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見て見ぬふりをしていた真実

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(え……ええ~!?父上って、つまり国王陛下ってことよね!?)

エルヴィノア国王とはこの国に来た時に顔を合わせている。それ以外では滅多に顔を見ることも無く、もちろん挨拶以外の会話をしたこともない。突然場に呼ばれることとなった国王の存在と、状況についていけない。
というより、私はここにいていいのかしら……!?どう見ても部外者である。
それとなくフェアリル殿下をちらりと見るけれど、彼はベルティニア様の腕を掴んだっきり黙ったままだ。どうやらこのまま陛下を待つようである。仕方なく私は口を開いてフェアリル殿下に尋ねた。

「あの……私、席を外しましょうか?」

「なぜ?」

フェアリル殿下がちらりと私を見る。
その視線は冷たくて、ほんの少し狼狽えた。

「場違いじゃないかしら?」

「きみも当事者だからここにいて」

(当事者なの!?)

よく分からない。
ベルティニア様がフェアリル殿下の妻になりたいと言って、それをフェアリル殿下は拒否。それで──えーと、どうしてか急にフェアリル殿下はベルティニア様の始末をつけると言って……?

(国王陛下を呼ぶことになった理由も、ベルティニア様を処分する理由も私にはわからないのだけど……)

黙っていると、遠くから足音と人影が現れた。
確認しなくてもわかる。あれがエルヴィノア王国十三代国王、ジュノン陛下だ。
フェアリル殿下とはあまり顔立ちが似ておらず、似ているところは金髪くらいかしら。

ジュノン陛下は、だいぶ疲れた顔をしていた。先程まで寝てらしたのか、生成りの落ち着いた服に、ケープを一枚羽織っていた。長い髪はひとつにまとめられていて、"寝ていた"というより"重病人"といった印象が強い。
顔はやつれており、眼孔は窪んでいて、クマもひどい。髭も剃られていないのか、色々と酷い有様だ。
ジュノン陛下はフェアリル殿下を見ると目を見開いた。

「リディア……」

(リディア?)

誰?と思っていると、陛下の言葉を完全に黙殺したフェアリル殿下が陛下に話しかけた。

「養生中、お呼び出しして申し訳ありません」

フェアリル殿下は言いながら、扉を占めるよう近衛兵に指示を出す。
扉は閉められ、室内にはジュノン陛下、フェアリル殿下、ベルティニア様、私の4人となった。やはり私の場違い感は否めない。ひとりだけ国籍すら異なるのだから。いたたまれない思いでいると、フェアリル殿下が突然、ベルティニア様を突き飛ばした。

「きゃっ……!?」

先程からフェアリル殿下のベルティニア様の扱いが雑、というか……。はらはらしていると、フェアリル殿下が声高に言い放った。

「昨日、私は言いました。母が違えど、ベルティニアは私の妹です。ですから──恩赦を与えていただきたい、と」

「え……?な、なに?」

ベルティニア様が困惑の声を出すが、私も全く同じだった。

「ですが、その発言は撤回します。……陛下のご随意に」

(恩赦?………始末?)

そうだわ、フェアリル殿下は始末するとかなんとか言っていた。ということは、それに値する理由があるということ。
でもその理由は全く見当もつかない。だけど、王族が処分されるということは余程のことだろう。私が肩身の狭い思いで場を見守っていると、ジュノン陛下は小さく息を吐いた後、ベルティニア様を見た。

「そうか──。そうか。ベルティニア、私は愚かだった」

「お父……様?」

「ベルティニア。少し、昔話をしよう。生涯、消え去ることの無い私の過ちを」

ジュノン陛下は何度も頷き、そして真っ直ぐにベルティニアを見た。

「……私はリディアを──王妃を愛していた。私は生まれてこの方、愛などくだらないと、馬鹿馬鹿しいと見下していたが、彼女を見て初めて強い感情を知った。……陳腐な言葉だが、愛を知ったんだ」

「……?」

話がどう着地するか分からないベルティニア様が眉を寄せる。
先程ジュノン陛下の言った"リディア"はフェアリル殿下のお母様の事だったのね。ひとり納得する。陛下は目を瞑って朗々と続けた。

「孤独を、虚無を、恐れを、恐慌を──全てを忘れるほど強い感情だった。彼女に感じた感情は愛情の一言では表現出来ない。焦燥、飢餓、苦心、酩酊──ある種の薬物のようでするあった。つまるところ、私の人生の全ては、私の存在理由は、私が生まれてきた意味は、彼女にあったのだとすら思った」

「………」

ちらりとフェアリル殿下の様子を伺ったが、無表情だった。

「……だけど、|手違い(・・・)から私は第二妃を娶らなくてはならなくなった。恋に浮かれ、逆上せ、視野狭窄に陥り、ついには新たな女に子を産ませ──さらには、その女が王妃を殺した」

「な──」

ベルティニア様が息を飲む。
私も驚いてただただ息を飲んだ。

「当時、王妃は自殺だと思われていたのだよ。……私は、リディアが死んだことで思考停止していた。死因を調べることも無く、ただ彼女の死を悲しみ、悼み、嘆き、悲嘆に暮れていた。もう何もかもがどうでも良くっていた。ただ、リディアの忘れ形見であり、リディアそっくりのフェアリル。我が息子。お前が、そばにいればそれでいいと思っていた」

フェアリル殿下は、ジュノン陛下を見ることなく続きを口にした。

「母上の死因は薬物による中毒死──臓器の他機能不全。薬物を常習的に口にしなければそうはならない死に方だったらしい。脈拍上昇に、臓器の機能低下。影響が大きかったのは、心臓、肝臓、腎臓あたり。当時僕は十三歳だったけど、母が薬物を口にしているところは見たことがなかった。だから僕は、母は誰かに殺されたのでは、と考えたんだ。──だけど。父はこのとおり使い物にならなかったし、母が死んだことで城内の勢力図も変わりつつあった。慎重に行動しなければならなかった僕は、少しずつ状況を精査し、証拠を手元に集め始めた」

結果、とフェアリル殿下は言った。
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