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~船上での修行編 第1章~

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[呼び出し]

 「お~い、少年!ちょっとこっちに来てお喋りしよ~よ~。」

 朝食をとって自室へ戻ろうと、船内にある自由室の前を通った時、ヴァスティーソに引き留められた。フォルトが顔を向けると、シャーロットとケストレルもその部屋にいて、ケストレルは眠たそうに欠伸を、シャーロットは何やらえらく古びた群青色の表紙がついた本を読んでいた。

 フォルトは自由室へと入ると、シャーロットの横に座った。

 「・・・何の用、ヴァスティーソ?」

 「な~んにも?暇だったから呼んだだけだよ~?ケストレルは眠そうだし?シャーロットちゃんは本読んでばっかで全然俺と話してくれないし~・・・何か面白い話して~?」

 「えぇ・・・」

 フォルトがヴァスティーソの発言に目を細めると、ケストレルが話しかけてきた。シャーロットは相変わらず本を読んでいる。

 「・・・フォルト、ロメリアと何があったんだよ?さっきの朝飯の時も一言も話さなかったじゃねえか?いつも喧しく喋っているのによ?」

 「・・・」

 「何か思いつくこと・・・あんのか?」

 「・・・うん。これが絶対って訳じゃないんだけど・・・」

 フォルトは何故ロメリアから口をきいてもらえないか語りだした。シャーロットも本に向けていた視線を顔ごとフォルトの方へと向け、ヴァスティーソも顔の笑みを少し抑え、真っ直ぐ彼を見つめる。

 フォルトは全て打ち明けると、ヴァスティーソが小さく息を吐いた。

 「ふ~ん・・・そう言うことねぇ~・・・ロメリアちゃんは皆を危ない目に合わせたくなくって1人で行くって言ったけど、それを君が彼女の考えを無視してまで付いていくって言っちゃったから今激おこだって思ってるわけね~?」

 「・・・」

 フォルトが小さく頷くと、シャーロットが全員に話しかける。

 「でも・・・それならフォルトだけじゃなくって私達も関係ありますよね・・・」

 「・・・だな。フォルトに賛同して付いていくって言っちまったからな。」

 ケストレルが腕を組んで首を捻っていると、ヴァスティーソが声を上げる。

 「・・・ていうかさ。ロメリアちゃんって『本当に』怒ってるの?な~んか昨日の様子やさっきの朝御飯の時の様子と言い、『自分自身に』苛立っている様子じゃない?」

 「自分に?」

 ヴァスティーソの言葉にフォルトが聞き返すと、彼は言葉を続けた。

 「だって少年。会議の後から口は利かれなくなっても、怒られたり、嫌味言われたりしていないだろう?」

 「確かに・・・」

 「それに彼女、朝食をとる時も俺達5人固まっているのに1人離れて食事をとろうとしてたじゃん?俺達が近づいていったら少し困ったような顔してたけど・・・文句は言わなかったじゃん?」

 「そうですね・・・」

 ヴァスティーソは両手を頭の後ろに回すと、椅子の背もたれに体重をかける。

 「という訳で俺が勝手に心の内を思うに・・・ロメリアちゃんは今とっても『悩んでいる』んだと思うな~。自分のせいで皆が危ない目に合う・・・どうしたら皆を危ない目に合わせられずに済むのか・・・心の中で一生懸命考えているから少年らの事に頭が回らず、話しかけるのをついつい忘れちゃったり、気持ちを整理したいから1人になりたいのかもね~。」

 「・・・」

 「だから今はそっとしておいて、今日の夜や明日の朝頃に女湯を覗きに行く感じでそっと近づいて話しかけたらいいと思うよ~?」

 「何つう例上げてんだよ・・・」

 ヴァスティーソは分かりやすそうで分かり辛い例を挙げて言葉を発すると、天井に顔を向けた。フォルトは彼の言葉を聞いて、心に中でロメリアに対する思いを募らせる。

 するとその時、フォルト達がいる自由室の扉が開いた。フォルト達の視線が一斉に扉の方へと向くと、そこには表情を曇らせたロメリアが立っていた。ロメリアはフォルト達に何か言いたそうにフォルト達の顔と地面を交互に見つめる。ついでに両腕を後ろに組んで腰をゆっくりと左右に動かしながら。

 「おっと・・・お話していたら来ちゃったぞ・・・」

 ヴァスティーソがぼそりと呟くと、フォルトがゆっくりと立ち上がった。ロメリアの視線がフォルトの方へと向く。

 「ロメリア・・・」

 フォルトが呟くと、ロメリアが申し訳なさそうに言葉を発し始めた。

 「フォルト・・・私・・・」

 ロメリアがいつものハキハキとした元気な声ではなく、儚く消えてしまいそうな声で話し始めた直後、突然再び扉が開いてガーヴェラが入ってきた。

 「フォルト!ロメリア!2人共いるか!」

 「うぉい!ガーヴェラちゃん、折角いい雰囲気だったのにぶち壊しだよ~!」

 「な・・・そうだったのか?・・・悪い、邪魔したな・・・」

 「うぅん、邪魔じゃないよガーヴェラ!・・・私達に何の用?」

 ロメリアがガーヴェラに声をかけると、彼女は小さく咳をしてロメリアとフォルトに視線を移しながら話しかける。

 「・・・今お前達2人暇か?」

 「暇・・・」

 ロメリアがフォルトの方を見ると、フォルトはロメリアの顔を見つめて直ぐにガーヴェラに返事をする。

 「まぁ・・・大丈夫だよ。」

 「・・・」

 「そうか。・・・なら今すぐにいつもの武器を持って船橋に来てくれ。今後の為にお前達に教えたいことがある。」

 「今後の為・・・?」

 フォルトが首を傾げると、ヴァスティーソが話に入って来る。

 「『リミテッド・バースト』を教える気か?」

 「ああ。フォルトとロメリアは聞いた話だと既に使えているようだが、まだ安定して使えてはいないだろう?恐らく、自分の身に危険が迫った時だけに発動しているだけだろう。特にロメリアは制御すらままならないと思う。・・・以前胸が張り裂けそうな痛みと共に意識を失ったんだろう?」

 「うん・・・」

 ロメリアは顔を俯けた。

 「それは力を上手く制御できておらず、体に負荷をかけ過ぎているから起こったことだろう。」

 ガーヴェラはそう告げて両腕を胸の前で組む。

 「『リミテッド・バースト』は使いこなせばあらゆる戦況を一転させられるが、制御できないと寿命を縮ませる程の負荷を体にかける力だ。・・・適正があるフォルトとロメリアには是非ともこの力を使いこなして欲しい。」

 ガーヴェラの発言にフォルトが口を閉ざしていると、ロメリアが何か明確な決意を抱いた凛とした声で返事をする。

 「・・・分かったよ、ガーヴェラ。私に『リミテッド・バースト』の扱い方を教えて?」

 「ロメリア・・・」

 フォルトがロメリアの方に顔を向けると、ロメリアは小さく呟いた。

 「・・・私が強くならないと・・・これ以上・・・フォルトの足手纏いには・・・」

 ロメリアの呟きを聞いたフォルトはガーヴェラに話しかける。

 「ガーヴェラ。やるなら早くしよう。船が港に着くまで今日含め4日しかない。それまでに『リミテッド・バースト』を使えるようにならないと。」

 「・・・分かった。今すぐ付いて来い。」

 ガーヴェラはフォルトの話を聞くと、すぐさま部屋を出ていった。フォルトとロメリアは一言も言葉を交わさずにガーヴェラの後を追って部屋から出ていく。

 3人が退出した後に、シャーロット達は扉の方を見つめ続けた。
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