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42話

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カラカラと車輪の回る音がする。シルフェ様が用意してくださった馬車は二頭引きの豪奢なもの。
本当は四頭引きにしたかったのだが、派手すぎると止められたのだとシルフェ様は悔しそうにした。
六頭引きになると、王族の婚姻に使う馬車なのだ。
二頭引きでも申し訳なく、引かれる馬車も一級品だ。
アーデルハイド家でも、伯爵である父が乗る馬車と同じかそれ以上。
たかが妾を迎えに来るための馬車では無い。
しかも、その馬車を引くのはとびきりの軍馬。
艶やかな毛並みと、太くしっかりとした足は、馬車を引くより騎乗して駆ける方が似合っていそうだ。
「ルーカス嬢......いえ、ルーカスですね、何か飲みますか?それとも食べますか?一眠りして目が覚めたらきっと王都が見えてきますから、眠くなったら横になってください。この馬車は椅子を引き出せば寝台になるので、椅子を平らにしてしまいましょうか」
シルフェ様はそう言うと、向かいの背もたれを手前に引き、手を離すとぱたりと背もたれが倒れ、座る部分を引くと自分たちが座って居ない側が平らになった。
「ルーカス、こちらにゆっくりでいいから座り直していただけますか?あぁ、靴は脱いでいただけると」
自分で座り直そうとすると、シルフェ様が俺の靴を脱がそうと床に膝をつく。
「シルフェ様!」
「どうかした?」
「どうかって、靴くらい脱げますから!」
騎士が跪くのは自分の主君のためだけなのに。
そもそも、シルフェ様はこんなキャラだったっけ......穏やかな笑みを浮かべるが、主人公に対してこれ程に尽くしていたか、記憶にない。
それでも俺は慌てて靴を脱ぐと、平らな方に移動した。
ふわりと軟らかく沈む床の部分。
馬車に座った時に随分と分厚い背もたれだと思ったのはこの為だったのだ。
シルフェ様も、靴を脱ぎながらパタパタと背もたれを倒すと、そこは広い空間になった。
先程まであった背もたれの後ろには、大振りのクッションと毛布がある。
「寒いかもしれませんから、こちらをどうぞ」
シルフェ様が毛布を手渡してくれて、クッションを並べてくれた。
此処で寝ろと言うことらしい。
「シルフェ様も、お眠りに?」
「えぇ、もしルーカスが眠れないようなら、私は御者台におりますから」
ちょっと待った、誰が主を御者台に座らせる妾がいるのだ。
むしろ、俺が膝枕とかするべきか?
「いや、あの......そうではなくて、俺が......シルフェ様の隣に寝るのは、良くないのではありませんか?」
「え?あぁ、でも既に私とルーカスは身体を重ねていますし、問題は無いと......いや、ルーカスが気になるなら......」
「違......」
俺は慌ててしまう、次の瞬間ガタンと馬車が揺れた。
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oro
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