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13 自爆
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帝野一派が先を争い逃走を始めた。タラップをおりる途中で海に落ちる者もいる。
屈強そうなアラビア戦士が協力を申し出て聴蝶を抱きあげようとしたとき,黒い影が聴蝶を掠めとった。
女だ。ボディーラインの際だつ黒いレザースーツに身をつつむ八頭身美女が立っている。身長は2メートルをこすだろう。
「乙!――」女が怒鳴った。
その声に聞き覚えがある。路傍が腕に組みこまれた通信機能を介して話していた相手だ。
「投降しろ! 恋人を殺すぞ!」女が聴蝶の頭に銃を突きつけた。
女の腕を払いのけた。銃が宙を舞って海に落ちていく。気をとられた女の腹部を押して聴蝶を奪い返す。透かさずアラビア戦士に聴蝶を委ねるが,女が檄を飛ばし手下の群れに戦士を包囲させてしまう。戦士の仲間も加わり激しい戦闘が再開される――
女が手招きをして身構える。
「女とは戦わない。怪我をさせるのは嫌だ」
「はあぁん,やっぱり,そうだ。一目見るなり分かったわ――あなたは私の同類ね」深紅の唇が歪んだ。「あんな小娘なんかより私のほうがずっといいわよ」声色をかえて斜め加減に人を見る。
「聴蝶と一緒に船をおりる。あんたも早くお逃げ――」戦士たちの抗争に加わろうとするが,赤い爪の尖る手指が両眼を突いてくる。
「虚仮にしてくれるわね! 後悔させてやる!」
何度も身を翻し躱し続けるが,息つく暇もなく執拗な攻撃が繰り出される。女の手首を摑み骨折させぬよう腕を捻って,横様に一回転させてから自分の膝下に組み敷いた。
爆裂音が響き渡る――黒煙が周囲に渦巻き,炎と炎が結びあい一気に船をなめ尽くしていく。見れば甲板の一際高いところで路傍の全身が激しく炎上していた。
「路傍!――」絶叫が喉を裂いたとき海の世界が昼間の明度を戻し,火炎の中心で肉塊と鉄塊が融解し混ざりあい激しく数度渦を巻いた瞬間爆砕を起こした――
まやかしの昼は消え本物の闇が鎮座している。もう路傍の姿は何処にも見あたらない。
銀の霧雨が降り注ぎ,それを排除するみたいな横降りの雪が混じり,すぐに吹雪にかわった。
うねった波が次々と甲板を襲う。海面が間近に迫る――船が沈没しかけている――
「撤収だ――」という呼びかけに,膝下の女が私を蹴飛ばした。甲板を転がって誰かにぶつかり,ようやくとまる。汚れのない靴,黒いマント――禹錫の落とす巨大な影のなかに倒れていた。身を起こそうとするが,力が入らない。顎だけを突きあげた。「禹錫,あんたのせいだ! あんたが聴蝶を連れていったから路傍が死んだんだ!」
禹錫は何も答えず背をむけるなり甲板を飛びおりた。
「裏切者!――」いい奴だと思っていたのに……
「あんた,男にも興味があるの?」女が近づいて人の目線におりてくる。「男は駄目よ,まるで駄目――特にあいつは駄目だわ。相手にしちゃいけないの」そう言って許可もなくキッスする。抵抗する気力すら,もはやわかない。涙だけが流れた。
「あら,かわいいこと――」再び執拗に嫌がらせをする。「記念のプレゼントよ。いいこと教えてあげる」耳もとで囁かれた。「禹錫なんていう人間を私は知らない」
屈強そうなアラビア戦士が協力を申し出て聴蝶を抱きあげようとしたとき,黒い影が聴蝶を掠めとった。
女だ。ボディーラインの際だつ黒いレザースーツに身をつつむ八頭身美女が立っている。身長は2メートルをこすだろう。
「乙!――」女が怒鳴った。
その声に聞き覚えがある。路傍が腕に組みこまれた通信機能を介して話していた相手だ。
「投降しろ! 恋人を殺すぞ!」女が聴蝶の頭に銃を突きつけた。
女の腕を払いのけた。銃が宙を舞って海に落ちていく。気をとられた女の腹部を押して聴蝶を奪い返す。透かさずアラビア戦士に聴蝶を委ねるが,女が檄を飛ばし手下の群れに戦士を包囲させてしまう。戦士の仲間も加わり激しい戦闘が再開される――
女が手招きをして身構える。
「女とは戦わない。怪我をさせるのは嫌だ」
「はあぁん,やっぱり,そうだ。一目見るなり分かったわ――あなたは私の同類ね」深紅の唇が歪んだ。「あんな小娘なんかより私のほうがずっといいわよ」声色をかえて斜め加減に人を見る。
「聴蝶と一緒に船をおりる。あんたも早くお逃げ――」戦士たちの抗争に加わろうとするが,赤い爪の尖る手指が両眼を突いてくる。
「虚仮にしてくれるわね! 後悔させてやる!」
何度も身を翻し躱し続けるが,息つく暇もなく執拗な攻撃が繰り出される。女の手首を摑み骨折させぬよう腕を捻って,横様に一回転させてから自分の膝下に組み敷いた。
爆裂音が響き渡る――黒煙が周囲に渦巻き,炎と炎が結びあい一気に船をなめ尽くしていく。見れば甲板の一際高いところで路傍の全身が激しく炎上していた。
「路傍!――」絶叫が喉を裂いたとき海の世界が昼間の明度を戻し,火炎の中心で肉塊と鉄塊が融解し混ざりあい激しく数度渦を巻いた瞬間爆砕を起こした――
まやかしの昼は消え本物の闇が鎮座している。もう路傍の姿は何処にも見あたらない。
銀の霧雨が降り注ぎ,それを排除するみたいな横降りの雪が混じり,すぐに吹雪にかわった。
うねった波が次々と甲板を襲う。海面が間近に迫る――船が沈没しかけている――
「撤収だ――」という呼びかけに,膝下の女が私を蹴飛ばした。甲板を転がって誰かにぶつかり,ようやくとまる。汚れのない靴,黒いマント――禹錫の落とす巨大な影のなかに倒れていた。身を起こそうとするが,力が入らない。顎だけを突きあげた。「禹錫,あんたのせいだ! あんたが聴蝶を連れていったから路傍が死んだんだ!」
禹錫は何も答えず背をむけるなり甲板を飛びおりた。
「裏切者!――」いい奴だと思っていたのに……
「あんた,男にも興味があるの?」女が近づいて人の目線におりてくる。「男は駄目よ,まるで駄目――特にあいつは駄目だわ。相手にしちゃいけないの」そう言って許可もなくキッスする。抵抗する気力すら,もはやわかない。涙だけが流れた。
「あら,かわいいこと――」再び執拗に嫌がらせをする。「記念のプレゼントよ。いいこと教えてあげる」耳もとで囁かれた。「禹錫なんていう人間を私は知らない」
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