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~探偵の失踪編 第9章~

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[強靭な精神力]

 「死んだか・・・」

 周囲を取り巻く蒼炎が消え、八重紅狼達がウルフェンの下へと集まって来る。ウルフェンはレイアの顔も持ち上げ、瞳孔が開いて息と脈が止まっていることを確認すると彼女の頭を手放して地面に寝かせる。

 「ウルフェン~?どうだった、その人?強かった?」

 「・・・いや、『いつも』と同じだ。私の相手にはならなかった。」

 「そっか~、残念だったね~。んじゃあさ、状態異常能力は使って無いの?」

 「ああ、使うまでも無かったからな。」

 ウルフェンはそう言うと、レイアの死体に背中を向けて歩き出す。

 「さぁ、行くぞ。もうここには用は無い。」

 「あの女の死体はあのままでいいんですか?」

 「構わん。放っておけば獣達が片付けてくれるだろう。死亡確認も取れているから起き上がってくることは無いだろう。」

 ウルフェンはそう言い放つと歩みを速める。八重紅狼達も彼の後に続いてその場から離れて行く。

 ・・・その時だった。

 ・・・ザッ・・・

 「ん?」

 ウルフェンが何か背後から違和感を覚えて振り返った。するとその瞬間。

 ヒュゥゥンッ!

 「!」

 突然レイアが持っていた黒の鞭がウルフェン目掛けて振り下ろされ、ウルフェンの右目とその下の皮膚を一気に裂いた。顔の右半分が裂かれたことで血が噴き出て、ウルフェンは咄嗟に右手で負傷した部位を覆う。

 「な・・・にっ⁉」

 ウルフェンが無事だった左目で鞭が振り下ろされた方へと視線を向けるとそこには何と息絶えた筈のレイアが立っていた。彼女の目には光が灯っておらず、死んでいることに変わりは無いのに何故か動いていることにウルフェンは驚愕した。

 八重紅狼達が咄嗟にウルフェンの前に盾になる様に広がるとレイアに向かって叫ぶ。

 「手前、どういう事だぁ⁉死んだんじゃねえのかよ⁉」

 「いや、死んでいる。・・・彼女は死人のままだ。」

 「関係ない・・・後も残さず消し去るだけ・・・」

 ユリシーゼが槍を構えてレイアと対峙する。

 だがレイアは急に糸の切れた人形のように地面に倒れると、ぴたりと動かなくなった。その時、レイアの髪飾りが彼女の髪から外れた。

 ユリシーゼ含む八重紅狼の面々がレイアを見つめているとウルフェンが彼らを押しのけてレイアの下へと近づき、目の前でしゃがんだ。

 「・・・死しても精神だけは生きていたのか・・・そう言えば、君のお爺さんも死んだ後に動いていたな・・・思い出したよ。」

 「・・・死んでも人は動くの、ウルフェン?」

 「普通は動かないぞ、ヨーゼフ。・・・だが人は時には思いもよらない行動をすることがあるんだ・・・こんな風にな。」

 ウルフェンはヨーゼフに返事をすると、地面にうつ伏せで倒れているレイアに笑みを浮かべる。右の頬から血がボトボトと絶え間なく零れ落ちる。

 「見事な不意打ちだったぞ、レイア・ミストレル。・・・如何やら貴様は『使えそう』だな・・・」

 ウルフェンは空を見上げて、煌々と輝く月を見上げる。月は何も語らず、ただ静かにウルフェン達を薄く照らし、見下ろしていた。
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