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5話

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「ラーサティアか、どうした」

暗闇に浮かび上がる月の光を映した髪は、いつものように結われてはいるが、かっちりと着ている騎士団の制服ではなく、シャツにトラウザーズという軽装だった。

「食後の腹ごなしにと走っていたのですが」

息は上がってはいないが、しっとりと汗ばんでいるのだろう艶かしい肌が闇に浮かび上がるのをつい見下ろしてしまった。

「そうか、悪かったな足を止めさせてしまったか」
「いえ、とても良いものを見させていただきました。ありがとうございます」

右手を胸に添えて軽く頭を下げたラーサティアは、顔を上げると笑みを作る。

「ニクス団長の剣舞なんてなかなか見ることができないので」
「そうか?まぁ、そうだろうな……もっと見映えの良い騎士が舞った方がいい」
「そんな意味ではないのですが」
「わかっている。だが、俺が舞うよりはないラーサティアが舞う方が俺はいいと思うぞ?」

それは正直な感想だ。
ラーサティアのように優しげで優美な者が舞う方が美しい。

「剣舞の種類によっても違うと思いますが、私はいつか団長と剣舞を行ってみたいと思っているのですが……頑張って上達しますので、いつかお願いいたします」

花が咲いたように顔を綻ばせたラーサティアに俺は頷くも、次の瞬間なあの吐き気が込み上げてくる。

「悪いラーサティア、先に戻る……」
「団長?」
「すまない、体調を崩したようだ」

そっとラーサティアから距離を取り、逃げるように近くの水場に駆け込むと、やはり口からは花が零れ落ちる。
だが、最初の時の花とは違い、今度の花は少し赤みを帯びていた。
時期になると薄く色付く野の花は、甘い香りがする花だった。

「何故……だ?」

同じ花ならわかるが、今日の物は違う……。
まさか、少しずつ悪くなっているのか?
完治するのは稀だと聞いているが、これならば進行は早いのかもしれない。
それにしても、この花を片付けなければならないと水場の水を汲み上げて吐いた花を指でつまみ上げてから外へと捨ててから水を流した。

「参ったな……次の休みには医学書でも見に行くか」

あまり休んだことのない休暇を貰い、病の事を調べに行かなければならないかと溜め息を吐く。
他の団員に知られたくはない。
だが、大きな図書館や病院へ行かなければ欲しい医学書は無いだろう。
どうするべきか。
流れ落ちる水を止めてから俺は口許を拭ったのだった。
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