妹と婚約者の逢瀬を見てから一週間経ちました

編端みどり

文字の大きさ
上 下
38 / 52
ルビーのブローチを渡すまで逃しません

18.リアムの奮闘 三日目

しおりを挟む
昨日は、あれからすぐにポール様やイアンと話し合いをしていたら深夜になってしまった。ポール様はもうすぐ成人なさるとはいえ未成年。あまり無理をさせてはいけない。そう言って詫びると、ポール様はうちの使用人の事だからと笑っておられた。助けてくれてありがとうと、私とイアンに頭を下げて下さった。

ポール様とエリザベス様は、平民である私にも礼を尽くして下さる。

私は代官をしているからそれなりに丁重に扱われる事が多いが、ここに来るまで当主から頭を下げられた経験はなかった。イアンは別だ。もう彼と私は友人だからな。

ポール様は私が知る貴族とは違う。……だからこそ、ここを離れたくない。

「ポール様がご結婚なさったら、仕事を辞めますので雇って下さい」

そう言ったら困った顔をなさっていたな。雇って頂くのは決定だが、結婚したらと条件を出したのはあまり良くなかったかもしれん。彼が成人するまであと少しだが、ポール様は婚約者が決まらないそうだ。エリザベス様が困っておられたからな。

ま、あの二人から迫られていては仕方ないか。伯爵様なのだから、二人と結婚すれば良いのだが……ポール様は高位貴族のドロドロした不文律が受け入れられないのだろう。ソフィアは親がああだから、なんの抵抗もないだろうがリリアンは違う。それに、ポール様もイアンと同じく真面目な方だから簡単に割り切れるとは思えない。

全く、貴族というのは面倒だ。そんなものになりたがるトムさんを心から尊敬するよ。しかも、理由は亡くなった親友の為とはな……。

「そうだ。トムさんと話をしておくか」

私はトムさんがいる厩舎に向かった。

「……だから……ちゃんと……」

ん?
今の時間はトムさん一人だと思っていたが、誰かいるのか?

「分かったわよ。好きなのは充分伝わったわ。父さんに時間を取ってもらうように頼んでおく。けど、まだ早いって怒ると思うわよ」

……この、声は。

「分かってるよ。オレだってまだ子どもだ。けど、本気だから」

「はいはい。ちゃんと説得するから安心して。母さんは味方だから、なんとかなると思うわよ。父さんはまぁ……頑張ってよ。娘を取られたくないのは仕方ないでしょ」

「あの親父さんに勝てる気がしないんだけど」

「兄さんも待ってるってさ。あと、最近頑張ってるうちの可愛い弟もトムに会いたいって言ってたわ」

「鬼か?! なぁ、オレ生きて帰れるよな?」

「大丈夫よ。……多分」

「不安しかねぇ!」

トムさんと楽しそうに話しているのは、私が会いたくてたまらない人だった。

「あ、リアム様! 昨日はありがとうございました!」

トムさんが、嬉しそうに近寄って来た。

「……良いんですよ。それより、カーラさんはどうしてここに?」

違うだろ!
そんな事を聞いてどうする?!
カーラさんの頬が赤い。……もしかして、トムさんの想い人は……。

「あ、申し訳ありません! 私は今日は午前中はお休みなんです。けど、そろそろ準備がありますね。トムまたね。リアム様、失礼します!」

「あ……カーラさん……」

カーラさんは、あっという間に走って行った。

「リアム様、どうされたんですか?」

ニコニコと笑っているトムさんには聞けない。先ほどの会話から察するにまさか……。

「昨日の話をしに来たのです。誰にも言えませんから、カーラさんが席を外してくれて助かりました。一年後、おそらくエリザベス様がご結婚された後くらいには働けるでしょう。しばらく、身辺調査されるかもしれませんが気にせず過ごして下さい」

「分かりました。私の身の上は昨日話した通りです。これは、以前住んでいた住所と両親の名前です。何を調べて頂いても構いません。どうぞよろしくお願いします」

「……準備、していたのですか?」

「調査に年単位の時間がかかると伺ったので、必要かと思いまして。とは言っても思い立ったのはさっきで、慌てて書いたんですけどね。カーラが紙とペンを貸してくれました」

トムさんは、確かもうすぐ15歳で成人になる。カーラさんは……25歳だったよな……。年齢差がある……昨日トムさんが言っていた話と……一致する。それに、ご両親に挨拶に行くようなそぶりもあった……。

「リアム様?」

「トムさんの彼女は……」

「ああ、正確にはまだ彼女じゃねぇんですよ。告白はしたし受け入れて貰えたんですけど、まだ早いって親父さんにキレられちまって。だから……地位があれば認めてもらえるかなって思ったんです。貴族になるなんて、オレじゃ考えつきませんでした。彼女は、本当にすげぇんですよ。王都で子どもたちが物乞いしてるって知って、すげえ色々考えたんですって」

すっかり素に戻ったトムさんは、無邪気に彼女の事を自慢してくれる。

……あの日から、カーラさんは変わった。カーラさんなら、貴族を利用する事くらい思いつけるだろう。

そうか、トムさんの彼女はカーラさんだったのか。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。