとアーデルハイド卿の証書を貰ってきた」
「父様のですか?」
「勿論だ」
シルフェ様の言葉に何故だかホッとした。
「ありがとうございます、証書を見ても宜しいですか?」
シルフェ様の手の中にある証書。
差し出されるとそれを開いた。
確かに父の文字でサインがある。
この証書で俺がシルフェ様と婚約することを親が許可した証だ。
「まだ、俺の子とを子供だと思ってくれていたのですね」
「あぁ、婚姻するまではアーデルハイド家に戻ってゆっくりするかい?」
「シルフェ様の良いように……私が父の元に戻って迷惑をかけてしまわないか不安なのです……」
「なら、私の屋敷でいいか」
「はい。小さな別宅でも小屋でも構いません」
側室にしてもらうにしても、そんなシルフェ様の住む屋敷に一緒になどとおこがましい。
「ルーカス嬢、何を言っているんだい?ルーカス嬢以外に妻にしたい人はいないよ?」
「え?」
シルフェ様は攻略対象者なのだから、主人公であるシリルと出会って惹かれていくのではないだろうか。
もう、もしかして出会っているのかもしれないが、優しいシルフェ様だから一度言い出した俺の身請けをやはり無かった事にはできなかったのかもしれない。
「ありがとうございます」
だから、ルーカス様の優しい嘘をそのまま受け入れなければならない。
疑わずルーカス様の言うように。
「ほら、行こうか……凄く良く似合っている。もっと見せて」
差し出された手を取るとルーカス様に立ち上がらせられ、くるりとゆっくり回らされた。
ルーカス様が用意してくれた服一式、装身具、靴。
髪の色に合わせた青系で統一された服と靴に、装身具は真珠。
伯爵家で培った物を見定める目でも高いものだとわかる。
「こんなにしていただいて……」
「趣味もないつまらない男だからね、ルーカス嬢には苦労させないと誓うよ」
抱き締められて額にキスをされ、段々と唇へ。
「シルフェ様……あの」
これ以上されてしまったら、身体に火が点いてしまう……と、そっとシルフェ様の胸を押す。
シルフェ様の屋敷までどのくらいかかるかわからないが、ずっとその熱がこもったままでいるのは辛いのだ。
「わ、悪い……ルーカス嬢に久し振りに会ったからか……」
「いえ。シルフェ様……」
すみませんと謝りながらも俺はそっとシルフェ様を抱き締めた。
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