最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~勘当された姫~

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 [プロローグ2 ~勘当~]

 「ロメリア、お前を我が一族から勘当する。」

 朝早くから執事に叩き起こされ眠気が未だに襲い掛かってくる中、家族・親戚一同が集まっている謁見の間で私は帝王である父から突然言われた。

 ・・・何を言っているのか分からない。私・・・何かしたっけ?

 「あのぅ、お父さん・・・朝から面白くない冗談言う為にここに呼んだの?」

 状況が上手く呑み込めていなかったので少し笑みを浮かべながら父の方を見ると、周りにいた皆が笑い声をあげたり、呆れ返ったり、中には怒りの形相で見つめてきた。

 父は右腕を肘置きの上にのせて、手で顔を支えると残念な顔で私を見た。

 「ロメリア・・・お前はもう16にもなったというのに我が一族、『フォルエンシュテュール家』の自覚が無さすぎる・・・」

 「自覚?」

 私が首を傾げると、母が呆れた声で私に話しかけた。

 「貴女、昨日も街へ出かけて行っていたでしょ?それも貴族街じゃなくて庶民街の。」

 「うん、だって学校の友達の誕生日パーティーだったから・・・」

 「その友達は庶民出身の子でしょ?それも貧しい所の・・・その子の家には行くなと散々言いましたよね?王族の・・・それもまだ16の女が1人で庶民街に何て・・・」

 私は母の言葉に首を傾げる。何で王族が庶民街に行っちゃダメなのか理解できなかったから。

 他の家族や親戚達も一斉に私を罵った。

 「ロメリア、お前小さい時からいっつも庶民の奴らと遊んでいるよな?・・・よくあんな下賤な連中共と同じ空間にいられるな。」

 「それに女であるのに、下町でやっている棒術の道場にも行ってたんだぜ?帰ってくるたび、汗の臭いできつかったよ。女なら女らしくお淑やかでいろよ・・・」

 「それに加えて、貴女がいつも着ている服・・・下町で買ってきた物でしょう?私達の品位まで下がるのではないかと困ったものでしたわ。」

 「食事の時もいっつも皆に話しかけてばっかり・・・静かに食事に集中するという事が出来ませんでしたわよね。」

 皆の声が私の胸に深々と突き刺さる。私は手をぎゅっと固く握りしめて彼らの罵声に耐えた。

 ・・・誕生日パーティーに行ったのは、友達と楽しい時間を過ごしたかったから・・・

 ・・・庶民の皆と遊んでいたのは色んな面白い遊びを知っていたから・・・

 ・・・棒術の道場に行っていたのは、小さい時から体を動かすのが好きだったから・・・

 ・・・下町で服を買っているのも私好みの可愛くてお洒落な服が売ってあったから・・・

 ・・・食事の時に皆に話しかけていたのは、皆でワイワイ話しながら食べたほうが楽しいと思ったから・・・

 それなのに家族と親戚の皆は低俗・不浄であるとして私の行為全てに拒絶反応を見せ、否定した。・・・『今まで』王族であった私も庶民である友人達も生まれた場所が違うだけなのに・・・

 なので私は昔からずっと思っていた・・・きっと私は生まれてくる家を間違えたのだろうと。

 城の中にいても何も面白くない・・・見合いの話が舞い込んで来たが私は誰も興味が無かった・・・今着ている暑苦しいだけで動きにくいドレスが嫌いだった・・・微塵の興味も無いマナーの稽古も嫌いだった・・・眠くなる様な退屈な音楽も嫌いだった・・・そして『身分』や『階級』で私の友達を見下す・・・家族も大嫌いだった。

 そんなに人に自慢できる程の実力も何も無いくせに、ただ生まれた場所が良かっただけでそんなに人を見下ろせる感性が私には分からなかった。

 そんなものにしか使えない『身分』や『階級』なら・・・私は要らない。

 私は皆の罵声を一通り聞き終えた後、父の方をまっすぐ向いた。

 「・・・分かった、お父さん。・・・私、今から出ていくね。」

 私はそう言うと、背筋を張り皆に聞こえるように声を張る。

 「只今をもって私、『ロメリア・フィル・シュトルセン・フォルエンシュテュール』は王族の身分を放棄し、あらゆる特権を適用しないことを帝王『ザックリン・フィル・シュトルセン・フォルエンシュテュール』に宣言致します。」

 私の父は小さく頷くと、悲しそうに私を見つめた。

 「・・・承知した。ロメリアよ、其方には新たに『一般平民』の身分を授ける。お前は今後、この城、及び貴族街への侵入は出来なくなる。仮に侵入した場合は厳しい処罰が下ると思え。」

 「・・・はい。」

 「王族の身分は本日の午後0時をもって失効する・・・それまでに速やかに庶民街へと退去せよ。姓に関しては自分で決めるがよい。」

 父はゆっくりと立ち上がると、最後に私の方を優しい目で見つめる。

 「さらばだ、我が娘ロメリアよ・・・お前に世界から祝福があらんことを・・・」
 
 私は膝をついて『王』に頭を下げるとすぐさま立ち上がって自分の部屋へと戻る。

 自分の部屋につくと今着ているドレスをベッドの上に放り投げ、美しい彫刻がなされているクローゼットを開けて着替える。

 着替え終えると、荷物を小さなバックに纏めて持ち運びしやすいようにした。

 「・・・よしっ、これで準備は大丈夫っと。」

 自分の寝室から出る前に下町で買った紺碧色のカチューシャを頭につけて、櫛で髪を整える。

 櫛をバックに入れて部屋を出ると、小さい頃から私の身の回りの世話をしてくれていた執事が立っていた。執事は私の姿を見ると深く頭を下げた。

 「お嬢様・・・どうかお気をつけて・・・」

 「うん・・・今までありがとうね。」

 私は軽く挨拶を交わすと執事の横をさっと通り過ぎる。だって涙が目に溜ってきたから・・・

 そのまま城の階段を一段ずつ踏み外さないように降りていき、正門から堂々と出ていく。城の外に出ると快晴の青空が一面に広がっており、正門の目の前にある大階段の下にある巨大な噴水の周りには多くの人々がくつろいでいた。

 正門を出る時、門を警備している衛兵に声を掛けられた。

 「ロメリア様・・・」

 「『様』はもういらないよ。お勤めご苦労様・・・今まで私がこっそり出ていくのを黙っていてくれてありがとう・・・」

 「いいえ・・・私達もロメリア様のような我々庶民を差別しないお方をこの日まで見送ることが出来て・・・とても幸せでした・・・」

 「だから『様』は要らないってばっ。」

 ロメリアは泣き顔になっている衛兵を励まそうと向日葵のような笑顔を彼らに向けた。

 「じゃあね、皆!またいつか何処かで会おうね!」

 ロメリアが手を振りながら大階段を下りていくと、衛兵達も大きく手を振り出した。

 「ロメリア様!何か困った事があれば、我々をお呼びして下さいよ!直ぐに駆けつけますから!何処へでも駆けつけますから!」

 ロメリアは手を大きく振りながら、階段を一気に駆け下りていく。衛兵達の声がどんどん小さくなっていき、もう聞こえなくなってしまった。

 階段を降りるとロメリアは気分を入れ替えるように大きく深呼吸した。春の清々しい空気が彼女の肺を埋め尽くす。

 家族からは勘当されたが、これで外の世界を自由に歩ける。もう門限の時間やこっそり外出したのがバレないかとハラハラすることも無い。ロメリアは『王族』という自身の心を雁字搦めにしていた枷から解放された。

 『さ~てと!これからどうしよっかなぁ~せっかくだから世界中を旅してみようかなぁ!』

 ロメリアがもう一度深呼吸をした・・・その時、さっきの空気とは真逆の強烈な汚臭が匂ってきた。

 『何っ⁉何の匂い⁉』

 ロメリアが周りを見渡すと、噴水の近くのタイルが横にズレていて、そこから全身茶色く変色している男の子が目を輝かせて周囲を眺めていた。

 「何あの子・・・何処から来たのかしら?」

 「見た目スラムの子供っぽいぞ・・・早く摘み出してくれないかな、汚らわしい・・・」

 周囲の人々が少年に向かってぼそぼそと陰口を言い放つ。しかもその少年にワザと聞こえるように。

 『酷い・・・手を差し伸べてあげればいいのに、何でそんな酷いことが言えるのかなぁ・・・』

 ロメリアはそんな彼らを見て激しく嫌悪感を抱くと、直ぐに少年の下へと駆け寄って声をかける。

 「ねぇ、君・・・そんなところで何してるの?」

 ロメリアは顔を上げた少年と目が合った。

 その瞬間、私の『運命』が動き始めた。
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