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プロローグ
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「セシルさま、素敵ですわ!」
「ありがとう」
セシルは、自分を綺麗に着飾ってくれたメイドたちの称賛を浴びながら馬車に乗った。
今日は、十六歳を迎える貴族令息・令嬢が王宮に集うデビュタントの日。
二年前に婚約を解消したため、相手のいないセシルは兄サミュエルのエスコートで参加していた。
サミュエルの腕に掴まり、笑顔で挨拶をして回る。
昔は少し嫌な噂に晒されたが、今は勤勉で、穏やかで優しいセシルは社交界で評判であり、様々な縁談が持ち込まれているがセシルはすべてを断っている。
セシルの家族——シャリエ家の家族は仲が良くて有名である。
だからセシルが縁談に見向きもしないのは実家を出たくないのだろうと噂されているのだ。
数年前の不幸な事件で母親が療養するという悲しい事実はあれど、その分他の三人はお互いを思いやり、あの事件で傷ついたセシルも今は優しい家族に囲まれて幸せに暮らしている。
周りも、家族もそう信じていた。
そしてデビュタントから遅れる事一カ月。セシルの十六歳の誕生パーティが子爵家で開かれた。
成人を迎える大切なパーティだったが、セシルの希望で友人知人を招待せず家族だけの小さなものになった。
セシルはこの日をどれだけ待ち望んだかわからない。
子爵令嬢として、何不自由ない生活を与えてくれた父親と何かと気を配って大事にしてくれた兄、誠心誠意世話をしてくれた使用人たちに笑顔で挨拶をする。
「本日私は、成人の日を迎えることが出来ました。それもこれも皆様のおかげです。そして —— 今日を持ちまして娘役はこれにて降りさせていただき、シャリエ家とは無縁の人間になります。これまでありがとうございました。」
それを聞いた父親と兄のサミュエルはショックを受け、立ち尽くすしかなかった。
セシルは二年前に父と交わした契約を忘れてはいなかった。
とある事件がきっかけで、二年前にセシルはシャリエ子爵家と縁を切ると決めた。
しかし、父や兄の強い懇願に、セシルは家族として今後も過ごす代わりにその役割分の給金を貰う約束の元、子爵 家に残るという契約を交わしたのだった。
この二年のあいだ、そんな契約を交わしたことも忘れるくらいセシルは兄や父と仲の良い家族として過ごしていた。
だからシャリエ子爵とサミュエルはセシルから許され、真の家族に戻れたと思いこんでいたのだ。
そう思っていたのは彼らだけだった、セシルは成人となり家を出ていくことのできるこの日を心待ちにしていたのだ。
「ありがとう」
セシルは、自分を綺麗に着飾ってくれたメイドたちの称賛を浴びながら馬車に乗った。
今日は、十六歳を迎える貴族令息・令嬢が王宮に集うデビュタントの日。
二年前に婚約を解消したため、相手のいないセシルは兄サミュエルのエスコートで参加していた。
サミュエルの腕に掴まり、笑顔で挨拶をして回る。
昔は少し嫌な噂に晒されたが、今は勤勉で、穏やかで優しいセシルは社交界で評判であり、様々な縁談が持ち込まれているがセシルはすべてを断っている。
セシルの家族——シャリエ家の家族は仲が良くて有名である。
だからセシルが縁談に見向きもしないのは実家を出たくないのだろうと噂されているのだ。
数年前の不幸な事件で母親が療養するという悲しい事実はあれど、その分他の三人はお互いを思いやり、あの事件で傷ついたセシルも今は優しい家族に囲まれて幸せに暮らしている。
周りも、家族もそう信じていた。
そしてデビュタントから遅れる事一カ月。セシルの十六歳の誕生パーティが子爵家で開かれた。
成人を迎える大切なパーティだったが、セシルの希望で友人知人を招待せず家族だけの小さなものになった。
セシルはこの日をどれだけ待ち望んだかわからない。
子爵令嬢として、何不自由ない生活を与えてくれた父親と何かと気を配って大事にしてくれた兄、誠心誠意世話をしてくれた使用人たちに笑顔で挨拶をする。
「本日私は、成人の日を迎えることが出来ました。それもこれも皆様のおかげです。そして —— 今日を持ちまして娘役はこれにて降りさせていただき、シャリエ家とは無縁の人間になります。これまでありがとうございました。」
それを聞いた父親と兄のサミュエルはショックを受け、立ち尽くすしかなかった。
セシルは二年前に父と交わした契約を忘れてはいなかった。
とある事件がきっかけで、二年前にセシルはシャリエ子爵家と縁を切ると決めた。
しかし、父や兄の強い懇願に、セシルは家族として今後も過ごす代わりにその役割分の給金を貰う約束の元、子爵 家に残るという契約を交わしたのだった。
この二年のあいだ、そんな契約を交わしたことも忘れるくらいセシルは兄や父と仲の良い家族として過ごしていた。
だからシャリエ子爵とサミュエルはセシルから許され、真の家族に戻れたと思いこんでいたのだ。
そう思っていたのは彼らだけだった、セシルは成人となり家を出ていくことのできるこの日を心待ちにしていたのだ。
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