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~帝国編 第1話~
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[~理想~]
「ねぇ、君・・・そんなところで何してるの?」
フォルトは顔を上げて、目の前に立つ女性を見る。
年齢は10代半ばぐらいだろうか、幼さがまだ残る顔で目が大きく、美しいより可愛らしい印象の女性だった。ボブヘアで毛先がふっくらと膨らんで内側に向いている金髪に紺碧色のカチューシャをつけており、翡翠色の鮮やかな薄い羽織に黒のショートパンツ、浅黄色のブラウスを着用しており、足の脛まであるレザーブーツを履いていた。
彼女はフォルトの顔をじっと見つめており、彼女の目にフォルトは釘付けになった。
『この人の目・・・とても綺麗な緑色をしている・・・そして・・・俺のことを蔑んだり貶したりするような目で見ていない・・・』
フォルトは初めて見た彼女の一点の曇りの無い瞳に感動を覚える。いつも自分を見つめていた汚れた目とは違う・・・真っ直ぐ、温かく俺を見つめてくれていた。
フォルトが思わず目から涙を流すと、彼女は少し驚いた。
「ああっ、ごめんね!何か嫌な思いさせちゃった?」
「・・・ううん。」
フォルトは首を激しく振る。
『違うんです・・・貴女の目が・・・素敵だったんです。』
フォルトは感動で涙を流しながら汚水の中につけた手で涙を拭う。彼女は咄嗟に懐から純白のハンカチを取り出してフォルテに差し出した。
「ほら、君っ。そんな汚れた手じゃバイ菌が目に入っちゃうよっ!はい、このハンカチを使って!」
フォルトは彼女から差し出されたハンカチを受け取ることが出来なかった。・・・いや、受け取れるはずが無かったのだ。
『貴女のハンカチを俺が汚していいはずがない・・・』
「・・・大・・・丈夫・・・」
フォルトが断ると彼女はよりハンカチを近づけてきた。
「汚れる心配はしなくていいんだよ?汚れ何てしっかりと洗えば落ちるんだから遠慮せずに使っていいんだよ?」
フォルトは大変申し訳ない気持ちになりながらハンカチを受け取り、涙を拭った。彼女の温もりと柑橘系の甘い匂いが漂ってきて、フォルトの心が温かい何かに包まれた。
フォルトが目からハンカチを離すと、白いハンカチは薄っすらと茶色に変色していた。
フォルトはハンカチを彼女に返そうとハンカチを握る右手を彼女に差し出した。
「あの・・・あ・・・ありが・・・」
感謝の言葉を述べようとした・・・その時だった。
「そこの餓鬼!そんなところで何をしているっ!」
「っ⁉」
フォルトと彼女は怒鳴り声がした方を振り向くと、貴族街を警備している衛兵がこちらに向かって槍を持って走って来た。
『まずいっ!』
フォルトは地上に這いあがると、庶民街へ続く道を全力で走り始めた。
「ああっ、待って君!」
フォルトは彼女の方を振り返らず、一目散に駆け抜けていった。あの場で振り返れば貴女迄巻き込んでしまう恐れがある・・・せっかく助けてくれたのに・・・親切にしてくれた人を自身の厄介事に巻き込んでしまう恐れがあったから、振り返ることはしなかった。
フォルトが貴族街と庶民街を繋ぐ橋を渡っていると両側から挟み込まれた。逃げ場をなくしたフォルトは橋の真ん中で右往左往した。
衛兵の一人がフォルトに話しかける。
「さあ、大人しく縄につくんだ小僧。そうすれば、命だけは助けてやる。」
『嘘つけ・・・俺達スラムの人間なんかゴミの様に処分する癖に・・・』
フォルトは捕まると命は無いと直感で感じ取る。フォルトは息を整え、橋の下を流れる川を見つめる。
『綺麗に整備された川・・・水質もいいし、何より深い・・・これなら飛び込めるな!』
フォルトは一切戸惑うことなく、身を投げた。衛兵達が一斉に叫ぶ。
「待てっ、餓鬼!」
フォルトは頭から真っ直ぐ川の中へと身を投じた。
ドボォォンッ!
川の中に入ったフォルトはすぐさま体の中で姿勢を変更し頭が水面に出るようにする。川の中から頭を出す時、今まで体に付いていた汚れを水で洗い落としていると澄み切った水が少し濁り始めた。
ある程度汚れを落としていると息が苦しくなったので顔を川の上に出す。肺の中に一気に空気が流れ込んでくる。水の中にいる内に勝手に流されていたのだろうか、先程の端から結構流されてしまった。体を浮かせているだけでも勝手に体が流されていく。
『追手が来ている様子は無いな・・・今の内に陸に上がるか・・・』
フォルトは庶民街側へと泳いで、川から地上に上がった。体に付いていた汚れが大分落ちて少しすっきりしたがそれでも服の匂いはまだ残ったままだった。
フォルトは服に吸い込まれている水を絞り出すと、追手を警戒しながら近くの小路に入って行った。庶民街は度々訪れていたので街全体の構造は大体把握していたが、やはりこの庶民街もスラム街と同様に開発工事が行われていて、多少地形が変形していた。
そのせいでフォルトは狭い小道から大通りへと出る羽目になった。やはりここでも周りからの視線が少しきつい。貴族街と比べたら幾分はマシだが、陰口を言ったり、変な目で見てくる奴は一定数はいた。フォルトの癒された心が再び抉られていく。
『早くスラム街に戻らないと・・・』
フォルトは大通りの向かい側へと歩きだし、反対側の小道に入ろうとした。
その時、ふと近くにあった洋服屋に視線が映り、フォルテの視線は洋服屋の正面にある男の子向けの服に視線を釘付けにされた。
黒のシャツに浅黄色のレザージャケット、藍色のテーパードパンツといった12,3歳の子供向けにしては少しかっこいい服が飾ってあり、フォルトはガラス越しにその服を見つめていた。
『いいなぁ・・・欲しいなぁ・・・』
フォルトはその洋服一式の値段が書かれている値札を見る。
『・・・40000カーツかぁ・・・こっそり貯めているお金でも3000カーツ・・・到底買えないなぁ・・・』
フォルトは項垂れるように路地裏へと入って行く。高額であろうということは分かってたが、実際に金額を見ると厳しい現実を突きつけられて更に気が滅入ってしまう。
暫く路地裏を彷徨うように歩くと、何時の間にか慣れ親しんだスラム街へと戻ってきた。鼻を塞ぎたくなる様な腐臭漂う所だが、もう10年以上住んでいるから実家のような安心感が芽生えている。普通の人間からしたらこんな所で安心できるはずはないが、フォルトにとっては違うのだ。
フォルトは近くにある壁にもたれ掛かるとゆっくりと頭を下げて目を瞑った。
『今日は色んなことがあって・・・疲れたなぁ・・・盗みは失敗したし、貴族街にも行ったし・・・』
貴族街での事を思い出すと、あの女性のことも思い出してしまった。
『あの人・・・優しかったなぁ・・・ちゃんとお礼・・・言いたかったなぁ・・・』
フォルトは心の中で謝意を彼女に述べられなかったことを公開しながら夢の中へと意識が潜っていった。
フォルトの真上では太陽が燦々と輝いており、乱立した建物の間に陽の光が煌々と差し込んでいた。
「ねぇ、君・・・そんなところで何してるの?」
フォルトは顔を上げて、目の前に立つ女性を見る。
年齢は10代半ばぐらいだろうか、幼さがまだ残る顔で目が大きく、美しいより可愛らしい印象の女性だった。ボブヘアで毛先がふっくらと膨らんで内側に向いている金髪に紺碧色のカチューシャをつけており、翡翠色の鮮やかな薄い羽織に黒のショートパンツ、浅黄色のブラウスを着用しており、足の脛まであるレザーブーツを履いていた。
彼女はフォルトの顔をじっと見つめており、彼女の目にフォルトは釘付けになった。
『この人の目・・・とても綺麗な緑色をしている・・・そして・・・俺のことを蔑んだり貶したりするような目で見ていない・・・』
フォルトは初めて見た彼女の一点の曇りの無い瞳に感動を覚える。いつも自分を見つめていた汚れた目とは違う・・・真っ直ぐ、温かく俺を見つめてくれていた。
フォルトが思わず目から涙を流すと、彼女は少し驚いた。
「ああっ、ごめんね!何か嫌な思いさせちゃった?」
「・・・ううん。」
フォルトは首を激しく振る。
『違うんです・・・貴女の目が・・・素敵だったんです。』
フォルトは感動で涙を流しながら汚水の中につけた手で涙を拭う。彼女は咄嗟に懐から純白のハンカチを取り出してフォルテに差し出した。
「ほら、君っ。そんな汚れた手じゃバイ菌が目に入っちゃうよっ!はい、このハンカチを使って!」
フォルトは彼女から差し出されたハンカチを受け取ることが出来なかった。・・・いや、受け取れるはずが無かったのだ。
『貴女のハンカチを俺が汚していいはずがない・・・』
「・・・大・・・丈夫・・・」
フォルトが断ると彼女はよりハンカチを近づけてきた。
「汚れる心配はしなくていいんだよ?汚れ何てしっかりと洗えば落ちるんだから遠慮せずに使っていいんだよ?」
フォルトは大変申し訳ない気持ちになりながらハンカチを受け取り、涙を拭った。彼女の温もりと柑橘系の甘い匂いが漂ってきて、フォルトの心が温かい何かに包まれた。
フォルトが目からハンカチを離すと、白いハンカチは薄っすらと茶色に変色していた。
フォルトはハンカチを彼女に返そうとハンカチを握る右手を彼女に差し出した。
「あの・・・あ・・・ありが・・・」
感謝の言葉を述べようとした・・・その時だった。
「そこの餓鬼!そんなところで何をしているっ!」
「っ⁉」
フォルトと彼女は怒鳴り声がした方を振り向くと、貴族街を警備している衛兵がこちらに向かって槍を持って走って来た。
『まずいっ!』
フォルトは地上に這いあがると、庶民街へ続く道を全力で走り始めた。
「ああっ、待って君!」
フォルトは彼女の方を振り返らず、一目散に駆け抜けていった。あの場で振り返れば貴女迄巻き込んでしまう恐れがある・・・せっかく助けてくれたのに・・・親切にしてくれた人を自身の厄介事に巻き込んでしまう恐れがあったから、振り返ることはしなかった。
フォルトが貴族街と庶民街を繋ぐ橋を渡っていると両側から挟み込まれた。逃げ場をなくしたフォルトは橋の真ん中で右往左往した。
衛兵の一人がフォルトに話しかける。
「さあ、大人しく縄につくんだ小僧。そうすれば、命だけは助けてやる。」
『嘘つけ・・・俺達スラムの人間なんかゴミの様に処分する癖に・・・』
フォルトは捕まると命は無いと直感で感じ取る。フォルトは息を整え、橋の下を流れる川を見つめる。
『綺麗に整備された川・・・水質もいいし、何より深い・・・これなら飛び込めるな!』
フォルトは一切戸惑うことなく、身を投げた。衛兵達が一斉に叫ぶ。
「待てっ、餓鬼!」
フォルトは頭から真っ直ぐ川の中へと身を投じた。
ドボォォンッ!
川の中に入ったフォルトはすぐさま体の中で姿勢を変更し頭が水面に出るようにする。川の中から頭を出す時、今まで体に付いていた汚れを水で洗い落としていると澄み切った水が少し濁り始めた。
ある程度汚れを落としていると息が苦しくなったので顔を川の上に出す。肺の中に一気に空気が流れ込んでくる。水の中にいる内に勝手に流されていたのだろうか、先程の端から結構流されてしまった。体を浮かせているだけでも勝手に体が流されていく。
『追手が来ている様子は無いな・・・今の内に陸に上がるか・・・』
フォルトは庶民街側へと泳いで、川から地上に上がった。体に付いていた汚れが大分落ちて少しすっきりしたがそれでも服の匂いはまだ残ったままだった。
フォルトは服に吸い込まれている水を絞り出すと、追手を警戒しながら近くの小路に入って行った。庶民街は度々訪れていたので街全体の構造は大体把握していたが、やはりこの庶民街もスラム街と同様に開発工事が行われていて、多少地形が変形していた。
そのせいでフォルトは狭い小道から大通りへと出る羽目になった。やはりここでも周りからの視線が少しきつい。貴族街と比べたら幾分はマシだが、陰口を言ったり、変な目で見てくる奴は一定数はいた。フォルトの癒された心が再び抉られていく。
『早くスラム街に戻らないと・・・』
フォルトは大通りの向かい側へと歩きだし、反対側の小道に入ろうとした。
その時、ふと近くにあった洋服屋に視線が映り、フォルテの視線は洋服屋の正面にある男の子向けの服に視線を釘付けにされた。
黒のシャツに浅黄色のレザージャケット、藍色のテーパードパンツといった12,3歳の子供向けにしては少しかっこいい服が飾ってあり、フォルトはガラス越しにその服を見つめていた。
『いいなぁ・・・欲しいなぁ・・・』
フォルトはその洋服一式の値段が書かれている値札を見る。
『・・・40000カーツかぁ・・・こっそり貯めているお金でも3000カーツ・・・到底買えないなぁ・・・』
フォルトは項垂れるように路地裏へと入って行く。高額であろうということは分かってたが、実際に金額を見ると厳しい現実を突きつけられて更に気が滅入ってしまう。
暫く路地裏を彷徨うように歩くと、何時の間にか慣れ親しんだスラム街へと戻ってきた。鼻を塞ぎたくなる様な腐臭漂う所だが、もう10年以上住んでいるから実家のような安心感が芽生えている。普通の人間からしたらこんな所で安心できるはずはないが、フォルトにとっては違うのだ。
フォルトは近くにある壁にもたれ掛かるとゆっくりと頭を下げて目を瞑った。
『今日は色んなことがあって・・・疲れたなぁ・・・盗みは失敗したし、貴族街にも行ったし・・・』
貴族街での事を思い出すと、あの女性のことも思い出してしまった。
『あの人・・・優しかったなぁ・・・ちゃんとお礼・・・言いたかったなぁ・・・』
フォルトは心の中で謝意を彼女に述べられなかったことを公開しながら夢の中へと意識が潜っていった。
フォルトの真上では太陽が燦々と輝いており、乱立した建物の間に陽の光が煌々と差し込んでいた。
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