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ルビーのブローチを渡すまで逃しません
18.リアムの奮闘 三日目
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昨日は、あれからすぐにポール様やイアンと話し合いをしていたら深夜になってしまった。ポール様はもうすぐ成人なさるとはいえ未成年。あまり無理をさせてはいけない。そう言って詫びると、ポール様はうちの使用人の事だからと笑っておられた。助けてくれてありがとうと、私とイアンに頭を下げて下さった。
ポール様とエリザベス様は、平民である私にも礼を尽くして下さる。
私は代官をしているからそれなりに丁重に扱われる事が多いが、ここに来るまで当主から頭を下げられた経験はなかった。イアンは別だ。もう彼と私は友人だからな。
ポール様は私が知る貴族とは違う。……だからこそ、ここを離れたくない。
「ポール様がご結婚なさったら、仕事を辞めますので雇って下さい」
そう言ったら困った顔をなさっていたな。雇って頂くのは決定だが、結婚したらと条件を出したのはあまり良くなかったかもしれん。彼が成人するまであと少しだが、ポール様は婚約者が決まらないそうだ。エリザベス様が困っておられたからな。
ま、あの二人から迫られていては仕方ないか。伯爵様なのだから、二人と結婚すれば良いのだが……ポール様は高位貴族のドロドロした不文律が受け入れられないのだろう。ソフィアは親がああだから、なんの抵抗もないだろうがリリアンは違う。それに、ポール様もイアンと同じく真面目な方だから簡単に割り切れるとは思えない。
全く、貴族というのは面倒だ。そんなものになりたがるトムさんを心から尊敬するよ。しかも、理由は亡くなった親友の為とはな……。
「そうだ。トムさんと話をしておくか」
私はトムさんがいる厩舎に向かった。
「……だから……ちゃんと……」
ん?
今の時間はトムさん一人だと思っていたが、誰かいるのか?
「分かったわよ。好きなのは充分伝わったわ。父さんに時間を取ってもらうように頼んでおく。けど、まだ早いって怒ると思うわよ」
……この、声は。
「分かってるよ。オレだってまだ子どもだ。けど、本気だから」
「はいはい。ちゃんと説得するから安心して。母さんは味方だから、なんとかなると思うわよ。父さんはまぁ……頑張ってよ。娘を取られたくないのは仕方ないでしょ」
「あの親父さんに勝てる気がしないんだけど」
「兄さんも待ってるってさ。あと、最近頑張ってるうちの可愛い弟もトムに会いたいって言ってたわ」
「鬼か?! なぁ、オレ生きて帰れるよな?」
「大丈夫よ。……多分」
「不安しかねぇ!」
トムさんと楽しそうに話しているのは、私が会いたくてたまらない人だった。
「あ、リアム様! 昨日はありがとうございました!」
トムさんが、嬉しそうに近寄って来た。
「……良いんですよ。それより、カーラさんはどうしてここに?」
違うだろ!
そんな事を聞いてどうする?!
カーラさんの頬が赤い。……もしかして、トムさんの想い人は……。
「あ、申し訳ありません! 私は今日は午前中はお休みなんです。けど、そろそろ準備がありますね。トムまたね。リアム様、失礼します!」
「あ……カーラさん……」
カーラさんは、あっという間に走って行った。
「リアム様、どうされたんですか?」
ニコニコと笑っているトムさんには聞けない。先ほどの会話から察するにまさか……。
「昨日の話をしに来たのです。誰にも言えませんから、カーラさんが席を外してくれて助かりました。一年後、おそらくエリザベス様がご結婚された後くらいには働けるでしょう。しばらく、身辺調査されるかもしれませんが気にせず過ごして下さい」
「分かりました。私の身の上は昨日話した通りです。これは、以前住んでいた住所と両親の名前です。何を調べて頂いても構いません。どうぞよろしくお願いします」
「……準備、していたのですか?」
「調査に年単位の時間がかかると伺ったので、必要かと思いまして。とは言っても思い立ったのはさっきで、慌てて書いたんですけどね。カーラが紙とペンを貸してくれました」
トムさんは、確かもうすぐ15歳で成人になる。カーラさんは……25歳だったよな……。年齢差がある……昨日トムさんが言っていた話と……一致する。それに、ご両親に挨拶に行くようなそぶりもあった……。
「リアム様?」
「トムさんの彼女は……」
「ああ、正確にはまだ彼女じゃねぇんですよ。告白はしたし受け入れて貰えたんですけど、まだ早いって親父さんにキレられちまって。だから……地位があれば認めてもらえるかなって思ったんです。貴族になるなんて、オレじゃ考えつきませんでした。彼女は、本当にすげぇんですよ。王都で子どもたちが物乞いしてるって知って、すげえ色々考えたんですって」
すっかり素に戻ったトムさんは、無邪気に彼女の事を自慢してくれる。
……あの日から、カーラさんは変わった。カーラさんなら、貴族を利用する事くらい思いつけるだろう。
そうか、トムさんの彼女はカーラさんだったのか。
ポール様とエリザベス様は、平民である私にも礼を尽くして下さる。
私は代官をしているからそれなりに丁重に扱われる事が多いが、ここに来るまで当主から頭を下げられた経験はなかった。イアンは別だ。もう彼と私は友人だからな。
ポール様は私が知る貴族とは違う。……だからこそ、ここを離れたくない。
「ポール様がご結婚なさったら、仕事を辞めますので雇って下さい」
そう言ったら困った顔をなさっていたな。雇って頂くのは決定だが、結婚したらと条件を出したのはあまり良くなかったかもしれん。彼が成人するまであと少しだが、ポール様は婚約者が決まらないそうだ。エリザベス様が困っておられたからな。
ま、あの二人から迫られていては仕方ないか。伯爵様なのだから、二人と結婚すれば良いのだが……ポール様は高位貴族のドロドロした不文律が受け入れられないのだろう。ソフィアは親がああだから、なんの抵抗もないだろうがリリアンは違う。それに、ポール様もイアンと同じく真面目な方だから簡単に割り切れるとは思えない。
全く、貴族というのは面倒だ。そんなものになりたがるトムさんを心から尊敬するよ。しかも、理由は亡くなった親友の為とはな……。
「そうだ。トムさんと話をしておくか」
私はトムさんがいる厩舎に向かった。
「……だから……ちゃんと……」
ん?
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……この、声は。
「分かってるよ。オレだってまだ子どもだ。けど、本気だから」
「はいはい。ちゃんと説得するから安心して。母さんは味方だから、なんとかなると思うわよ。父さんはまぁ……頑張ってよ。娘を取られたくないのは仕方ないでしょ」
「あの親父さんに勝てる気がしないんだけど」
「兄さんも待ってるってさ。あと、最近頑張ってるうちの可愛い弟もトムに会いたいって言ってたわ」
「鬼か?! なぁ、オレ生きて帰れるよな?」
「大丈夫よ。……多分」
「不安しかねぇ!」
トムさんと楽しそうに話しているのは、私が会いたくてたまらない人だった。
「あ、リアム様! 昨日はありがとうございました!」
トムさんが、嬉しそうに近寄って来た。
「……良いんですよ。それより、カーラさんはどうしてここに?」
違うだろ!
そんな事を聞いてどうする?!
カーラさんの頬が赤い。……もしかして、トムさんの想い人は……。
「あ、申し訳ありません! 私は今日は午前中はお休みなんです。けど、そろそろ準備がありますね。トムまたね。リアム様、失礼します!」
「あ……カーラさん……」
カーラさんは、あっという間に走って行った。
「リアム様、どうされたんですか?」
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「昨日の話をしに来たのです。誰にも言えませんから、カーラさんが席を外してくれて助かりました。一年後、おそらくエリザベス様がご結婚された後くらいには働けるでしょう。しばらく、身辺調査されるかもしれませんが気にせず過ごして下さい」
「分かりました。私の身の上は昨日話した通りです。これは、以前住んでいた住所と両親の名前です。何を調べて頂いても構いません。どうぞよろしくお願いします」
「……準備、していたのですか?」
「調査に年単位の時間がかかると伺ったので、必要かと思いまして。とは言っても思い立ったのはさっきで、慌てて書いたんですけどね。カーラが紙とペンを貸してくれました」
トムさんは、確かもうすぐ15歳で成人になる。カーラさんは……25歳だったよな……。年齢差がある……昨日トムさんが言っていた話と……一致する。それに、ご両親に挨拶に行くようなそぶりもあった……。
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「ああ、正確にはまだ彼女じゃねぇんですよ。告白はしたし受け入れて貰えたんですけど、まだ早いって親父さんにキレられちまって。だから……地位があれば認めてもらえるかなって思ったんです。貴族になるなんて、オレじゃ考えつきませんでした。彼女は、本当にすげぇんですよ。王都で子どもたちが物乞いしてるって知って、すげえ色々考えたんですって」
すっかり素に戻ったトムさんは、無邪気に彼女の事を自慢してくれる。
……あの日から、カーラさんは変わった。カーラさんなら、貴族を利用する事くらい思いつけるだろう。
そうか、トムさんの彼女はカーラさんだったのか。
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