39 / 52
ルビーのブローチを渡すまで逃しません
19.リアムの奮闘 四日目
しおりを挟む
「リアム様、リアム様……!」
「おい! リアム、どうしたんだ!」
「リアム様、今日はお休みになってはいかがですか?」
ポール様と、イアンと、エリザベス様の声がする。声は、聞こえる。仕事も、問題ない。だが……。
「リアム様。領主命令です。本日はお休み下さい」
ポール様が、淡々と命令を下す。私はあくまでもポール様の代理。彼に命じられれば従うしかない。
「承知……しました……」
私はそのまま、自室のベッドに倒れ込んだ。昨日はあれから、何をしていたか思い出せない。書類を見る限り仕事は問題なくこなしていたようだが、記憶がない。
ぼんやりと過ごしていたら、部屋の扉をノックする人が現れた。
「失礼します! リアム様、入って良いですか?」
カーラさんの声に、ベッドから飛び起きた。なんで……なんで彼女が……。次の瞬間、友人の顔が浮かんだ。そうか、私が落ち込んでいるのはカーラさんと話せなかったからだと思ったんだな。
ありがとうイアン。
けどな、今だけは余計なお世話だと言いたい。
何が悲しくて、失恋したばかりで想い人に会わないといけないんだ。……けど、カーラさんを追い返す事は出来ない。
「……どうぞ、お入りください」
心配そうにしているカーラさんは、温かいスープを持って来てくれた。
「あの、食欲はありますか?」
「はい。頂きます」
「良かった。それから、これは果実水です。水分補給をして下さいね。熱はありませんか?」
そう言って、カーラさんは私の額に手を当ててきた。
「んー……熱は……ちょっと熱いかも? 果実水に砂糖と塩を入れておきますから、少しずつ飲んで下さいね」
テキパキと看病をするカーラさんに、何故かイライラしてしまう。目の前のスープが忌々しくて、早々に飲み干した。
「スープ、もう飲んだんですか? おかわりは要りますか?」
「要りません。放っておいて下さい」
私は子どもか?!
彼女に八つ当たりしてどうする。
私がもっと早く……彼女の気持ちに応えていれば……こんな気持ちにならなくて済んだのに……。
「リアム様? どうされたのですか?」
心配そうに覗き込むカーラさんの顔が近い。とても無防備な姿だ。このまま彼女に口付けでもすれば、トムさんはカーラさんを諦めるだろうか。
邪な気持ちを振り払う。とにかく、一人になりたい。
「少し体調が優れなくて。休みますので一人にして頂けますか?」
「……駄目です」
「はぁ?!」
素っ頓狂な声が出た。頼むから出て行ってくれ! このままじゃ、カーラさんに何をしてしまうか分からない。彼女は、トムさんの恋人なのに。
「今のリアム様は、なんだかおかしいです。エリザベスお嬢様とポール様の許可は取れていますから、看病します。もちろん邪魔はしません。お休みになれるよう、寝所を整えるだけです」
「要りません! 若い女性が男の部屋に入って二人きりなんてどんな噂が立つか分かったものではないでしょう!」
頼むから出て行ってくれ。私の理性があるうちに。
「構いません。リアム様を放っておくなんて、嫌です」
カーラさんの潤んだ瞳を見ると、理性が飛んでしまいそうだ。駄目だ……駄目だ駄目だ……。
私は急いでドアを開けて、彼女を外へ追い出そうとした。だけど、鍛錬を積んだカーラさんは力強くて……私の力では彼女を動かす事は出来なかった。
「……カーラさん、あなたが……悪いんですよ……」
自分が自分でなくなってしまったようだ。なんとか口だけは避けるんだ。そんな理性しか残っていない。カーラさんの頬に顔を近づけると、彼女は真っ赤な顔で固まった。その瞬間、扉の前にトムさんが洗面器とタオルを持って現れた。
「おい! リアム、どうしたんだ!」
「リアム様、今日はお休みになってはいかがですか?」
ポール様と、イアンと、エリザベス様の声がする。声は、聞こえる。仕事も、問題ない。だが……。
「リアム様。領主命令です。本日はお休み下さい」
ポール様が、淡々と命令を下す。私はあくまでもポール様の代理。彼に命じられれば従うしかない。
「承知……しました……」
私はそのまま、自室のベッドに倒れ込んだ。昨日はあれから、何をしていたか思い出せない。書類を見る限り仕事は問題なくこなしていたようだが、記憶がない。
ぼんやりと過ごしていたら、部屋の扉をノックする人が現れた。
「失礼します! リアム様、入って良いですか?」
カーラさんの声に、ベッドから飛び起きた。なんで……なんで彼女が……。次の瞬間、友人の顔が浮かんだ。そうか、私が落ち込んでいるのはカーラさんと話せなかったからだと思ったんだな。
ありがとうイアン。
けどな、今だけは余計なお世話だと言いたい。
何が悲しくて、失恋したばかりで想い人に会わないといけないんだ。……けど、カーラさんを追い返す事は出来ない。
「……どうぞ、お入りください」
心配そうにしているカーラさんは、温かいスープを持って来てくれた。
「あの、食欲はありますか?」
「はい。頂きます」
「良かった。それから、これは果実水です。水分補給をして下さいね。熱はありませんか?」
そう言って、カーラさんは私の額に手を当ててきた。
「んー……熱は……ちょっと熱いかも? 果実水に砂糖と塩を入れておきますから、少しずつ飲んで下さいね」
テキパキと看病をするカーラさんに、何故かイライラしてしまう。目の前のスープが忌々しくて、早々に飲み干した。
「スープ、もう飲んだんですか? おかわりは要りますか?」
「要りません。放っておいて下さい」
私は子どもか?!
彼女に八つ当たりしてどうする。
私がもっと早く……彼女の気持ちに応えていれば……こんな気持ちにならなくて済んだのに……。
「リアム様? どうされたのですか?」
心配そうに覗き込むカーラさんの顔が近い。とても無防備な姿だ。このまま彼女に口付けでもすれば、トムさんはカーラさんを諦めるだろうか。
邪な気持ちを振り払う。とにかく、一人になりたい。
「少し体調が優れなくて。休みますので一人にして頂けますか?」
「……駄目です」
「はぁ?!」
素っ頓狂な声が出た。頼むから出て行ってくれ! このままじゃ、カーラさんに何をしてしまうか分からない。彼女は、トムさんの恋人なのに。
「今のリアム様は、なんだかおかしいです。エリザベスお嬢様とポール様の許可は取れていますから、看病します。もちろん邪魔はしません。お休みになれるよう、寝所を整えるだけです」
「要りません! 若い女性が男の部屋に入って二人きりなんてどんな噂が立つか分かったものではないでしょう!」
頼むから出て行ってくれ。私の理性があるうちに。
「構いません。リアム様を放っておくなんて、嫌です」
カーラさんの潤んだ瞳を見ると、理性が飛んでしまいそうだ。駄目だ……駄目だ駄目だ……。
私は急いでドアを開けて、彼女を外へ追い出そうとした。だけど、鍛錬を積んだカーラさんは力強くて……私の力では彼女を動かす事は出来なかった。
「……カーラさん、あなたが……悪いんですよ……」
自分が自分でなくなってしまったようだ。なんとか口だけは避けるんだ。そんな理性しか残っていない。カーラさんの頬に顔を近づけると、彼女は真っ赤な顔で固まった。その瞬間、扉の前にトムさんが洗面器とタオルを持って現れた。
11
お気に入りに追加
6,536
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。