上 下
6 / 43

6話 ラーサティア視点

しおりを挟む
星が瞬く夜に寝付く事ができなくて、少し身体を動かそうと着替えて部屋を出た。
明日は非番のため、ゆっくり起きていてもいいのだけれど、何となく星も綺麗だしと外へ出た。
暫く歩くと、シャリンと金属の鳴る音がした。
顔を上げた先にあったのは、息を飲むような光景。
月明かりに照らされるニクス団長の姿だった。
それも、美しく舞う剣舞。
耳元で囁かれるような深い吐息が静かに此処まで聞こえてきそうで、息をするのも忘れるくらい、ただただ、団長の姿を目でおっていた。
普段、こうして鍛える姿をあまり見せることがない団長は、それでも訓練では断トツの強さを見せる。
騎士とはこうあるべきなのだという高潔な姿を騎士は皆、目標として日々訓練に励んでいる。

「はぁ」

無意識に零れ出た溜め息が思いの外大きくて、団長に聞こえてしまっただろうかと慌てて口を抑えたが、どうやらこの距離では聞こえていなかったらしく、まだ団長の動きは止まらない。
それからややあって、シュッと空気を切り裂く音がして刀が鞘へと戻った。
カチリと音がして、団長が力を抜くとふらふらと花の蜜に誘われる蝶の如く近寄って行ってしまう。

「ラーサティアか、どうした」

一瞬、硬くなった低音の声がふいに力が抜けた。
私の名前を呼んでくださるのが一番嬉しい。
幼い頃に助けてくれた事を覚えてはいないだろうし、王族である自分が騎士団に入ることでかなりの迷惑をかけたこともわかっているが、そんなそぶりは全く見せずに接してくれるのも嬉しい。
尊敬に値する人だと常々思っているし、団長に認められたい。
王族だからではなく一騎士として優遇などされずにその近い地位を手にしたい。
副団長とまではいかなくていいから、できるだけ近い場所に居るのにはどうしたらいいのだろうか。
まだ入ったばかりの騎士だから、そんなことを考えることがおこがましいのかもしれないけれど、きっといつか。
そう誓おうとした次の瞬間、団長は悪いと騎士団寮の方に向かう。
口許を押さえており、体調が悪そうだと思ったときには既に団長の背中は小さくなっていた。
それを慌てて追った先で団長が水場で吐いていたのは花だった。

月夜ではっきりとは見えなかったが。

花吐き病!?

最近、流行り出した病で名前だけは知っている。
まさか!
自分で見た目の前の出来事が信じられなく、膝から力が抜ける。
どうしたらいいのだろうか。
明日の非番に、行き先を心に決めた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

それでも僕らは戦わない

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:22

眠り姫は黒猫な王子のキスで目覚める

BL / 完結 24h.ポイント:2,863pt お気に入り:84

リナリアはアザレアを夢見てる

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:54

マードックの最後の手紙

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

推しを陰から支えるのが僕の生きがいです。

BL / 完結 24h.ポイント:1,157pt お気に入り:6

強気なネコは甘く囚われる

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:235

【BL】紅き月の宴~Ωの悪役令息は、αの騎士に愛される。

BL / 連載中 24h.ポイント:2,656pt お気に入り:680

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:201

処理中です...